勾玉荘と愉快な仲間たち

井傘 歩

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1章~個性的な皆さん~

朝から!?

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「冷やし中華食べる?」

「朝からですか!?」

 衝撃である。




 白雪と別れた私は、そのまま食堂に向かった。中に入ると、厨房の中に居る二人(今日はカティさんと朽月さんだ)以外には、誰も居なかった。皆は普段、いつ頃起きてくるのだろうか?

 誰に示される訳でもなく、昨日と同じテーブルについて、無言のままに料理が運ばれるのを待った。注文しなくても、自動的に料理が運ばれてくる事は知っていた。

 その時、水を持って来てくれた朽月さんが、衝撃な一言を放った。

『冷やし中華食べる?』

 だ。驚いて聞き返してしまうのも、仕方無いだろう。まさか、11月のうす寒い朝に、冷やし中華を勧められるなんて、誰も想定していない。いや、ジョーさんなら食べるかも知れないが。

「食べないの?冷やし中華。私が作る冷やし中華、美味しいんだよ?」

「いや…夏なら冷やし中華でも大丈夫かもですけど、今、秋の終わりかけですよ!?冬目前ですよ!?逆に朽月さんは冷やし中華食べるんですか!?」

「食べるよ?」

 食い気味で答えられる。即答。迷いが無く、真っ直ぐに見つめられ、返答に困った。いや…冷やし中華、食べなきゃいけないのか?

「もう、純は相変わらず冷やし中華が好きだなぁ」

 そう言って、私の背後から誰かが朽月さんに抱きついた。朽月さんよりも少しだけ大きい影に、その誰かが男であることを悟る。

「あ!希里(きり)!起きたんだね、おはよ!」

「おはよう、純。今日もいつも通り、いや、いつも以上に綺麗だねぇ」

「ありがと!嬉しいな(照れ)」

 フツフツと怒りが沸いてくるのは、気のせいなんかじゃない。現実だ。現実によってもたらされている現実の怒りだ。

 朽月さんに『希里』と呼ばれていた男性は、朽月さん同様金髪で、テカテカした髪の毛を肩ぐらいまで伸ばしていた。黒いシャツに革ジャンを羽織り、履いているジーンズには、たくさんのウォレットチェーンが付いている。

 見た目的にも実際にも、チャラチャラしてそうな男だ(私、上手い事言ったよね?)こういう男は、信用ならない。取り敢えず、イチャイチャするのを止めて爆ぜて欲しい。

 朽月さんも朽月さんで、私と話していた事も忘れて希里さんとイチャイチャしないで欲しい。場合によっては、彼女にも爆ぜてもらう。

「純ー?鮭焦げちゃうよー?」

 安定の伸びを保ったカティさんの声が、厨房から飛んでくる。

「あ、はーい!じゃ、希里。すぐに美味しいご飯作って持ってくるからね!」

「ああ!楽しみにしてるよ。だけど、怪我しないように気をつけてね。純はおっちょこちょいだから」

 朽月さんは、「分かってるよー。希里は心配性なんだから!」と手を振りながら厨房に戻って行った。希里さんは、ニコニコしながら、それを見送った。

 朽月さんが厨房に入り、再び料理に取り掛かった事を確認してから、希里さんがこちらを向いた。

「ここ、座っても良いかな?」

 希里さんが私の向かいの席に手を掛けた。

「あ、はい。勿論大丈夫です……」

「そうかい、ありがとう。座らせてもらうよ」

 彼は優雅な手つきで椅子を引いて、サッと座った。なんだか、ひどく絵になっていた。羨ましい。

「君は、詩島夕子ちゃんだよね?純から話は聞いてるよ?『抜けてるとこがあるけど、とっても良い娘だ』って」

「ありがとうございます……」

 どうしよう……。こういうチャラチャラした人とは極力関わらないように生きて来たので、どんな風に話したら良いかが分からない。

 勾玉荘に来て、自分のコミュニケーション能力の低さを度々実感させられる。学生時代にもっとたくさん経験しとけば良かったな………。

「あ、僕の自己紹介がまだだったね。僕の名前は葉桜希里はざくらきり。26歳で、純とは中学の頃から付き合わせて貰ってます」

 ペコリと頭を下げられる。釣られて、私も頭を下げた。あ、礼儀正しい所もあるのかな?顔を上げた希里さんは、さらに話す。

「さっきはごめんね?朝からイチャイチャしてる所見せちゃって」

「!!?」

 ………驚いた!まさか本人から、その言葉を聞けるとは…!
 驚きのあまり、昨晩のように思い切り仰け反ってしまった。オーバーリアクションはあまり良くないと思っているのだが。

 私の反応を見て、希里さんの顔が露骨に引きつった。

「え……?なんでそんなに驚いてんの…?」

 今日は私と希里さんしか居ないので、自主的に体勢を戻す。

「いや…ごめんなさい。自覚あるんだなぁと思って……。イチャイチャしてるの」

 それを聞いて、希里さんが照れ臭そうな顔をして頭を掻いた。すぐ表情や行動に出る人なのだろう。分かりやすい。

「純とは昔、結構ハードな事がたくさんあったからね……。一度は別れたし」

「そうなんですか!?あんなに仲良さそうなのに!?」

「いや…こんなに仲良くなったのはよりを戻してからだよ。付き合い始めの頃は、純もあんな性格じゃなかったんだよ。教室で一人本読んでたり、静かな娘でさ」

「あの……昔の朽月さんの話、もっと聞かせてもらえませんか?あ!勿論、悪い事には使いませんよ!」

 希里さんは座りながら、大きく手を広げて高らかに叫んだ。

「良いだろう!!朽月純の半生について、僕が話せる範囲で君に教えてあげよう!さあ、詩島夕子よ、覚悟は出来ているか!?」

「は……はい!!」

 なんだかおかしなテンションで、希里さんは語り始めた。
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