ゆらりゆらゆら

霰月

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六首目

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朝の寒さの厳しさが冬の嫌なところだと俺は思う。今日なんて雪が降ってるじゃないかと文句をたれながら日課のために身だしなみを整える。シャツのボタンを一つずつとめ、ネクタイを締める。長い廊下をゆっくりと歩き、起床時間の一分前には扉の前に立つ。一つ深呼吸をして、ノックをした。断りを一応入れるも、返事はない。彼女の肩を揺するも、全く起きる気配はない。朝の弱ささえ無ければ完璧な淑女でいらっしゃるのに。
「んぅ…。」
長い睫毛が揺れ、俺の好きな笑顔でおはようとおっしゃった。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
定型のようになった挨拶を交わす。しかしこれもいつまで続くかわからない。今朝彼女の嫁入りの話があることを耳にした。政略結婚で他の男の元に行くくらいなら、せめて幸せに恋愛結婚で手元を離れて欲しい。俺自身の気持ちは閉まっておくしか選択肢はない。思い焦がれたところで叶いはしない。なら、幸せになってほしい。
外が一面銀世界になっていることに気づいた彼女は庭に出て散歩をしたいと言い出したので、寒いのは全くもって好まないが、彼女との思い出を少しでも増やしたいという一心で一緒に外へ出た。
小さな池に架かる小さな橋は白く塗り替えられており、池の水は凍っている。彼女は雪に小さな足跡をつけて橋までかけていった。転ばないように注意を促しながら、自分の足跡を隣につけていく。彼女の隣に行くと、嫌でもわかるほど浮かない顔をしていた。

「どうされましたか?」
「あのね、私きっと近いうちに婚約すると思うの。」
「ええ。小耳にはさみました。」
白い吐息が言葉を紡ぎ、消えてゆく。
「…お嬢様には想われている方はいらっしゃらないのですか。もし、いらっしゃるなら、私がこの身を滅ぼす覚悟で旦那様に進言して参ります。」
「ふふ。ありがとう。
…でもね、ダメなの。駆け落ちでもしないと私の恋は叶わない。それに向こうは私のこときっとなんとも思ってない。」

俺のものにできるなら、こんな悲しい顔はさせないのに。

「だってね、すごく鈍感なのよ、私の隣にいる大好きな人は。」
思考回路が止まる。想い人の気持ちがまさか自分に向いているとは夢にも思っていなかった。彼女を抱き寄せ、赤く潤った唇に愛を告げる。

「では、あなたを私が連れ去ってもよろしいのですか?」

寒さはいつの間にか感じなくなり、白銀の世界に溶けてゆく。
俺たちの足跡はきっと雪が隠してくれるだろう。
二人だけの道を歩めるならそれでいいじゃないかと、同じ布団の隣で眠る愛しい人の綺麗な黒髪を撫でて思った。


鵲の 渡せる橋に 置く霜の
白きをみれば 世ぞふけにける
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