ゆらりゆらゆら

霰月

文字の大きさ
上 下
2 / 6

二首目

しおりを挟む
今は初夏。春の花の彩りから若草の新しい彩りに変わる頃。私は家事に勤しんでいた。
夫の仕事が安定し、去年の暮れに引っ越した。まだ新築の香りが少しする。新居とともに私たちには新しい贈り物を授かった。お腹の中の感触を感じながら、私は微笑む。

「はやく生まれておいで。」

夫は仕事。私とこの子だけの会話。

今日は色々しなければいけないことがある。結婚記念日なのだ。私はケーキを作るために買い出しへ向かう。夫はショートケーキが大好きだ。夫の喜ぶ顔を想像して私の顔も続けてほころんだ。
ケーキを作り終えたら急いで片付けにかかる。キッチン、戸棚、そこにある2人の写真も綺麗にした。
そして、私は大事なことを思い出した。

「あー!洗濯物してない!」

急いで洗濯機を回し、待っている間に晩御飯を作る。洗濯し終わった合図を聞いて、バタバタとベランダへと干しに行った。2人分の洗濯物はそんなに多くはない。少なくもないけれど。私は洗濯物を干す時、1人でないと実感する。家事の中で一番好きだ。

そんなこと思いながらまた夕飯の支度に戻った。丁度夕食が出来た頃、夫が帰ってきた。

「ただいま~。」

今日は会いたくて仕方がなかったのでおかえりと言いながら夫に飛びついた。

「こら、赤ちゃんびっくりするぞ。」

コツンと頭を叩かれた。私は少しはしたなかったと反省する。悪い癖だ。そしてそこも大好きだと行ってくれる夫が好きだ。
夫を誘導し、席に着かせる。彼の好きな物を次々と並べて行くと、夫は今にも涎を垂らしてしまいそうだ。この素直で可愛いところが私は大好きだ。
いただきますと彼は私に断り、目の前のハンバーグに食らいついた。

夕食を終え、私はケーキを取ってきた。

「ケーキ?やった!
しかも俺の好きなショートケーキじゃん!」

夫は屈託のない笑みを浮かべ、私をぎゅうっと抱きしめた。そして、耳元で愛してると告げる。
私もその愛を受け取り、愛を返す。

「愛してる。」

私たちは見つめあい、そしてそっと唇を重ねる。言葉では足りない愛を告げあった。

「私よりケーキ!
せっかく作ったんだから。」

「そうだな。」

口の周りにクリームが付いてしまうところも愛おしい。


一年後、私はまた家事に勤しんでいた。
買い物に行ってケーキを作り、掃除をする。もちろん、洗濯物も。今年は忘れなかった。

3人分の洗濯物。白い布の後ろでは緑がキャンパスを色付ける。

「ただいまー!」

「おかえりなさい!」


私はすごく幸せだ。


春すぎて 夏来にけらし 白妙の
衣干すてふ 天香山

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

藤と涙の後宮 〜愛しの女御様〜

蒼キるり
歴史・時代
藤は帝からの覚えが悪い女御に仕えている。長い間外を眺めている自分の主人の女御に勇気を出して声をかけると、女御は自分が帝に好かれていないことを嘆き始めて──

秦宜禄の妻のこと

N2
歴史・時代
秦宜禄(しんぎろく)という人物をしっていますか? 三国志演義(ものがたりの三国志)にはいっさい登場しません。 正史(歴史の三国志)関羽伝、明帝紀にのみちょろっと顔を出して、どうも場違いのようなエピソードを提供してくれる、あの秦宜禄です。 はなばなしい逸話ではありません。けれど初めて読んだとき「これは三国志の暗い良心だ」と直感しました。いまでも認識は変わりません。 たいへん短いお話しです。三国志のかんたんな流れをご存じだと楽しみやすいでしょう。 関羽、張飛に思い入れのある方にとっては心にざらざらした砂の残るような内容ではありましょうが、こういう夾雑物が歴史のなかに置かれているのを見て、とても穏やかな気持ちになります。 それゆえ大きく弄ることをせず、虚心坦懐に書くべきことを書いたつもりです。むやみに書き替える必要もないほどに、ある意味清冽な出来事だからです。

【1分間物語】戦国武将

hyouketu
歴史・時代
この物語は、各武将の名言に基づき、彼らの人生哲学と家臣たちとの絆を描いています。

吉原に咲く冴えた華

蒼キるり
歴史・時代
 面白い遊女がいると聞いて話の種にしようとやって来た作家の男と、千里眼を持つと噂される遊女のお話。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

愛を伝えたいんだ

el1981
歴史・時代
戦国のIloveyou #1 愛を伝えたいんだ 12,297文字24分 愛を伝えたいんだは戦国のl loveyouのプロローグ作品です。本編の主人公は石田三成と茶々様ですが、この作品の主人公は於次丸秀勝こと信長の四男で秀吉の養子になった人です。秀勝の母はここでは織田信長の正室濃姫ということになっています。織田信長と濃姫も回想で登場するので二人が好きな方もおすすめです。秀勝の青春と自立の物語です。

織田信長に育てられた、斎藤道三の子~斎藤新五利治~

黒坂 わかな
歴史・時代
信長に臣従した佐藤家の姫・紅茂と、斎藤道三の血を引く新五。 新五は美濃斎藤家を継ぐことになるが、信長の勘気に触れ、二人は窮地に立たされる。やがて明らかになる本能寺の意外な黒幕、二人の行く末はいかに。 信長の美濃攻略から本能寺の変の後までを、紅茂と新五双方の語り口で描いた、戦国の物語。

王を恨んだ妃 第1章~復讐~

木継 槐
歴史・時代
ある暴れ馬に蹴られ燦は双子の妹謝那を亡くしてしまう。 そしてその暴れ馬の上にいたこの国の世子煌に復讐を誓い、王宮に煌の妃として迎えられる。

処理中です...