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2学期スタート!
2学期スタート!④
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「なんだこれは?」
気が付くと、俺の目の前には地獄が広がっていた。……少し語弊があるか。テーブルの上には鍋の中でグツグツと煮たった謎の液体、箸を握ったまま仰向けで倒れている昴、ゆで卵が丸ごと口にハマったままの由依……充分に地獄だった。
痛む頭を必死に働かせて、どうしてこんなことになっているのかを思い出してみる。
「何かしてたんだけどなぁ……」
少し頭が働き始め、状況を整理してみる。
まずは、ここは俺の部屋だ。そして、壁には飾りつけがされており、パーティーでもしてたのだろうか?それと、謎の液体が入った鍋。……なんとなく思い出してきた……
「そっか、今日は栞のお祝いパーティーをしてたんだ」
栞が文化委員長に就任したからお祝いしようということで、パーティーをしていたのだった。本当は、ただ昴がみんなでワイワイしたいだけだったのだけれど、最近集まれていなかったので丁度いい機会ではあった。
それで、最初は楽しくジュースやお菓子でも食べながらゲームをしたりワイワイしていたのだが……
「この凄惨な状況は闇鍋のせいだな」
昴が何故か「パーティーと言えば、闇鍋だよね」みたいなことを言い出し、みんなも「少しお腹も空いてたしいっか?」という流れで闇鍋をすることになって……
「思い出したら、お腹痛くなってきた」
一度、用を足し、再び部屋に戻ってきた。
闇鍋は、もうしない方がいいなぁと思いながら部屋を見渡すと、栞の姿が無かった。
闇鍋のときも調子こいて色々と鍋にぶちこんでいたはずなので、先に帰ったとかはないと思うが……
もしかしたら、ベランダかな?と思い、ベランダを開けると、何処か悲しげな表情で空を見つめる美少女……もとい、栞がいた。
「な~に、辛気くさい顔してるんだよ」
「あっ、飛翔さん」
俺に気が付き、こちらを向く栞の目から一筋の涙が流れた。
「お、お前泣いてるのか?」
「いえいえ!ちょっと、ゴミが入っただけで……泣いてなんかないですよ!」
栞はいつもみたく、ニコニコ笑いながらそう言う。だけど、俺には栞が嘘をついているようにしか見えなかった。
「それより、飛翔さんも風でもあたりに来たんですか?」
栞は話題を変えようとしているのか、そう言って、いつもみたく体を擦り寄せてきた。
「まあ、そんなとこだな。栞は?」
「わたしもちょっと、闇鍋で頭が痛くて……気分転換にですよ」
「そうか、それで……」
「それよりも今日は楽しかったですよ~」
栞は俺の話を遮るように、今日の感想を言う。
「お礼なら、昴に言いな。あいつが言い出したことだし」
「それもそうですけど、飛翔さんは部屋を貸してくれてるじゃないですか~」
「それくらい、全然いいよ」
「じゃあ、今度からいつでも飛翔さんの部屋に来れますね~」
栞は冗談めかして、そんなことを言う。いつもと同じ栞なのに……俺にはどうも、栞が無理をしているような気がした。
だけど、俺はそれを問いただすことで今のような関係に戻れない気がして……それで、いつものように返事をするのだった。
「いや、そこまでは言ってないからね!俺にもプライバシーがあるから!」
「またまた~!ダーリンとわたしの仲じゃないですか~」
「何度も言うけど、ダーリンじゃないから!」
「えへへ~、もしかして照れてるんですか~?」
「変態さんには、照れねえよ」
「ヒドイですよ~」
俺と栞は、最早ルーティーンと化してしまったやり取りをする。
闇鍋のせいなのだろうか、俺はこのやり取りでさえ、疑問に感じてしまう。
すると再び、一つの疑問が頭をよぎった。
……いつも見る変態で元気な栞、楓さんから聞いた大人しい子で恥ずかしがり屋の栞、他のクラスメイトがイメージしている美少女の栞。一体どれが本当の栞なのか?……
もしかしたら、昴と由依も栞に対するイメージが違うのかもしれない。
そして、俺はまだ答えを出せていない。だけど、栞のことは知っているつもりだ。
「なあ、栞?」
「なんです~?」
「お前、無理したりしてないか?」
いつぞやも聞いたことを、俺はもう一度栞に聞いた。……何か話してくれることを期待して
「え?全然してないですけど、もしかしてそう見えました?」
栞の答えは前と変わらないものだった。
「いや、委員長の仕事で疲れてるのかなぁって思っただけだ。大丈夫そうなら良かったよ」
「……飛翔さんのそういう優しいところ大好きですよ」
栞は小さくそう呟いた。だけど、別に俺は優しくない。ただ、栞が自分から話すときまで、待とうと思っただけだ。
視線を右にずらすと夕陽のせいだろうか、隣に立つ栞の顔は赤く染まっていた。
「あっ、もう夕方か……」
「そうでした、もうすぐいれ代わりですね」
「まあ、今日は全員大魔王のこと知ってる奴だし、大丈夫だろ」
「それもそうですね」
「なんなら、大魔王の彼女もい……って、ヤバい!由依のあんな姿を大魔王に見せるわけにはいかねえ!後で由依に怒られる」
由依が大魔王にあんな残念な姿を見られたとしったら、全員正座で説教を食らうに決まっている。恋する乙女はときに大魔王と化すのだ。
「ふふっ!頑張って下さいね」
栞は嬉しそうに笑っている。……あの、お前も怒られると思うぞ。ゆで卵口に突っ込んだの栞なんだから……
「笑ってないで栞も助けてくれよ!」
「ダーリンなら大丈夫ですよ~」
「やべえ!もういれ代わっちまう!せめて、由依を起こさねえと」
俺は慌てて部屋に戻る。意識が朦朧としてきて、入れ替わる寸前だ。
「飛翔さんはやっぱり優しいですね」
「そうでもないよ!」
俺は由依を起こすことに必死だった。由依までの距離はあと2、3歩といったところ……間に合え!
「……だからわたしは、その優しさに甘えている自分が嫌いです」
ベランダの方から、蚊の鳴くような小さな栞の声が聞こえ……
俺の意識はそこで途切れてしまった。栞の目からキラキラと輝く涙が落ちるのを見ながら……
気が付くと、俺の目の前には地獄が広がっていた。……少し語弊があるか。テーブルの上には鍋の中でグツグツと煮たった謎の液体、箸を握ったまま仰向けで倒れている昴、ゆで卵が丸ごと口にハマったままの由依……充分に地獄だった。
痛む頭を必死に働かせて、どうしてこんなことになっているのかを思い出してみる。
「何かしてたんだけどなぁ……」
少し頭が働き始め、状況を整理してみる。
まずは、ここは俺の部屋だ。そして、壁には飾りつけがされており、パーティーでもしてたのだろうか?それと、謎の液体が入った鍋。……なんとなく思い出してきた……
「そっか、今日は栞のお祝いパーティーをしてたんだ」
栞が文化委員長に就任したからお祝いしようということで、パーティーをしていたのだった。本当は、ただ昴がみんなでワイワイしたいだけだったのだけれど、最近集まれていなかったので丁度いい機会ではあった。
それで、最初は楽しくジュースやお菓子でも食べながらゲームをしたりワイワイしていたのだが……
「この凄惨な状況は闇鍋のせいだな」
昴が何故か「パーティーと言えば、闇鍋だよね」みたいなことを言い出し、みんなも「少しお腹も空いてたしいっか?」という流れで闇鍋をすることになって……
「思い出したら、お腹痛くなってきた」
一度、用を足し、再び部屋に戻ってきた。
闇鍋は、もうしない方がいいなぁと思いながら部屋を見渡すと、栞の姿が無かった。
闇鍋のときも調子こいて色々と鍋にぶちこんでいたはずなので、先に帰ったとかはないと思うが……
もしかしたら、ベランダかな?と思い、ベランダを開けると、何処か悲しげな表情で空を見つめる美少女……もとい、栞がいた。
「な~に、辛気くさい顔してるんだよ」
「あっ、飛翔さん」
俺に気が付き、こちらを向く栞の目から一筋の涙が流れた。
「お、お前泣いてるのか?」
「いえいえ!ちょっと、ゴミが入っただけで……泣いてなんかないですよ!」
栞はいつもみたく、ニコニコ笑いながらそう言う。だけど、俺には栞が嘘をついているようにしか見えなかった。
「それより、飛翔さんも風でもあたりに来たんですか?」
栞は話題を変えようとしているのか、そう言って、いつもみたく体を擦り寄せてきた。
「まあ、そんなとこだな。栞は?」
「わたしもちょっと、闇鍋で頭が痛くて……気分転換にですよ」
「そうか、それで……」
「それよりも今日は楽しかったですよ~」
栞は俺の話を遮るように、今日の感想を言う。
「お礼なら、昴に言いな。あいつが言い出したことだし」
「それもそうですけど、飛翔さんは部屋を貸してくれてるじゃないですか~」
「それくらい、全然いいよ」
「じゃあ、今度からいつでも飛翔さんの部屋に来れますね~」
栞は冗談めかして、そんなことを言う。いつもと同じ栞なのに……俺にはどうも、栞が無理をしているような気がした。
だけど、俺はそれを問いただすことで今のような関係に戻れない気がして……それで、いつものように返事をするのだった。
「いや、そこまでは言ってないからね!俺にもプライバシーがあるから!」
「またまた~!ダーリンとわたしの仲じゃないですか~」
「何度も言うけど、ダーリンじゃないから!」
「えへへ~、もしかして照れてるんですか~?」
「変態さんには、照れねえよ」
「ヒドイですよ~」
俺と栞は、最早ルーティーンと化してしまったやり取りをする。
闇鍋のせいなのだろうか、俺はこのやり取りでさえ、疑問に感じてしまう。
すると再び、一つの疑問が頭をよぎった。
……いつも見る変態で元気な栞、楓さんから聞いた大人しい子で恥ずかしがり屋の栞、他のクラスメイトがイメージしている美少女の栞。一体どれが本当の栞なのか?……
もしかしたら、昴と由依も栞に対するイメージが違うのかもしれない。
そして、俺はまだ答えを出せていない。だけど、栞のことは知っているつもりだ。
「なあ、栞?」
「なんです~?」
「お前、無理したりしてないか?」
いつぞやも聞いたことを、俺はもう一度栞に聞いた。……何か話してくれることを期待して
「え?全然してないですけど、もしかしてそう見えました?」
栞の答えは前と変わらないものだった。
「いや、委員長の仕事で疲れてるのかなぁって思っただけだ。大丈夫そうなら良かったよ」
「……飛翔さんのそういう優しいところ大好きですよ」
栞は小さくそう呟いた。だけど、別に俺は優しくない。ただ、栞が自分から話すときまで、待とうと思っただけだ。
視線を右にずらすと夕陽のせいだろうか、隣に立つ栞の顔は赤く染まっていた。
「あっ、もう夕方か……」
「そうでした、もうすぐいれ代わりですね」
「まあ、今日は全員大魔王のこと知ってる奴だし、大丈夫だろ」
「それもそうですね」
「なんなら、大魔王の彼女もい……って、ヤバい!由依のあんな姿を大魔王に見せるわけにはいかねえ!後で由依に怒られる」
由依が大魔王にあんな残念な姿を見られたとしったら、全員正座で説教を食らうに決まっている。恋する乙女はときに大魔王と化すのだ。
「ふふっ!頑張って下さいね」
栞は嬉しそうに笑っている。……あの、お前も怒られると思うぞ。ゆで卵口に突っ込んだの栞なんだから……
「笑ってないで栞も助けてくれよ!」
「ダーリンなら大丈夫ですよ~」
「やべえ!もういれ代わっちまう!せめて、由依を起こさねえと」
俺は慌てて部屋に戻る。意識が朦朧としてきて、入れ替わる寸前だ。
「飛翔さんはやっぱり優しいですね」
「そうでもないよ!」
俺は由依を起こすことに必死だった。由依までの距離はあと2、3歩といったところ……間に合え!
「……だからわたしは、その優しさに甘えている自分が嫌いです」
ベランダの方から、蚊の鳴くような小さな栞の声が聞こえ……
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