上 下
62 / 73
彼らの夏祭り

彼らの夏祭り③

しおりを挟む
「ねえねえ、今日はともちゃんいるの?」

 栞の家に向かっていると昴がソワソワしながら栞にそう聞いた。
 ここ最近、俺と昴はほとんど毎日栞の家に遊びに行っていたので、ともちゃんとはすっかり仲良くなっていた。

「もちろんいますよ~!」
「すばるんは、ともちゃん好きだもんね」

 どうやら、マイエンジェルともちゃんは今日もいるらしい。ちなみに由依も何回か栞の家で遊んでいたからともちゃんのことは知っているけど、何か嫉妬しているように見える。……まあ、親友のすばるんを取られたみたいになってるもんなぁ……


 みんなでともちゃんの可愛さについて話していると(主に俺と昴の熱意がスゴかった)栞の家に着いた。

「いらっしゃ~い!上がって上がって!」
「「お邪魔します」」
「「ただいま~」」

 楓さんが出迎えてくれて俺たちは、部屋に上がる。昴も『ただいま』と言っていた気がするがまあ、いいや。
 ミニ夏祭りは、庭で行うらしく部屋を突っ切っていく。

「飛翔さん!心の準備はいいですか~?」

 栞が最後の扉の前で俺に聞いてきた。

「もちろん!それより早く始めようぜ」

  俺が、返事をすると栞がニッコリ笑って扉を開けた。人生初の夏祭りなので、とても楽しみだ。

「おお~!」

 中庭に入ると、焼き鳥の匂いや焼けたとうもろこしの匂いが充満していた。点々と手作りの屋台が並んでおり綿菓子屋には浴衣を着たともちゃんと楓さんが立っており、とうもろこしと焼き鳥を知らない男の人がせっせと焼いていた。もしかしてあの人が栞のお父さんかな?俺の予想とは異なりとても真面目そうな人だった。

「それじゃあ各自持ち場についてくださ~い!」

 栞がそう言うと、由依はたこ焼屋、昴は射的屋の前に立った。

「栞は、何で俺に抱きついてきてるの?」
「え?わたしは飛翔さんと一緒にまわる係りなんですよ~!ジャンケンで無事勝ち取りました!」

 どうやら、屋台担当と俺とまわる担当があるらしく栞がまわる担当になったようだ。それは、いいんですけどちょっと離れてくれませんかね?君のお父さんの目が怖いんだけど……

「飛翔さんは、どれから行きたいですか?」
「そうだな……」

 お昼時でお腹も空いてきたので、何か食べたいところだが最初に栞のお父さんの屋台に行けるほど俺のメンタルは、強くない。ここは、由依のいるたこ焼屋にしとこうかな。

「たこ焼屋で」
「なるほど~!では、焼き鳥を食べましょう!」
「お前!俺の意見は無視かよ~」

 栞が俺の意見などガン無視で焼き鳥屋まで引っ張っていく。……まって!お父さんと話すのは、楓さんのフォローがあるときじゃないと!……
 
「君が栞のダーリンさんかい?」
「ぶふっ!」

 焼き鳥屋の前に立つと、初っぱなからスゴいことを栞のお父さんが聞いてきた。楓さんの件があったからもしやと思っていたけど、やっぱりコイツ、お父さんにもメチャクチャなこと吹き込んでやがるな。とりあえず、事実を教えておかないと。

「いいえ、違います」
「「え!?」」

 何故か、栞と一緒に栞のお父さんまで驚いている。いや、栞が驚くこともおかしいな。

「あれ?君は飛翔くんだよね?」
「はい、そうですよ」
「つまり……栞のダーリンさんだよね?」
「それは、違います!」
「えぇ~!!!」

 さっきまでの真面目そうなお父さんは、何処へ行ったのやら焼き鳥を両手に持ちながら叫んでいる。

「なぁ~んだ。てっきり娘さんを僕に下さい!みたいな展開があると思って堅物なお父さんを貫こうと思ってたのに。あっ、栞はともかくマイエンジェルともちゃんに手を出したら許さないよ」
「は、はい……」

 よかった……この人は、栞のお父さんで間違い無さそうだ。きっと栞の変態性は、この人から受け継いだのだろう。だって、ともちゃんのことマイエンジェルとか言ってるし……あれ?どこかの誰かもそんなこと言ってたような……

「そうだ!せっかく色々焼いたからたくさん食べなさい」 
「ありがとうございます。」

 お父さんから、かなりの量の焼き鳥をもらった。

「お父さん焼きすぎだよ、ちょっとみんなに配って来ますね~」

 栞は、焼き鳥をいくつか持って由依たちのところに走っていった。
 急にお父さんと二人っきりになってしまった。少し気まずい。

「うんうん、栞も綺麗になってますます楓さんに似てきたなぁ。栞をもらう気はないかい?」
「あはは、確かに栞は綺麗だし良いやつですけど友達ですしね~」
「飛翔くんもまだまだ若いなぁ、友達だと思ってた人が実は、一番大切な人だったなんてことはよくあるよ。僕と楓さんがそうだったしね」
「へぇ~。でもお父さんもやりますよね。楓さん綺麗だから競争率高かったでしょ?」

 楓さんは、今でもあれだけ綺麗だから若いときなんて恐ろしい美人だったに違いない。だから、お父さんがどうやって楓さんと結婚するまでに至ったのか気になるところだ。
 
「確かに、楓さんはモテモテだったから大変だったよ~」
「どうやって付き合うことになったんですか?」
「それは、僕がもうアプローチを仕掛けて楓さんが仕方なくデートしてくれたのが最初だったかな……まあ、楓さんは、僕のこと普通の友達だと思っていたから乗り気じゃなかったけどね。けど、外堀を埋めたりサプライズをたくさんしたりしたら僕の気持ちが本気だってことを分かってくれて……そこからちゃんとお付き合いしてから結婚て感じかな」

 栞の訳わからん作戦の数々は、お父さんからの遺伝ですね。まあ、栞の場合は冗談でやっているだけだと思うけどな。

「お父さんも結構苦労したんですね」
「でもそのお陰で、楓さんと結婚できたし栞と、ともちゃんに出会うことができたしよかったよ。それにしても、今日のともちゃんは可愛いなぁ」
「ですよね!いつもは、ツインテールなのに今日は、浴衣を着てるからポニーテールにしてて可愛さ4倍ですよ!」
「お!飛翔くんもよくわかってるね。いつものツインテールも、ともちゃんらしくていいんだけど、ポニーテールは反則に可愛いんだよ!」
「浴衣には、ポニーテールですよね!まあ、ともちゃんが可愛いことは変わらないですけど!」
「もちろんその通りだ!」

 俺と栞のお父さんは、ともちゃんの可愛さについて熱く語り合うのであった。
 そのあと、戻ってきた栞にドン引きされたのは、言うまでもないが。
 

 





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】夫もメイドも嘘ばかり

横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。 サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。 そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。 夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...