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第2章 甦った王子
その2 生後1歳から4歳
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生後一年。
盛大に祝われた、一歳の誕生日。
おれは母さんに抱かれて、初めて外を見た。
石造りの、天井の高い建物。
前世の記憶にあるマヤの階段状ピラミッドに似た作りだ。
ピラミッドの最上階のテラスに、居住部分が設けられている。
王宮なのだろうか?
しっかりと築かれているし戸口はきちんと仕切られ壁にはタペストリーが飾られている。
しかし寝具は改良の余地がある。
石の床に毛皮と織物を重ねて敷いた寝床で、毛織り物をかけて眠る。かけるものは毎日取り換えられている。清潔面では良いが、綿入り布団とかあればもっといいだろうな。
ちなみに寝室は、母さんといっしょだった。
現在、部族の長である父さんは、民や、かしずく人々から『太陽神の子たる輝ける王カパック』と呼ばれている。
しかし、そう呼ばれるたびに、父さんの表情は、曇った。
「本当の王は、先代国王だ」
と、つぶやくこともある。
生まれて一年目は、出歩くこともなく平穏無事だった。
青竜さまからいただいた数々の贈り物も加護も、まだ一歳の身では、王子だろうと、活かしようもなかったおはかは。
前世の記憶があるなんてことも、誰にもうちあけていない。
まだ、ちゃんとしゃべれないし。
そして順調に、二歳になり。
三歳になったときのことである。
父さんと母さんは、おれを連れて、神殿の最も奥にある小さな『ほこら』に詣でた。
「ごらん、兄さんだよ。雨神さまのところに、お遣いに行ってくださった。その日から、わが部族は水に困ることはなくなり、飢饉も去ったのだ」
「お兄様は、雨神さまにお仕えする従者になっているのよ。ここにあるのは、お兄様の『分け霊』なの。きっといまも見守っていてくださる」
「さあ、おまえも、お兄さまにお花をお供えしなさい」
「おまえも三歳になるから。幼名でなく本当の名前をつけて、披露するのよ」
父さん、母さん。
その第一王子は、おれなんだ。
また、父さんと母さんの子どもに産まれてきたんだ。
青竜さまと白竜さまとの計らいで。
そして今生で父さん母さんや家族と幸せになって。
前世で死に別れた、ひとり娘の香織も。
こんどこそ幸せになるんだ。
※
下働きの人たちは、おれが子どもなので不用意に情報をもらすことがある。
今の国王である父さんは、三十歳。
王としては若いほうだという。
十数年前に、事件があった。
そのとき、先代の国王がみまかり、日食が起こった。
先祖が太陽神アズナワクの息子であるという王家にとって、このうえなく重大な事件だったのだ。
続いて起こった、干ばつ。
その頃に王太子だった父さんが、太陽神殿の巫女だった母さんとの間に授かった第一王子ティトゥ・クシは、神託によって『雨神』の従者となるために『旅立った』
先代の王の死と日食が同時期に。
なにやら、忌まわしい感じがする。
気になるが、おれはまだ三歳幼児。
父母やお付きの者に問いただすわけにもいかない。
王室が執り行う行事といえば……。
季節ごとの農耕に関わることが多い。
種まき、雨乞い、収穫祭をしたり。
それら全てに、父母はおれを抱いて臨む。
いたいけな王子の存在は、国民からも受けがいい。
王と王妃、王子という家族の姿を国民に印象づけることに役立っているらしい。
そして転機が訪れる。
おれは、四歳になったのだ。
名前を決めた。
託宣があったのである。
おれの名前は、コマラパ・ティトゥ・クシ・ユパンギ。
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