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プロローグ
その3 もう一度、彼女に会う
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3
おれはどうしたんだろう?
気がついたら、たった一人、何もない空間に浮かんでいる。
おれは、だれだ?
なにものだ?
生き物……なんだよな?
しばらくして、思い出す。
そうだ、おれは、並河泰三。
中学三年だ。
たしか、夏休みに家族でイギリスへ旅行して。
いつも忙しそうで苦虫を噛みつぶしたような顔をしている親父、たまには家族サービスでもしようという気まぐれを起こしたらしい。
おふくろも、姉ちゃんも喜んでる。
姉ちゃんはブリティッシュロックが好きだもんな。
「違うわよ。プログレッシブロック。あたしはブライアン命なんだからっ」
あれ? 空耳かな。
夏子姉ちゃんの声がしたみたいだ。
親父やお袋はどうしたんだ?
「泰三。だめだ。まだ、来てはいけない」
あれ~? また空耳だよ。
目の前にはロンドンの石畳。
有名な霧のロンドン……
馬車?
いや違うだろ。これじゃロンドンの有名な探偵が登場してきそうだ。
「だめよ、泰三。ここでは思いが形になってしまうの。世界のはざまなのよ」
ふいに、目の前に、背の高い、ものすごい美人が現れた。
スーパーモデルかなんか?
腰まで届く、長い黒髪。
青い瞳。すげえ色が白くて。華奢で。
見つめていたら、捕らわれてしまいそうだ。
どんどん近づいて来る。
「おれの名前を知ってるのか?」
やってきた彼女は、にっこり笑って、おれの手を握った。
「ええ。並河泰三。思い出して。あなたは、もう中学生じゃない。わたしと出会ったのは高校三年の夏休み。一人でロンドンに来た。そのときのことを」
「……思い出した」
ロンドンの町並み。おれは、雑踏の中に佇んでいた彼女を追いかけていた。
『待って! ねえ君、どこかで、おれと出会ったことない?』
振り返った彼女は、微笑んだ。
謎めいたモナリザのように。
そしてそのとき、おれの世界は塗り替えられた。
初めての恋に落ちたんだ。
おれは彼女を追いかけて、出会って、イギリスにいる間じゅう一緒にいて、永住しようと考えていた。
そしたら彼女のほうから、日本にやってきてくれたんだ。
日本に帰化した彼女と、おれとは。
結婚したんだ。
「沙織さん」
彼女の名前を口にしたら、なぜだろう、涙が溢れてきた。
「……沙織。さおり、会いたかった……!」
「わたしもよ。泰三」
おれたちは互いに手を伸ばして。
しっかりと、抱き合った。
彼女の身体の、熱を感じる。
とても……ひさしぶりに。
「もう離れない。ここがどこでも、どうでもいい」
「わたしもずっとこうしていたい……けれど」
彼女の手が、おれの背中を撫でて。
「ゆるされた時間は、かぎられているの」
さらりと、離れた。
「なんの、ことだ?」
のどがからからだ。
本当は、おれも気づいていた。
……沙織も、おれも。
……もう、生きてはいないのだ。だから会えたのだ。
おれはどうしたんだろう?
気がついたら、たった一人、何もない空間に浮かんでいる。
おれは、だれだ?
なにものだ?
生き物……なんだよな?
しばらくして、思い出す。
そうだ、おれは、並河泰三。
中学三年だ。
たしか、夏休みに家族でイギリスへ旅行して。
いつも忙しそうで苦虫を噛みつぶしたような顔をしている親父、たまには家族サービスでもしようという気まぐれを起こしたらしい。
おふくろも、姉ちゃんも喜んでる。
姉ちゃんはブリティッシュロックが好きだもんな。
「違うわよ。プログレッシブロック。あたしはブライアン命なんだからっ」
あれ? 空耳かな。
夏子姉ちゃんの声がしたみたいだ。
親父やお袋はどうしたんだ?
「泰三。だめだ。まだ、来てはいけない」
あれ~? また空耳だよ。
目の前にはロンドンの石畳。
有名な霧のロンドン……
馬車?
いや違うだろ。これじゃロンドンの有名な探偵が登場してきそうだ。
「だめよ、泰三。ここでは思いが形になってしまうの。世界のはざまなのよ」
ふいに、目の前に、背の高い、ものすごい美人が現れた。
スーパーモデルかなんか?
腰まで届く、長い黒髪。
青い瞳。すげえ色が白くて。華奢で。
見つめていたら、捕らわれてしまいそうだ。
どんどん近づいて来る。
「おれの名前を知ってるのか?」
やってきた彼女は、にっこり笑って、おれの手を握った。
「ええ。並河泰三。思い出して。あなたは、もう中学生じゃない。わたしと出会ったのは高校三年の夏休み。一人でロンドンに来た。そのときのことを」
「……思い出した」
ロンドンの町並み。おれは、雑踏の中に佇んでいた彼女を追いかけていた。
『待って! ねえ君、どこかで、おれと出会ったことない?』
振り返った彼女は、微笑んだ。
謎めいたモナリザのように。
そしてそのとき、おれの世界は塗り替えられた。
初めての恋に落ちたんだ。
おれは彼女を追いかけて、出会って、イギリスにいる間じゅう一緒にいて、永住しようと考えていた。
そしたら彼女のほうから、日本にやってきてくれたんだ。
日本に帰化した彼女と、おれとは。
結婚したんだ。
「沙織さん」
彼女の名前を口にしたら、なぜだろう、涙が溢れてきた。
「……沙織。さおり、会いたかった……!」
「わたしもよ。泰三」
おれたちは互いに手を伸ばして。
しっかりと、抱き合った。
彼女の身体の、熱を感じる。
とても……ひさしぶりに。
「もう離れない。ここがどこでも、どうでもいい」
「わたしもずっとこうしていたい……けれど」
彼女の手が、おれの背中を撫でて。
「ゆるされた時間は、かぎられているの」
さらりと、離れた。
「なんの、ことだ?」
のどがからからだ。
本当は、おれも気づいていた。
……沙織も、おれも。
……もう、生きてはいないのだ。だから会えたのだ。
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