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第1章
その2
しおりを挟む花のように可愛らしい少女が、可愛らしいエプロン姿でとびきりの笑顔を振りまいてい
たのだ。
フィオンも、その見慣れぬ少女に見入った。
普段、常に眠た気な眼も、今は全開になっている。
女性も頑丈元気な外観を有するフィエスタ村にあって際立つ柔らかな愛嬌のある少女だが、フィオンが眼を見開いた理由は意外なものであった。
その少女の姿を一目見て、フィオンは激しい衝撃を受けたのだった。
物陰に身を隠しつつ、なおもじりじりと近づきながら室内を伺うという怪しげな行為を自分がしていることにフィオンは気づいていない。
少女を見つめたまま、呆然としてつぶやいた。
「……おかあさま」
2
台所の天火の前で、可愛い黒髪の少女と二人、お菓子談義に興じていたキースは、ふと物音がしたのを聞きつけ、離れとつながっている廊下のほうに目を向けた。
すると彼の表情が、ぱあっと明るくなった。
(おや?)
キースと相対していた黒髪の少女はその変化を見逃さなかった。
彼の目線の先を、少女も、見やる。
するとそこには、白っぽい、ぼんわりとした塊が、うずくまっていた。
「ひょえっ!?」
思わず、少女は、可愛らしい顔には似つかわしくない素っ頓狂な声をあげてしまったのだった。
「ああ、驚いたか? 言ってなかったな、離れに住んでる、フィオンさんだよ」
ゆらぁ。
白いかたまりが、立ち上がる。
なんと、それは、人間。
白っぽい、ほっそりとした、おそらく女性、であった。
そして、なかなか整った、美しい顔だちだった。
ぼうっと前を見ているようだが、その表情は、読み取りがたい。
「フィオン・リーリウムさん。遠い北の……なんとかって国からこの村にやってきて、薬用植物の研究をしているんだ」
ニコニコと言う表情からして、キースがフィオンに対してかなりの好感を持っていることは明らかだった。
(あっコレ、惚れてるな~)
黒髪の少女の、内心のつぶやきを、もちろんキースは知るよしもない。
「おう、ちょっと休憩しないか」
照れながら、フィオンに言う。
母屋と廊下でつながっている離れで、一晩中、実験に打ち込んでいた筈の、フィオンだったが、いつの間にか母屋にやってきていて、しかもなにやら真剣なまなざしでキースと黒髪の少女を凝視しているのだ。
しかしキースはあれこれと深く考えたり悩むことはしない。
「いいところに来たな。クッキーが焼けたぞ。教えてもらった新しい味だ。もう少ししたら、茶と一緒に持って行こうと思ってた」
いつもならば徹夜作業の後のフィオンは、ことのほか甘味をよろこぶ。
ところが、今日の反応は、キースが予想していたものとは、まったく違った。
なんとフィオンはこちらに向かって小走りにやってきたのだ。
そして、叫んだ。
「おかあさま!」
フィオンは黒髪の愛らしい少女に一目散に飛びついて、抱き締めた。
「おかあさま! おかあさま!!」
何度も、そう呼びかけながら。
「お、おかあさまぁ……」
しだいに、涙ぐんできていた。
「え?」
キースは間の抜けた顔で、黒髪の少女とフィオンの姿を、ぽかんと見ていた。
( まだまだ続く! )
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