リトルホークと黒の魔法使いカルナックの冒険

紺野たくみ

文字の大きさ
上 下
20 / 64
第1章

その20 首都も平穏とは限らない。ライバルは貴公子?

しおりを挟む
          20

「リトルホーク。大目に見てやれ。みんな、喜んでいるではないか」
「しょうがないな……」
 口では承諾したおれだが、内心は穏やかでなかった。

 可愛い嫁と再会して、焦って迫ってしまったせいで怯えさせてしまった。後悔してる。けれど、それでも懲りずにルナはおれのところに、また、やってきてくれた。

 おれとルナはこのシ・イル・リリヤで初めて出会い、交際を始めたということにしろと、コマラパが言う。5年前に、おれの田舎の村ですでに結婚していたというより、その方が、周囲に納得させやすいからと。
『おつきあいしてるって、みんなにも知ってもらいたいんだ』
 ルナも、こう言ってるし。

 というわけで、おれとルナは、魔導師協会本部、中庭での初めての『でえと』にこぎつけた。

 おれのためにルナ……この都ではムーンチャイルドと呼ばれている……が作ってくれたランチなのに。
 魔導師協会本部に併設された、魔法を学ぶ学院の生徒たちが、うまそうな匂いをかぎつけてか、何人も押しかけてきてしまったのである。
 
 ルナの作ったランチを嬉しそうに食っているやつら。
 どう見ても、みんなルナに惚れてる。
 こいつら、全員、おれの恋のライバルかよ……!

 全員が、ルナのランチを堪能して満ち足り、がっつくのをやめた頃、コマラパは集まった生徒達を見回した。

「みんなに紹介しておこう。彼は、リトルホーク。つい最近、ガルガンドからやってきたものでな、都の事情には詳しくない」
 おのぼりさんであると、柔らかく言い換えている。
 ムーンチャイルドはランチの後の包みや食器をきれいに片付け……大気中のエネルギーに還元してしまい、サファイアとルビーに両脇をはさまれてちょこんとベンチに腰掛けている。

「魔導師志望の学生なんですか?」
 一人が、尋ねた。
 大勢居る生徒たちの中で一際目立つ華やかな容姿だ。
 すらっとした、なかなかの美男子である。
 成人ではないので美少年か。
 お育ちもすこぶる良さそうだ。貴族か、大きな商家の跡取りだろうか。
 黄金の絹糸のような髪って、ほんとにあるんだと、驚いた。男子だけど。
 目の色はキャッツアイみたいな光の差した金茶色。肌色は、日に焼けたこともなさそうなくらいに白く、美しい。貴公子さまみたいだな。

「僕はブラッド・リー・レイン。魔法学実践科の二期生。失礼だが、君は? 見たところ、保有魔力が感じられないのだが」
 凜として上品な問いかけの底に、苛立ちと怒りが感じられる。
 やっぱりこいつもルナ狙いか~。

 おれのルナ、ムーンチャイルドは、おれと貴公子ブラッドを交互に見ているのだが、ブラッドを嫌うそぶりはまったく見せなかった。少し妬ける。
 おれだけの嫁でいてほしいのに。
 4年の間、どうしていたんだろう。
   
「……」
 しかし、おれにはブラッドが口にしたのが何の呪文やら皆目わからず、言葉を返せずにいると、コマラパが口を挟んだ。
「リトルホークは学院の生徒ではない」

「え、ではなぜ」
「なんでムーンチャイルドにランチ作ってもらってんだよ!」
「そーだそーだ!」
「田舎者のくせに」

 ごほん、とコマラパは咳払いをする。
「リトルホークは、我が知人の子。このコマラパと同郷の出でな。ガルガンドで働いていたのだ」

「あの、北の果てですか……我々とそう変わらぬ年頃で、働くとは」
 上品な貴公子ブラッドは、感心したのか、態度をやわらげた。

 悪ガキどもも、なぜか静かになった。
「ガルガンドだってよ。働くって、まさか傭兵とか」
「んな訳ねーだろ」
 そのまさかなんだけど。自慢話でもないし、言うこともないか。

「うむ。わしをたずねシ・イル・リリヤを訪れたところ、折悪しく、連続大量誘拐事件に巻き込まれての。彼には、裁判において証言をしてもらうことになっている。それまでの間、この魔導師協会本部で身柄を保護することにしたのだ。証人を消そうとするやからもいるだろうからな」

「さもありなん」
 貴公子は言った。 
 ブラッドは、おれの中ではすっかり王子様である。

「ではリトルホーク殿。これからよろしく。裁判までこの魔導師協会本部に滞在されるのは良し。ここは、精霊の森と同様の聖域なれば、心安んじてくださいますよう」
 時代がかった物言いである。
 右手を差し出してきたので、おれも右手を差し出して、ぎっちりと固く握手した。

 ぎゅううううう。
 あいててててて。

 おいおい全力で握ってくるのかよ。
 おとなげない。
 ああ、いや、青少年だもんな。

「安心しろ。ブラッドも言ったがここは聖域だ。もちろん始めからそうだったのではない。ここには、ムーンチャイルドがいて、この子を守るために、精霊の兄姉が、付き添っているからな」

「ええ!?」
 さすがにおれは驚いた。
「ラト姉とレフィス兄がここにいるの?」

「ああ。あの二人以外にも精霊の幾人かは常駐しておるよ。気がついたかも知れぬが、中庭の上空は、吹き抜けに見えるだろうが実は素通しではない。常人には見えない屋根に覆われている。それはむろん……」
 コマラパが、声を落とした。
 何も知らないであろう生徒達に配慮したのか。

「あの赤い魔女めの『魔天の瞳』の走査(スキャン)をごまかすためだ」
 と、おれには、はっきりと聞こえるように、告げた。

 うわあ。
 なかなかに、エルレーン公国首都シ・イル・リリヤも、剣呑(スリリング)なようだ。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】 男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。 少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。 けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。 少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。 それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。 その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。 そこには残酷な現実が待っていた―― *他サイトでも投稿中

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理! ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※ ファンタジー小説大賞結果発表!!! \9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/ (嬉しかったので自慢します) 書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン) 変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします! (誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願 ※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。      * * * やってきました、異世界。 学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。 いえ、今でも懐かしく読んでます。 好きですよ?異世界転移&転生モノ。 だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね? 『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。 実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。 でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。 モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ? 帰る方法を探して四苦八苦? はてさて帰る事ができるかな… アラフォー女のドタバタ劇…?かな…? *********************** 基本、ノリと勢いで書いてます。 どこかで見たような展開かも知れません。 暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...