55 / 64
第2章
その4 意外な人物と再会する
しおりを挟む
4
おれ、ブラッド、モルガンは、男子寮を出ることにした。
寮の入り口にはシャンティさんとミハイルさんがいた。
「これから食事ですか?」
シャンティさんがにこやかに声を掛けてきた。
「はい。シャンティさ…いえ、寮長は、夕食はまだなんですよね」
「いいんですよ、私たちはあとでゆっくり頂きますし、さっき軽くつまんだのでね」
笑顔がまぶしいな。
なんか、いいことあったのかな?
「お気を付けて。ああ、それから…いや、食堂に行けばわかりますから、いいかな」
何かを言いかけてやめ、満面の笑顔で、見送ってくれた。
護衛のミハイルさんは無表情だが、不機嫌でも怒ってもいない。あれが素の顔なのだ。
「さぁ行こうぜ! でないと、いいのは早く無くなっちまうからな!」
モルガン君、敬語忘れてるよ。
とにかく広い校舎なので、天井の高い、長い回廊を歩く。
やっと食堂に着いた。
学生食堂という雰囲気では、ない。高級なんだよなあ。
食堂は学舎内にある。昼食のときにもおれたちルームメイト三人組で入ったから知っているのだが、カフェテリア方式の広い場所だ。
この建物が学院のために寄贈される前はエルレーン公の別荘の一つだった。(あくまで一つ。もちろん他にたくさんあるんだろう)その頃は晩餐会を催すためにあった大広間だ。学生が百人入っても充分すぎるほどゆとりがある。
席は奥の方から埋まっていた。
先客は、まだ十人ちょっとくらいか。
「奥の席は先輩たちだ。声はかけないのが礼儀。頭だけは下げとけよ」
モルガンが教えてくれ、率先して行動に移したので、見よう見まねで従う。
サファイアとルビーの二人組は、どうやらいなかったので、少しほっとした。
彼女たちが田舎から出てきたような純朴な青年達を狙った集団誘拐組織に潜入捜査していた場面にぶつかったせいか、それともムーンチャイルドに迫ったからなのか(きっと、そっちだよね)なんとなく睨まれてるんだよな。
「先輩っていうと一期生?」
赤毛に緑の目をした、十六歳くらいの男子と女子が、一つのテーブルに向かい合って座っていた。年格好も、顔もよく似てるから双子かな?
「うん。あまりじろじろ見てはだめだよリトルホーク」
美少年なのに残念にも眉をいかめしく寄せたブラッドが、忠告してくれる。
「男子がエルネスト・デ・ルナル。女子がルース。双子で、十六歳。一期生はたいてい十六歳なんだ。ぼくらは二期生で、ほぼ十四歳。間が少し開いてるのは、生徒の受け入れに準備期間が必要だったからだよ。で、次からは年に一回、入学式があってね。一番下で四期生だよ。また少し準備期間を設けて、入学年齢を下げたり緩くしているから、幼い感じだね」
「ああ、おれがさっき一緒に勉強してた子供たちか。しかし、一期生って、ほぼ十六歳だっけ? それにしちゃ、けっこう老けたのも……」
窓際に一人、三十近いおっさんもいるみたいなのだ。
ブラッドはそちらをちらりと一瞥して、ふうっと息を吐いた。
「だから、ほぼ。途中入学や転校生もいるから。リトルホーク、君みたいにね」
あ、そういうことか。
納得するほかない。
「おれは最下級生からやり直してるところだけどな」
「さっきジュリエット先生から聞いたぞ。魔法は初心者なんだろ。じゃ、しょうがないじゃないか」
モルガン君が、容赦ない。
「すぐに追いつくから見てろ」
見栄を張ってみた。
でも、本当のところ勉強は苦手だから追いつける自信は、まったくない。
当分は幼稚園だな~。
「二人とも、ともかく席を選ぼうよ。それから料理を取りに行かないと、美味しいのから先になくなっちゃうんだからね」
ブラッドが、軽くモルガンを睨む。
美少女と見紛う華奢な美少年が、そんな仕草をしたところで、すごみはないな。
むしろ可愛さが数段アップだ。自分でも何を言ってるんだか。おれは男女問わず美形に弱いのかもしれない。
座席は中央に近いところにした。
ブラッドの主張ではそこが料理に近いから。
どんだけ食いしん坊なんだ。
聖なる胃袋と呼ぼう。
予約席と書いてある札をテーブルに置いて、さあ料理を取りに行こうと盛り上がったところ。
「やあ、噂の転校生は君か。紹介してくれないかな、ブラッド、モルガン」
軽い調子で聞こえてきたのは、明らかに年上の声だった。
誰だよ。
おれはこれから、胃もたれを覚悟の上でルームメイトたちと親睦を深めようとしているというのに。
そこにいたのは、背の高い金髪の青年。
金髪と言うより見事なプラチナブロンド、薄青い瞳、色の白い……北方の部族の特徴を備えた美青年だったのだ。
「彼が転校生のリトルホークだよ。リトルホーク、こちらは、今年の初めに入学してきた……」
「初めまして、リトルホーク。私はエーリク・フィンデンボルグ・トリグバセンだ。北方の出。ハイエルフ族だよ」
「……はぁ?」
ハイエルフぅ?
なに言ってんだこいつ。
おれは呆れて物も言えない。
にこやかに満面の笑みを浮かべた、こいつを。
おれリトルホークはよく知っている。
せめて偽名を名乗れよ、偽名を。
本名を全部言ってんじゃねえか!
エーリク・フィンデンボルグ・トリグバセン。
こつは真性のアホである。
顔だけはむちゃいいのだが。
おれ、ブラッド、モルガンは、男子寮を出ることにした。
寮の入り口にはシャンティさんとミハイルさんがいた。
「これから食事ですか?」
シャンティさんがにこやかに声を掛けてきた。
「はい。シャンティさ…いえ、寮長は、夕食はまだなんですよね」
「いいんですよ、私たちはあとでゆっくり頂きますし、さっき軽くつまんだのでね」
笑顔がまぶしいな。
なんか、いいことあったのかな?
「お気を付けて。ああ、それから…いや、食堂に行けばわかりますから、いいかな」
何かを言いかけてやめ、満面の笑顔で、見送ってくれた。
護衛のミハイルさんは無表情だが、不機嫌でも怒ってもいない。あれが素の顔なのだ。
「さぁ行こうぜ! でないと、いいのは早く無くなっちまうからな!」
モルガン君、敬語忘れてるよ。
とにかく広い校舎なので、天井の高い、長い回廊を歩く。
やっと食堂に着いた。
学生食堂という雰囲気では、ない。高級なんだよなあ。
食堂は学舎内にある。昼食のときにもおれたちルームメイト三人組で入ったから知っているのだが、カフェテリア方式の広い場所だ。
この建物が学院のために寄贈される前はエルレーン公の別荘の一つだった。(あくまで一つ。もちろん他にたくさんあるんだろう)その頃は晩餐会を催すためにあった大広間だ。学生が百人入っても充分すぎるほどゆとりがある。
席は奥の方から埋まっていた。
先客は、まだ十人ちょっとくらいか。
「奥の席は先輩たちだ。声はかけないのが礼儀。頭だけは下げとけよ」
モルガンが教えてくれ、率先して行動に移したので、見よう見まねで従う。
サファイアとルビーの二人組は、どうやらいなかったので、少しほっとした。
彼女たちが田舎から出てきたような純朴な青年達を狙った集団誘拐組織に潜入捜査していた場面にぶつかったせいか、それともムーンチャイルドに迫ったからなのか(きっと、そっちだよね)なんとなく睨まれてるんだよな。
「先輩っていうと一期生?」
赤毛に緑の目をした、十六歳くらいの男子と女子が、一つのテーブルに向かい合って座っていた。年格好も、顔もよく似てるから双子かな?
「うん。あまりじろじろ見てはだめだよリトルホーク」
美少年なのに残念にも眉をいかめしく寄せたブラッドが、忠告してくれる。
「男子がエルネスト・デ・ルナル。女子がルース。双子で、十六歳。一期生はたいてい十六歳なんだ。ぼくらは二期生で、ほぼ十四歳。間が少し開いてるのは、生徒の受け入れに準備期間が必要だったからだよ。で、次からは年に一回、入学式があってね。一番下で四期生だよ。また少し準備期間を設けて、入学年齢を下げたり緩くしているから、幼い感じだね」
「ああ、おれがさっき一緒に勉強してた子供たちか。しかし、一期生って、ほぼ十六歳だっけ? それにしちゃ、けっこう老けたのも……」
窓際に一人、三十近いおっさんもいるみたいなのだ。
ブラッドはそちらをちらりと一瞥して、ふうっと息を吐いた。
「だから、ほぼ。途中入学や転校生もいるから。リトルホーク、君みたいにね」
あ、そういうことか。
納得するほかない。
「おれは最下級生からやり直してるところだけどな」
「さっきジュリエット先生から聞いたぞ。魔法は初心者なんだろ。じゃ、しょうがないじゃないか」
モルガン君が、容赦ない。
「すぐに追いつくから見てろ」
見栄を張ってみた。
でも、本当のところ勉強は苦手だから追いつける自信は、まったくない。
当分は幼稚園だな~。
「二人とも、ともかく席を選ぼうよ。それから料理を取りに行かないと、美味しいのから先になくなっちゃうんだからね」
ブラッドが、軽くモルガンを睨む。
美少女と見紛う華奢な美少年が、そんな仕草をしたところで、すごみはないな。
むしろ可愛さが数段アップだ。自分でも何を言ってるんだか。おれは男女問わず美形に弱いのかもしれない。
座席は中央に近いところにした。
ブラッドの主張ではそこが料理に近いから。
どんだけ食いしん坊なんだ。
聖なる胃袋と呼ぼう。
予約席と書いてある札をテーブルに置いて、さあ料理を取りに行こうと盛り上がったところ。
「やあ、噂の転校生は君か。紹介してくれないかな、ブラッド、モルガン」
軽い調子で聞こえてきたのは、明らかに年上の声だった。
誰だよ。
おれはこれから、胃もたれを覚悟の上でルームメイトたちと親睦を深めようとしているというのに。
そこにいたのは、背の高い金髪の青年。
金髪と言うより見事なプラチナブロンド、薄青い瞳、色の白い……北方の部族の特徴を備えた美青年だったのだ。
「彼が転校生のリトルホークだよ。リトルホーク、こちらは、今年の初めに入学してきた……」
「初めまして、リトルホーク。私はエーリク・フィンデンボルグ・トリグバセンだ。北方の出。ハイエルフ族だよ」
「……はぁ?」
ハイエルフぅ?
なに言ってんだこいつ。
おれは呆れて物も言えない。
にこやかに満面の笑みを浮かべた、こいつを。
おれリトルホークはよく知っている。
せめて偽名を名乗れよ、偽名を。
本名を全部言ってんじゃねえか!
エーリク・フィンデンボルグ・トリグバセン。
こつは真性のアホである。
顔だけはむちゃいいのだが。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】
男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。
少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。
けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。
少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。
それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。
その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。
そこには残酷な現実が待っていた――
*他サイトでも投稿中
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる