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第2章
その4 意外な人物と再会する
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4
おれ、ブラッド、モルガンは、男子寮を出ることにした。
寮の入り口にはシャンティさんとミハイルさんがいた。
「これから食事ですか?」
シャンティさんがにこやかに声を掛けてきた。
「はい。シャンティさ…いえ、寮長は、夕食はまだなんですよね」
「いいんですよ、私たちはあとでゆっくり頂きますし、さっき軽くつまんだのでね」
笑顔がまぶしいな。
なんか、いいことあったのかな?
「お気を付けて。ああ、それから…いや、食堂に行けばわかりますから、いいかな」
何かを言いかけてやめ、満面の笑顔で、見送ってくれた。
護衛のミハイルさんは無表情だが、不機嫌でも怒ってもいない。あれが素の顔なのだ。
「さぁ行こうぜ! でないと、いいのは早く無くなっちまうからな!」
モルガン君、敬語忘れてるよ。
とにかく広い校舎なので、天井の高い、長い回廊を歩く。
やっと食堂に着いた。
学生食堂という雰囲気では、ない。高級なんだよなあ。
食堂は学舎内にある。昼食のときにもおれたちルームメイト三人組で入ったから知っているのだが、カフェテリア方式の広い場所だ。
この建物が学院のために寄贈される前はエルレーン公の別荘の一つだった。(あくまで一つ。もちろん他にたくさんあるんだろう)その頃は晩餐会を催すためにあった大広間だ。学生が百人入っても充分すぎるほどゆとりがある。
席は奥の方から埋まっていた。
先客は、まだ十人ちょっとくらいか。
「奥の席は先輩たちだ。声はかけないのが礼儀。頭だけは下げとけよ」
モルガンが教えてくれ、率先して行動に移したので、見よう見まねで従う。
サファイアとルビーの二人組は、どうやらいなかったので、少しほっとした。
彼女たちが田舎から出てきたような純朴な青年達を狙った集団誘拐組織に潜入捜査していた場面にぶつかったせいか、それともムーンチャイルドに迫ったからなのか(きっと、そっちだよね)なんとなく睨まれてるんだよな。
「先輩っていうと一期生?」
赤毛に緑の目をした、十六歳くらいの男子と女子が、一つのテーブルに向かい合って座っていた。年格好も、顔もよく似てるから双子かな?
「うん。あまりじろじろ見てはだめだよリトルホーク」
美少年なのに残念にも眉をいかめしく寄せたブラッドが、忠告してくれる。
「男子がエルネスト・デ・ルナル。女子がルース。双子で、十六歳。一期生はたいてい十六歳なんだ。ぼくらは二期生で、ほぼ十四歳。間が少し開いてるのは、生徒の受け入れに準備期間が必要だったからだよ。で、次からは年に一回、入学式があってね。一番下で四期生だよ。また少し準備期間を設けて、入学年齢を下げたり緩くしているから、幼い感じだね」
「ああ、おれがさっき一緒に勉強してた子供たちか。しかし、一期生って、ほぼ十六歳だっけ? それにしちゃ、けっこう老けたのも……」
窓際に一人、三十近いおっさんもいるみたいなのだ。
ブラッドはそちらをちらりと一瞥して、ふうっと息を吐いた。
「だから、ほぼ。途中入学や転校生もいるから。リトルホーク、君みたいにね」
あ、そういうことか。
納得するほかない。
「おれは最下級生からやり直してるところだけどな」
「さっきジュリエット先生から聞いたぞ。魔法は初心者なんだろ。じゃ、しょうがないじゃないか」
モルガン君が、容赦ない。
「すぐに追いつくから見てろ」
見栄を張ってみた。
でも、本当のところ勉強は苦手だから追いつける自信は、まったくない。
当分は幼稚園だな~。
「二人とも、ともかく席を選ぼうよ。それから料理を取りに行かないと、美味しいのから先になくなっちゃうんだからね」
ブラッドが、軽くモルガンを睨む。
美少女と見紛う華奢な美少年が、そんな仕草をしたところで、すごみはないな。
むしろ可愛さが数段アップだ。自分でも何を言ってるんだか。おれは男女問わず美形に弱いのかもしれない。
座席は中央に近いところにした。
ブラッドの主張ではそこが料理に近いから。
どんだけ食いしん坊なんだ。
聖なる胃袋と呼ぼう。
予約席と書いてある札をテーブルに置いて、さあ料理を取りに行こうと盛り上がったところ。
「やあ、噂の転校生は君か。紹介してくれないかな、ブラッド、モルガン」
軽い調子で聞こえてきたのは、明らかに年上の声だった。
誰だよ。
おれはこれから、胃もたれを覚悟の上でルームメイトたちと親睦を深めようとしているというのに。
そこにいたのは、背の高い金髪の青年。
金髪と言うより見事なプラチナブロンド、薄青い瞳、色の白い……北方の部族の特徴を備えた美青年だったのだ。
「彼が転校生のリトルホークだよ。リトルホーク、こちらは、今年の初めに入学してきた……」
「初めまして、リトルホーク。私はエーリク・フィンデンボルグ・トリグバセンだ。北方の出。ハイエルフ族だよ」
「……はぁ?」
ハイエルフぅ?
なに言ってんだこいつ。
おれは呆れて物も言えない。
にこやかに満面の笑みを浮かべた、こいつを。
おれリトルホークはよく知っている。
せめて偽名を名乗れよ、偽名を。
本名を全部言ってんじゃねえか!
エーリク・フィンデンボルグ・トリグバセン。
こつは真性のアホである。
顔だけはむちゃいいのだが。
おれ、ブラッド、モルガンは、男子寮を出ることにした。
寮の入り口にはシャンティさんとミハイルさんがいた。
「これから食事ですか?」
シャンティさんがにこやかに声を掛けてきた。
「はい。シャンティさ…いえ、寮長は、夕食はまだなんですよね」
「いいんですよ、私たちはあとでゆっくり頂きますし、さっき軽くつまんだのでね」
笑顔がまぶしいな。
なんか、いいことあったのかな?
「お気を付けて。ああ、それから…いや、食堂に行けばわかりますから、いいかな」
何かを言いかけてやめ、満面の笑顔で、見送ってくれた。
護衛のミハイルさんは無表情だが、不機嫌でも怒ってもいない。あれが素の顔なのだ。
「さぁ行こうぜ! でないと、いいのは早く無くなっちまうからな!」
モルガン君、敬語忘れてるよ。
とにかく広い校舎なので、天井の高い、長い回廊を歩く。
やっと食堂に着いた。
学生食堂という雰囲気では、ない。高級なんだよなあ。
食堂は学舎内にある。昼食のときにもおれたちルームメイト三人組で入ったから知っているのだが、カフェテリア方式の広い場所だ。
この建物が学院のために寄贈される前はエルレーン公の別荘の一つだった。(あくまで一つ。もちろん他にたくさんあるんだろう)その頃は晩餐会を催すためにあった大広間だ。学生が百人入っても充分すぎるほどゆとりがある。
席は奥の方から埋まっていた。
先客は、まだ十人ちょっとくらいか。
「奥の席は先輩たちだ。声はかけないのが礼儀。頭だけは下げとけよ」
モルガンが教えてくれ、率先して行動に移したので、見よう見まねで従う。
サファイアとルビーの二人組は、どうやらいなかったので、少しほっとした。
彼女たちが田舎から出てきたような純朴な青年達を狙った集団誘拐組織に潜入捜査していた場面にぶつかったせいか、それともムーンチャイルドに迫ったからなのか(きっと、そっちだよね)なんとなく睨まれてるんだよな。
「先輩っていうと一期生?」
赤毛に緑の目をした、十六歳くらいの男子と女子が、一つのテーブルに向かい合って座っていた。年格好も、顔もよく似てるから双子かな?
「うん。あまりじろじろ見てはだめだよリトルホーク」
美少年なのに残念にも眉をいかめしく寄せたブラッドが、忠告してくれる。
「男子がエルネスト・デ・ルナル。女子がルース。双子で、十六歳。一期生はたいてい十六歳なんだ。ぼくらは二期生で、ほぼ十四歳。間が少し開いてるのは、生徒の受け入れに準備期間が必要だったからだよ。で、次からは年に一回、入学式があってね。一番下で四期生だよ。また少し準備期間を設けて、入学年齢を下げたり緩くしているから、幼い感じだね」
「ああ、おれがさっき一緒に勉強してた子供たちか。しかし、一期生って、ほぼ十六歳だっけ? それにしちゃ、けっこう老けたのも……」
窓際に一人、三十近いおっさんもいるみたいなのだ。
ブラッドはそちらをちらりと一瞥して、ふうっと息を吐いた。
「だから、ほぼ。途中入学や転校生もいるから。リトルホーク、君みたいにね」
あ、そういうことか。
納得するほかない。
「おれは最下級生からやり直してるところだけどな」
「さっきジュリエット先生から聞いたぞ。魔法は初心者なんだろ。じゃ、しょうがないじゃないか」
モルガン君が、容赦ない。
「すぐに追いつくから見てろ」
見栄を張ってみた。
でも、本当のところ勉強は苦手だから追いつける自信は、まったくない。
当分は幼稚園だな~。
「二人とも、ともかく席を選ぼうよ。それから料理を取りに行かないと、美味しいのから先になくなっちゃうんだからね」
ブラッドが、軽くモルガンを睨む。
美少女と見紛う華奢な美少年が、そんな仕草をしたところで、すごみはないな。
むしろ可愛さが数段アップだ。自分でも何を言ってるんだか。おれは男女問わず美形に弱いのかもしれない。
座席は中央に近いところにした。
ブラッドの主張ではそこが料理に近いから。
どんだけ食いしん坊なんだ。
聖なる胃袋と呼ぼう。
予約席と書いてある札をテーブルに置いて、さあ料理を取りに行こうと盛り上がったところ。
「やあ、噂の転校生は君か。紹介してくれないかな、ブラッド、モルガン」
軽い調子で聞こえてきたのは、明らかに年上の声だった。
誰だよ。
おれはこれから、胃もたれを覚悟の上でルームメイトたちと親睦を深めようとしているというのに。
そこにいたのは、背の高い金髪の青年。
金髪と言うより見事なプラチナブロンド、薄青い瞳、色の白い……北方の部族の特徴を備えた美青年だったのだ。
「彼が転校生のリトルホークだよ。リトルホーク、こちらは、今年の初めに入学してきた……」
「初めまして、リトルホーク。私はエーリク・フィンデンボルグ・トリグバセンだ。北方の出。ハイエルフ族だよ」
「……はぁ?」
ハイエルフぅ?
なに言ってんだこいつ。
おれは呆れて物も言えない。
にこやかに満面の笑みを浮かべた、こいつを。
おれリトルホークはよく知っている。
せめて偽名を名乗れよ、偽名を。
本名を全部言ってんじゃねえか!
エーリク・フィンデンボルグ・トリグバセン。
こつは真性のアホである。
顔だけはむちゃいいのだが。
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