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第4章
その26 コマラパの危惧とローサの決心
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最初の方に、これまでのまとめというか、話の流れを少しまとめてみました。
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26
大森林に住むクーナ族の賢者、『深緑のコマラパ』は、『欠けた月の一族』の村人たちを取りまとめ、村を出て、近くにある高山台地の上に避難していた。
村長ローサの長男アトクが、グーリア帝国駆竜部隊を率いて襲撃してくることが予想された時点で、村人達は村長の家に集まり、対策を協議したのだった。
村人たちは皆、グーリア軍に立ち向かい撃退するつもりまんまんだった。
引退した元傭兵達がごろごろいる村である。
若者や壮年男性たちのほとんどは傭兵や諜報員などで他国に出稼ぎに行っているため、残っているのは老人と女性ばかりだが、血の気の多い歴戦の勇者揃い。
むしろ久しぶりに全力で戦えると喜んでさえいた。
しかし代々の村長を勤めてきたプーマ家のローサ、現在の村長の考えは、違った。
駆竜が集団で襲ってくれば、いくら村の皆が強いとはいえ必ず犠牲者が出る。
それは許容できない。
皆には、逃げて欲しいと。
戦って死ぬなら本望、覚悟の上だと、村人たちは譲らなかった。
大森林の賢者と名高いコマラパがローサの決定に口添えすることで、ようやく人々は、しぶしぶながら、避難することを受け入れたのだった。
アトク率いる駆竜部隊を迎え撃つのは、村長ローサ、ローサの長女で次期村長である、カントゥータ、ローサの三男クイブロ。
ちなみに次男リサスは北方の武人の国ガルガンドに出稼ぎに行き、軍に入っていた。
そして陰ながら助力を申し出たのは、銀竜アルゲントゥム・ドラコー。
西の海岸沿いに南北に延びているのは万年雪を頂く、白き女神の座と呼ばれ信仰の対象にもなっているルミナレス山系である。
かつてイル・リリヤの命を受け人類の保護者として各地に遣わされていた『色の竜』の一頭である銀竜、自称アルちゃんは、『欠けた月の一族』が住む、このルミナレス山系を中心とした地域の守護竜である。
長年、成人を迎える村人たちに『成人の儀』という試練を課して『加護』という恩恵を与え、見守り続けてきた。
『儂の孫や曾孫たちのようなもの。危機を見過ごすことはできぬ』と言って、戦陣に加わった。
「銀竜様もおいでなのだ、案ずることなど、あるまいが……」
それでもなおコマラパは楽観的にはなれない。
もしも村に万が一のことあれば。
もしも、クイブロの身に何か、あったなら。
世界の大いなる意思と精霊たちの許しを得、多くの村人たちに祝福されて、クイブロと婚姻の契約を結んだ、カルナックは。
コマラパは別として生まれて初めて人間のあたたかさに接して、この村に強い思い入れを抱いているカルナックの心は。
いったい、どうなってしまうのか。
想像もつかない。
(あの子を悲しませたくない)
深緑のコマラパが精霊の森を訪れカルナックに出会ってから、時間にすれば一年にも満たない。
コマラパはレギオン王国、国王の側近である有力者に招かれた。
その人物は国教である『聖堂』の専横ぶりに思うところでもあったのか、「大自然の大いなる意識のもとに」清貧を貫く『深緑の大賢人』を招聘した。
民間人のための施療院を設けて欲しいというのが表向きの理由だった。
しかしながら『聖堂』も手をこまねいてはいなかった。
コマラパが施療院で行っていた治療を『神の意志に反した異端の魔術』と断定して、捉え、異端審問にかけて火刑に処す準備を整えていた。
コマラパが『聖堂』の追っ手を逃れたのは、精霊の森を訪れて、カルナックと出会い、森に滞在することになったためだった。
本来であれば生命の危機に陥るはずだったところを「セレナンの大いなる意思」に助け出され、そのまま精霊の森に置かれた。
カルナックは、かつてレギオン王国の貴族で『聖堂』の教主だった父親(のちに養父だったと明らかになったのだが)ガルデル・ギア・バルケスに虐待を受けており、殺されて捨てられた。
精霊たちはカルナックを救い、護り育てた。
コマラパが精霊の愛し子、黒髪の子ども……カルナックに気に入られて、精霊の森に滞在したのが半年間。
実質は、カルナックの遊び相手だった。
いつしか実の親子のように親しくなっていた二人である。
人間の世界を見てみたいというカルナックの望み。
外を見せてやりたいというコマラパの願い。
『この子の名前を当ててみて。そしたら、連れ出してもいいわ』
精霊の姉は、そう言った。
カルナックは、自ら名前を明かした。人間の世界を知るために。
本当の父と子だったことを知ったのは、精霊の森を出て『欠けた月』の村を訪れた、その後のことだった。
「ここにいる村人達は、わたしが引き留めておく。無事でいてくれ、クイブロ、ローサ、カントゥータ」
ローサを守ると言って、単身、欠けた月の村に戻っていった、ローサの夫、カリートの安否も、気にかかった。
コマラパは、カントゥータが一人で村の入り口にとどまり、グーリア帝国の魔道具に操られていたアトクと戦ったこと、アトクが死んで後、新たな傀儡として狙われた妹カントゥータを守るため《世界の大いなる意思》の代行者として蘇り、人間の身を越えた、《村の守護者》となったことを知らない。
カルナックが精霊たちに願い、村の敵と戦うために戻ってカントゥータと合流したことも、まだ、知るよしもなかった。
※
このとき、一方、『欠けた月の村』では。
姿を現したセラニス・アレム・ダルに対峙しているローサとクイブロ、銀竜がいた。
村長としてのローサの覚悟のほどを感じ取った、自称『アルちゃん』こと、アルゲントゥム・ドラコー(銀竜)は、思案をしていた。
(ローサは腹をくくり覚悟を決めている。だが『欠けた月の一族』の守護竜として、彼女に『最後の手段』を使わせるわけにはいかぬ……)
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大森林に住むクーナ族の賢者、『深緑のコマラパ』は、『欠けた月の一族』の村人たちを取りまとめ、村を出て、近くにある高山台地の上に避難していた。
村長ローサの長男アトクが、グーリア帝国駆竜部隊を率いて襲撃してくることが予想された時点で、村人達は村長の家に集まり、対策を協議したのだった。
村人たちは皆、グーリア軍に立ち向かい撃退するつもりまんまんだった。
引退した元傭兵達がごろごろいる村である。
若者や壮年男性たちのほとんどは傭兵や諜報員などで他国に出稼ぎに行っているため、残っているのは老人と女性ばかりだが、血の気の多い歴戦の勇者揃い。
むしろ久しぶりに全力で戦えると喜んでさえいた。
しかし代々の村長を勤めてきたプーマ家のローサ、現在の村長の考えは、違った。
駆竜が集団で襲ってくれば、いくら村の皆が強いとはいえ必ず犠牲者が出る。
それは許容できない。
皆には、逃げて欲しいと。
戦って死ぬなら本望、覚悟の上だと、村人たちは譲らなかった。
大森林の賢者と名高いコマラパがローサの決定に口添えすることで、ようやく人々は、しぶしぶながら、避難することを受け入れたのだった。
アトク率いる駆竜部隊を迎え撃つのは、村長ローサ、ローサの長女で次期村長である、カントゥータ、ローサの三男クイブロ。
ちなみに次男リサスは北方の武人の国ガルガンドに出稼ぎに行き、軍に入っていた。
そして陰ながら助力を申し出たのは、銀竜アルゲントゥム・ドラコー。
西の海岸沿いに南北に延びているのは万年雪を頂く、白き女神の座と呼ばれ信仰の対象にもなっているルミナレス山系である。
かつてイル・リリヤの命を受け人類の保護者として各地に遣わされていた『色の竜』の一頭である銀竜、自称アルちゃんは、『欠けた月の一族』が住む、このルミナレス山系を中心とした地域の守護竜である。
長年、成人を迎える村人たちに『成人の儀』という試練を課して『加護』という恩恵を与え、見守り続けてきた。
『儂の孫や曾孫たちのようなもの。危機を見過ごすことはできぬ』と言って、戦陣に加わった。
「銀竜様もおいでなのだ、案ずることなど、あるまいが……」
それでもなおコマラパは楽観的にはなれない。
もしも村に万が一のことあれば。
もしも、クイブロの身に何か、あったなら。
世界の大いなる意思と精霊たちの許しを得、多くの村人たちに祝福されて、クイブロと婚姻の契約を結んだ、カルナックは。
コマラパは別として生まれて初めて人間のあたたかさに接して、この村に強い思い入れを抱いているカルナックの心は。
いったい、どうなってしまうのか。
想像もつかない。
(あの子を悲しませたくない)
深緑のコマラパが精霊の森を訪れカルナックに出会ってから、時間にすれば一年にも満たない。
コマラパはレギオン王国、国王の側近である有力者に招かれた。
その人物は国教である『聖堂』の専横ぶりに思うところでもあったのか、「大自然の大いなる意識のもとに」清貧を貫く『深緑の大賢人』を招聘した。
民間人のための施療院を設けて欲しいというのが表向きの理由だった。
しかしながら『聖堂』も手をこまねいてはいなかった。
コマラパが施療院で行っていた治療を『神の意志に反した異端の魔術』と断定して、捉え、異端審問にかけて火刑に処す準備を整えていた。
コマラパが『聖堂』の追っ手を逃れたのは、精霊の森を訪れて、カルナックと出会い、森に滞在することになったためだった。
本来であれば生命の危機に陥るはずだったところを「セレナンの大いなる意思」に助け出され、そのまま精霊の森に置かれた。
カルナックは、かつてレギオン王国の貴族で『聖堂』の教主だった父親(のちに養父だったと明らかになったのだが)ガルデル・ギア・バルケスに虐待を受けており、殺されて捨てられた。
精霊たちはカルナックを救い、護り育てた。
コマラパが精霊の愛し子、黒髪の子ども……カルナックに気に入られて、精霊の森に滞在したのが半年間。
実質は、カルナックの遊び相手だった。
いつしか実の親子のように親しくなっていた二人である。
人間の世界を見てみたいというカルナックの望み。
外を見せてやりたいというコマラパの願い。
『この子の名前を当ててみて。そしたら、連れ出してもいいわ』
精霊の姉は、そう言った。
カルナックは、自ら名前を明かした。人間の世界を知るために。
本当の父と子だったことを知ったのは、精霊の森を出て『欠けた月』の村を訪れた、その後のことだった。
「ここにいる村人達は、わたしが引き留めておく。無事でいてくれ、クイブロ、ローサ、カントゥータ」
ローサを守ると言って、単身、欠けた月の村に戻っていった、ローサの夫、カリートの安否も、気にかかった。
コマラパは、カントゥータが一人で村の入り口にとどまり、グーリア帝国の魔道具に操られていたアトクと戦ったこと、アトクが死んで後、新たな傀儡として狙われた妹カントゥータを守るため《世界の大いなる意思》の代行者として蘇り、人間の身を越えた、《村の守護者》となったことを知らない。
カルナックが精霊たちに願い、村の敵と戦うために戻ってカントゥータと合流したことも、まだ、知るよしもなかった。
※
このとき、一方、『欠けた月の村』では。
姿を現したセラニス・アレム・ダルに対峙しているローサとクイブロ、銀竜がいた。
村長としてのローサの覚悟のほどを感じ取った、自称『アルちゃん』こと、アルゲントゥム・ドラコー(銀竜)は、思案をしていた。
(ローサは腹をくくり覚悟を決めている。だが『欠けた月の一族』の守護竜として、彼女に『最後の手段』を使わせるわけにはいかぬ……)
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