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第九章 アイリスとアイーダ
その11 スタンドアップ
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11
幼女の看板を下ろすとか、これからは「わたし」って言うんだ、なんて。
今後の抱負を語ってしまったところを、みなさんにきっちり聞かれてしまった。
穴があったら入りたい、って、ホントよ。
もう恥ずかしくて恥ずかしくて、ベッドに半身起こした状態で器用に下向いて頭を抱えていたとき。
「アイリス、よかった気がついて」
両側からぎゅうぎゅう抱きしめられた。お母さまと、お父さまに。
そうして、聞いたところによれば、あたしは子ども部屋で急に倒れて、三日間、目覚めなかったのだそう。
心配かけちゃった。ごめんなさい。
……え?
三日間?
なんか時間の経過がおかしくない?
ちょっとそこまでおつかいに、って。カルナックさまに送り出された、わたしたち。
サファイアさんと一緒に『水底の異界』で留学生として、半月以上かひと月は過ごしたはずなのだけど。
それなのに、アイリスはずっと家にいて眠っていた?
そのとき。
だれかの手が肩に置かれたことに気づいて、顔を上げた。
とびきり『いい女』の笑みをサファイアさんは浮かべていた。
「それはねアイリスちゃん、あれは竜神さまの統べる『水底の異界』だからよ。あの空間では、こことは違う時間が流れていたの」
「ちがうじかん?」
「詳しくは、あとでお師匠様に聞いてね」
カルナックさまは、苦笑して。
「ここからは機密事項だから。君のご両親には話せないのが残念だけどね、事件の顛末は気になるだろう?」
そうおっしゃったので、魔法で音を遮断しているのだとわかった。
「マクシミリアンは一命をとりとめた。君のおかげだ。今回の犯人だが、マクシミリアンを誘拐した奴らは、捕縛して断罪した。ふふん、死刑にはしないよ、有効利用したほうがいいからね。一族郎党きっちり罪を償わせてるところだよ。エルレーン大公にも責任は取ってもらう。同時にエルレーン公国は、君に、大きな借りができた」
「借りって……よく、わからないですけど……」
「まあいいさ、いざ必要となれば私たち『魔導師教会』が動くから、大船に乗った気持ちでいるといい」
「カルナックさまだったら、すごい『大船』ですね!」
思い出してきた。
スゥエさまは、マクシミリアンくんが助かったことと、カルナックさまが『今回は』人間の世界にとどまったと、おっしゃってた。少しだけ気になるのは、『今回は』って……???
まさか、もしや、前にもカルナックさまには危機があったの???
「マクシミリアンもお礼を言いたがっていたよ。ただ、エステリオ・アウルやルビーと同じ病院で療養しているから、しばらくは動けないので、伝言を預かってきた。『ありがとう、このご恩は忘れません』とね」
「そんな! わたしの力じゃないですよ。竜神さまにいただいたご加護と、精霊石のおかげだもの」
いいや、と、お師匠さまはかぶりを振った。
「私は諦めてしまった。だけど君は、諦めなかった。私としたことが、一番若い弟子である君に教えられたよ。そうだ、エステリオ・アウルの見舞いに行くときは声をかけておくれ。よければマクシミリアンにも会ってやってくれるかな」
「は! よかった。でも、これもお師匠さまの采配なんですよ?」
「おや、そうなのかい」
「竜神さまがたに加護をいただいたのはカルナックさまが『水底の異界』に留学させてくださったからだもの」
カルナックさまに、笑顔で、お返しする。
「わたし、生まれてきてよかった。カルナックさまにお会いできて、よかった」
わたしは地球で死んで生まれ変わって、虹の女神スゥエさまに導かれたこの世界、セレナンで生きていく。
アイリス・リデル・ティス・ラゼルとして。
ひそかに、わたしは決意をかためる。
「ああそうだ、これも、ないしょの話なんだけど」
お師匠さまは、いたずらっぽく笑う。
「水底の異界にいる子たちは、魂なんだよ」
「はい?」
「あの子たちは何十年も遠い昔に死んで、竜神に仕えるために『水底の異界』に招き入れられた。だからというか、君とサファイアも、魂で旅をしてきたってことさ」
ふっと思い出したことがある。
竜神さま、おっしゃってたんだよね。
本来ならここ(水底の異界)には、魂の状態でなければ来られないのだと。
それでだったんだ!
時間の流れが違うとか、そのまえに、身体は家にいたままで、あの『異界』にいたの。
わたしは魂の旅人だったのか!
……なあんてね。
心の中で、スタンドアップ。
にぎりこぶしは小さいけれど《世界の大いなる意思》に流されるだけじゃない、生き方をしたい。
こっそり、心に決める。
幼女の看板を下ろすとか、これからは「わたし」って言うんだ、なんて。
今後の抱負を語ってしまったところを、みなさんにきっちり聞かれてしまった。
穴があったら入りたい、って、ホントよ。
もう恥ずかしくて恥ずかしくて、ベッドに半身起こした状態で器用に下向いて頭を抱えていたとき。
「アイリス、よかった気がついて」
両側からぎゅうぎゅう抱きしめられた。お母さまと、お父さまに。
そうして、聞いたところによれば、あたしは子ども部屋で急に倒れて、三日間、目覚めなかったのだそう。
心配かけちゃった。ごめんなさい。
……え?
三日間?
なんか時間の経過がおかしくない?
ちょっとそこまでおつかいに、って。カルナックさまに送り出された、わたしたち。
サファイアさんと一緒に『水底の異界』で留学生として、半月以上かひと月は過ごしたはずなのだけど。
それなのに、アイリスはずっと家にいて眠っていた?
そのとき。
だれかの手が肩に置かれたことに気づいて、顔を上げた。
とびきり『いい女』の笑みをサファイアさんは浮かべていた。
「それはねアイリスちゃん、あれは竜神さまの統べる『水底の異界』だからよ。あの空間では、こことは違う時間が流れていたの」
「ちがうじかん?」
「詳しくは、あとでお師匠様に聞いてね」
カルナックさまは、苦笑して。
「ここからは機密事項だから。君のご両親には話せないのが残念だけどね、事件の顛末は気になるだろう?」
そうおっしゃったので、魔法で音を遮断しているのだとわかった。
「マクシミリアンは一命をとりとめた。君のおかげだ。今回の犯人だが、マクシミリアンを誘拐した奴らは、捕縛して断罪した。ふふん、死刑にはしないよ、有効利用したほうがいいからね。一族郎党きっちり罪を償わせてるところだよ。エルレーン大公にも責任は取ってもらう。同時にエルレーン公国は、君に、大きな借りができた」
「借りって……よく、わからないですけど……」
「まあいいさ、いざ必要となれば私たち『魔導師教会』が動くから、大船に乗った気持ちでいるといい」
「カルナックさまだったら、すごい『大船』ですね!」
思い出してきた。
スゥエさまは、マクシミリアンくんが助かったことと、カルナックさまが『今回は』人間の世界にとどまったと、おっしゃってた。少しだけ気になるのは、『今回は』って……???
まさか、もしや、前にもカルナックさまには危機があったの???
「マクシミリアンもお礼を言いたがっていたよ。ただ、エステリオ・アウルやルビーと同じ病院で療養しているから、しばらくは動けないので、伝言を預かってきた。『ありがとう、このご恩は忘れません』とね」
「そんな! わたしの力じゃないですよ。竜神さまにいただいたご加護と、精霊石のおかげだもの」
いいや、と、お師匠さまはかぶりを振った。
「私は諦めてしまった。だけど君は、諦めなかった。私としたことが、一番若い弟子である君に教えられたよ。そうだ、エステリオ・アウルの見舞いに行くときは声をかけておくれ。よければマクシミリアンにも会ってやってくれるかな」
「は! よかった。でも、これもお師匠さまの采配なんですよ?」
「おや、そうなのかい」
「竜神さまがたに加護をいただいたのはカルナックさまが『水底の異界』に留学させてくださったからだもの」
カルナックさまに、笑顔で、お返しする。
「わたし、生まれてきてよかった。カルナックさまにお会いできて、よかった」
わたしは地球で死んで生まれ変わって、虹の女神スゥエさまに導かれたこの世界、セレナンで生きていく。
アイリス・リデル・ティス・ラゼルとして。
ひそかに、わたしは決意をかためる。
「ああそうだ、これも、ないしょの話なんだけど」
お師匠さまは、いたずらっぽく笑う。
「水底の異界にいる子たちは、魂なんだよ」
「はい?」
「あの子たちは何十年も遠い昔に死んで、竜神に仕えるために『水底の異界』に招き入れられた。だからというか、君とサファイアも、魂で旅をしてきたってことさ」
ふっと思い出したことがある。
竜神さま、おっしゃってたんだよね。
本来ならここ(水底の異界)には、魂の状態でなければ来られないのだと。
それでだったんだ!
時間の流れが違うとか、そのまえに、身体は家にいたままで、あの『異界』にいたの。
わたしは魂の旅人だったのか!
……なあんてね。
心の中で、スタンドアップ。
にぎりこぶしは小さいけれど《世界の大いなる意思》に流されるだけじゃない、生き方をしたい。
こっそり、心に決める。
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