転生幼女アイリスと虹の女神

紺野たくみ

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第八章 お披露目会の後始末

その25 竜神の加護と守護精霊

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         25

 目を開けたら、そこは超高度の上空で、まわりは群青、一色だった。
 なんだろう。
 あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルは……

 何で、こんなことになっているのかな?
 浮かんでるの?
 それとも、ものすごい早さで落下してるの!?

 眼下には、宇宙船から地球を見ているみたいな眺めが広がっている。
 だけど、青、青、青……ってことは海?
 海の分量、多すぎない?
 ほとんど海しかなくて、その中に少しだけ、緑に覆われた土地が見えてきた。
 
 見えてきたというのは、どんどん近づいてきてるから。

 ああ、やっぱり。
 そうじゃないといいな、って願ってたんだけどね。

 あたし、落ちてるんだ現在進行形で。
 やばくないですかね?

「……」
 お師匠さま! カルナックさま、助けて!
 叫びたかったけど、声は出なかった。
 口を開くこともできなかった。

 どうして、どうしてこんなことに、なったんだっけ?

『だいじょうぶよアイリス! あたしがいるから』
 突然、きれいな声が、心臓のあたりで『鳴った』。まるで小さな銀の鈴を振ったように。
『あなたは転移魔法陣の誤作動に巻き込まれたの』
(てんい、まほうじん?)
『これは竜の娘と眷属に最適化されていた術式だから、ヒトの身に合わないところがあったようね。でも、修正できるわ……書き換えられる……安心して。正しい目的地へ、つなげてあげる』

(あたしを助けてくれるの? あなたは、だれ?)

『アイリスの守護精霊よ』
 続いて響いた音節。
『……ラト・ナ・ルア・オムノ・エンバー。辺境の地に生じた最後の子供ラト、という意味なの。あなたの精霊石。守護精霊。ふふ……もっとも、今のアイリスには覚えていられないとわかっているから、現時点で告げることが許されているのだけれどね。でなければ、二人とも《大いなる意思》に潰されているわ』

 はなはだ不穏な言葉だけを残して《声》は、それきり聞こえなくなった。
 そのかわりに、アイリスの手首にはまっているブレスレットから、青白い光の奔流が、噴き出した。

 彗星のエンベロープのように、彼女を包み込んで。
 青い光の中で、アイリスはふと、思い出す……

         ※  

 あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルと、サファイアさんの留学(放流ともいう)は、急遽、終わることになりました。もちろん、お世話になってる青竜さまと白竜さまに許可を願い出てのこと。

「そういう事情があるならば、やむを得まい」
 青竜さまと白竜さまはこころよくお許しくださいました。

「しかしじゃ、かわいい弟子の旅立ちなれば、贈り物をせねば」
「そうよの、シエナのときも、コマラパと沙織のときも、気前よく餞別を贈ったつもりではおったが、十分な加護であったとは言えぬであろ」
「手をお出し」
 お二人は、あたしの手首にはまっている精霊白銀のブレスレットに、手をかざした。

「加護のしるしは、たいてい指輪か腕輪にするのじゃがな。そなたはすでに、精霊の加護を顕した腕輪をしておる。我は、加護を付け加えるにすぎぬ」
 青竜さまの手のひらに、青い石が顕れた。精霊白銀でできた透かし模様の腕輪に、まるでそこに最初からおさまるために用意されていたみたいに、青い石はぴたりとはまった。
「水と雷の加護じゃ。コマラパにも与えておる。使いようによっては武器にもなるぞ、水でさえもな」

 白竜さまは、柔らかな白色の石。
「わらわの加護は、白翡翠。癒やしの力よ」

「では、おれも!」
 すっかり存在感を薄くしていたアルナシル王さまが、進み出た。
 赤い珠が、ブレスレットの飾りに加わった。

「これをやろう。おれには赤竜ルーフスが権能を与えてくれている。火の加護をやろう。慣れれば使えるぞ、野宿で火を熾すときとかな!」

「それ、加護の使いどころとして間違ってませんこと王様」
 サファイアさんが辛辣に突っ込んだ。

「うお!? そ、そうか、そうなのか?」

「でも戦闘に使えそうだから、わたしにも下さいませんか」
 サファイアさんが無表情に手を出した。

「もらってくれるなら嬉しいが」
 なぜか怯えたようにアルナシル王さまはうつむき加減に呟いた。
「わが守護竜、赤竜よ、この者に炎の加護を」
 王さまの手から迸った炎は渦を巻いて、サファイアさんの腕に巻き付いてブレスレットになった。

「うわーきれい! ファイアーオパールみたい!」
「ふふふふふ。これで、お師匠様の敵を焼き尽くしてみせましょう!」
 暗く笑うサファイアさんを見て、青竜さまと白竜さま、シエナ王妃さまは、アルナシル王に「また考えなしに」と非難のまなざしを向けていました。
 だけどあたしはカルナックさまをお助けするための加護なら、いくらあってもいいと思ったので、オーケー!

「ではそろそろ出発ね!」
 シェーラザード姉さまが声を上げた。
「じゃあ、わたくしの服のどこかを、しっかり掴んでて。ギィ、魔法陣のタグを出して」

 魔法陣を刻んだタグ! コンパクトで使いやすそう!
 もしかして魔法学院で開発したんじゃないのかしら……思い浮かんだのは、我が家に来てくれたトミーさんとニコラさん、グレアムさんの顔でした。あの三人だったら喜んで商品化に取り組みそう。

「じゃあ、起動するわね!」
 シェーラザード姉さまが叫んで、魔法陣が展開した。開くと、大人だったら五人くらい入れそうな大きさになった魔法陣が、銀色に輝き始める。

「待ちやれ」
 白竜さまの声が響いた。
「サファイア! 危うすぎる、そなたにも。わらわの《癒やし》の加護を!」
 白い光の束が飛んできて、サファイアさんの腕に巻き付き、赤と白のバングルを重ねづけたようになった。

「ありがとうございます!」
「癒やしはアイリスとサファイアのどちらにも必要であろうぞ」
「よかった、サファイアさん!」

 喜び合うあたしたちは、気づかなかった。
 ギィおじさんことランギさんが、顔色を変えたことに。

「よりによって今!? いや、加護はありがてえが、やばくねえか……力のバランスが……」

 魔法陣の動作環境は繊細で、注意が必要だってこと、あたしは考えが及ばなかった。
 まだ、このときは。

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