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第八章 お披露目会の後始末
その24 アイリスは緊急帰還します!
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24
「お嬢は、そろそろ家に帰りたいのか」
シェーラザード姉さまは愛称でギィって呼ぶ、ランギさんは肩に掛かる灰色の髪を無造作にはねのけ、中年だけれども髭のないきれいな顎をつるりと撫でて、うなずいた。
「もちろんですわよ! お嬢様は気丈に振る舞っておられますけど、まだ六歳で、お小さいのですからね」
サファイアさんは、あたしを強く抱きしめてくれた。
あたしの年齢について訂正すると六歳と半月かな?
もしかしたらもっと経過してるかも。ここにやってきた時点で六歳と半月だったから……
不安になってきた! いつの間にか七歳になってたりは、してないよね?
すごく頼りになる護衛メイドのサファイアさん。いい人なんだけど、ほんの少し、あたしに夢を抱きすぎてないかしら? ぜんぜん、気丈にお振る舞いなんてした覚えないですよ。
この『水底の異界』で、青竜さまと白竜さまとお弟子の子どもたちと一緒になって勉強したりご飯作って食べたりわいわい楽しくやってただけだもん。
……ホームシックは、感じてたけど。
「そうだろうなあ。カルナック師も、そろそろかなって言ってたし」
「え!?」
聞き捨てならない言葉に、あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルはぴくりと耳を立てた。
(そんな感じってことよ、ほんとに耳たぶをピコピコ動かしたわけじゃなにけど!)
「ほんとう?」
「嘘なんか言って、おれに何の得がある」
にやりと笑う。
「おれも気になってたんだよ、お嬢がいなくて、パオラとパウルも寂しがってるしな」
「パオラとパウル! ふたりとも元気にしてる? ランギさん、会ったりしてるの?」
「もちろん、お嬢のご家族様も、変わりないようすだったぜ」
「……」
あたしは息をのんだ。きゅっと心臓が締め付けられたみたいに苦しくなる。突然、パオラとパウル、お父さま、お母さま、ローサ、エウニーケさん、バルドルさん……おうちのみんなの顔が姿が声が、いっぺんに浮かんできて。
それに、もちろん。エステリオ・アウルの、優しい笑顔が。
ぶわっと、目が熱くなって、なんか出てきて、それで、それで、あたし……
「ふえええええ!」
「お嬢様!」
「おわー!」
慌てるランギさん。するとシェーラザード姉さまが飛んできた。文字通り、翼をはためかせて。
「ちょっとギィ! 何してるのよ! 泣かせちゃって!」
「え……あたし、泣いて……るの?」
熱い水みたいなのがぶわっと出てきた。やだ止まらない。止められないよぉ。
泣きじゃくってるわけじゃないけど涙が流れ出るのにまかせてあたしは呆然としてて、サファイアさんも服がぬれてるだろうに、ずっと抱きしめてくれていた。
自分で思ってたより、あたしはずっと、子どもだった。
落ち着くのを待って、ランギさんとシェーラザード姉さまは話を切り出した。青竜さま白竜さま、お弟子さんや、シエナさまとアルナシルさまも、あたしたちを、そっとしておいてくれたのだ。
「本当ならカルナック師が迎えに来るところなんだが」
ランギにしては歯切れが悪い言い多々だ。
「今、ちょいと手が離せねえんで、おれたちが代わりに、役目をおおせつかったわけさ」
「手が離せない?」
そのとき、ふいにサファイアさんが、殺気を放った。
それ以外に表現のしようがない。急に、体感気温が下がったよね!?
「お師匠さまがアイリスお嬢様を迎えにこれないなんてこと、あるわけない。万難を排してでも来るはず。ランギ、隠し事があるなら、言って」
「ひえっ」
なんか変な声が出た、ランギが身を引いた、そのとたんに、彼がいた空間を、刃がよぎった。
あたし悪い夢でも見てるのかな。
サファイアさんが、おかしいです。変です。
なんで、鋭いナイフ持ってるの構えてるの不穏です!
「あんたら、師匠に黙って来てるだろ。迎えに行くなんて許可しなさそうだったから」
どういうことなの!?
「待った降参だ。おれらは味方だから殺るなよ!」
「そうよ! ほら、あたくしの持ってる転移魔方陣で、馬車の一台くらいは転移できるから! だから、迎えにきたのよお! 最強の戦闘メイドの、あなたを」
ふしぎなくらいにサファイアさんに怯えているような気がする、ふたり。
「緊急事態だ」
サファイアさんは、いい女の振る舞いをかなぐり捨てた。
「帰還するよアイリス!」
「え? はいっ!」
うなずくより他に、あたしにできることはないと感じた。
「あんた、ポリシーどうした」
ランギはぼやいた。
「前世から願ってたんだろ『いい女』になるって」
「あら、そこまで聞いてたの。お師匠様からの信頼が厚いってことねえ……いいから今は忘れな。ことが収束したら、お姉さん、なんでも『お願い』きいたげるから」
男前なサファイアさんは、苦しげに息を吐いた。
「お師匠様のところへ、連れてって」
「お嬢は、そろそろ家に帰りたいのか」
シェーラザード姉さまは愛称でギィって呼ぶ、ランギさんは肩に掛かる灰色の髪を無造作にはねのけ、中年だけれども髭のないきれいな顎をつるりと撫でて、うなずいた。
「もちろんですわよ! お嬢様は気丈に振る舞っておられますけど、まだ六歳で、お小さいのですからね」
サファイアさんは、あたしを強く抱きしめてくれた。
あたしの年齢について訂正すると六歳と半月かな?
もしかしたらもっと経過してるかも。ここにやってきた時点で六歳と半月だったから……
不安になってきた! いつの間にか七歳になってたりは、してないよね?
すごく頼りになる護衛メイドのサファイアさん。いい人なんだけど、ほんの少し、あたしに夢を抱きすぎてないかしら? ぜんぜん、気丈にお振る舞いなんてした覚えないですよ。
この『水底の異界』で、青竜さまと白竜さまとお弟子の子どもたちと一緒になって勉強したりご飯作って食べたりわいわい楽しくやってただけだもん。
……ホームシックは、感じてたけど。
「そうだろうなあ。カルナック師も、そろそろかなって言ってたし」
「え!?」
聞き捨てならない言葉に、あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルはぴくりと耳を立てた。
(そんな感じってことよ、ほんとに耳たぶをピコピコ動かしたわけじゃなにけど!)
「ほんとう?」
「嘘なんか言って、おれに何の得がある」
にやりと笑う。
「おれも気になってたんだよ、お嬢がいなくて、パオラとパウルも寂しがってるしな」
「パオラとパウル! ふたりとも元気にしてる? ランギさん、会ったりしてるの?」
「もちろん、お嬢のご家族様も、変わりないようすだったぜ」
「……」
あたしは息をのんだ。きゅっと心臓が締め付けられたみたいに苦しくなる。突然、パオラとパウル、お父さま、お母さま、ローサ、エウニーケさん、バルドルさん……おうちのみんなの顔が姿が声が、いっぺんに浮かんできて。
それに、もちろん。エステリオ・アウルの、優しい笑顔が。
ぶわっと、目が熱くなって、なんか出てきて、それで、それで、あたし……
「ふえええええ!」
「お嬢様!」
「おわー!」
慌てるランギさん。するとシェーラザード姉さまが飛んできた。文字通り、翼をはためかせて。
「ちょっとギィ! 何してるのよ! 泣かせちゃって!」
「え……あたし、泣いて……るの?」
熱い水みたいなのがぶわっと出てきた。やだ止まらない。止められないよぉ。
泣きじゃくってるわけじゃないけど涙が流れ出るのにまかせてあたしは呆然としてて、サファイアさんも服がぬれてるだろうに、ずっと抱きしめてくれていた。
自分で思ってたより、あたしはずっと、子どもだった。
落ち着くのを待って、ランギさんとシェーラザード姉さまは話を切り出した。青竜さま白竜さま、お弟子さんや、シエナさまとアルナシルさまも、あたしたちを、そっとしておいてくれたのだ。
「本当ならカルナック師が迎えに来るところなんだが」
ランギにしては歯切れが悪い言い多々だ。
「今、ちょいと手が離せねえんで、おれたちが代わりに、役目をおおせつかったわけさ」
「手が離せない?」
そのとき、ふいにサファイアさんが、殺気を放った。
それ以外に表現のしようがない。急に、体感気温が下がったよね!?
「お師匠さまがアイリスお嬢様を迎えにこれないなんてこと、あるわけない。万難を排してでも来るはず。ランギ、隠し事があるなら、言って」
「ひえっ」
なんか変な声が出た、ランギが身を引いた、そのとたんに、彼がいた空間を、刃がよぎった。
あたし悪い夢でも見てるのかな。
サファイアさんが、おかしいです。変です。
なんで、鋭いナイフ持ってるの構えてるの不穏です!
「あんたら、師匠に黙って来てるだろ。迎えに行くなんて許可しなさそうだったから」
どういうことなの!?
「待った降参だ。おれらは味方だから殺るなよ!」
「そうよ! ほら、あたくしの持ってる転移魔方陣で、馬車の一台くらいは転移できるから! だから、迎えにきたのよお! 最強の戦闘メイドの、あなたを」
ふしぎなくらいにサファイアさんに怯えているような気がする、ふたり。
「緊急事態だ」
サファイアさんは、いい女の振る舞いをかなぐり捨てた。
「帰還するよアイリス!」
「え? はいっ!」
うなずくより他に、あたしにできることはないと感じた。
「あんた、ポリシーどうした」
ランギはぼやいた。
「前世から願ってたんだろ『いい女』になるって」
「あら、そこまで聞いてたの。お師匠様からの信頼が厚いってことねえ……いいから今は忘れな。ことが収束したら、お姉さん、なんでも『お願い』きいたげるから」
男前なサファイアさんは、苦しげに息を吐いた。
「お師匠様のところへ、連れてって」
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