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第八章 お披露目会の後始末
その21 魔力も筋肉痛になるって知ってた?
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21
「よーしよくやった我が生徒アイリスよ! 上出来であった」
アルナシル王さまは、その後も、ずーっとご機嫌でした。
「この機を逃さずもっと鍛えれば驚異的に魔力が開花するはずだ!」
すごく主張してたけど、
「すっげえ!」
「さっきのなに?」
「アイリスが見せてくれたやつ!」
「兄ちゃんもできる!?」
「でもでも、遊んでよ! 久しぶりだよ!」
青竜さまのお弟子たちに囲まれて質問攻めにされたり、レスリングしたり。
子供たちに大人気のお兄ちゃん。
ところで、
人生初の魔力レベルアップ五段飛び! を経験したあたしは、サファイアさんに抱っこされてた。
気を失っていたときに魂の状態で再会したシステム・イリス(あたしの前世で、独立した意識を持ってる)からは、魔力を使い果たしたら生命の危機につながりかねないから、用心するようにって伝えてくれた。
サファイアさんも、魔力が枯渇する寸前だったって、すごく心配してくれてたから、システム・イリスからの忠告のことを話したの。
そうしたらサファイアさんは、すうっと無表情になって。
声を荒げることはなかったけど、わかった。
ものすごく静かに、怒ってる……王さまに!
サファイアさんが怒った表情は、カルナックお師匠さまに近い感じがするのよね。
遠い親戚だって聞いたことあるし。もともと長い黒髪だし背が高くて、顔も似ている。お師匠さまは三つ編みにしているところが、違うけど。
「わたしはお師匠様から、お嬢様の護衛を任されているんです。今はルビーも、エステリオ・アウルも入院してる。わたししか、いないんです」
あたしを抱きしめて、熱っぽくささやいた。
「お嬢様にもしものことがあったら、わたしは相打ちになってでも……を殺して、自分も死ぬ覚悟です」
「えっ」
そこまで思い詰めてるなんて!
「それダメ! サファイアさん、死ぬなんて」
「もちろん、それは最後の手段」
ふわりと、笑った。
ああ、笑顔も、お師匠さまに似て、ステキ。
不謹慎だけどそう思った。
「このサファイアが、おそばにいる限り、もう絶対に、無理は許しませんからね」
きりりとした、強い意志をうかがわせる、笑顔で。
宣言したとおり、彼女は青竜さまと白竜さまにかけあって、アルナシル王のやり方への疑問を呈し、完全に回復するまでは接近を禁止してもらったのです。
だって王さま、わくわくしてるもの!
また花火を見たい!?
自分もやりたいって言うの!
(王さまに対する、あたしの敬語は、どこかへ行ってしまったわ!)
「お嬢様を殺す気ですか、この馬鹿王!」
ついに、激怒したサファイアさんの鉄拳が炸裂!
カルナックお師匠さまの護衛をするくらいなのでサファイアさんの攻撃力は結構スゴイのです。ふだんは、おしとやかに隠してるけどね。
「魔力をほぼ空っぽになるまで放出したんです。アイリスお嬢様は、もともと虚弱な六歳と半月の幼女なんですよ。わきまえていただきたいですわ。その頭は飾りですか?」
「そういうつもりでは」
アルナシル王もたじたじです。
すると、シエナさまの静かな声が響いたのです。
「王。あなたさまは、賢い王さまでございましょう? ちゃんと、聞くことのできるおかただと、あたしは思っていますよ。それとも、見込み違いでしたのかしいら」
「シエナ! そんなことはない! そなたを失望させはせぬ!」
お后さまにも怒られたので、王さまも引き下がりました。
そしてあたしアイリスは、午後はずっと寝ていたの。
夕方になって起き上がったら、さっそく「訓練の続きをしよう」なんて、アルナシル王さまが迫ってくるとは予想だにしていませんでした。
「我と手をつなぐだけでよいのだ」
やめてー!
起きぬけで、めまいがして気持ち悪いのです!
「やめ」
勇気を出して断ろうと思ったときでした。
「おやめください、アルナシル王」
サファイアさんは、あたしの魔力を引き出そうと伸ばしたアルナシル王さまの手を、ばしっとはねつけた。
「カルナックお師匠様から聞いてないはずはありませんよね? わたしはお師匠様の護衛『サファイア』です。現在はお嬢様の護衛役を任されています。すべては、このわたしを通していただきます」
「うむ、話は聞いている」
「あら。それで、この態度ですの? 辺境の王様は、ものを知らないですのねえ」
サファイアさん、あおる、あおる。
王さま、不快そうに眉をあげました。
でも、無言です。聞く耳を持たないと言われたくはないのでしょう。
「アルナシル王のやり方は、アイリスお嬢様の魔力を上書きすることになります。カルナックお師匠様も、そのようなことは許可なさいません。魔力の筋肉痛になってしまいますわ」
えっ初耳です!
魔力の筋肉痛!?
わかりやすい表現なような……
「むう。今より進歩すればいいだろうに」
「どこの脳筋ですか。愚かな王ではないとシエナ様にうかがっていますよ? 違います?」
「……シエナに」
「我が王。あなた、お話をちゃんと聞いてくださいまし」
お后に助けを求めようとした王さま、はしごは外されてます。
「それをして許されるのは、カルナックお師匠様と、許婚のエステリオ・アウルだけですわ! ぶっちゃけると許婚以外の魔力を大量に流されると困るんで! お嬢様の評判にかかわりますわ」
サファイアさんが鋭く言い放つ。
「は?」
けれどアルナシル王が食いついたのは、話の肝心なところではなくて。
「許婚だと!? こんなに幼子が、もう許婚がいると!?」
「えっそこですか? 何を聞いてらっしゃるんですかこの、ぼけなすは!」
サファイアさんの王さまへの尊敬の念も、遙か遠くへふっとんでしまったのでした。
「よーしよくやった我が生徒アイリスよ! 上出来であった」
アルナシル王さまは、その後も、ずーっとご機嫌でした。
「この機を逃さずもっと鍛えれば驚異的に魔力が開花するはずだ!」
すごく主張してたけど、
「すっげえ!」
「さっきのなに?」
「アイリスが見せてくれたやつ!」
「兄ちゃんもできる!?」
「でもでも、遊んでよ! 久しぶりだよ!」
青竜さまのお弟子たちに囲まれて質問攻めにされたり、レスリングしたり。
子供たちに大人気のお兄ちゃん。
ところで、
人生初の魔力レベルアップ五段飛び! を経験したあたしは、サファイアさんに抱っこされてた。
気を失っていたときに魂の状態で再会したシステム・イリス(あたしの前世で、独立した意識を持ってる)からは、魔力を使い果たしたら生命の危機につながりかねないから、用心するようにって伝えてくれた。
サファイアさんも、魔力が枯渇する寸前だったって、すごく心配してくれてたから、システム・イリスからの忠告のことを話したの。
そうしたらサファイアさんは、すうっと無表情になって。
声を荒げることはなかったけど、わかった。
ものすごく静かに、怒ってる……王さまに!
サファイアさんが怒った表情は、カルナックお師匠さまに近い感じがするのよね。
遠い親戚だって聞いたことあるし。もともと長い黒髪だし背が高くて、顔も似ている。お師匠さまは三つ編みにしているところが、違うけど。
「わたしはお師匠様から、お嬢様の護衛を任されているんです。今はルビーも、エステリオ・アウルも入院してる。わたししか、いないんです」
あたしを抱きしめて、熱っぽくささやいた。
「お嬢様にもしものことがあったら、わたしは相打ちになってでも……を殺して、自分も死ぬ覚悟です」
「えっ」
そこまで思い詰めてるなんて!
「それダメ! サファイアさん、死ぬなんて」
「もちろん、それは最後の手段」
ふわりと、笑った。
ああ、笑顔も、お師匠さまに似て、ステキ。
不謹慎だけどそう思った。
「このサファイアが、おそばにいる限り、もう絶対に、無理は許しませんからね」
きりりとした、強い意志をうかがわせる、笑顔で。
宣言したとおり、彼女は青竜さまと白竜さまにかけあって、アルナシル王のやり方への疑問を呈し、完全に回復するまでは接近を禁止してもらったのです。
だって王さま、わくわくしてるもの!
また花火を見たい!?
自分もやりたいって言うの!
(王さまに対する、あたしの敬語は、どこかへ行ってしまったわ!)
「お嬢様を殺す気ですか、この馬鹿王!」
ついに、激怒したサファイアさんの鉄拳が炸裂!
カルナックお師匠さまの護衛をするくらいなのでサファイアさんの攻撃力は結構スゴイのです。ふだんは、おしとやかに隠してるけどね。
「魔力をほぼ空っぽになるまで放出したんです。アイリスお嬢様は、もともと虚弱な六歳と半月の幼女なんですよ。わきまえていただきたいですわ。その頭は飾りですか?」
「そういうつもりでは」
アルナシル王もたじたじです。
すると、シエナさまの静かな声が響いたのです。
「王。あなたさまは、賢い王さまでございましょう? ちゃんと、聞くことのできるおかただと、あたしは思っていますよ。それとも、見込み違いでしたのかしいら」
「シエナ! そんなことはない! そなたを失望させはせぬ!」
お后さまにも怒られたので、王さまも引き下がりました。
そしてあたしアイリスは、午後はずっと寝ていたの。
夕方になって起き上がったら、さっそく「訓練の続きをしよう」なんて、アルナシル王さまが迫ってくるとは予想だにしていませんでした。
「我と手をつなぐだけでよいのだ」
やめてー!
起きぬけで、めまいがして気持ち悪いのです!
「やめ」
勇気を出して断ろうと思ったときでした。
「おやめください、アルナシル王」
サファイアさんは、あたしの魔力を引き出そうと伸ばしたアルナシル王さまの手を、ばしっとはねつけた。
「カルナックお師匠様から聞いてないはずはありませんよね? わたしはお師匠様の護衛『サファイア』です。現在はお嬢様の護衛役を任されています。すべては、このわたしを通していただきます」
「うむ、話は聞いている」
「あら。それで、この態度ですの? 辺境の王様は、ものを知らないですのねえ」
サファイアさん、あおる、あおる。
王さま、不快そうに眉をあげました。
でも、無言です。聞く耳を持たないと言われたくはないのでしょう。
「アルナシル王のやり方は、アイリスお嬢様の魔力を上書きすることになります。カルナックお師匠様も、そのようなことは許可なさいません。魔力の筋肉痛になってしまいますわ」
えっ初耳です!
魔力の筋肉痛!?
わかりやすい表現なような……
「むう。今より進歩すればいいだろうに」
「どこの脳筋ですか。愚かな王ではないとシエナ様にうかがっていますよ? 違います?」
「……シエナに」
「我が王。あなた、お話をちゃんと聞いてくださいまし」
お后に助けを求めようとした王さま、はしごは外されてます。
「それをして許されるのは、カルナックお師匠様と、許婚のエステリオ・アウルだけですわ! ぶっちゃけると許婚以外の魔力を大量に流されると困るんで! お嬢様の評判にかかわりますわ」
サファイアさんが鋭く言い放つ。
「は?」
けれどアルナシル王が食いついたのは、話の肝心なところではなくて。
「許婚だと!? こんなに幼子が、もう許婚がいると!?」
「えっそこですか? 何を聞いてらっしゃるんですかこの、ぼけなすは!」
サファイアさんの王さまへの尊敬の念も、遙か遠くへふっとんでしまったのでした。
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