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第八章 お披露目会の後始末
その6 水底の異界と白の聖域(書き直し)
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あたし、六歳と半月の幼女アイリス・リデル・ティス・ラゼルの前には今、超絶美形な男女がいらっしゃる。
二十歳くらいかな、とても若々しくて、けれど威厳があって向かい合っていると気後れするくらい。
男性は深い青色の髪を長く伸ばしていて、ウルトラマリンブルーのウェットスーツみたいなものの上に、大きなマントを着けています……アイリスの前世のあたし、月宮アリスの記憶ではヴィジュアル系バンドの素敵なおにいさんみたいな感じ。
女性は純白の長い髪、透き通ったルビー色の深い瞳、白絹かしら、日本の古代神話時代を思わせる装束に、虹色の光を帯びて宙に浮いている領巾(ひれ)をまとっています。
「水底の異界へ、はるばる、おいでなされた。心より歓迎いたしまする。我は青竜(caeruleum draco)である。イル・リリヤ女神より、聖なる泉セノーテの管理職をおおせつかっておる」
青い髪の青年が、渋めの、いい声で言う。
えっと、セノーテっていうと。
前世の知識に、ちょっぴり覚えがある。
南米で、マヤだったかしら、神事に使われていたのよね?
「我らは心より歓迎いたしますぞ、アイリス嬢。娘のシェーラザードが押しかけてお世話になり、つねづねご迷惑をおかけしておるようで、まこと申し訳ない。妾は白竜(albus draco)であるのじゃ。イル・リリヤ女神からは、『白の聖域』の管理を任せていただいておりましてな。どうぞごゆるりとご滞在くださいますよう」
純白の髪を長く伸ばした女性が、優雅に腰を折った。
今度は白の……聖域?
イル・リリヤ女神さまから直接の使命をつかわされたとおっしゃる、二柱の神さま。
すごく重要な方々だわ!
竜神さまで、
そしてシェーラザード姉さまのご両親だったの。
あたし、ただの幼女なのに。
神様からお礼を言われるとか、思いもよらなかったわ、どうなってるの!?
「ありがとうございます。光栄です」
こう、応えるのが精いっぱい。
(よくできましたアイリスちゃん! うまくいけば、二柱から『加護』をもらえるかも! こんなことはめったにない幸運よ!)
あたしの背後にぴったりくっついて控えめに顔を伏せているサファイアさんの、あっつい念話が語り掛けてくるんですけど!
ここは神聖な泉セノーテの、水底の異界。
そして白の聖域。
おうちから出たこともない深窓の令嬢(自分で言うだけはタダだもん!)なのに、うちどころか、遠く離れた外国だし位置もよくわからないところに来ています。
おかしいなあ。エステリオ叔父さまの隠し部屋にいたはずなのに。
あたしは振り返ってみる。
……なんで、こうなっちゃったのかしら。
ことの始まりは、朝ごはんの後でサファイアさんに連れられて……
※
エステリオ叔父さまの書斎から、魔方陣の形をした『鍵付き扉』を通って、隠し部屋に入った。
床から天井までつくりつけの書架。
あまり寝心地を考えてなさそうな仮眠ベッドは二つ折りで壁に寄せてあった。
書き物机には読みかけだったのか本が何冊も積んであって、しおりが挟まれている。
メモが書き散らされていた。魔法陣みたいなのと、文字がいっぱい書き込んであって。
コマラパ老師のところで研究している内容みたい。
一緒にいるのは、あたし、アイリスの専任護衛メイドとして魔導士協会から派遣されているサファイア=リドラ・フェイさんと、従魔のシロとクロ。
周りにいる人たちがちょっと少ないんじゃないかと思われるかもしれません。
いつも守っていてくれた精霊さん、イルミナ、シルル、ディーネ、ジオは、今は卵に戻っているので、小さな巾着袋に入れてスカートのポケットに。
そのうち卵から孵化して、妖精さんになれるって、精霊のラト・ナ・ルアさんが教えてくれたの。
エステリオ叔父さま、コマラパ老師さま、ルビーさんは順調に回復していってると聞いているけれど、まだ入院中なのです。
早く会いたいな。
って、しんみりしていたら、サファイアさんの華やいだ声が響いた。
「アイリスちゃん、前に来たときは、この先は見てないでしょ。じゃじゃ~ん!」
突き当りの壁には大きな扉がついている。
樫の木かな、丈夫そう。
「さあ開けるわよ!」
扉の向こうには、だだっぴろい運動場があった。
「ここでなら、思いっきり魔法を使ってもいいからね! こころおきなく、ぶっぱなして! 火でも水でも風でも土でも何でもよ」
いきなり全開ですよ、サファイアさん!
「だけど、あたし魔法ってよくわからないの!」
「そんなに魔力を持ってるのに?」
「魔力が多いだけです! 魔力が多すぎてかたまって流れなくて、栓みたいに詰まっちゃって大変なことになってたくらいなんだもの。あたし、使い方はよくわからないんです!」
ああ、やっと告白できたわ。
あたし、アイリスは、魔法のレベルはまだ「1」なんです~
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