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閑話 赤竜の夜ばなし
その2 滅びた国の話をしようか(2)
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「どんどん食え、そして飲め、まれなる旅人よ」
ごうごうと燃える暖炉の前で、館の主である赤毛の少年、ルーフスが笑う。
メイドたちが、大皿に盛りつけられた料理の数々を運んでくるが、無表情で、言葉を発することもない。
「不愛想ですまないが、自動人形なのでな、許せ。城中に生きたものは、おれ一人なのだ。気兼ねはいらぬぞ。熱い汁物もある、あまざけというのもあるぞ。食べろ食べろ」
すすめられて旅人は料理に手をのばした。
湯気の立つ汁物の椀をとってすすり、焼かれた鳥肉をつかむ。口に入れた瞬間、いぶかしげな表情を浮かべるが、そのまま食事をすすめた。
「どうだ、うまいか」
ルーフスの言に、旅人は、頷いて答えた。
「ありがとうございます」
ただ、どこか、ぎこちなく、不自然ではあった。
暖炉に薪が継ぎ足される。
「ここは北の果て、冬には日が昇らぬゆえ極夜は長い。まれなる旅人よ、話を聞いていくがいい。もともとここは、極寒の地ではなかった」
赤々と燃える暖炉の前に腰を下ろし、城の主ルーフスは語り始めた。
「かつては、この地は暖かく、緑豊かな大地で、ヒトが暮らすのに理想的な環境だった。《世界の大いなる意思》が赦し、名代として《第一世代の精霊》を遣わしたほどだ。原初の人間は、いろいろとわきまえていた。女神イル・リリヤの慈悲深いことよ、『死者と咎人と幼子』たちは守られているのだ。《世界の大いなる意思》の恩寵を受ける、『蒼き清浄なる大地(ティエラ・デ・アスール)』である」
「イル・リリヤが最初に『死に等しき眠り』から起こしたヒト族の王は、えらく感動してむせび泣いたのよ。あまりに感無量のありさまであったので、我らヒトならぬ竜も、思わずもらい泣きしたほど。そして《第一世代の精霊》に懸想し、即興詩と、尊き方への、お名前を献上した。精霊の本当の名を、おそれおおくも気軽に口にはできぬゆえにのう」
「そうだったのですか」
「ああ。今では信じられないだろう。ヒトの歴史が始まった国と、言われていたのだ。その頃に訪れてくれたなら、もっとうまい物を用意できたのだが」
「わたしはご親切にしていただきました。十分です」
「欲がないのう、そなたは。そうじゃな、かつての王たちも、それほど謙虚であったならは……悲劇は起こらなかっただろうな」
ルーフスは、唇をわずかにゆがめた。
「思えば、イル・リリヤ様の慈悲が深すぎ、ヒトを甘やかしてしまっていたのかもしれぬ。いつしかヒトは思い上がり、堕落した。《世界の大いなる意思》への感謝も、果ては女神イル・リリヤの存在さえも疑わしいと言い出した。始まりが間違っていたのだ。ヒトに、指導者としての『王』の役割をあてがったことから」
ルーフスの夜ばなしは続く。
「どんどん食え、そして飲め、まれなる旅人よ」
ごうごうと燃える暖炉の前で、館の主である赤毛の少年、ルーフスが笑う。
メイドたちが、大皿に盛りつけられた料理の数々を運んでくるが、無表情で、言葉を発することもない。
「不愛想ですまないが、自動人形なのでな、許せ。城中に生きたものは、おれ一人なのだ。気兼ねはいらぬぞ。熱い汁物もある、あまざけというのもあるぞ。食べろ食べろ」
すすめられて旅人は料理に手をのばした。
湯気の立つ汁物の椀をとってすすり、焼かれた鳥肉をつかむ。口に入れた瞬間、いぶかしげな表情を浮かべるが、そのまま食事をすすめた。
「どうだ、うまいか」
ルーフスの言に、旅人は、頷いて答えた。
「ありがとうございます」
ただ、どこか、ぎこちなく、不自然ではあった。
暖炉に薪が継ぎ足される。
「ここは北の果て、冬には日が昇らぬゆえ極夜は長い。まれなる旅人よ、話を聞いていくがいい。もともとここは、極寒の地ではなかった」
赤々と燃える暖炉の前に腰を下ろし、城の主ルーフスは語り始めた。
「かつては、この地は暖かく、緑豊かな大地で、ヒトが暮らすのに理想的な環境だった。《世界の大いなる意思》が赦し、名代として《第一世代の精霊》を遣わしたほどだ。原初の人間は、いろいろとわきまえていた。女神イル・リリヤの慈悲深いことよ、『死者と咎人と幼子』たちは守られているのだ。《世界の大いなる意思》の恩寵を受ける、『蒼き清浄なる大地(ティエラ・デ・アスール)』である」
「イル・リリヤが最初に『死に等しき眠り』から起こしたヒト族の王は、えらく感動してむせび泣いたのよ。あまりに感無量のありさまであったので、我らヒトならぬ竜も、思わずもらい泣きしたほど。そして《第一世代の精霊》に懸想し、即興詩と、尊き方への、お名前を献上した。精霊の本当の名を、おそれおおくも気軽に口にはできぬゆえにのう」
「そうだったのですか」
「ああ。今では信じられないだろう。ヒトの歴史が始まった国と、言われていたのだ。その頃に訪れてくれたなら、もっとうまい物を用意できたのだが」
「わたしはご親切にしていただきました。十分です」
「欲がないのう、そなたは。そうじゃな、かつての王たちも、それほど謙虚であったならは……悲劇は起こらなかっただろうな」
ルーフスは、唇をわずかにゆがめた。
「思えば、イル・リリヤ様の慈悲が深すぎ、ヒトを甘やかしてしまっていたのかもしれぬ。いつしかヒトは思い上がり、堕落した。《世界の大いなる意思》への感謝も、果ては女神イル・リリヤの存在さえも疑わしいと言い出した。始まりが間違っていたのだ。ヒトに、指導者としての『王』の役割をあてがったことから」
ルーフスの夜ばなしは続く。
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