転生幼女アイリスと虹の女神

紺野たくみ

文字の大きさ
上 下
213 / 360
第六章 アイリス五歳

その38 竜の娘

しおりを挟む
         38

「また《世界の女神様》に遭遇しちゃったの。ダメだから! ギィはこのあたし。竜のシェーラザードが見つけて拾ったのよ。勝手に死んだり離れていったりなんか、ぜったい、許さないの!」
 ぷんぷん怒って、純白の姫竜は、地団駄を踏む。

「やめろ。魔法陣が壊れる!」
 ランギは、白い姫竜のシェーラザードが人の言葉をしゃべることには驚かない。
「だって!」
「それじゃまるで幼い子どもだ。パウルとパオラだってもう少し上品だぞ」
 そう口にしたのは、比較できる子どもを他に知らなかったからである。しかしその名前をあげたのは得策ではなかった。ますます姫竜は不機嫌になる。
「いまは、あたしのことだけ考えて!」
 泣く子どもには誰も勝てない。

 ランギは降参した。
「かわいいシェーラ、俺の導き手。機嫌を直してくれよ。いつも有り難いと思ってる」

 すると、たちまち、
「そぉ~う?」と、表情はやわらぐ。
 もじもじして、
「じゃあ許してあげちゃおうかな。だったらね、新しいアクセサリーちょうだい。ネックレス! 精霊銀で、スーリア(サファイア)の濃い青石のよ。それか、ソルフェードラ(スタールビー)でも、よろしくてよ」

「なんだそりゃ」

「あら! にんげんって、恋人に宝石を贈るんでしょ。婚約のときは指輪なんだって?」

「誰だよ変なこと教えたのは!」

「もちろん、カルナック様よ!」

「恋人じゃねえし」

 嘆息をして、紙買いギィことランギは、純白の姫竜と荷車と共に魔法陣を出た。
 一瞬、立ちくらみがして目を閉じた。
 船酔いに似ている、とランギは思う。
 次ぎに目をあけたときには、周囲のようすは一変していた。

          ※

 そこは窓のない屋内だったが、高価な灯りが輝いており、昼間のように照らされていた。
 家具や調度品はない。転移に使われるための準備室であったからだ。

 魔法陣の光が消えると、すぐに何人もの従者たちがやってきた。
「お疲れ様です」
 言葉少なに頭を下げて敬意をあらわし、慣れたようすで白い姫竜の胴体を清潔な布で拭き、引き具を外すと荷車をどこかへ運び去っていった。

 あとに残ったのはランギと姫竜。

 前には、にこやかな笑みを浮かべた、黒衣の青年が立っていた。

「やあご苦労さま。いつもながら仲良しだねえ」

 漆黒の魔法使いカルナックが、満面の笑みを浮かべていたのだった。
 ランギは再び、嘆息する。

「……井戸までの間に、五、六人に尾行されていた。指示どおりに転移魔法陣を使ったが、あれは見られてかまわないものだったのか」

 くすっと、カルナックは笑う。
「織り込み済みだ。そちらはすでに片付けた。きみたちが表だって目を引いてくれるから、街がきれいになって、助かるよ」

「囮として役立てば、幸いだ」

「やあねギィってば、そこは追加で報酬をもらっておけばいいのに。あなたがいらないのなら、あたしがもらってあげてもよろしくてよ」
 ころげるような、若い娘の声が、言う。

「おや、姫は、ランギにおねだりしていたのでは?」

「あなたも、くださるならかまわないですわよ?」

 ランギの傍らに佇んでいるのは、美しい少女だった。

 まず目に飛び込んでくるのは、力強い表情と、くっきりとした眉、濃い青の目だ。
 肌の色はまるで透き通るよう。
 背中に流れ落ちるまっすぐな純白の髪に、鮮烈な青色の房が半々に混じっている。
 すらりと背が高く、細身である。
 黙ってにっこり微笑んでいれば、二十歳にもならない、楚々とした麗しい令嬢そのもの。

 純白の姫竜の姿は、どこにもなかった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

嫌われ者の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
両親に似ていないから、と母親からも、兄たち姉たちから嫌われたシーアは、歳の近い皇族の子どもたちにいじめられ、使用人からも蔑まれ、と酷い扱いをうけていました。それも、叔父である皇帝シオンによって、環境は整えられ、最低限の皇族並の扱いをされるようになったが、まだ、皇族の儀式を通過していないシーアは、使用人の子どもと取り換えられたのでは、と影で悪く言われていた。 家族からも、同じ皇族からも蔑まされたシーアは、皇族の儀式を受けた時、その運命は動き出すこととなります。 なろう、では、皇族姫という話の一つとして更新しています。設定が、なろうで出たものが多いので、初読みではわかりにくいところがあります。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です

渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。 愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。 そんな生活に耐えかねたマーガレットは… 結末は見方によって色々系だと思います。 なろうにも同じものを掲載しています。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

処理中です...