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第六章 アイリス五歳
その32 お祭りといえば
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32
「さあさあ。楽しいお祭りだ!」
「準備はできてるわよね、みんな!」
ルビーさんとサファイアさんたちの挨拶で、どっと歓声が沸き上がった。
忙しく行き交っている人々、だが皆、楽しそうだ。
「まさか我が家で、このような催しを体験できるとは、夢にも思わなかった」
いまだ上がり続ける花火をあがめ、満足そうな笑みを浮かべる、ラゼル家当主マウリシオ。
「協力してくださった魔導師協会には感謝しなくてはいけませんわね、あなた」
その隣に寄り添うのはアイリアーナ夫人。
「アイリスも、本当に嬉しそう。みんなも楽しんでくれるといいわね」
みんな、というのは言うまでも無くラゼル家に勤めている家人たちのことだ。
二人は正面玄関を出たところで、会場を見やっていた。
一人娘のアイリスは、じっとしていられない様子で、前方で魔法使いたちと話しているエステリオめがけて駆けだしていった。左右には護衛メイドのサファイアとルビーがぬかりなく付き添っている。
当主の弟であるエステリオ・アウルは、魔法使いたちとあれこれ打ち合わせをして忙しそうだ。
「叔父さま!」
「アイリス、楽しんでいるかい」
エステリオ・アウルは、手を伸ばしてアイリスを抱き上げようとしたが、アイリスは、するっと身をひいた。
「たのしんでるわよ、叔父さま。それにね、あたしは五歳になったのだから、抱っこは卒業したの」
愛くるしい微笑みを浮かべる。
「そうそう、その調子」
はやし立てるルビー。
「お嬢さまはいいオンナになるわよ。これからの女性は、こうでなくちゃ」
サファイアは本気で保証する。
「え、そんな。……確かにそうなのでしょうが」
気落ちしたようすのエステリオ・アウルの肩を、ぽんと誰かが叩いた。
「アイリス嬢はまだ五歳になったばかりなんだ、アウル。お祭りを盛り上げて楽しんでもらおうね。今年はわたしも参加できて嬉しいよ」
満面の笑みを浮かべるのは、アウルの親友、エルナト・フィリクス・アル・アンティグアだ。
「ふふふ。よかったわ、これでラゼル家も安泰、お師匠様もお喜びになっているわ」
サファイアは、アイリスの左手をひき、ゆっくりと歩みを進める。
「まったくだ」
ルビーは明るい笑い声をあげ、アイリスの右手を握った。
大公閣下につぐ大貴族家の者でありながら、若くしてエルレーン公国はおろか大陸中で知らぬもののない高名な魔法医師でもある。彼がここにいるのは魔導師協会の縁はもちろん、今年の三月にアイリスが迎えた『代父母の儀』にて、アンティグア家が代父母となったからだ。
これにより、もしもラゼル家に不測の事態が生じても、アンティグア家がアイリスの後ろ盾であるがゆえに、たとえ大公、他国の王族といえど口出しはできなくなった。
「もっとも、お師匠様のことだから、どんな斜め上の手段でアイリスの守りを固めてくるかわからないけどね」
祭りは、まさに絶好調。
歌や踊り、小規模ながら、パレードが繰り出し、楽団が陽気な曲を奏でる。
「さあお嬢、行こう。あたしらに護衛はまかせて。後輩達が工夫をこらした屋台が、もうじき店をあける」
「世界味めぐり? 的なノリね」
「たのしみです、ルビーさん、サファイアさん」
食べ物のいいにおいが、広場に漂っていた。
「さあさあ。楽しいお祭りだ!」
「準備はできてるわよね、みんな!」
ルビーさんとサファイアさんたちの挨拶で、どっと歓声が沸き上がった。
忙しく行き交っている人々、だが皆、楽しそうだ。
「まさか我が家で、このような催しを体験できるとは、夢にも思わなかった」
いまだ上がり続ける花火をあがめ、満足そうな笑みを浮かべる、ラゼル家当主マウリシオ。
「協力してくださった魔導師協会には感謝しなくてはいけませんわね、あなた」
その隣に寄り添うのはアイリアーナ夫人。
「アイリスも、本当に嬉しそう。みんなも楽しんでくれるといいわね」
みんな、というのは言うまでも無くラゼル家に勤めている家人たちのことだ。
二人は正面玄関を出たところで、会場を見やっていた。
一人娘のアイリスは、じっとしていられない様子で、前方で魔法使いたちと話しているエステリオめがけて駆けだしていった。左右には護衛メイドのサファイアとルビーがぬかりなく付き添っている。
当主の弟であるエステリオ・アウルは、魔法使いたちとあれこれ打ち合わせをして忙しそうだ。
「叔父さま!」
「アイリス、楽しんでいるかい」
エステリオ・アウルは、手を伸ばしてアイリスを抱き上げようとしたが、アイリスは、するっと身をひいた。
「たのしんでるわよ、叔父さま。それにね、あたしは五歳になったのだから、抱っこは卒業したの」
愛くるしい微笑みを浮かべる。
「そうそう、その調子」
はやし立てるルビー。
「お嬢さまはいいオンナになるわよ。これからの女性は、こうでなくちゃ」
サファイアは本気で保証する。
「え、そんな。……確かにそうなのでしょうが」
気落ちしたようすのエステリオ・アウルの肩を、ぽんと誰かが叩いた。
「アイリス嬢はまだ五歳になったばかりなんだ、アウル。お祭りを盛り上げて楽しんでもらおうね。今年はわたしも参加できて嬉しいよ」
満面の笑みを浮かべるのは、アウルの親友、エルナト・フィリクス・アル・アンティグアだ。
「ふふふ。よかったわ、これでラゼル家も安泰、お師匠様もお喜びになっているわ」
サファイアは、アイリスの左手をひき、ゆっくりと歩みを進める。
「まったくだ」
ルビーは明るい笑い声をあげ、アイリスの右手を握った。
大公閣下につぐ大貴族家の者でありながら、若くしてエルレーン公国はおろか大陸中で知らぬもののない高名な魔法医師でもある。彼がここにいるのは魔導師協会の縁はもちろん、今年の三月にアイリスが迎えた『代父母の儀』にて、アンティグア家が代父母となったからだ。
これにより、もしもラゼル家に不測の事態が生じても、アンティグア家がアイリスの後ろ盾であるがゆえに、たとえ大公、他国の王族といえど口出しはできなくなった。
「もっとも、お師匠様のことだから、どんな斜め上の手段でアイリスの守りを固めてくるかわからないけどね」
祭りは、まさに絶好調。
歌や踊り、小規模ながら、パレードが繰り出し、楽団が陽気な曲を奏でる。
「さあお嬢、行こう。あたしらに護衛はまかせて。後輩達が工夫をこらした屋台が、もうじき店をあける」
「世界味めぐり? 的なノリね」
「たのしみです、ルビーさん、サファイアさん」
食べ物のいいにおいが、広場に漂っていた。
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