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第六章 アイリス五歳
その29 五月祭がやってくる
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29
アイリスです。
無事に『代父母』の行事を終えて、ほっとしたところです。
今は、四月。
年中行事って、いっぱいあるの。
去年までは参加出来なかったものも含めて。
たとえば四月末の、大きなお祭り。
大公妃セシーリアさまのご出身国スール・アステルシアでは、むかしから盛大に行われてきた、国をあげての火祭りで。
四月末日の宵祭りから、開けて五月一日まで続いて、その勢いで一週間は続くって。すごく重要なお祭りなのね。名前はなんだったっけ。年中行事のかずかず、エステリオ叔父さまに教えてもらってるけど、おぼえること多すぎるんだもの。
ベルテーン祭? だっけ? あれ?
これから夏がくるよ! って感じ! わくわくです!
それはそれとして。
このエルレーン公国でも、五月の初日から数日間、同じくらい盛大な祭りが行われるのです。
今年もいっぱい作物が実りますようにって、大地の女神さまであり精霊の母、セレナンさまにお供えする祭り。
前世の記憶でいえばリオのカーニバルみたいな?
パレードまでは、ないけれど。
街の中心広場にステージが造られて、歌ったり踊ったりのお祭り。屋台が並んで、大陸中のいろんな国のお料理も食べられるって。
わくわくするわ!
もっと小さい時には、身体が弱かったからお家にこもりきりだったし、この時期にカーニバルがあることも教えてもらえなかったの。
もう五歳。
少しは成長してるんだから。
楽しみにしていたのに、なのに……!
「お祭りを見に行ってはいけないの!?」
「「だめだ!!!!」」
「いけません!」
お父さまお母さま、エステリオ叔父さまには、きっぱり言われてしまった。
「どうして、祭りのことを知ったんだい」
「あの……叔父さまの書斎にあった、年中行事のご本に、あったもの」
「それは棚にしまってあっただろう?」
「あ」
「小さい内は、読んで良い本は、わたしが選ぶことになっていたよね?」
どうしよう。
いつもは優しいのに、エステリオ叔父さまが恐いです。
お父さまもお母さまも、助けてくれない!
ローサもサリーも、口出しなんてできない。
こうなったら。
あたしは、いつも傍らに控えていてくれる、二人に、目で訴えた。
魔導師協会から護衛メイドとして派遣されているフリーの魔法使い、サファイアさんとルビーさんに。
二人は、この家の誰より、立場は上なのです。
「サファイアさん、ルビーさん。カーニバルを観に出かけてはいけないの? 大きなおまつりなんでしょう? あたしも、パオラさんとパウルくんも?」
「だめに決まってるだろ、お嬢」
ルビーさんは言い切った。
「だめよ。アイリスちゃん。パオラとパウルもよ。子どもは六歳か七歳で世間への『お披露目』をしなければ、外へは出られないの。少なくとも、中流以上の家ではね」
サファイアさんは優しい口調だったけれど、とりつくしまもない。
「ま、お披露目をしてからも、外出なんて無理だけどな」
「ええっ!?」
「ちょっとルビー! ここで言わないでよ! それはおいおい話すつもりだったのよ! 話の流れとか持って行きかたってものがあるでしょ!」
「どうせ、すぐにわかることだ。先延ばしにしたって、期待させたらかえって、かわいそうだろ」
ルビーさんは肩をすくめる。
「エステリオ叔父さま知ってたの?」
叔父さまは無言だった。
認めたのと同じだ。
「お父さまもお母さまも同じ意見なの?」
「そうだよ、わたしたちの宝、かわいいアイリス」
お父さまは、静かに切り出した。
「まだ幼いアイリスに、不自由を感じさせたくないから、黙っていた。良い家の者は、常に、誘拐や陰謀に巻き込まれる危険に備えているから、用心に用心を重ねたうえでなければ、出かけることはできないのだ」
「お父さまも、わたしも、仕事や交際の場に出るときは、いつも護衛を伴っているのよ」
言いづらそうに口にする、お父さま、お母さま。
「……ごめんなさい。わがままだったわ」
うなだれる、あたし。
叔父さまは、優しく抱きしめてくれた。
「そんなことはない。子どもらしい願いだ。叶えてあげられなくて、すまない」
「ううん。ごめんなさい。お父さまもお母さまも叔父さまも、だいすきよ」
と、しんみりしていたら。
「あー。盛り上がってるとこだけどさあ。じゃあ、祭りのかわりに、なんかやるか?」
「やだルビーったら良いこと言った! よし! 家の敷地から出なければいいのよ! お祭りしましょ! キャンプファイヤーとか!」
ちょっと過激な魔法護衛メイドの二人に、スイッチ入った、みたいです。
アイリスです。
無事に『代父母』の行事を終えて、ほっとしたところです。
今は、四月。
年中行事って、いっぱいあるの。
去年までは参加出来なかったものも含めて。
たとえば四月末の、大きなお祭り。
大公妃セシーリアさまのご出身国スール・アステルシアでは、むかしから盛大に行われてきた、国をあげての火祭りで。
四月末日の宵祭りから、開けて五月一日まで続いて、その勢いで一週間は続くって。すごく重要なお祭りなのね。名前はなんだったっけ。年中行事のかずかず、エステリオ叔父さまに教えてもらってるけど、おぼえること多すぎるんだもの。
ベルテーン祭? だっけ? あれ?
これから夏がくるよ! って感じ! わくわくです!
それはそれとして。
このエルレーン公国でも、五月の初日から数日間、同じくらい盛大な祭りが行われるのです。
今年もいっぱい作物が実りますようにって、大地の女神さまであり精霊の母、セレナンさまにお供えする祭り。
前世の記憶でいえばリオのカーニバルみたいな?
パレードまでは、ないけれど。
街の中心広場にステージが造られて、歌ったり踊ったりのお祭り。屋台が並んで、大陸中のいろんな国のお料理も食べられるって。
わくわくするわ!
もっと小さい時には、身体が弱かったからお家にこもりきりだったし、この時期にカーニバルがあることも教えてもらえなかったの。
もう五歳。
少しは成長してるんだから。
楽しみにしていたのに、なのに……!
「お祭りを見に行ってはいけないの!?」
「「だめだ!!!!」」
「いけません!」
お父さまお母さま、エステリオ叔父さまには、きっぱり言われてしまった。
「どうして、祭りのことを知ったんだい」
「あの……叔父さまの書斎にあった、年中行事のご本に、あったもの」
「それは棚にしまってあっただろう?」
「あ」
「小さい内は、読んで良い本は、わたしが選ぶことになっていたよね?」
どうしよう。
いつもは優しいのに、エステリオ叔父さまが恐いです。
お父さまもお母さまも、助けてくれない!
ローサもサリーも、口出しなんてできない。
こうなったら。
あたしは、いつも傍らに控えていてくれる、二人に、目で訴えた。
魔導師協会から護衛メイドとして派遣されているフリーの魔法使い、サファイアさんとルビーさんに。
二人は、この家の誰より、立場は上なのです。
「サファイアさん、ルビーさん。カーニバルを観に出かけてはいけないの? 大きなおまつりなんでしょう? あたしも、パオラさんとパウルくんも?」
「だめに決まってるだろ、お嬢」
ルビーさんは言い切った。
「だめよ。アイリスちゃん。パオラとパウルもよ。子どもは六歳か七歳で世間への『お披露目』をしなければ、外へは出られないの。少なくとも、中流以上の家ではね」
サファイアさんは優しい口調だったけれど、とりつくしまもない。
「ま、お披露目をしてからも、外出なんて無理だけどな」
「ええっ!?」
「ちょっとルビー! ここで言わないでよ! それはおいおい話すつもりだったのよ! 話の流れとか持って行きかたってものがあるでしょ!」
「どうせ、すぐにわかることだ。先延ばしにしたって、期待させたらかえって、かわいそうだろ」
ルビーさんは肩をすくめる。
「エステリオ叔父さま知ってたの?」
叔父さまは無言だった。
認めたのと同じだ。
「お父さまもお母さまも同じ意見なの?」
「そうだよ、わたしたちの宝、かわいいアイリス」
お父さまは、静かに切り出した。
「まだ幼いアイリスに、不自由を感じさせたくないから、黙っていた。良い家の者は、常に、誘拐や陰謀に巻き込まれる危険に備えているから、用心に用心を重ねたうえでなければ、出かけることはできないのだ」
「お父さまも、わたしも、仕事や交際の場に出るときは、いつも護衛を伴っているのよ」
言いづらそうに口にする、お父さま、お母さま。
「……ごめんなさい。わがままだったわ」
うなだれる、あたし。
叔父さまは、優しく抱きしめてくれた。
「そんなことはない。子どもらしい願いだ。叶えてあげられなくて、すまない」
「ううん。ごめんなさい。お父さまもお母さまも叔父さまも、だいすきよ」
と、しんみりしていたら。
「あー。盛り上がってるとこだけどさあ。じゃあ、祭りのかわりに、なんかやるか?」
「やだルビーったら良いこと言った! よし! 家の敷地から出なければいいのよ! お祭りしましょ! キャンプファイヤーとか!」
ちょっと過激な魔法護衛メイドの二人に、スイッチ入った、みたいです。
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