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第六章 アイリス五歳
その5 もうじき五歳です
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5
あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルは、いま四歳と十一ヶ月と半月。
ほんとにもうじき、五歳の誕生日なのですよ!
いろいろあったような気がするけどよく覚えてない……だいじょうぶかしら、あたし。
ともかく、すくすく育ってます!
そして、いま。
サファイアさんに新しいお洋服を着せてもらってるところです。
特別な行事のある日だから。
「アイリスお嬢様、お支度ができましたよ。鏡をごらんになって。くるっと回ってみてくださいな」
あたしはリクエストに応えて、くるりと回転してみる。
白いサテンワンピースの裾がふわりと浮いて、腰に巻いた青いサッシュがひらりと舞う。
鏡に映るのは、金髪に緑の瞳の美……幼女。
相変わらずやせてて、身長も、あまり育ってなくない?
でも、髪はふさふさだし。
まあまあ、かわいいほうじゃないかな? 美人なお母さまによく似てるって言われるし。
にっこり笑って、鏡に向かって、上体をななめに傾ける。
お嬢さまというのはこうやって「礼」をするらしいのね。
上品な身のこなしって、なかなか身につかないわ。
「お似合いですわお嬢様!」
「すてきでございますわ!」
まわりで見守っていてくれたメイドさんたちは歓声で応えてくれた。
みんな、あたしのこと、身びいきっていうか。
過剰にほめてくれる気がする。
新しいお洋服は、すてきだけど。
「ありがとう。パウルさんとパオラさんの支度は、どうかしら」
「ああ、あっちはルビーの担当だけど。手こずってるわねえ」
サファイアさんは、くすっと笑った。
双子の獣神さま、パウルさんとパオラさんは、我が家のお客さま。
遠くの国から来て、街の暮らしにはまだ慣れないみたい。
あたしといっしょにお勉強したり、遊んだりしてる。
いつも楽しそう。
光のかげんによっては銀色に光る、栗色の長い髪の毛としっぽがひるがえる。
しなやかな身体が、走る。
速い、速い。
「バウバウ」
「わふわふ」
シロとクロは、いつも遊んでくれてるパウルさんとパオラさんになついてて、追いかけてる。ぜったい、遊びだと思ってるはず。
「ああこら、待てって。二人とも!」
二人を捕まえたルビー=ティーレさんとローサと、レンピカさん、マルグリットさんたちが、みんなで寄ってたかって、新しいお洋服を頭からかぶせて、青いサッシュをウエストに結びます。
「やっと完成だ。脱ぐんじゃないぞ、二人とも。今日は大事なお客さまがくるんだからね」
「おきゃく?」
「だいじ?」
「そうだよ。お嬢とあんたたち二人の『代父母』さまがいらしゃるんだ」
二人は首をかしげています。
「ルビー。いいわよ、わからなくても。さ、もうじき、朝ご飯よ。食堂に行きましょうね」
動じてないサファイアさんは、パウルさんとパオラさんと、両手をつなぎました。
「ごはん!」
「ごちそう!」
二人が笑う。
「そうだね、朝ご飯、楽しみね」
あたしも嬉しくて、笑う。
※
三月の第一週。
その日、我が家は早朝からバタバタしていた。
きょうは代父母さまご夫妻が我が家を初めて訪問されることもあって、念入りに準備をしているの。
実の両親のように深い繋がりを、家族単位で持つという、しきたり。
もともとは商人組合の会員同士とか、同じ職業のひとたち、同じ村や町内のひとたちの相互助け合いからきているのだそう。
お父さま、お母さま、エステリオ・アウル叔父さまのときは、親戚の人や、商人組合の顔役さんとかだったって、ローサが年上のメイドさんたちに聞いてみて、教えてもらったの。
ふつうは、そうなのよねえ。
あたしの場合は、ちょっぴり特別な状況なのです。
だって、あたしの代父母さまは……
※
三月は、緑の宿る宝石、エスメラルダの月。
第一週の行事は、代母(コン・マドレ)、代父(コン・パドレ)の日。
戦乱や事故、病気等、親の庇護を受けられない子どもたちのために《死者と咎人とみどりごの守護者》であるお方が『自分が代理の母となり庇護者となりましょう』と告げられた。
そして代父となられたのは、
イル・リリヤさまの父である大神ソリス。
この大神は、いにしえに失われた遙かな理想郷《古き園》を守護していた、古き太陽。
あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルは、いま四歳と十一ヶ月と半月。
ほんとにもうじき、五歳の誕生日なのですよ!
いろいろあったような気がするけどよく覚えてない……だいじょうぶかしら、あたし。
ともかく、すくすく育ってます!
そして、いま。
サファイアさんに新しいお洋服を着せてもらってるところです。
特別な行事のある日だから。
「アイリスお嬢様、お支度ができましたよ。鏡をごらんになって。くるっと回ってみてくださいな」
あたしはリクエストに応えて、くるりと回転してみる。
白いサテンワンピースの裾がふわりと浮いて、腰に巻いた青いサッシュがひらりと舞う。
鏡に映るのは、金髪に緑の瞳の美……幼女。
相変わらずやせてて、身長も、あまり育ってなくない?
でも、髪はふさふさだし。
まあまあ、かわいいほうじゃないかな? 美人なお母さまによく似てるって言われるし。
にっこり笑って、鏡に向かって、上体をななめに傾ける。
お嬢さまというのはこうやって「礼」をするらしいのね。
上品な身のこなしって、なかなか身につかないわ。
「お似合いですわお嬢様!」
「すてきでございますわ!」
まわりで見守っていてくれたメイドさんたちは歓声で応えてくれた。
みんな、あたしのこと、身びいきっていうか。
過剰にほめてくれる気がする。
新しいお洋服は、すてきだけど。
「ありがとう。パウルさんとパオラさんの支度は、どうかしら」
「ああ、あっちはルビーの担当だけど。手こずってるわねえ」
サファイアさんは、くすっと笑った。
双子の獣神さま、パウルさんとパオラさんは、我が家のお客さま。
遠くの国から来て、街の暮らしにはまだ慣れないみたい。
あたしといっしょにお勉強したり、遊んだりしてる。
いつも楽しそう。
光のかげんによっては銀色に光る、栗色の長い髪の毛としっぽがひるがえる。
しなやかな身体が、走る。
速い、速い。
「バウバウ」
「わふわふ」
シロとクロは、いつも遊んでくれてるパウルさんとパオラさんになついてて、追いかけてる。ぜったい、遊びだと思ってるはず。
「ああこら、待てって。二人とも!」
二人を捕まえたルビー=ティーレさんとローサと、レンピカさん、マルグリットさんたちが、みんなで寄ってたかって、新しいお洋服を頭からかぶせて、青いサッシュをウエストに結びます。
「やっと完成だ。脱ぐんじゃないぞ、二人とも。今日は大事なお客さまがくるんだからね」
「おきゃく?」
「だいじ?」
「そうだよ。お嬢とあんたたち二人の『代父母』さまがいらしゃるんだ」
二人は首をかしげています。
「ルビー。いいわよ、わからなくても。さ、もうじき、朝ご飯よ。食堂に行きましょうね」
動じてないサファイアさんは、パウルさんとパオラさんと、両手をつなぎました。
「ごはん!」
「ごちそう!」
二人が笑う。
「そうだね、朝ご飯、楽しみね」
あたしも嬉しくて、笑う。
※
三月の第一週。
その日、我が家は早朝からバタバタしていた。
きょうは代父母さまご夫妻が我が家を初めて訪問されることもあって、念入りに準備をしているの。
実の両親のように深い繋がりを、家族単位で持つという、しきたり。
もともとは商人組合の会員同士とか、同じ職業のひとたち、同じ村や町内のひとたちの相互助け合いからきているのだそう。
お父さま、お母さま、エステリオ・アウル叔父さまのときは、親戚の人や、商人組合の顔役さんとかだったって、ローサが年上のメイドさんたちに聞いてみて、教えてもらったの。
ふつうは、そうなのよねえ。
あたしの場合は、ちょっぴり特別な状況なのです。
だって、あたしの代父母さまは……
※
三月は、緑の宿る宝石、エスメラルダの月。
第一週の行事は、代母(コン・マドレ)、代父(コン・パドレ)の日。
戦乱や事故、病気等、親の庇護を受けられない子どもたちのために《死者と咎人とみどりごの守護者》であるお方が『自分が代理の母となり庇護者となりましょう』と告げられた。
そして代父となられたのは、
イル・リリヤさまの父である大神ソリス。
この大神は、いにしえに失われた遙かな理想郷《古き園》を守護していた、古き太陽。
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