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第五章 パウルとパオラ
その33 影の呪術師(レギオン亡国編3)
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33
リィン、と澄んだ鈴の音が空気を震わせた。
そして、夜が降ってきた。
漆黒の衣を纏った人物が出現したのである。
美青年とも美女とも、判別がしがたい、整った容姿である。
すらりとした長身で、まっすぐな長い黒髪は床まで届く。(ちなみに髪は編まれていない)肌の色は透き通るように白い。
ヒューゴーを見据える黒い瞳が、僅かに青い光を浮かべる。
『そこまでだよ、ヒューゴー老人。あんたの役割はせいぜい、中ボスだ』
そう口にしてから、ふと思い直して、言い換える。
『いや、中ボスに失礼だった。ヒューゴー君は、その他大勢のモブか、せいぜい小ボスだね』
色の薄い唇の端が持ち上がり、笑みを形作る。
するとその瞬間、黒衣の人物の周囲に、夥しい数の青白い光球があらわれた。
大人の頭ほどもある、それは。『精霊火(せいれいか)』と呼ばれる不可解な自然現象だ。出現するのは夜中がほとんどで、街中での目撃例は少ない。
聖堂教会は『精霊火』を認めていない。しかしながら確かに『精霊火』は存在し、王国の人々から魔性の火として恐れられている。
その青白い光球は、黒衣の人物を中心に、まるでペットがなつくように、まつわりついていた。
「なっ! 忌火(いみび)がっ! わしの屋敷に!」
焦った様子で叫ぶヒューゴーを見やり、黒衣の人物は、くすくすと笑う。
『へえ。度しがたいね王国の人間は。これを、そんな名前で呼んでるんだ。ま、知ってたけどね』
「まさか、きさまの仕業か!? わしの屋敷でなにをする! 名乗れ、捕らえて聖堂教会に付き出してやる! 忌まわしい闇魔法師ふぜいが!」
『名乗ってよかったっけ? まあいいや。おれは『影の呪術師』だ。以後お見知りおきを。おまえを牢獄に叩き込むまでの付き合いだがね』
「なっ!?」
『レギオン最大の悪の親玉、犯罪者ヒューゴー・ラゼル。大陸法において裁く。その権限は、おれにある』
その言葉と同時に、黒衣の人物の影から、黒い蔓がのびて、ヒューゴー・ラゼルを捕らえ、ぎりぎりと、身動きもできないように締め上げた。
続いて、床が銀色に光った。円形の印が浮かび上がり、現れ出たのは、三人の人物である。
黒髪にハシバミ色の目、日に焼けた壮年の男と、黒髪、黒い目の青年。残る一人は、赤毛の女性だった。
『なんじゃ、もう始めておったか、呪術師』
『仕事が早いな』
『腹が立ったんでしょ。そこの好青年とお嬢さん、虐待されてたって聞いてるわ』
赤毛の女性が、エステリオ・アウルとに、素早く駆け寄る。
『あたしはイルダ。安心して、あなたたちを保護するわ』
黒髪、黒目の青年も言い添える。
『おれはアール。まかせとけ』
エステリオ・アウルは呪術師を見やり、目を見張った。
「あなたは、指輪を譲ってくださった方!」
「え、このお方が?」
驚くアイリスの薬指には、銀の指輪が、しっかりとはまって、光を放っている。魔力そのものの、青い光だ。
『遅いぞ、親父』
黒髪の人物、呪術師が言う。
『すまん、手続きに手間取った』
親父と呼ばれたのは黒髪、ハシバミ色の目をした男性だ。
『我々は正式な全権大使にして裁判官である。ヒューゴー・ラゼル。間諜を我が国に密入国させ、聖なる薬草を盗みだし、レギオン国内で精製して麻薬を作り、よからぬことに用いてきたな。これで、レギオン王家と癒着して千年繁栄してきた豪商ラゼル家も終わりだ』
リィン、と澄んだ鈴の音が空気を震わせた。
そして、夜が降ってきた。
漆黒の衣を纏った人物が出現したのである。
美青年とも美女とも、判別がしがたい、整った容姿である。
すらりとした長身で、まっすぐな長い黒髪は床まで届く。(ちなみに髪は編まれていない)肌の色は透き通るように白い。
ヒューゴーを見据える黒い瞳が、僅かに青い光を浮かべる。
『そこまでだよ、ヒューゴー老人。あんたの役割はせいぜい、中ボスだ』
そう口にしてから、ふと思い直して、言い換える。
『いや、中ボスに失礼だった。ヒューゴー君は、その他大勢のモブか、せいぜい小ボスだね』
色の薄い唇の端が持ち上がり、笑みを形作る。
するとその瞬間、黒衣の人物の周囲に、夥しい数の青白い光球があらわれた。
大人の頭ほどもある、それは。『精霊火(せいれいか)』と呼ばれる不可解な自然現象だ。出現するのは夜中がほとんどで、街中での目撃例は少ない。
聖堂教会は『精霊火』を認めていない。しかしながら確かに『精霊火』は存在し、王国の人々から魔性の火として恐れられている。
その青白い光球は、黒衣の人物を中心に、まるでペットがなつくように、まつわりついていた。
「なっ! 忌火(いみび)がっ! わしの屋敷に!」
焦った様子で叫ぶヒューゴーを見やり、黒衣の人物は、くすくすと笑う。
『へえ。度しがたいね王国の人間は。これを、そんな名前で呼んでるんだ。ま、知ってたけどね』
「まさか、きさまの仕業か!? わしの屋敷でなにをする! 名乗れ、捕らえて聖堂教会に付き出してやる! 忌まわしい闇魔法師ふぜいが!」
『名乗ってよかったっけ? まあいいや。おれは『影の呪術師』だ。以後お見知りおきを。おまえを牢獄に叩き込むまでの付き合いだがね』
「なっ!?」
『レギオン最大の悪の親玉、犯罪者ヒューゴー・ラゼル。大陸法において裁く。その権限は、おれにある』
その言葉と同時に、黒衣の人物の影から、黒い蔓がのびて、ヒューゴー・ラゼルを捕らえ、ぎりぎりと、身動きもできないように締め上げた。
続いて、床が銀色に光った。円形の印が浮かび上がり、現れ出たのは、三人の人物である。
黒髪にハシバミ色の目、日に焼けた壮年の男と、黒髪、黒い目の青年。残る一人は、赤毛の女性だった。
『なんじゃ、もう始めておったか、呪術師』
『仕事が早いな』
『腹が立ったんでしょ。そこの好青年とお嬢さん、虐待されてたって聞いてるわ』
赤毛の女性が、エステリオ・アウルとに、素早く駆け寄る。
『あたしはイルダ。安心して、あなたたちを保護するわ』
黒髪、黒目の青年も言い添える。
『おれはアール。まかせとけ』
エステリオ・アウルは呪術師を見やり、目を見張った。
「あなたは、指輪を譲ってくださった方!」
「え、このお方が?」
驚くアイリスの薬指には、銀の指輪が、しっかりとはまって、光を放っている。魔力そのものの、青い光だ。
『遅いぞ、親父』
黒髪の人物、呪術師が言う。
『すまん、手続きに手間取った』
親父と呼ばれたのは黒髪、ハシバミ色の目をした男性だ。
『我々は正式な全権大使にして裁判官である。ヒューゴー・ラゼル。間諜を我が国に密入国させ、聖なる薬草を盗みだし、レギオン国内で精製して麻薬を作り、よからぬことに用いてきたな。これで、レギオン王家と癒着して千年繁栄してきた豪商ラゼル家も終わりだ』
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