転生幼女アイリスと虹の女神

紺野たくみ

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第五章 パウルとパオラ

その26(修正最新バージョン)皇帝ガルデルの絶望と儚い希望・結

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すみません、このところ長々と書き連ねていたのを見返して、反省しました。
さっくり短くして、次のエピソードに進みます!


ーーーーーーーーーーーーーー
         26

 ガルデルの呪縛から解き放たれて、灰色の魔女グリスと呼ばれていた彼女は、心の底から輝くように、晴れやかに笑った。
「あたしが白い魔女フランカにもらった名前は、グレイス。この子はフランカの忘れ形見、ルナ」

 その名前が紡がれた瞬間、あたりは真っ白になって。

 瞬きひとつの間に、全てが塗り替えられた。

         ※

 そこはもう精霊の世界、『精霊の白き森』だった。

 銀色のカーテンを思わせる蓋に覆われているので、上空から覗き見ることはできない。
(そんな不遜なことをしようなんて輩は、『魔の月(セラニス)』くらいだろうけど)

 木々や下生えの草むらに至るまで、全てが真っ白。
 一歩踏み出せば、足もとから白い陽炎が燃え立つ。
 森の中、いたるところに、おびただしい数の精霊火がふわふわと漂う。

 やがて精霊火をかきわけて、一人の女性がやってきた。
 グラウケーさまと同じくらい長身ですらりとして凜々しく、容貌は若々しいけれど、貫禄がある。

「ようこそいらっしゃいました、《世界の大いなる意思》が認めた新しい住人を歓迎いたします。わたしはナ・ロッサ・オロ・ムラト。生命の司という、まあ世話役のようなものですわ。さあ、とりあえず住むところを決めましょうね。森を案内させましょう。ガーレネー! キュモトエー」
 張りのある声で呼ばわると、

「はいは~い」
 二人の精霊さんが進み出る。
 嬉しそうに、ニコニコしてるわ。

 グラウケーさまが教えてくれた。
 キュモトエーは、波の速さ。ガーレネーは、穏やかな海をあらわすことば。大勢いる精霊の中でも、この二人は比較的若くて、好奇心旺盛で、人間の世界もヒトも、大好きなのだって。

 その性質は、ヒトと距離を置きたい者が多い精霊たちの中では、かなり珍しいらしいの。
 快活で親しみやすい、きれいなお姉さんという感じ。
 いそいそと、ルナちゃんとグレイスさんの手を引いた。

「もう何の心配もいらないわ」
「いつまでだって、この森にいていいのよ」

 案内されていくグリスさんとルナちゃんを見送って、ナ・ロッサ・オロ・ムラトさまは、言った。
「特例ではありますが、《世界の大いなる意思》は、彼女たちのお世話係として、新たな若い精霊を作り出す心づもりだそうですわ。ここ数百年、なかったことですが」

 そして、ラト・ナ・ルアを、見やる。
「それは……兄と妹で。これまでになかった試みです。もちろん精霊は、この世に送り出されるときには成人であるのですが、その前例より、もう少し若い個体を創ろうとなさっておられます」

「……ああ。やはり、そうなるのですね」
 ラト・ナ・ルアは、謎めいたつぶやきをもらす。

「それが、運命というものです。たどる道は、わずかながら違いがあるようでいて、目指すところは、大きな違いはないのかもしれませんわ」
 ナ・ロッサ・オロ・ムラトさまとラト・ナ・ルアは、穏やかに微笑みを交わした。

          ※

「さて、どうにか一区切りついた」
 グラウケーさまは、あたしの頭に、ぽんと手を置いた。
「ご苦労だった、アイリス、ラト・ナ・ルア。がんばってくれたね。おかげでこのルートは、ハッピーエンドが確定した。わたしからもお礼を言うよ」

「よかったです。夢中でしたから。二人は幸せに暮らせるんですね」

「ああ、もちろん。このルートではね」

「え?」

「うすうす気づいてはいるのだろう? きみが最初に出会った『ルナ』。ヒトでありながら精霊の森に在った『欠けた月の村』にいたルナは、グレイスとルナが精霊の森に来なかった場合の、百年後の姿だったんだよ」

「実の父親とは再会を果たすことなく、村長の長男アトクは帰還しなかった。せめてガルガンドに婿入りした次男のリサスに知らせられたら援軍も見込めたのだがね。グレイスは彼女の持つ魔力量にふさわしい短い人生を終える。それらの運命は彼女たちを精霊の森に迎え入れることができたから、避けられた。そしてあちらの世界のルナも。きみの大活躍のおかげで救われた。……確かめてみるかい、アイちゃん?」

 それの言葉を合図に、目に映る光景は、変わった。

 あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルの前にあるのは、
 あの、ガルデルに破壊されたはずの『欠けた月の村』だった。

 破壊の痕跡は、どこにもなかった。

 あたしが初めて迷い込んだときのままに、牧歌的な、平和な村の姿が広がっていた。

 まだ『ルナちゃんとクイブロくんの披露宴』が続いてる。
 村の人たちが輪になって踊って、ごちそうを食べて、楽しそうに笑ってる。
 悲しみなど、ここには、こない。
 ぜったいに。

「ガルデルはセラニスの手引きで、この閉じた空間に侵入し破壊工作を行った。だが、既に修復されている。きみとラト・ナ・ルアは、修復するためのツールだったのだ。礼を言う。この、我が至宝の記憶を、損なうなど、万死に値する。だから、きみには、本当に感謝しているのだよ」

 振動が、あたりに響いた。
 これは……《世界》の、声だ!

「ごらん、アイリス。言ってなかったが、ここはグレイスとルナを迎え入れてから百年後の、精霊の森だよ。もうかなり閉鎖的になりはしたが、一部分はまだ『外部』との繋がりを持っている。ヒトと精霊の間にのこされた、わずかな細い小道だ。ここが閉じてしまわぬように、わたしは願っている……」

 空気が、肺に入ってこない。
 胸が、苦しい。

 そのとき、ふいに。

(しっかりして! アイリス、精霊の魂であるあたしは、《世界》に逆らっては、表に出られないけど。内側から支えるわ。ここでは、グラウケー姉様でさえ、あらがえなくなるのだもの)
 ラト・ナ・ルアの、頼もしい声が聞こえてきた。

(はっきりと、自分が自分であることを、心に思い描くのよ。さもないと、浸食されるわよ。《世界》と対峙して、自我を保っていられる人間なんて、今まで、カルナックしかいなかったんだから……)

 カルナックお師匠さま!
 その名前が、胸に、すとんと落ちてきたとたんに、呼吸が楽になった。

 気がつくと、あたしは床に足をつけて立っていた。
 お師匠さまのように、素足で。

 また、場所が移ったようだ。
 
 なぜなら、あたしの素足の足の裏が触れているのは。
 まるで人造大理石でできているかのような、滑らかな床面だったから。

 そして、
 数千、数万の。
 数限りないモニターで埋め尽くされた壁面が、目に飛び込んできた。


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