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第五章 パウルとパオラ
その6 おせちは「極東」の郷土料理
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6
おせち料理、お雑煮と、甘酒?
なんで?
と思ったのは一瞬でした。
こんな、とんでもない事!
絶対、カルナックさまの仕業に決まってる。
なぜって、新年の朝の食卓に、カルナックさまとコマラパ老師さまは、歳神さまの横に並んで席についていらっしゃるんだもの。
「この料理は私が作ったと思ってるね、アイリス。だけど私じゃないよ」
カルナックお師匠さまは、楽しそうに笑った。
「それより、おいで。最も幼き我が弟子よ」
ご自分の席の隣を、ぽんぽんと叩く。
「さあさあ早く」
「お師匠さま、ご自重を」
エステリオ・アウル叔父さまが、緊張した面持ちで、言う。
「今朝は新しい年の始めです。一年の計は元旦に在りと」
……ええと、叔父さま。それ、日本のことわざだよね。
「エステリオ・アウルは頭が固いなあ」
つまらなそうに呟くお師匠さま。
でもねえ、確かに。
お師匠さまの隣に座るのは緊張しちゃうから、ご遠慮したいの。
「サリー、お母さまのおとなりにいきたいな」
さりげなく自己主張してみた。
「さようでございますね」
お母さまのお隣には子供用の椅子が三脚、ちゃんと用意されていたの。
「お嬢様のお師匠様は、とても……強いお方ですから……」
息があがってる。
どうやらカルナックお師匠さまの魔力にあてられてたみたいなサリー。
顔が赤いわ。少しふらつきながら、あたしをお母さまのお隣へ座らせてくれた。
パウルさんとパオラさんも並んで席につく。
サリーは離れて、ローサたちと一緒に控える。
大丈夫かしら。サリー、いつも、あたしのことを気遣ってばかり。
疲れているんじゃない?
休んでいるわけにはいかないのかな……。
細長い大きなテーブルを挟んで、向かい側に歳神さま、カルナックお師匠さま、コマラパ老師さま。
こちら側には家族。お父さまとお母さまとエステリオ・アウル叔父さま、あたし(アイリス)、そしてパオラさんとパウルさん。
エウニーケさん、サファイアさん、ルビーさん、ローサ、サリー、ほかの、お母さま専属のレンピカさんやマルグリットさん、それに家宰のバルドルさんとドアボーイのルシエル、エミール。おもだった家人が、ほぼ揃っているのは珍しい。
新年だものね。
元旦だもの。(アイリスの前世、月宮アリスの記憶では。)
「新年おめでとうございます、旦那様。奥様、お嬢様。お坊ちゃま」
にこやかに言うエウニーケさん、笑顔に迫力があります。
「いやいやエウニーケさん。なんでわたしだけお坊ちゃまなんです? もういい年ですよ。学院でも上級生になるし大人の仲間入りです」
「あらあら。まだ成人ではありませんわ、十七歳におなりになったばかりでございましょう。それに男の子はいつまでたってもやっぱり子供なものですわ。わたくしよく覚えておりますの、小さい頃のお坊ちゃまがどんなに、天使のように可愛らしかったことか」
「そ、それは……」
今にも「それは黒歴史です」って言ってしまいそうな叔父さま。
がんばって。
この家に、エウニーケさんに勝てる人間なんていないと思う!
……カルナックお師匠さまは別として。
「歳神様。大晦日の火祭りから、今年の始め、我がラゼル家にご滞在いただき、光栄の極みでございます。どうぞ、神饌をお受けください」
お父さまが、かしこまって頭を垂れる。
「うむ。いただこう」
歳神さまは、まず、甘酒に口をつけた。
ひとくち、含む。
おせちを一つずつ。
お雑煮のお餅をつまんで、ぱくり。
にっこり。
「よい味じゃ。真心がこもっておるの。もてなしに感謝する。ここは、よい家じゃ」
「ありがとうございます。新しき歳神様。カルナック様からお好みをうかがいまして、作り方のご教示から食材まで用意していただき、私と妻と、私の弟とで、誠心誠意、こしらえさせていただきました」
「今年の歳神は『極東』好みで来ると予感していたからね」
悪だくみしてそう、っていうかラスボスみたいなカルナックさま。
いつの間に!
お父さまお母さま、エステリオ・アウル叔父さまも一緒に作ったの?
そういえばエステリオ叔父さまには日本人だった前世の記憶があるから、慣れていた、むしろ懐かしいお料理だったに違いないわ。
「こんどはアイリスもいっしょにつくるっ!」
思わず決意を表明したアイリスなのでした。
歳神さまが口をつけたら、どんどん、家族のぶんも、『極東』ふうの、お正月お料理が運ばれてきて。
すっごく嬉しい!
エステリオ・アウル叔父さまも、おせちとお雑煮に夢中だし。
(子供みたいで、ちょっと可愛いって思ってしまいました。)
それに、パオラさんとパウルさんも大喜び。
やっぱり二人の故郷の『極東』って、日本に似てるのでは?
期待しています。
お父さまったら、カルナックさまに、この食材は輸入できないかって。
さすが、商人だわ!
おせち料理、お雑煮と、甘酒?
なんで?
と思ったのは一瞬でした。
こんな、とんでもない事!
絶対、カルナックさまの仕業に決まってる。
なぜって、新年の朝の食卓に、カルナックさまとコマラパ老師さまは、歳神さまの横に並んで席についていらっしゃるんだもの。
「この料理は私が作ったと思ってるね、アイリス。だけど私じゃないよ」
カルナックお師匠さまは、楽しそうに笑った。
「それより、おいで。最も幼き我が弟子よ」
ご自分の席の隣を、ぽんぽんと叩く。
「さあさあ早く」
「お師匠さま、ご自重を」
エステリオ・アウル叔父さまが、緊張した面持ちで、言う。
「今朝は新しい年の始めです。一年の計は元旦に在りと」
……ええと、叔父さま。それ、日本のことわざだよね。
「エステリオ・アウルは頭が固いなあ」
つまらなそうに呟くお師匠さま。
でもねえ、確かに。
お師匠さまの隣に座るのは緊張しちゃうから、ご遠慮したいの。
「サリー、お母さまのおとなりにいきたいな」
さりげなく自己主張してみた。
「さようでございますね」
お母さまのお隣には子供用の椅子が三脚、ちゃんと用意されていたの。
「お嬢様のお師匠様は、とても……強いお方ですから……」
息があがってる。
どうやらカルナックお師匠さまの魔力にあてられてたみたいなサリー。
顔が赤いわ。少しふらつきながら、あたしをお母さまのお隣へ座らせてくれた。
パウルさんとパオラさんも並んで席につく。
サリーは離れて、ローサたちと一緒に控える。
大丈夫かしら。サリー、いつも、あたしのことを気遣ってばかり。
疲れているんじゃない?
休んでいるわけにはいかないのかな……。
細長い大きなテーブルを挟んで、向かい側に歳神さま、カルナックお師匠さま、コマラパ老師さま。
こちら側には家族。お父さまとお母さまとエステリオ・アウル叔父さま、あたし(アイリス)、そしてパオラさんとパウルさん。
エウニーケさん、サファイアさん、ルビーさん、ローサ、サリー、ほかの、お母さま専属のレンピカさんやマルグリットさん、それに家宰のバルドルさんとドアボーイのルシエル、エミール。おもだった家人が、ほぼ揃っているのは珍しい。
新年だものね。
元旦だもの。(アイリスの前世、月宮アリスの記憶では。)
「新年おめでとうございます、旦那様。奥様、お嬢様。お坊ちゃま」
にこやかに言うエウニーケさん、笑顔に迫力があります。
「いやいやエウニーケさん。なんでわたしだけお坊ちゃまなんです? もういい年ですよ。学院でも上級生になるし大人の仲間入りです」
「あらあら。まだ成人ではありませんわ、十七歳におなりになったばかりでございましょう。それに男の子はいつまでたってもやっぱり子供なものですわ。わたくしよく覚えておりますの、小さい頃のお坊ちゃまがどんなに、天使のように可愛らしかったことか」
「そ、それは……」
今にも「それは黒歴史です」って言ってしまいそうな叔父さま。
がんばって。
この家に、エウニーケさんに勝てる人間なんていないと思う!
……カルナックお師匠さまは別として。
「歳神様。大晦日の火祭りから、今年の始め、我がラゼル家にご滞在いただき、光栄の極みでございます。どうぞ、神饌をお受けください」
お父さまが、かしこまって頭を垂れる。
「うむ。いただこう」
歳神さまは、まず、甘酒に口をつけた。
ひとくち、含む。
おせちを一つずつ。
お雑煮のお餅をつまんで、ぱくり。
にっこり。
「よい味じゃ。真心がこもっておるの。もてなしに感謝する。ここは、よい家じゃ」
「ありがとうございます。新しき歳神様。カルナック様からお好みをうかがいまして、作り方のご教示から食材まで用意していただき、私と妻と、私の弟とで、誠心誠意、こしらえさせていただきました」
「今年の歳神は『極東』好みで来ると予感していたからね」
悪だくみしてそう、っていうかラスボスみたいなカルナックさま。
いつの間に!
お父さまお母さま、エステリオ・アウル叔父さまも一緒に作ったの?
そういえばエステリオ叔父さまには日本人だった前世の記憶があるから、慣れていた、むしろ懐かしいお料理だったに違いないわ。
「こんどはアイリスもいっしょにつくるっ!」
思わず決意を表明したアイリスなのでした。
歳神さまが口をつけたら、どんどん、家族のぶんも、『極東』ふうの、お正月お料理が運ばれてきて。
すっごく嬉しい!
エステリオ・アウル叔父さまも、おせちとお雑煮に夢中だし。
(子供みたいで、ちょっと可愛いって思ってしまいました。)
それに、パオラさんとパウルさんも大喜び。
やっぱり二人の故郷の『極東』って、日本に似てるのでは?
期待しています。
お父さまったら、カルナックさまに、この食材は輸入できないかって。
さすが、商人だわ!
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