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第五章 パウルとパオラ

その3 パウルとパオラの夢

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 まだまだ眠い、あたし、アイリスです。

 お正月で、冬だけど。
 お部屋の中は、寒くない。
 セントラルヒーティングみたいな仕掛けがされてるから、家のどこにいても、夏は涼しくて冬は暖かくなるようにしてあるって、エステリオ・アウル叔父さまが教えてくれた。
 真綿を詰めた絹地の掛けぶとん。羊毛をぎっしり詰めたマット、ふかふかベッドはステキな寝心地。もう出られないわ~。

 やっぱり大晦日の夜更かしが、こたえたんだわ。

 精神年齢は十五歳の月宮アリスと、二十五歳のイリス・マクギリスが表の意識に出てきてたりするから、身体は四歳と九ヶ月の、虚弱体質な幼女だってこと忘れてた~。
 うう。
 起きたいけど、身体が動かないの。体力ないの。

『アイリスだいじょうぶ?』
『あたしたち、心配してるのよ』
 小さい頃から守護してくれてる妖精さん、風のシルルと光のイルミナが、チリチリと、小さな羽根をはばたかせて頭の上に飛んできた。
 瞼を開けなくても、妖精の羽根から銀色の粉を降り注いでくれてるのが、わかる。
 回復とか幸運の効果があるのよ。

 おかげで、やっと目が覚めてきた……。

 妖精達は夢の中まではこられないから。
 シルルたちがいるなら、ここは現実だ。

 肩にとまって、囁くのは、水のディーネ。
『アイリス、そろそろ起きないと』

 冷静にとどめをさしてくれるのは、地のジオ。
『でないと、エステリオ・アウルが心配して突撃してくるぞ』

「えっ! それは困っちゃうわ!」
 思わず、あたしは飛び起きた。

 エステリオ・アウル叔父さまは、あたしのことを心配しすぎて、暴走しちゃったりするから。
 あり得ないことじゃない。

 なんとか、ぐらぐら目眩がするのを我慢して、天蓋付きの子供用ベッドに上半身を起こした。
 ベッドサイドに控えていてくれたサファイアさんとルビーさんが、すぐにやってきたの。

「起きたか、お嬢」
「ルビー! 何回言えばわかるのかしら。あたしたちはアイリスの護衛とはいえ一応、メイドなの! 言葉使いに気をつけて」
 ふたりのやりとりも、いつものこと。

「うふふっ。おはようございます、サファイアさん、ルビーさん」

「ああ、おはようさん。さっきから守護妖精達が飛び回ってたから。そろそろ起きるだろうと思ってたんだ」
「もう! あなたには何を言ってもムダだわ!」
 相変わらず、仲よさそうな二人です。

 あたしはベッドから滑り降りた。
 柔らかな室内履きに足を通して、歩きだす。

 となりに設えてもらった簡易ベッドに、昨夜の大晦日にやってきたお客さま、パウルとパオラさんが、熟睡していた。あたしの従魔、シロとクロの毛並みに埋もれて。

 二人は遠い国の「獣神」なの。
 赤茶色の髪、ふさふさの尻尾と立ち耳も同じ色。
 我が家にやってきたときに着ていた服は素材がわからないほどボロボロだったわ。
 今は髪の毛もしっぽもふわふわで清潔。
 清潔なリネンの寝巻きにくるまれてる。

 年越しの宴が、夜明けを迎えてそのまま新年の宴に突入したのを見とどけたら、あたしとパウルとパオラは、メイドさんたちに捕獲されて、お風呂に入ってお着替えさせてもらったの。

 ぴくぴく、耳が動いた。

「ら……ん、ぎ。やだ、枯れないで……」
「うごいてよ……」
 パウルとパオラの、かすかな、つぶやき。


「よく寝てるけど、なんだか、苦しそうだわ」
 あたしは首をかしげた。
「どうしたのかしら……」

「夢を見てるのよ」
 サファイアさんが静かに言った。
「あんまりいい夢じゃないわね。起こしてあげなさい、アイリス」

「すごい、サファイアさん。夢の内容までわかるの?」

「そうじゃないかと思っただけよ。でもきっと、大きく外れてはいないはず」

 目を伏せて、物憂げに、ため息をついた。


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