転生幼女アイリスと虹の女神

紺野たくみ

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第三章 アイリス四歳

その11 妖精が進化して精霊に!

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         11

 最初に見えたのは。
 長い黒髪の美女。そしてプラチナブロンドの美少女だった。

「ああやっぱり。思い出しちゃったんだ?」
 低く囁くのは、黒髪の美女。
 サファイア=リドラ・フェイ。
 おそろしく剣呑な雰囲気を漂わせている。
「ねえ、月宮アリスちゃん」

「……えっ」
 とたんに。心臓が跳ね上がった。
「あたし……!?」

「あ~あ、言っちゃう? そこで。いつも、あたしが短気で思慮が足りないって怒るくせに」
 楽しげに笑いながら、サファイアさんの肩を叩いたのは、ルビー=ティーレ・トリグバセン。

「もちろんわかってるさ。前世の記憶がよみがえったんだろ?」
 それから、真顔になって。
「せっかくカルナック師匠が封印したのにさ」

「しかたないわ。まさか妖精たちが、女神さまに誓うほどの、魂まで縛る深い絆の契約を願うなんて、思ってもみなかったわよ」
 サファイアは肩をすくめ。
「一般的にはね、守護妖精だの精霊だのっていったところで、もっと簡易な契約しかしないものなのよ。せいぜい、この一生の間くらいのね。まったく、執着の強い女って、怖いよねえ」
 最後の一言は、声を落として、呟いた。

「あのときアイリス嬢ちゃんが催眠にかかりすぎたのは、あたしらのせいだし。責任は感じてるんだ。だから、今後とも、どんな敵からも、守ってあげるから」

「大船に乗ったつもりで、ドドーンと! 安心しててねぇ♡」

 ここは安心していいのかどうか、判断に迷うところである。

 ともかく、目覚めたアイリスの側には、妖精たちがあわてて飛んできたのだった。

          ※

『『アイリスアイリス! 気がついた!?』』
 これはシルルとイルミナ?

『よかった生きてた! アイリスに何かあったら、わたし、泣いちゃうから』
 ディーネ?
 
『アイリス。契約は成りました』
 柔らかな声が降ってきた。

 気がついたらあたしは、左右からサファイアさんとルビーさんに見下ろされ、スゥエ女神さまの膝に抱かれていたのだ。
 なんというか、雲の上にいるような心地がしていたのは、そのためだったのね。

「おめでとう、お嬢。これでりっぱな、守護精霊持ちだよ!」
 ルビーさん、すごく笑ってる。

「そうよぉ。従魔もいるし、わたしたちもいるし、向かうところ敵なしよ!」
 サファイアさん、それ、なんか、あたしの思ってた方向と違ってきてる気がするんですけど……?

『記憶を取り戻して混乱もするでしょうけど、このひとたちがついていれば、だいじょうぶね』
 くすっと笑って、スゥエ女神さまは、あたしを胸に抱き寄せる。
 柔らかさと、ぬくもりを感じる。
 不思議な感覚だ。

 けれども確かにセレナンの女神スゥエさまは肉体を持ってはいないのだろう。
 固体と見紛うほどに凝縮されたエネルギーの存在と波動を感じる。

 頬、頭、肩、皮膚。触れているところから、凄く強いエネルギーが、入ってくる。

 視界が澄み渡ってクリアになっていく。

「さあ、そっと降りて」

 スゥエ女神さまの膝から、あたしは滑り降りる。
 そっと足を地面につける。
 周囲はオールクリア。

『アイリス、上を見てごらんなさい』

「はい?」
 言われて見上げれば、何か、小さな物体が中庭(パティオ)の遙か上空を高速で飛んでいくのがわかった。

「うわぁ速っ! あ、あれは!?」

『あれは情報収集装置。赤い魔女の放っている『魔天の瞳』なのです」

「だ、だだだいじょうぶなんですか!?」
 思わず噛んでしまった。

『ええ。この中庭は《精霊の屋根》で覆いました。赤い魔女の『魔天の瞳』がスキャンしても、誰もいないごく通常の中庭の景色しか捉えられないで通過しました。危険はありません』

「でも、あれは危険なんでしょう」

 ……どきどきする。
 だって魔女だよ!

『案ずることはありません。現時点で、赤い魔女がわたしたちの邂逅を知ることさえなければ問題ないのです。それより契約した精霊たちを、改めて、よく見てやりなさい。未来永劫にわたり、あなたの守護精霊となることで、より強くこの世に縁を結び、確かな存在に進化しているのですよ』

「守護精霊たち?」

 瞬きをしてあたりを見回す。
 三人のきれいな女性達がいた。
 両手を広げて、ものすごく嬉しそうに笑ってる。

『アイリスアイリス!』
『よかった無事で』
『契約できてよかった~』

「えっと。あなたたち……誰?」

『『『ええええええ~! ひっど~い!!! わたしたちよ! 守護精霊よ!!!』』』

「……やっぱり? ごめんなさい、そうかなあと思ったんだけど。みんな、すっごく大人っぽくなっちゃってるんだもん」

 あたしは笑った。
 三人の精霊たちも、嬉しそうに笑っているから。
 
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