転生幼女アイリスと虹の女神

紺野たくみ

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第二章 アイリス三歳『魔力診』後

その36 黒竜(アーテル・ドラコー)の部屋

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      36

 お師匠さまに抱っこされて、一息ついて。
 だけど緊張感はとれない。
 さっき、とうていスルーできないことを聞いた。
「あなたは精霊さま!?」

「もちろんだとも」
 満面の笑みで、胸を張って。
「こんなにも美しいわたしが、ただの人間なわけはないだろう」

 この瞬間、納得したわ。

 たとえ夢にも見たことのない、どんなに神々しく麗しい存在であっても、確かに、この精霊さまは、カルナックさまのお師匠さまに違いないって。

 あたしを腕に抱いて、ため息をつく、お師匠さま。
「この子が初めて出会う精霊があなただとは大いに残念ですよ、グラウケー」

 ちょっぴり皮肉?
 けれど精霊さまは、にやりと笑っただけ。
「この子は孫弟子というわけだな。よろしく、わたしは第一世代の精霊グラウケー。世界の大いなる意志に最も近しい存在である。ヒトは好まぬが中には美しい魂もあると知っている。歓迎しよう、孫弟子」

「ありがとうございます、お師匠さまのお師匠さま。アイリスです」

「ねぇ、仲間に入れてよ! ここはボクの巣だって忘れてないかな?」
 不満を訴えたのは、黒髪の、メイド服の少女だった。
「歓迎するよ、新しいお客様は久しぶりだ。ボクは、アーテル」

 鏡の中だと言われた部屋を眺めやる。

 散らかったワンルーム? という印象は変わらない。

「まあまあ、くつろいで。せっかく、ボクの『巣』へ来てくれたんだ。ボクって面倒くさがりだから。ずっと鏡の中に巣ごもりしてたんだよね」

 テーブルとソファの応接セット。
 大人の背丈ほどもありそうな……地球儀!?
 おまけに月球儀、それに、もうひとつ。

 ずいぶん海の面積が広い。でも、よく見れば大陸の形は、アメリカ大陸とヨーロッパをくっつけたような感じ。
 これって何なのかな?

 床に散乱してるのは、一番多いのは、おもちゃ。
 積み木や、チェス、まさかと思うけど、将棋盤!?
 動物ぬいぐるみ、カードゲーム、それに本……羊皮紙に手描きされた写本に、大判の絵本もあるわ。
 印刷された文庫本みたいなのまである。

 不思議なのは、テーブルに、どう見てもパソコンのモニターがあるってこと。

 洋服は、作られた時代も国もバラバラで、子供服もあれば男性向けも女性向けも揃っていて魔法使いのローブもあれば商人、戦士、剣士、貴族向けみたいなもの、そうかと思えば、まるで地球の……たとえば21世紀の日本、パリ、ミラノ、ニューヨークで人気があったブランドのもの。

 おかげで、今はアイリスを守るために表層に出ている意識、イリス・マクギリスが大興奮しちゃってるの。

「すごいすごい! なにこれ見本市!?」
 思わず叫んだイリス・マクギリス。

「なんか、わかんなあい。人間のものって、面白いから。いろいろ集めて、とっておいたのさ。ここでは、時間の経過はないようなものだしね」
 くすくすと笑う、黒髪の少女。

 あら?

 女の子じゃ、ない。
 それどころか、人間ではなくて。
 ドラゴンだった。
 さっきセラニス・アレム・ダルを背中に乗せていたルシファーはドラゴンとしては、小さかったんだなって思う。
 二階建ての家くらいの大きさで、ファンタジーRPGに登場したような姿で、全身は真っ黒。光を吸い込んでしまうみたいな、つやのない黒い鱗にびっしり覆われている。

「ありゃ」
 くすすっと。
「ボクの『本性』を見ちゃったね、きみ。アリス・月宮」
 笑ったのだろう。黒い竜が身震いして、鱗が、波打つようにさざめいた。

「この『コーディネート』気に入ってるんだよ?」
 もう一度、ぶるっと身震い。
 すると、黒いメイド服をまとった、十二歳くらいの少女になった。
 ……さっきより少し成長してるわ……

「初めまして、ボクはこの『巣』の主、黒竜(アーテル・ドラコー)だ。うふふふふふ! 知ってるかもしれないけど、カルナックに『黒曜の杖』を与えたのは、ボクなんだよ」

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