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第二章 アイリス三歳『魔力診』後
その29 過去の、別の可能性
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29
深い夢の中に沈んでいく、あたしは。
薄れてく意識の中で、ぼんやりと考えていた。
なんでさっき、尋ねなかったんだろう。
サファイアさんは、『カルナックさまの遠い親戚の子孫』
ルビーさんは『脳筋ガルガンドには珍しい、ガルガンチュア並みの魔力持ち』
気になるキーワード満載だったのに!
それにレントゲンだのMRIだのって。
地球の、日本人の転生者じゃないの?
あたしと同じ『先祖還り』?
ダメだ、あたし。『月宮アリス』!
いっつも、大切なことを聞き流してない? 巻き込まれるままに生きてきてないかしら?
せっかく生まれ変わったの、異世界転生したのよ。
人生に消極的じゃ、ダメだ!
もっと、頑張らなきゃ……!
※
「どうしたんだい、月宮さん。さっきから、ぼんやりして」
「え?」
はっと、我に返った、あたし。
月宮アリス。
ここはどこ?
雰囲気のいい、落ち着いた店内。
聞こえてくる音楽は、ピアノの生演奏だ。
白いクロスがかかったテーブル席。
向かい側には、以前からちょっと素敵だなって好意を持っている相手……最上霧湖さんがいて。
ああ……思い出した。
あたしの二十歳の誕生日の夜。
ちょっぴりおめかしして、デートなの。
「何でもないの! 初めてのワインで、酔っちゃったかも! でも、すごくおいしかったです」
「よかった、喜んでくれて」
どうしよう、ほんとに酔ってる?
頬が熱い。
新宿の高層ビル。
有名な高級レストラン。
デートで、フレンチのディナーコースをいただいているところ。
だけどドキドキして、楽しむなんてゆとり、ないわ!
「ぼくも嬉しいよ、アリスちゃんと、こうして、晴れて一緒にいられるなんて」
「あたしもよ、最上(さいじょう)さん。平穏でいられるって素晴らしいわ。いつも助けてくれて、ありがとう。ストーカー事件のときだって、解決できたのは、あなたとジョルジョさんのおかげよ」
「それはぼくの手柄じゃない。並河社長や、香織さんたちのおかげだ。あの人たちには返しきれない恩がある。……でも、きみのためなら、ぼくはなんでもする。なんでもできる」
「だめよ、なんでもするなんて、言っちゃだめなんだから」
あら? あたしはなんで、そんなことを思うのかしら?
「でもきみは、アイドルを引退してくれただろう? ぼくのために」
「……あら。最上さんのためだけじゃ、ないんですからねっ!」
「ははははは」
「そりゃ、最上さんと、落ち着いて、騒がれないでデートしたり、将来のことも考えて……ですけど。サヤカは留学して本格的な歌手を目指すし、あたしは、ささやかな幸せが……欲しかったから」
最上さんとの。
って、言いかけて、やめた。
だって、あんまり、彼が幸せそうに笑うから。
最上霧湖さん。
あたしより二つ上。社会人なの。イケメンじゃないけど、温かくて優しい笑顔、大好き。
どんどん顔がほてっていくから、恥ずかしくて、目をそらした。
窓から見える夜景が、とてもきれい。
「スカイツリーも、東京タワーも、やっぱり、いいね」
「あたしもそう思うわ! どっちも、素敵」
ライトアップされた、タワー。
街の明かりの間を、首都高速が走って。
「きれいね。まるで光の河みたい」
走る車のライトが、不思議な光景を演出している。
眼下を流れる光の大河。
だけど、デジャ・ヴ?
光の河を見ていると、なんだか、前にもこんなことがあった、ような気がするの。
いつかTVで見たのかしら。
ふいに涙が、溢れた。
あとからあとから、こぼれ落ちる。
「どうしたんだい、アリスちゃん」
「あら……? おかしいわ」
なんであたしは泣いているんだろう?
こんなに幸せなのに。
※
……違う。
心のどこかで、知っていたの。
これは、あたしの《本来の過去》じゃ、ないって。
だけど、この、《別の可能性の》過去の、記憶は、危険なほどに甘美で。
本当にそうだったら、どんなに良かっただろう。
深い夢の中に沈んでいく、あたしは。
薄れてく意識の中で、ぼんやりと考えていた。
なんでさっき、尋ねなかったんだろう。
サファイアさんは、『カルナックさまの遠い親戚の子孫』
ルビーさんは『脳筋ガルガンドには珍しい、ガルガンチュア並みの魔力持ち』
気になるキーワード満載だったのに!
それにレントゲンだのMRIだのって。
地球の、日本人の転生者じゃないの?
あたしと同じ『先祖還り』?
ダメだ、あたし。『月宮アリス』!
いっつも、大切なことを聞き流してない? 巻き込まれるままに生きてきてないかしら?
せっかく生まれ変わったの、異世界転生したのよ。
人生に消極的じゃ、ダメだ!
もっと、頑張らなきゃ……!
※
「どうしたんだい、月宮さん。さっきから、ぼんやりして」
「え?」
はっと、我に返った、あたし。
月宮アリス。
ここはどこ?
雰囲気のいい、落ち着いた店内。
聞こえてくる音楽は、ピアノの生演奏だ。
白いクロスがかかったテーブル席。
向かい側には、以前からちょっと素敵だなって好意を持っている相手……最上霧湖さんがいて。
ああ……思い出した。
あたしの二十歳の誕生日の夜。
ちょっぴりおめかしして、デートなの。
「何でもないの! 初めてのワインで、酔っちゃったかも! でも、すごくおいしかったです」
「よかった、喜んでくれて」
どうしよう、ほんとに酔ってる?
頬が熱い。
新宿の高層ビル。
有名な高級レストラン。
デートで、フレンチのディナーコースをいただいているところ。
だけどドキドキして、楽しむなんてゆとり、ないわ!
「ぼくも嬉しいよ、アリスちゃんと、こうして、晴れて一緒にいられるなんて」
「あたしもよ、最上(さいじょう)さん。平穏でいられるって素晴らしいわ。いつも助けてくれて、ありがとう。ストーカー事件のときだって、解決できたのは、あなたとジョルジョさんのおかげよ」
「それはぼくの手柄じゃない。並河社長や、香織さんたちのおかげだ。あの人たちには返しきれない恩がある。……でも、きみのためなら、ぼくはなんでもする。なんでもできる」
「だめよ、なんでもするなんて、言っちゃだめなんだから」
あら? あたしはなんで、そんなことを思うのかしら?
「でもきみは、アイドルを引退してくれただろう? ぼくのために」
「……あら。最上さんのためだけじゃ、ないんですからねっ!」
「ははははは」
「そりゃ、最上さんと、落ち着いて、騒がれないでデートしたり、将来のことも考えて……ですけど。サヤカは留学して本格的な歌手を目指すし、あたしは、ささやかな幸せが……欲しかったから」
最上さんとの。
って、言いかけて、やめた。
だって、あんまり、彼が幸せそうに笑うから。
最上霧湖さん。
あたしより二つ上。社会人なの。イケメンじゃないけど、温かくて優しい笑顔、大好き。
どんどん顔がほてっていくから、恥ずかしくて、目をそらした。
窓から見える夜景が、とてもきれい。
「スカイツリーも、東京タワーも、やっぱり、いいね」
「あたしもそう思うわ! どっちも、素敵」
ライトアップされた、タワー。
街の明かりの間を、首都高速が走って。
「きれいね。まるで光の河みたい」
走る車のライトが、不思議な光景を演出している。
眼下を流れる光の大河。
だけど、デジャ・ヴ?
光の河を見ていると、なんだか、前にもこんなことがあった、ような気がするの。
いつかTVで見たのかしら。
ふいに涙が、溢れた。
あとからあとから、こぼれ落ちる。
「どうしたんだい、アリスちゃん」
「あら……? おかしいわ」
なんであたしは泣いているんだろう?
こんなに幸せなのに。
※
……違う。
心のどこかで、知っていたの。
これは、あたしの《本来の過去》じゃ、ないって。
だけど、この、《別の可能性の》過去の、記憶は、危険なほどに甘美で。
本当にそうだったら、どんなに良かっただろう。
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