上 下
60 / 360
第二章 アイリス三歳『魔力診』後

その27 キノコ栽培キット

しおりを挟む

         27

 魔力を糧に育つキノコ。
 初耳です。
 びっくりです。
 さすが剣と魔法の(?)異世界だわ!

 ベッドの下には色とりどりのキノコが、50センチ四方くらいの絨毯みたいに生えていたの。
 ちょっと、引くわー。

 ところで。
 ここでエルナトさまが驚きの発言をしたのです。

「ああそれ。わたしが仕掛けておいたんだ。キノコ栽培キット」

「エルナトさま?」
 あたしは耳を疑った。
 前世の日本で大人気だった、可愛い茶色いキノコのことを思い出したから。
 ……まさか、ねえ?

「サイテーよ! エルってば!」
「ほんとだよ! 懲りないな!」

 サファイアさんとルビーさんからの非難を思いっきり浴びせられたのは、隠し部屋の所有者であるエステリオ・アウル叔父さまではなく、エルナトさまだったのです。

「この前来たとき、魔力吸収キノコ栽培キットを仕掛けておいて正解だったよ。どの種類もまんべんなく育ってる。思った通りだ」

 エルナトさまったら、二人の非難をものともせず、満足げに頷く。

「親友だと思ってたのに」
 エステリオ叔父さまは衝撃を受けている。

「わたしは『ちょっとコレ持ってて』って渡されたポーチの中で『毒』の結晶と毒キノコを栽培されてたのよ!」
 と、サファイアさん。

「あたしは『火の結晶』『筋力増強キノコ』を育てられてた!」
 興奮してるルビーさん。

「おかしいかな? どうせ魔力は常に体の中で生成され続けている。使いきれなければ外へ溢れて垂れ流されるだけなんだから、貯めておいて有効利用したほうが」

 意外だけどエルナトさまって、もしかして……

「このマッドサイエンティスト!」
 ルビーさんの鋭い蹴りが瞬時に炸裂。
 けれどエルナトさまはほんの少しの動きでルビーさんの蹴りをよけたのです。

 こういうのは確か『攻撃を見切る』っていうのよね?
 実はすごい格闘能力に優れた人なのかしら!?

 ……え?
 マッドサイエンティスト?
 って英語? 日本語の外来語?


「エステリオ・アウルは全属性の魔力を持っているから、いい感じにキノコが育つと思っていたんだ。予想通り豊作だったよ」
 欠片ほどの悪意も感じられない爽やかな笑顔でエルナト・アル・フィリクス・アンティグアさまは言い切った。
 ……そういえば、この方のおうちは、大貴族だった~!
 きっと平民とは常識が違うのだわ。

「余剰魔力は活かしてこそだよ。たとえばアイリス嬢なら……花かな? ドライフラワーにしたら」

「それはダメだ!」
 間髪入れず。
 エステリオ叔父さまがきっぱりと断ってくれたのです。
(すてき!)
 ちょっぴり頼もしく感じたのは、ないしょ。

 ついにルビーさんが、
「いい加減にしろ!」
 どこからか取り出したハリセンみたいなものでエルナトさまの頭を思いっきり、はたいたのでした。
 そういえば以前にもコマラパ老師さまがカルナックさまに使ってたような気がするわ!

         ※

「さて、ここなら誰に話を聞かれる心配もない。まずは、自己紹介といこう。本当の、な」
 にかっと笑って、指をこきこき鳴らした、ルビーさん。

「あたしはルビー=ティーレ・トリグバセン」
 金髪にペリドット色の目、透き通るような白い肌をした、外見は十四、五歳の、北欧系美少女。

「サファイア=リドラ・フェイ」
 挑戦的に微笑むのは、
 腰まで届く長い黒髪に黒い目、長身で、ミルクティー色の肌をした、二十歳くらいの美女。

「彼女たちは、今回はエルナトの助手としてやってきたわけだけど、本来は魔道士協会に所属するフリーの冒険者なんだよ」
 エステリオ・アウル叔父さまの笑顔、ちょっと引きつってるような。
 
「ぼうけんしゃ、さん? すごいです!」
 あたし、アイリスは、素直に感嘆しています。
 冒険者って。ますますファンタジーな異世界なのね!
 
「うふふふふ! いい子ねえ。気に入っちゃったわ!」
「そうだね。エステリオ・アウルが自慢するわけだ!」

 叔父さまったら。

「サファイアとルビーは、ここ最近、カルナック師匠の護衛をしているんだよ」
 エルナトさまは、楽しそうな満面の笑顔です。

「ここが肝心なんだけどさ」
 ルビーさん、さりげなく口にした。
「サファイアとルビーっていうのは役職名だからね」

「え?」

「うふふふっ。驚いた? サファイアはこの世界では『スーリア』ルビーは『フェードラ』と呼ばれている宝石のことよ。そして、何代にもわたってカルナック様の護衛を受け持つ者が名乗るコードネームってわけなのよ~」

「この世界、セレナンからすれば、サファイアとルビーは、異世界で使われていた宝石の名称なんだよ。アイリス嬢は、知ってるようだね?」
 エルナト・アル・フィリクス・アンティグアさまが、笑みを消して、真顔で言った。


 どこまで?
 どこまでバレてるの?  

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。 ※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...