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第二章 アイリス三歳『魔力診』後
その25 セーフルーム
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25
あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルは、エステリオ叔父さまの書斎兼自室にいます。
いっしょにいるのは医師のエルナトさま、その助手のサファイアさんとルビーさん。
これから「隠し部屋」に入るのだと教えてもらったところ。
※
突き当たりの壁の前の床に、銀色に光るサークルが浮かび上がっている。
ぴりぴりって、細かい振動が伝わってくる。
なんていうか……!
もっのすごく、魔法でファンタジーな感じだわ!
大魔法使いカルナックさまや竜神の加護を得ているコマラパ老師さまだとか、規格外な方たちを見てきてはいるのだけれど。
「うわあ! すごいわ、魔法陣!」
思わず叫んでしまった。
だってしょうがないと思う!
転生してまだ三年の幼女ですから。
しかも虚弱だしお外へ出たことないし。
お父さまとお母さま、エステリオ叔父さまと、家で働いてくれているひとたち以外は、親戚に会ったのも三歳の誕生日に行われた『魔力診』のあとのお食事会が初めてだったのよ!
というわけで魔法陣。
よく観察してみると、コマラパ老師さまがカルナックさまを呼ぶのに展開したものとは、ちょっと違う感じがする。種類が違うの?
「ねえねえ、叔父さま、これに乗るの?」
あたしを抱っこしてくれてるエステリオ・アウル叔父さまを見上げる。
「そうなんだけど……」
エステリオ叔父さまは、なぜか困惑したような微妙な表情をしていた。
「アイリスちゃん、そんなに喜んでもらってるのに悪いんだけど」
言いにくそうに、サファイアさん。
「あのね、これは魔法陣じゃないのよ」
「ええっ!? だってこんなに、光って浮かび上がって」
「確かにな」
同意してくれたのはルビーさん。
「現在のこのエルレーン公国首都シ・イル・リリヤでは、王侯貴族や富裕層には、かなり普及している設備だけど、驚くべき魔法の技が結集した成果だってことは間違いない。まあ、魔法陣じゃないけどな」
「あ、そういえば……そうでしたね」
あたしはきょとんとして。
早とちりしたみたいだわ。
転移魔法陣というものは、すごく便利そうだけど。
我が家にはなかったから。多忙で有名なお医者さまのエルナトさまに診療に来ていただくために、こんど、あらたに設置してもらうことになったのだったわ!
「そう気落ちしないで。魔法陣ではなくても、近いものだから」
エルナトさまは、慰めてくださったの。
すごく優しいひとだなあ。
そして銀色のサークルの正体は、鍵だったのです。
叔父さまは、あたしを抱っこしたまま、サークルに足を踏み入れた。
続いてサファイアさん、ルビーさん、エルナトさま。
全員が銀色の輪の中に立ったとき。
部屋の奥の突き当たりの壁に、似たような銀色の輪が出現したのです。
「二段階認証だよ」
あたしを抱っこして微笑んだ、叔父さま。
「ここに我が証をしめす」
ひとこと、鋭く言った。
そしたら……
「うっそぉ!」
うにょん。
不思議な音がして、壁に浮かんだ銀色のサークルの中が、透き通った。
ていうか、穴が、あいたの!
「なななななにコレ! 見えてるの、もしかして壁の向こう側!?」
「もちろん」
「当然みたいに言わないで叔父さま!」
動転したあたしは、三歳幼女のふりをするのをすっかり忘れていたのだけれど。そのうち、そんなこと、どうでもよくなった。
普通の部屋みたいな、眺めだった。
「だけど、おかしいわ!」
「どうして?」
「叔父さまの部屋の壁! 向こう側は、リネン室だったはずでしょ? シーツとか毛布とかクロスとか……! なのに、見たこともないお部屋があるわ!?」
「そうだよ、あれは、通常ならば、あるはずのない隠し部屋だからね」
叔父さまは、微笑んで。
「アイリス。わたしの大切なイーリス。『セーフルーム』へ、ようこそ」
あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルは、エステリオ叔父さまの書斎兼自室にいます。
いっしょにいるのは医師のエルナトさま、その助手のサファイアさんとルビーさん。
これから「隠し部屋」に入るのだと教えてもらったところ。
※
突き当たりの壁の前の床に、銀色に光るサークルが浮かび上がっている。
ぴりぴりって、細かい振動が伝わってくる。
なんていうか……!
もっのすごく、魔法でファンタジーな感じだわ!
大魔法使いカルナックさまや竜神の加護を得ているコマラパ老師さまだとか、規格外な方たちを見てきてはいるのだけれど。
「うわあ! すごいわ、魔法陣!」
思わず叫んでしまった。
だってしょうがないと思う!
転生してまだ三年の幼女ですから。
しかも虚弱だしお外へ出たことないし。
お父さまとお母さま、エステリオ叔父さまと、家で働いてくれているひとたち以外は、親戚に会ったのも三歳の誕生日に行われた『魔力診』のあとのお食事会が初めてだったのよ!
というわけで魔法陣。
よく観察してみると、コマラパ老師さまがカルナックさまを呼ぶのに展開したものとは、ちょっと違う感じがする。種類が違うの?
「ねえねえ、叔父さま、これに乗るの?」
あたしを抱っこしてくれてるエステリオ・アウル叔父さまを見上げる。
「そうなんだけど……」
エステリオ叔父さまは、なぜか困惑したような微妙な表情をしていた。
「アイリスちゃん、そんなに喜んでもらってるのに悪いんだけど」
言いにくそうに、サファイアさん。
「あのね、これは魔法陣じゃないのよ」
「ええっ!? だってこんなに、光って浮かび上がって」
「確かにな」
同意してくれたのはルビーさん。
「現在のこのエルレーン公国首都シ・イル・リリヤでは、王侯貴族や富裕層には、かなり普及している設備だけど、驚くべき魔法の技が結集した成果だってことは間違いない。まあ、魔法陣じゃないけどな」
「あ、そういえば……そうでしたね」
あたしはきょとんとして。
早とちりしたみたいだわ。
転移魔法陣というものは、すごく便利そうだけど。
我が家にはなかったから。多忙で有名なお医者さまのエルナトさまに診療に来ていただくために、こんど、あらたに設置してもらうことになったのだったわ!
「そう気落ちしないで。魔法陣ではなくても、近いものだから」
エルナトさまは、慰めてくださったの。
すごく優しいひとだなあ。
そして銀色のサークルの正体は、鍵だったのです。
叔父さまは、あたしを抱っこしたまま、サークルに足を踏み入れた。
続いてサファイアさん、ルビーさん、エルナトさま。
全員が銀色の輪の中に立ったとき。
部屋の奥の突き当たりの壁に、似たような銀色の輪が出現したのです。
「二段階認証だよ」
あたしを抱っこして微笑んだ、叔父さま。
「ここに我が証をしめす」
ひとこと、鋭く言った。
そしたら……
「うっそぉ!」
うにょん。
不思議な音がして、壁に浮かんだ銀色のサークルの中が、透き通った。
ていうか、穴が、あいたの!
「なななななにコレ! 見えてるの、もしかして壁の向こう側!?」
「もちろん」
「当然みたいに言わないで叔父さま!」
動転したあたしは、三歳幼女のふりをするのをすっかり忘れていたのだけれど。そのうち、そんなこと、どうでもよくなった。
普通の部屋みたいな、眺めだった。
「だけど、おかしいわ!」
「どうして?」
「叔父さまの部屋の壁! 向こう側は、リネン室だったはずでしょ? シーツとか毛布とかクロスとか……! なのに、見たこともないお部屋があるわ!?」
「そうだよ、あれは、通常ならば、あるはずのない隠し部屋だからね」
叔父さまは、微笑んで。
「アイリス。わたしの大切なイーリス。『セーフルーム』へ、ようこそ」
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