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第二章 アイリス三歳『魔力診』後
その17 一流のハウスキーパー(修正しました)
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急にローサの表情がこわばったので、あたしは驚いてしまった。
「お、お嬢様! いまのは、ただの噂ですから!」
真っ赤な顔になって、あわてて打ち消そうとする。
どうしたのかしら?
言ってはいけないことだったの?
三歳の幼女アイリスにはわからないことだ。
アイリスの意識と融合している、前世では21世紀の日本に生きていた、十五歳で死んだ女子高生で、この世界に転生した月宮アリスにも、推測もできない。
あたしたちの意識の内側にいるイリス・マクギリスには、何かがわかっているみたいだけど。
(あとでエステリオ叔父さまにしっかり尋ねておかなくちゃ!)
なんて、張り切っているみたいだもの。
ひとりで楽しそうなイリス・マクギリスは、放っておくとして。
「おちついて、ローサ。アイリスはだれにもいわないわ。でもね、これからも、そうやって、おそとできいたお話を聞かせてほしいの。わたしはせけんしらずだもの。ローサ、おねえさんみたいだから。だいすき」
「お、お嬢様ったら」
ローサの顔が、赤くなった。
きっと、もうだいじょうぶ。
「それに、もうちょっとしたらエウニーケさんたちが来てお着替えをさせてくれるから、そのまえにベッドメイクをしておくでしょ? いま起きるわね」
ベッドの上に乗っかっている子犬のシロとクロを少し押しのけて、手を伸ばす。
「はい、お嬢様」
笑顔が戻ったわ。
ローサは手を添えて、あたしが起き上がるのを助けてくれた。
寝間着の上に柔らかく軽いガウンをはおらせてもらって、スツールに腰をおろしたあたしは、ローサがシーツを取り替え、しわをのばしてピンと張って整えているのを見ながら、意識の内側ではイリス・マクギリスが素早く思考を巡らせているのを感じていた。
(さてと、ローサが失言したのはどこ?)
イリス・マクギリスは、ローサの言葉を振り返ってみる。
ルーナリシア公女さまが三歳で『魔力診断』を無事に終えたお祝いに、庭を一般公開して庶民にも知らせるのは、誰の耳に入ってもかまわない、めでたい行事だ。
で、あれば。
(まずいのって、カルナックお師匠さまがフィリクス公嗣の後ろ盾になったっていう部分じゃない?)
だって普通考えたら、逆でしょ?
魔道士協会にとって、権力者のパトロンがいれば力強い。
その逆?
パトロン……後援団体。
それに……今までルーナリシア公女さまの噂は聞いたことがない。
よく言われているならわしでは、三歳までは、精霊に近いから、外の人に子供を会わせないものだって。
やっと無事に大きくなったってことね。
ところで後ろ盾になるって、具体的には、どうするのかしら?
ひょっとして、この宴で、カルナック様が発表するのだったりして!
……なんちゃってね~。
※
「おはようございますお嬢様!」
メイド長エウニーケさんが、四人のメイドさんたちを引き連れて子供部屋にやってきた。
(今日の担当はレンピカ、エマ、ナディア、ケーティね)
シルルがささやく。
風の妖精さん。あたしが目もあいてない頃に、光のイルミナと一緒に我が家にやってきて、守護妖精になってくれたの。
だから今ではすっかりラゼル家で雇われている顔ぶれに詳しくなっている。
(アイリスは「幸福のお嬢様」だから。お世話をしたら一日中幸せでいられるって、メイドさんたちがみんなやりたいって名乗り出るから、エウニーケさんは仕事を割り振るのに苦労しているのよ)
こう教えてくれたのはイルミナ。光の妖精さん。
話題のエウニーケさんは、「できる女」タイプ。
背が高くて姿勢がぴんとしていて、颯爽と歩く。
(エウニーケさんはね、ハウスキーパーっていう上級な役職よ。よっぽど裕福な家じゃないと、正当なお給料を払えなくて雇えないくらい有能な人材なのよ)
イリス・マクギリスの意識が、アイリスに教えてくれる。
赤褐色の豊かな髪をアップにして、灰緑色の目は鋭い。相変わらず年齢不詳の美人なエウニーケさん。
ふと考える。
まるで何年も、老いていないみたい……。
そんなことって、ある?
「さ、お召し替えを。今朝は、大切なお客様がいらしていますよ」
にっこり微笑んだ。
「おきゃくさま?」
首をかしげる、アイリス。
「わたし……アイリスもしってるひとなの?」
「ええ。よくご存じのお方ですよ」
満面の笑みを浮かべたエウニーケさん。
その両脇に、シロとクロがすり寄って、顔を彼女の手に押しつける。
朝の挨拶をしているみたい。
「いい子ね。今日も、お嬢様を守ってね」
子犬たちの頭を撫でて、エウニーケさんは微笑む。
「ローサ、今朝のお召し物は、こちらの、少しだけよそ行きのにします。レンピカ、エマ。お嬢様の御髪を整えてさしあげて。編み込みや髪飾りは不要だわ」
メイドさんたちが、てきぱきと、着替えさせてくれる。
ローサは、ちょっと動きがぎくしゃくしていたけれど、だいじょうぶ。しっぱいはしていないわ。
お客さまって、誰かしら?
急にローサの表情がこわばったので、あたしは驚いてしまった。
「お、お嬢様! いまのは、ただの噂ですから!」
真っ赤な顔になって、あわてて打ち消そうとする。
どうしたのかしら?
言ってはいけないことだったの?
三歳の幼女アイリスにはわからないことだ。
アイリスの意識と融合している、前世では21世紀の日本に生きていた、十五歳で死んだ女子高生で、この世界に転生した月宮アリスにも、推測もできない。
あたしたちの意識の内側にいるイリス・マクギリスには、何かがわかっているみたいだけど。
(あとでエステリオ叔父さまにしっかり尋ねておかなくちゃ!)
なんて、張り切っているみたいだもの。
ひとりで楽しそうなイリス・マクギリスは、放っておくとして。
「おちついて、ローサ。アイリスはだれにもいわないわ。でもね、これからも、そうやって、おそとできいたお話を聞かせてほしいの。わたしはせけんしらずだもの。ローサ、おねえさんみたいだから。だいすき」
「お、お嬢様ったら」
ローサの顔が、赤くなった。
きっと、もうだいじょうぶ。
「それに、もうちょっとしたらエウニーケさんたちが来てお着替えをさせてくれるから、そのまえにベッドメイクをしておくでしょ? いま起きるわね」
ベッドの上に乗っかっている子犬のシロとクロを少し押しのけて、手を伸ばす。
「はい、お嬢様」
笑顔が戻ったわ。
ローサは手を添えて、あたしが起き上がるのを助けてくれた。
寝間着の上に柔らかく軽いガウンをはおらせてもらって、スツールに腰をおろしたあたしは、ローサがシーツを取り替え、しわをのばしてピンと張って整えているのを見ながら、意識の内側ではイリス・マクギリスが素早く思考を巡らせているのを感じていた。
(さてと、ローサが失言したのはどこ?)
イリス・マクギリスは、ローサの言葉を振り返ってみる。
ルーナリシア公女さまが三歳で『魔力診断』を無事に終えたお祝いに、庭を一般公開して庶民にも知らせるのは、誰の耳に入ってもかまわない、めでたい行事だ。
で、あれば。
(まずいのって、カルナックお師匠さまがフィリクス公嗣の後ろ盾になったっていう部分じゃない?)
だって普通考えたら、逆でしょ?
魔道士協会にとって、権力者のパトロンがいれば力強い。
その逆?
パトロン……後援団体。
それに……今までルーナリシア公女さまの噂は聞いたことがない。
よく言われているならわしでは、三歳までは、精霊に近いから、外の人に子供を会わせないものだって。
やっと無事に大きくなったってことね。
ところで後ろ盾になるって、具体的には、どうするのかしら?
ひょっとして、この宴で、カルナック様が発表するのだったりして!
……なんちゃってね~。
※
「おはようございますお嬢様!」
メイド長エウニーケさんが、四人のメイドさんたちを引き連れて子供部屋にやってきた。
(今日の担当はレンピカ、エマ、ナディア、ケーティね)
シルルがささやく。
風の妖精さん。あたしが目もあいてない頃に、光のイルミナと一緒に我が家にやってきて、守護妖精になってくれたの。
だから今ではすっかりラゼル家で雇われている顔ぶれに詳しくなっている。
(アイリスは「幸福のお嬢様」だから。お世話をしたら一日中幸せでいられるって、メイドさんたちがみんなやりたいって名乗り出るから、エウニーケさんは仕事を割り振るのに苦労しているのよ)
こう教えてくれたのはイルミナ。光の妖精さん。
話題のエウニーケさんは、「できる女」タイプ。
背が高くて姿勢がぴんとしていて、颯爽と歩く。
(エウニーケさんはね、ハウスキーパーっていう上級な役職よ。よっぽど裕福な家じゃないと、正当なお給料を払えなくて雇えないくらい有能な人材なのよ)
イリス・マクギリスの意識が、アイリスに教えてくれる。
赤褐色の豊かな髪をアップにして、灰緑色の目は鋭い。相変わらず年齢不詳の美人なエウニーケさん。
ふと考える。
まるで何年も、老いていないみたい……。
そんなことって、ある?
「さ、お召し替えを。今朝は、大切なお客様がいらしていますよ」
にっこり微笑んだ。
「おきゃくさま?」
首をかしげる、アイリス。
「わたし……アイリスもしってるひとなの?」
「ええ。よくご存じのお方ですよ」
満面の笑みを浮かべたエウニーケさん。
その両脇に、シロとクロがすり寄って、顔を彼女の手に押しつける。
朝の挨拶をしているみたい。
「いい子ね。今日も、お嬢様を守ってね」
子犬たちの頭を撫でて、エウニーケさんは微笑む。
「ローサ、今朝のお召し物は、こちらの、少しだけよそ行きのにします。レンピカ、エマ。お嬢様の御髪を整えてさしあげて。編み込みや髪飾りは不要だわ」
メイドさんたちが、てきぱきと、着替えさせてくれる。
ローサは、ちょっと動きがぎくしゃくしていたけれど、だいじょうぶ。しっぱいはしていないわ。
お客さまって、誰かしら?
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