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第一章 先祖還り

その17 親戚デビュー。『魔力診』の夜会

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         17

 いろいろあった気がする『魔力診』も無事に(?)終わった。

 書斎の扉の外で待っていてくれたのは、乳母や、ローサ、メイド長のエウニーケさん。
 嬉しい!
 だけど、ちょっと考えた。
 メイド長なのに、こんなにも自ら率先して動いてくれているエウニーケさんって、働きすぎでは?

「よろしいのですよお嬢さま。わたくし、やりたいことしか、やっていませんから!」
 笑顔が眩しい!
 あたしの心を読み取ったような……
 でも、その宣言は、メイド長さんの立場的に、どうなんでしょうね?
 すっごく楽しそうなエウニーケさんです!

 お父さま、お母さま、エステリオ叔父さま、あたし、そしてコマラパ老師さまは、メイド長さんや乳母や、ローサを従え、書斎を出て広間へ向かう。
 あたしたちの頭上には守護妖精が飛び交い、彼女たちの軌跡に落ちる光の粉がキラキラと輝いている。
 もしも他の人が見たら、
 きっと、なかなかに厳かな、神秘的な眺めだと思うわ。

 あたしたちの移動に付き従ってくれている、メイド長を初めとする一行に、あらたに二人のメイドさんたちが加わった。みんな楽しそうにニコニコしてる。

『そりゃ嬉しいわよ。幸せを運ぶお嬢さまのおそば近くにいられるんだもの』
『楽しくてしょうがないはずよ。でも、だいじょうぶ、彼女たちもお仕事は心得てるわよ』

 妖精さんたちの言う通りでした。広間が近づいてきたら、メイドさんたちはニコニコ笑顔を消して、お仕事モードに入って表情を引き締めた。

 入り口に着く。
 有能な執事、バルドルさんの口上が響いた。

「お待たせ致しました、皆様。我がラゼル家当主ご一家がまいりました。そして、このたびの『見届け人』は魔導師協会から派遣されてくださっています」

 とたんに、賑やかな音楽が始まった。

 ダンスでも始まりそうな、楽しげな音楽の演奏をしてくれている、十人くらいのおじさんたちが見えた。
 出張してくれる楽隊さんなのかしら!?
 赤、青、緑、黄色、紫……鮮やかな、虹のような七色に染め分けられた布を肩にかけて、笛や竪琴、太鼓を叩いて自分たちも踊り出しそうなの!

 完全に、宴会のノリだわ。


 お父さまとお母さまは連れだって、奥のほうへ。
 二人で並んで、頭を下げます。
 乳母やに抱っこされた、あたしも隣へ。
 エステリオ叔父さまは、少し離れて佇みます。そばにはコマラパ老師が寄り添いました。

 たくさん並べられた丸いテーブルに、飲み物のグラスや、食べ物が盛られた大皿が並んでいる。
 飲食を堪能している人たちは、てんでにおしゃべりをしている。

 ご招待に応じていらしてくださってるのは、親族の方々だけのはずなんだけど。
 それでも数十名くらい、いらっしゃるかしら?

「旦那様。フェリース家ご夫妻がおいでです」
 バルドルさんのご案内で、お父さまは近づいてきた来客に向き直った。

 穏やかな顔をした初老のご夫婦。
 フェリース家?
 それって、お母さまの実家だったわよね?

「なんと愛らしいお子だ! アイリアーナの子どもの頃によく似ている。マウリシオ殿。このたびはアイリス嬢が無事に『魔力診』を迎えられて、まことめでたい。よかったよかった」
 赤ら顔の初老のおじさまは、上機嫌。

「アイリアーナ。お元気そうね。マウリシオさん、お噂はかねがね。首都シ・イル・リリヤから遠く離れているわたくしどものところにも、ラゼル商会のご発展のようすは、頻繁に伝わってきますもの。アイリアーナも、よい方に嫁いだと、この子の亡き両親も喜んでおりますことでしょう」
 色白の肌に淡い金髪の老婦人は、胸もとから取り出した小さなリネンのチーフを目に当てた。

「ありがとうございます、ルチアーノ伯父さま、イヴリン伯母さま。長い間、親代わりで、とてもよくしていただきました。本当にお世話になりました」
 お母さまは、つつましく答えて、微笑んだけれど。

 ……悲しそうに見えたの。

 アイリアーナお母さまのご両親は、亡くなっていたの?
 親代わりの親戚のかたは、遠くに住んでいる?

 ……じゃあ、お母さまは……とても……
 前世の両親と死に別れた(先に死んだのは、あたしの方だけど)あたしは、お母さまの心情を思うと、胸が、ぎゅっとしめつけられた。

 とても。とっても、悲しくて苦しくて辛かった。
 お母さま……!

「それにしても、先代のご当主は、いらしていないの? 奥さまとは親しくしていただいていましたけど、ご病気で療養しておられるとうかがいましたよ」
 老婦人が、憤慨する。

「ヒューゴー老は、性格はともかく、華やかな場を好んでいたと思いましたが」
 妙ですなと、ご老人は首をかしげる。

「お恥ずかしいです。わたくしが先代と仲違いをしておりますもので。我が家にお力添えしてくださるフェリース家の方々には、本当に感謝しております」
 お父さまは、フェリース家のお二人に頭を垂れた。

 すると伯父さまは慌てて手を振る。
「いやいや、頭をお上げください! ラゼル家に肩を並べるなど我が家には無理ですよ。ですがそうおっしゃっていただけるとは、ありがたい限り。どうぞ、これからも末永くご親交をお願いします」

「こちらこそ!」
 お父さまとフェリース家のご当主は、かたく握手を交わしました。

 これを皮切りに、次々と親族が挨拶にやってきたの。

 フェリース家の遠縁の方々や、ラゼル家の親戚一同や遠い親族。

 お父さまとお母さま、それぞれの伯父、伯母、いとこ。その子供?
 でも、いとこの結婚相手の、そのまたいとこの嫁の姉妹、とかって、もう血縁じゃないよね?
 それも親戚なの?

 父方のお祖父さまは、いないけれど。

 けっこう、大所帯なのね……。
 
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