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第四章 二人の寄り道が終わるまで
73.八月十六日、午前四時
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幽霊少年を見送った後、ララたちは真夜中の地上に戻ってきた。
倉庫捜索の目的は達成した。今後は押収した証拠を元に捜査を進めることになる。
(カルマン卿から事情を聞きたいところだけど……)
彼は会話ができる状態ではなかった。回復を待つため、一時的に王都の施設に収容されるらしい。
連行されるカルマンたちを見届け、この日の任務は終了した。
捜査局に着いた頃には、夜とは言い難い時間になっていた。
八月十六日、午前三時。
あと一時間で安眠の間が解ける。テオドールがグラント公爵家に入れるのだ。
ララは湯浴みをしながら、これからの予定を考えた。
(寝る直前までお喋りをして、私が眠っている間にテオはグラント公爵家に帰る。お昼過ぎにみなさんと別れの挨拶をして、夕方になったらジャスパーにお化粧をしてもらう。夜はお父様たちが用意してくださったドレスを着て、夜会で踊る。それで、最後は……大丈夫。絶対笑顔で見送る。大丈夫)
テオドールが神の元に帰るまで、二十四時間を切った。
両手でお湯をすくい、目元を流す。左右の口角に人差し指をあて、ぐいっと持ち上げてみた。さあ、浴槽から出ても、この形をキープだ。
湯浴みを済ませ、テオドールの私室に入る。
どんな話をしよう。夜会に着ていくドレスの色を当ててもらおうか。ダンスの練習をするのもありかもしれない。
「お待たせしました。今夜は私が寝るまでお喋りに……」
部屋の明かりをつけたララは、愕然とした。生まれて初めて神を恨んだ。
「悪い、ララ」
そう言いながら振り向いて、うんと優しく微笑んだ彼が――、
「帰る時間が、近いみたいだ」
テオドールが、消えかけていた。
「なん、で」
途端に息ができなくなった。空気がなくなってしまったみたいに。
神の元に帰る日は、本人の意思で決められるものではなかったのか。
へたり込んだところをテオドールに支えられ、二人でベッドに腰掛けた。存在を確かめるように、彼の体にしがみつく。
「まだご家族のそばで、過ごせていないのに」
「良いんだ。君が母に、俺の気持ちを伝えてくれたから」
「……ダンスを踊ってから帰るって、おっしゃっていたではありませんか」
「……ああ」
「死の真相が明らかになったから、この世への未練がなくなってしまったのですか」
「それは違う」
テオドールに両肩を掴まれた。
「未練ならある。ここに、大きすぎるのが」
(ならどうして、帰ってしまうの)
行かないで。ずっと隣にいて。嫌だ。離れたくない。
喉まで上がってきた言葉を、奥歯を噛みしめて必死に堪える。消えてしまう。大好きな彼が、いなくなってしまう。
最後にできることはないかと考えて、我に返った。
「み、みなさんに、連絡しないと」
捜査官たちは、まだテオドールに会えると思っている。別れの挨拶もできないなんてあんまりだ。
急いでサイドテーブルに置いていたイヤーカフを取り、震える手で起動した。
「ララです。テオに、時間が残されていなくて。なぜだか分からないのですが、帰ってしまいそうなんです。今テオの私室にいますので、どうか早く――」
「来なくて良い」
会いに来てください、と言う前に、体に入ったテオドールによって遮られた。
「まだ仕事が残ってるやつもいるだろ。さっさと終わらせろ。終わったらゆっくり休め」
「ちょ、そんな」
「お前ら、あとは任せた」
それだけ言って、テオドールは通信を切った。ララの体から出て、改めて隣に座る。先ほどより透明に近付いた彼の姿に、別れがすぐそこなのだと思い知らされた。
「……最後になるのですよ?」
「最後だからだ。帰る直前くらい、二人きりで過ごしたい」
テオドールは向かい合うように体勢を変えると、こちらをじっと見つめてきた。
「なあ、ララ。……俺は今から最低なことを言うが、許してくれよ」
伸びてきた腕に抱きすくめられ、テオドールの顔が見えなくなる。
「君と、もっと一緒にいたかった」
「――っ」
隣で笑ってほしかった。
修理している姿を眺めていたかった。
手を繋いで出掛けたかった。
朝から晩まで抱きしめていたかった。
ララ・オルティスは俺のものだと、この世の全てに自慢したかった。
耳元で吐露される、テオドールの願い。
懸命に堰き止めていた感情が、一瞬で溢れ出した。
「……っ、ひどい」
「俺もそう思う」
笑って見送りたかったのに、全然上手くいかない。震えているのが自分なのか彼なのかすら、分からない。
「俺が言わないと、君は我慢するから。まだ俺に言えてないこと、あるんじゃないのか?」
テオドールの言葉に驚き、涙で濡れた顔を上げた。
ララは彼に、話していないことがある。
自分がテオドール以外の人と添い遂げる未来はない。この先何年経っても、彼の変わりは現れない。ララにとってテオドールは、最初で最後だ。
だから勝手に覚悟を決めた。再び彼と出逢える日まで、何年でも何十年でも、来世まででも、一人で生きようと。
(直接伝えるのは、流石に迷惑だと思って……)
密かに誓ったつもりだったのだ。
こんな想いを伝えても良いのだろうか、と身を固くすると、テオドールがすねた声を出した。盛大なため息まで聞こえる。
「心外だな。俺の気持ちを甘く見積もりすぎだ」
「どういう意味ですか?」
「……君が好きな花の花言葉くらい、俺は知ってる」
耳を疑った。テオドールが花言葉を?
「君、言ったよな? ツェルソア植物園で。『この素敵なラベンダー畑に、あなたへの想いを誓います』って」
ぐいっと顔を近付けてきたテオドールに、何度も頷き返す。言った、言った、言いましたとも。
だって伝わるわけがないと思っていたから。
「俺が口説き文句に気付かないような男だと思ってたなら、大間違いだ」
ラベンダーの花言葉は――、
「『あなたを待っています』だろ?」
それまでの表情とは打って変わって、テオドールはいじわるな笑みを浮かべた。それでいて幸せそうだった。
彼は自分の誓いを、受け止めてくれていた。
堪らなく、好きだと思った。
「ララ」
見惚れていたら、額にふわりと何かが触れた。彼の唇だと理解した時には、目を閉じて受け入れていた。
瞼、こめかみ、目尻、頬と、少しずつ位置を変えて唇が降ってくる。
抱きしめてくれるたくましい腕。何度も名前を呼んでくれる低い声。柔らかい感触と時折聞こえるリップ音で、腰が砕けてしまいそうだ。
頭を撫でられ、髪をすかれ、吐息が耳をかすめると、その甘さに身をよじった。
耳の輪郭をなぞって頬に戻ってきた唇が、ララの唇の横をついばむようにして、離れた。
「続きは、次会った時にとっておく」
楽しみがあった方が早く生まれ変わりそうだしな、と揶揄うように言うテオドールの頬を、ララは両手で包み込んだ。熱に浮かされて、止められなかった。
彼の真似をして顔を寄せ、唇の横を控えめについばむ。
「もっと早く戻ってくる気に、なりましたか……?」
至近距離で尋ねると、「……なった」とだけ返ってきた。
どちらともなく、こつんと額を合わせる。
沈黙の後、力強く彼は言った。
「約束する。どれだけ時間がかかっても、君と生きるために、必ず戻ってくる」
――ララ、愛してる。
八月十六日、午前四時。
たったひとつの約束を残して、ララの愛しい人は、神の元に帰った。
目を開けると、体が鉛のように重かった。テオドールに体を貸していたからなのか、精神的なものなのか。
彼を見送った後の記憶がない。おそらく気を失ったのだろう。
なんとか起き上がって時計を確認すると、午前七時だった。
当たり前だが、部屋を見回してもテオドールはいない。彼の「おはよう」が聞こえない。
それだけでこんなに、寂しいなんて。
自動運転の魔道具のように、顔を洗って髪をとかし、服を着替える。
色褪せた世界に、ひとりぼっちになった気分だった。
部屋の空気を入れ替えよう。そう思って窓を見る。閉じられたカーテンの隙間から、日の光が差し込んでいた。
カーテンをつまみ左右に開けると、想像よりも眩しい。一度顔を背け、光に耐えながらしょぼしょぼと瞼を持ち上げる。
「あ――」
窓の外を見て、目が覚めた。
今日の空は、どこまでも澄んだ青だった。
『忘れるな。君の鼓動が止まる、その時まで。俺に愛されていることを』
彼の声が、聞こえた気がした。
(こんな顔をしていたら、怒られてしまいますね)
しばらく空を眺めていると、扉の方から物音がした。
不思議に思い、扉から顔を出す。しかし誰もいない。かわりにドアノブに紙袋がかかっていた。
部屋に入り、中の物を一つずつ取り出す。箱詰めのクッキー、リラックス効果がある紅茶の茶葉、刺繍入りのハンカチなどに加え、大量のメッセージカードが入っていた。捜査官たちが書いてくれたようだ。
自分たちだって、辛いはずなのに。
「……ひとりぼっちじゃ、ない」
テオドールが残してくれたものが、両手に収まりきらないほどある。
ララはもう一度窓の外を見た。空に向かって微笑み、支度を再開する。部屋を出た頃には、少し体が軽くなっていた。
「おはようございます!」
ジャスパーの執務室を訪れると、彼は寝不足気味な顔で書類を睨んでいた。
「ララ、あなた」
「お手伝いできること、ありますか?」
「そりゃあもう燃やしたいくらいあるけど、あなた今日は元々休みの予定だったし。それに……」
色々な意味で大丈夫なのか、と眉尻を下げて心配される。
「正直とっても落ち込んでいます。が、あなたにお願いがあるので、先払いで仕事をお手伝いします」
「お願い?」
「今日の夜会で、テオに笑っているところを見せたいんです」
ジャスパーには、これだけ言えば充分だった。
「任せなさい。世界一、可愛くしてあげる」
ララとジャスパーはガシッと握手を交わす。契約完了だ。
目で頷き合うと、早速仕事にとりかかった。
倉庫捜索の目的は達成した。今後は押収した証拠を元に捜査を進めることになる。
(カルマン卿から事情を聞きたいところだけど……)
彼は会話ができる状態ではなかった。回復を待つため、一時的に王都の施設に収容されるらしい。
連行されるカルマンたちを見届け、この日の任務は終了した。
捜査局に着いた頃には、夜とは言い難い時間になっていた。
八月十六日、午前三時。
あと一時間で安眠の間が解ける。テオドールがグラント公爵家に入れるのだ。
ララは湯浴みをしながら、これからの予定を考えた。
(寝る直前までお喋りをして、私が眠っている間にテオはグラント公爵家に帰る。お昼過ぎにみなさんと別れの挨拶をして、夕方になったらジャスパーにお化粧をしてもらう。夜はお父様たちが用意してくださったドレスを着て、夜会で踊る。それで、最後は……大丈夫。絶対笑顔で見送る。大丈夫)
テオドールが神の元に帰るまで、二十四時間を切った。
両手でお湯をすくい、目元を流す。左右の口角に人差し指をあて、ぐいっと持ち上げてみた。さあ、浴槽から出ても、この形をキープだ。
湯浴みを済ませ、テオドールの私室に入る。
どんな話をしよう。夜会に着ていくドレスの色を当ててもらおうか。ダンスの練習をするのもありかもしれない。
「お待たせしました。今夜は私が寝るまでお喋りに……」
部屋の明かりをつけたララは、愕然とした。生まれて初めて神を恨んだ。
「悪い、ララ」
そう言いながら振り向いて、うんと優しく微笑んだ彼が――、
「帰る時間が、近いみたいだ」
テオドールが、消えかけていた。
「なん、で」
途端に息ができなくなった。空気がなくなってしまったみたいに。
神の元に帰る日は、本人の意思で決められるものではなかったのか。
へたり込んだところをテオドールに支えられ、二人でベッドに腰掛けた。存在を確かめるように、彼の体にしがみつく。
「まだご家族のそばで、過ごせていないのに」
「良いんだ。君が母に、俺の気持ちを伝えてくれたから」
「……ダンスを踊ってから帰るって、おっしゃっていたではありませんか」
「……ああ」
「死の真相が明らかになったから、この世への未練がなくなってしまったのですか」
「それは違う」
テオドールに両肩を掴まれた。
「未練ならある。ここに、大きすぎるのが」
(ならどうして、帰ってしまうの)
行かないで。ずっと隣にいて。嫌だ。離れたくない。
喉まで上がってきた言葉を、奥歯を噛みしめて必死に堪える。消えてしまう。大好きな彼が、いなくなってしまう。
最後にできることはないかと考えて、我に返った。
「み、みなさんに、連絡しないと」
捜査官たちは、まだテオドールに会えると思っている。別れの挨拶もできないなんてあんまりだ。
急いでサイドテーブルに置いていたイヤーカフを取り、震える手で起動した。
「ララです。テオに、時間が残されていなくて。なぜだか分からないのですが、帰ってしまいそうなんです。今テオの私室にいますので、どうか早く――」
「来なくて良い」
会いに来てください、と言う前に、体に入ったテオドールによって遮られた。
「まだ仕事が残ってるやつもいるだろ。さっさと終わらせろ。終わったらゆっくり休め」
「ちょ、そんな」
「お前ら、あとは任せた」
それだけ言って、テオドールは通信を切った。ララの体から出て、改めて隣に座る。先ほどより透明に近付いた彼の姿に、別れがすぐそこなのだと思い知らされた。
「……最後になるのですよ?」
「最後だからだ。帰る直前くらい、二人きりで過ごしたい」
テオドールは向かい合うように体勢を変えると、こちらをじっと見つめてきた。
「なあ、ララ。……俺は今から最低なことを言うが、許してくれよ」
伸びてきた腕に抱きすくめられ、テオドールの顔が見えなくなる。
「君と、もっと一緒にいたかった」
「――っ」
隣で笑ってほしかった。
修理している姿を眺めていたかった。
手を繋いで出掛けたかった。
朝から晩まで抱きしめていたかった。
ララ・オルティスは俺のものだと、この世の全てに自慢したかった。
耳元で吐露される、テオドールの願い。
懸命に堰き止めていた感情が、一瞬で溢れ出した。
「……っ、ひどい」
「俺もそう思う」
笑って見送りたかったのに、全然上手くいかない。震えているのが自分なのか彼なのかすら、分からない。
「俺が言わないと、君は我慢するから。まだ俺に言えてないこと、あるんじゃないのか?」
テオドールの言葉に驚き、涙で濡れた顔を上げた。
ララは彼に、話していないことがある。
自分がテオドール以外の人と添い遂げる未来はない。この先何年経っても、彼の変わりは現れない。ララにとってテオドールは、最初で最後だ。
だから勝手に覚悟を決めた。再び彼と出逢える日まで、何年でも何十年でも、来世まででも、一人で生きようと。
(直接伝えるのは、流石に迷惑だと思って……)
密かに誓ったつもりだったのだ。
こんな想いを伝えても良いのだろうか、と身を固くすると、テオドールがすねた声を出した。盛大なため息まで聞こえる。
「心外だな。俺の気持ちを甘く見積もりすぎだ」
「どういう意味ですか?」
「……君が好きな花の花言葉くらい、俺は知ってる」
耳を疑った。テオドールが花言葉を?
「君、言ったよな? ツェルソア植物園で。『この素敵なラベンダー畑に、あなたへの想いを誓います』って」
ぐいっと顔を近付けてきたテオドールに、何度も頷き返す。言った、言った、言いましたとも。
だって伝わるわけがないと思っていたから。
「俺が口説き文句に気付かないような男だと思ってたなら、大間違いだ」
ラベンダーの花言葉は――、
「『あなたを待っています』だろ?」
それまでの表情とは打って変わって、テオドールはいじわるな笑みを浮かべた。それでいて幸せそうだった。
彼は自分の誓いを、受け止めてくれていた。
堪らなく、好きだと思った。
「ララ」
見惚れていたら、額にふわりと何かが触れた。彼の唇だと理解した時には、目を閉じて受け入れていた。
瞼、こめかみ、目尻、頬と、少しずつ位置を変えて唇が降ってくる。
抱きしめてくれるたくましい腕。何度も名前を呼んでくれる低い声。柔らかい感触と時折聞こえるリップ音で、腰が砕けてしまいそうだ。
頭を撫でられ、髪をすかれ、吐息が耳をかすめると、その甘さに身をよじった。
耳の輪郭をなぞって頬に戻ってきた唇が、ララの唇の横をついばむようにして、離れた。
「続きは、次会った時にとっておく」
楽しみがあった方が早く生まれ変わりそうだしな、と揶揄うように言うテオドールの頬を、ララは両手で包み込んだ。熱に浮かされて、止められなかった。
彼の真似をして顔を寄せ、唇の横を控えめについばむ。
「もっと早く戻ってくる気に、なりましたか……?」
至近距離で尋ねると、「……なった」とだけ返ってきた。
どちらともなく、こつんと額を合わせる。
沈黙の後、力強く彼は言った。
「約束する。どれだけ時間がかかっても、君と生きるために、必ず戻ってくる」
――ララ、愛してる。
八月十六日、午前四時。
たったひとつの約束を残して、ララの愛しい人は、神の元に帰った。
目を開けると、体が鉛のように重かった。テオドールに体を貸していたからなのか、精神的なものなのか。
彼を見送った後の記憶がない。おそらく気を失ったのだろう。
なんとか起き上がって時計を確認すると、午前七時だった。
当たり前だが、部屋を見回してもテオドールはいない。彼の「おはよう」が聞こえない。
それだけでこんなに、寂しいなんて。
自動運転の魔道具のように、顔を洗って髪をとかし、服を着替える。
色褪せた世界に、ひとりぼっちになった気分だった。
部屋の空気を入れ替えよう。そう思って窓を見る。閉じられたカーテンの隙間から、日の光が差し込んでいた。
カーテンをつまみ左右に開けると、想像よりも眩しい。一度顔を背け、光に耐えながらしょぼしょぼと瞼を持ち上げる。
「あ――」
窓の外を見て、目が覚めた。
今日の空は、どこまでも澄んだ青だった。
『忘れるな。君の鼓動が止まる、その時まで。俺に愛されていることを』
彼の声が、聞こえた気がした。
(こんな顔をしていたら、怒られてしまいますね)
しばらく空を眺めていると、扉の方から物音がした。
不思議に思い、扉から顔を出す。しかし誰もいない。かわりにドアノブに紙袋がかかっていた。
部屋に入り、中の物を一つずつ取り出す。箱詰めのクッキー、リラックス効果がある紅茶の茶葉、刺繍入りのハンカチなどに加え、大量のメッセージカードが入っていた。捜査官たちが書いてくれたようだ。
自分たちだって、辛いはずなのに。
「……ひとりぼっちじゃ、ない」
テオドールが残してくれたものが、両手に収まりきらないほどある。
ララはもう一度窓の外を見た。空に向かって微笑み、支度を再開する。部屋を出た頃には、少し体が軽くなっていた。
「おはようございます!」
ジャスパーの執務室を訪れると、彼は寝不足気味な顔で書類を睨んでいた。
「ララ、あなた」
「お手伝いできること、ありますか?」
「そりゃあもう燃やしたいくらいあるけど、あなた今日は元々休みの予定だったし。それに……」
色々な意味で大丈夫なのか、と眉尻を下げて心配される。
「正直とっても落ち込んでいます。が、あなたにお願いがあるので、先払いで仕事をお手伝いします」
「お願い?」
「今日の夜会で、テオに笑っているところを見せたいんです」
ジャスパーには、これだけ言えば充分だった。
「任せなさい。世界一、可愛くしてあげる」
ララとジャスパーはガシッと握手を交わす。契約完了だ。
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