72 / 76
第四章 二人の寄り道が終わるまで
72.真相
しおりを挟む 終業を知らせるチャイムが鳴った。同時に機動部隊詰め所のドアが開けられた。
「はい!お仕事はおしまい!行くわよ!飲みに!」
そう高らかに言い放って入ってきたのは、紺色の長い髪と糸目が目印のアメリア・グラウゼ少佐その人だった。
明らかに場違いなショッキングピンクのTシャツに、デニムのタイトスカート。しかもTシャツには『浪花節』と毛筆体で書いてある。誠はこういう意味不明なTシャツが売っているのは知っていたが、こういう服を日常的に着ている人が目の前にいる事実に少し衝撃を受けた。
「少佐……」
唖然とする誠の前でアメリアは細い目をさらに細くしてほほ笑む。
「そんな階級で呼ぶなんでダメ!そうねえ、アメリアさんで行きましょう。私、誠ちゃんより年上だし。そうしましょう」
アメリアは立て板に水でそう言うと機動部隊室の他の三人の女パイロットに目をやる。誠も振り返って三人の奇妙な女性達を眺めた。
「有志の歓迎会の前にやるんだろ?アタシは車があるから、飲めねーし、アタシの悪口言うんだろ?言いたきゃ言えば?聞きたくないから行かない」
ランは誠がこの部屋に戻ってきてからずっと将棋盤を見つめ考え事をしていた。
「どうせオメー等が行くのは『月島屋』に決まってるよな。あそこならアタシのツケで飲める。なーに、勘定の方はアタシが払うってことにしときな。ただし、西園寺が飲んだのはテメーが払え。あれはアタシの管轄外だ」
机に置かれた将棋盤を前にしてクバルカ・ラン中佐は手に飛車を持ちながらそう言った。誠はこんな出来た上司が実在するという事に感動すると同時にこのプリティーな生き物が一日中結果的に将棋しかしていない事実に呆れていた。
「まあ、アタシの為だけにキープしている酒だから。アタシが払うのが筋ってのは分かるよ。でも……」
そう言いながら、かなめが端末の電源を落として立ち上がった。
「グダグダ言っても仕方ないだろう」
手を止めたカウラはそう言って立ち上がる。
「神前は本部の前でこの変な文字がプリントされたおばさんと一緒に待ってろ。アタシ等は着替えて裏道通ってカウラの車で二人を拾いに行く」
かなめはそう言うと誠の脇を抜けて、ドアの前に立つアメリアに近づいていく。
「ちょっと……かなめちゃん。聞き違いでなければ『おばさん』とか言わなかった。間違いよね……」
相変わらず、見えているのかどうかよくわからない細い目でアメリアはかなめをにらみつけた。
「アタシは28歳、オメエは30歳。アタシの年でも、そこら歩いてるガキには『おばさん』と呼ばれることがある。オメエは年上だから十分おばさんじゃん」
そして、当然『カモ』となっている誠にその火の粉は降ってくる。かなめは誠に目を向けて指さして話を続ける。
「こいつは現在23歳。つまり、オメエより7歳若いってこと!つまり、こいつはオメエを『おばさん』と言う権利があるわけだ。神前この変なのをおばさんと言え。言わなきゃ射殺する。アタシが実弾入りのマガジンポーチを持ち歩いているのはこういう時に使うんだ。おばさんと言うか、死ぬか。選べ」
そう言ってにんまりと笑うかなめ。この人ならやりかねない。そう思いながら、たれ目のかなめの視線を外すタイミングを誠は探していた。
「神前、安心しろ。西園寺は撃たない……と思う。これまでこういったケースは日常的にあるが、今まで撃ったことが無い。まあ、初めての被害者が神前の可能性は否定できないが」
身の回りの物でも入っているのだろう、ハンドバックを引き出しから取り出したカウラがそのまま二人の間を通って部屋を出ていった。
「さあて、神前。おばさんと言うか死ぬか。選びな」
相変わらずかなめはそう言いながら銃の入ったホルスターを叩いている。
「わかったわよ!私はおばさん!誠ちゃんの脳みそぶちまけるのを見たくないから!私が自分で言えば丸く収まるんでしょ!」
そう叫んだアメリアは誠のそばまで行った。
「いろいろ、誠ちゃんに聞きたいことがあるの。仕事関係じゃなくて『趣味』のこと」
誠の手を握ってにっこりとほほ笑むアメリア。
「趣味だ?野球以外の趣味あるんだ。まあ、好きにしな。お先!」
そう言うとかなめはドアを開けて出ていった。
「アメリアさん……」
誠が名を呼ぶと。嬉しそうにアメリアは微笑む。
「お姉さんも色々多趣味だから。合うと良いなあなんて思ってるわけ、趣味が」
年上の女性、しかも美人からこう言われてうれしいのは事実だが。ここの隊員は全員どこか規格外なので、どんな結末になるのやら。ただ、誠は深く考えず場当たり的に生きていくことの必要性を実感していた。
「はい!お仕事はおしまい!行くわよ!飲みに!」
そう高らかに言い放って入ってきたのは、紺色の長い髪と糸目が目印のアメリア・グラウゼ少佐その人だった。
明らかに場違いなショッキングピンクのTシャツに、デニムのタイトスカート。しかもTシャツには『浪花節』と毛筆体で書いてある。誠はこういう意味不明なTシャツが売っているのは知っていたが、こういう服を日常的に着ている人が目の前にいる事実に少し衝撃を受けた。
「少佐……」
唖然とする誠の前でアメリアは細い目をさらに細くしてほほ笑む。
「そんな階級で呼ぶなんでダメ!そうねえ、アメリアさんで行きましょう。私、誠ちゃんより年上だし。そうしましょう」
アメリアは立て板に水でそう言うと機動部隊室の他の三人の女パイロットに目をやる。誠も振り返って三人の奇妙な女性達を眺めた。
「有志の歓迎会の前にやるんだろ?アタシは車があるから、飲めねーし、アタシの悪口言うんだろ?言いたきゃ言えば?聞きたくないから行かない」
ランは誠がこの部屋に戻ってきてからずっと将棋盤を見つめ考え事をしていた。
「どうせオメー等が行くのは『月島屋』に決まってるよな。あそこならアタシのツケで飲める。なーに、勘定の方はアタシが払うってことにしときな。ただし、西園寺が飲んだのはテメーが払え。あれはアタシの管轄外だ」
机に置かれた将棋盤を前にしてクバルカ・ラン中佐は手に飛車を持ちながらそう言った。誠はこんな出来た上司が実在するという事に感動すると同時にこのプリティーな生き物が一日中結果的に将棋しかしていない事実に呆れていた。
「まあ、アタシの為だけにキープしている酒だから。アタシが払うのが筋ってのは分かるよ。でも……」
そう言いながら、かなめが端末の電源を落として立ち上がった。
「グダグダ言っても仕方ないだろう」
手を止めたカウラはそう言って立ち上がる。
「神前は本部の前でこの変な文字がプリントされたおばさんと一緒に待ってろ。アタシ等は着替えて裏道通ってカウラの車で二人を拾いに行く」
かなめはそう言うと誠の脇を抜けて、ドアの前に立つアメリアに近づいていく。
「ちょっと……かなめちゃん。聞き違いでなければ『おばさん』とか言わなかった。間違いよね……」
相変わらず、見えているのかどうかよくわからない細い目でアメリアはかなめをにらみつけた。
「アタシは28歳、オメエは30歳。アタシの年でも、そこら歩いてるガキには『おばさん』と呼ばれることがある。オメエは年上だから十分おばさんじゃん」
そして、当然『カモ』となっている誠にその火の粉は降ってくる。かなめは誠に目を向けて指さして話を続ける。
「こいつは現在23歳。つまり、オメエより7歳若いってこと!つまり、こいつはオメエを『おばさん』と言う権利があるわけだ。神前この変なのをおばさんと言え。言わなきゃ射殺する。アタシが実弾入りのマガジンポーチを持ち歩いているのはこういう時に使うんだ。おばさんと言うか、死ぬか。選べ」
そう言ってにんまりと笑うかなめ。この人ならやりかねない。そう思いながら、たれ目のかなめの視線を外すタイミングを誠は探していた。
「神前、安心しろ。西園寺は撃たない……と思う。これまでこういったケースは日常的にあるが、今まで撃ったことが無い。まあ、初めての被害者が神前の可能性は否定できないが」
身の回りの物でも入っているのだろう、ハンドバックを引き出しから取り出したカウラがそのまま二人の間を通って部屋を出ていった。
「さあて、神前。おばさんと言うか死ぬか。選びな」
相変わらずかなめはそう言いながら銃の入ったホルスターを叩いている。
「わかったわよ!私はおばさん!誠ちゃんの脳みそぶちまけるのを見たくないから!私が自分で言えば丸く収まるんでしょ!」
そう叫んだアメリアは誠のそばまで行った。
「いろいろ、誠ちゃんに聞きたいことがあるの。仕事関係じゃなくて『趣味』のこと」
誠の手を握ってにっこりとほほ笑むアメリア。
「趣味だ?野球以外の趣味あるんだ。まあ、好きにしな。お先!」
そう言うとかなめはドアを開けて出ていった。
「アメリアさん……」
誠が名を呼ぶと。嬉しそうにアメリアは微笑む。
「お姉さんも色々多趣味だから。合うと良いなあなんて思ってるわけ、趣味が」
年上の女性、しかも美人からこう言われてうれしいのは事実だが。ここの隊員は全員どこか規格外なので、どんな結末になるのやら。ただ、誠は深く考えず場当たり的に生きていくことの必要性を実感していた。
0
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
大嫌いなんて言ってごめんと今さら言われても
はなまる
恋愛
シルベスタ・オリヴィエは学園に入った日に恋に落ちる。相手はフェリオ・マーカス侯爵令息。見目麗しい彼は女生徒から大人気でいつも彼の周りにはたくさんの令嬢がいた。彼を独占しないファンクラブまで存在すると言う人気ぶりで、そんな中でシルベスタはファンクアブに入り彼を応援するがシルベスタの行いがあまりに過激だったためついにフェリオから大っ嫌いだ。俺に近づくな!と言い渡された。
だが、思わぬことでフェリオはシルベスタに助けを求めることになるが、オリヴィエ伯爵家はシルベスタを目に入れても可愛がっており彼女を泣かせた男の家になどとけんもほろろで。
フェリオの甘い誘いや言葉も時すでに遅く…
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」
***
ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。
しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。
――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。
今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。
それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。
これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。
そんな復讐と解放と恋の物語。
◇ ◆ ◇
※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。
さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。
カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。
※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。
選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。
※表紙絵はフリー素材を拝借しました。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる