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街での過ごし方
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数日後、ルーシー達は予定通り街に来ていた。
レンガ造りの街並みと楽しそうに笑う人々を見て、ルーシーは頬を緩める。
斜め掛けのバッグから取り出したのは、この日のために用意した買い物リストだ。
ルーシーの手元をオーランドが覗き込む。
「どの順番で行くんだ?」
「荷物が多くなりそうだから、最初に一番遠くの雑貨屋さんに行って、戻って来ながら他のお店に寄ろうかなと思ってる。……おーいレオさんや、聞いてますかな」
「あの肉のやつが食いたい」
肉の魅力にルーシーの説明は完敗した。
辺りを見回しているレオは育ち盛りだからなのか、やたらと食べ物の店で視線をとめる。
オーランドも気になってきたらしくキョロキョロし始めた。
「出店が多いんだな、あっちのも美味そうだ」
「せっかくだから全部食おうぜ」
今日は誕生日会の準備がメインのつもりだったのだが、もしかしたら街の散策がメインになるかもしれない。
当初の目的を早くも忘れている二人は、グルメツアーでも始めてしまいそうである。
きっと、それだけ街が新鮮なのだろう。
「二人とも授業以外ではほとんど外出しないもんね」
「青春を呪いに費やしてるからなぁ」
口調の軽さと対称的に、内容は相当重い。呪いで死にそうになる経験など、普通はしないのだ。
自分自身が呪われているため必死になるしかないのかもしれないが、オーランドの勉強量は凄まじい。
「サルバスに魔術を広めたい」という言葉が本物だと誰でもわかるほど、ずっと魔術と向き合っている。
それゆえ、今まで街を見て回る余裕などなかったのだ。
死の呪いに体を蝕まれる恐怖は、オーランドにしかわからない。涙を流せない彼が、どれだけ泣きたかったのかもわからない。
それでもルーシーは知っていた。オーランドが弱音も吐かず、最善を尽くしてきたことを。その結果、今隣に立っている。
学校中に、街中に、言いふらしたいと思うほど。彼が優しく、どんな時でも前を向ける男だと知っているのだ。
「これからたくさん遊びに来れば良いじゃん! 今日は全力で案内するから、寄りたいお店あったら教えてね」
エールベルトの良いところを伝えねば、とルーシーは気合を入れた。
興味深そうに周りを見る二人と並んで歩く。すると名前を呼ばれた。
声が聞こえたのは市場の方だ。視線を向けると果物の山の後ろから女性が手を振っている。
「マリーさん! あれから腰大丈夫?」
「もう何ともないよ。ステラさんの薬は凄いねぇ」
「うちのお婆ちゃんは超一流だからね」
「腰の方もだけど、おまけでくれた軟膏もよく効くから助かってるんだ」
「本当⁉︎ 嬉しい!」
軟膏はルーシーが調合したものだった。役に立てたのだと思うと、頑張って作ったかいがある。
「困ったことがあったら、またいつでも言ってね」
「ありがとうね。あ、これ持って行きな! そっちの男前二人にも」
そう言ってマリーはりんごを手渡してくれた。
男前が付いている分、いつもより量が多い。
ほくほくした顔で再び歩き始めると、今度は宿屋の前で店主に声をかけられた。
「ルーシーちゃん、男前二人も連れてお出掛けかい?」
「あはは、良いでしょ~!」
「俺ももう少し若けりゃあなぁ。と、そうだ、この前は解熱剤ありがとな! どうしても店閉めるわけにはいかなかったから助かった」
「効いたなら良いけど、無理しすぎちゃダメだよ? たまにはちゃんと休んでね」
「そんなこと言ってくれるのはルーシーちゃんくらいだ。良い物やるからちょっと待ってな!」
一度店の中に入った店主は、すぐに紙袋を持って戻って来た。
「これ、北の方のチーズ。本当は酒もあれば良いんだが、ルーシーちゃんにはまだ早いからなぁ。十八になったらいつでも飲みに来な、サービスしてやっから!」
店主は豪快に笑う。陽気な人が多いこの街が、ルーシーは大好きだ。
宿屋を離れた後も、歩けば声をかけられ、世間話をする時間が続いた。
「ルーシー、どれだけ知り合いいるんだ?」
相変わらずの無表情なのに、オーランドの困惑は手に取るように伝わって来た。
「家に帰る途中に色々寄ってたら仲良くなっててさぁ」
「これから家に帰るって時に、どうして宿屋に寄るんだ? それに仲が良すぎる。ルーシーは出会った人全員と親戚になっちゃうのか?」
そんなわけがない。話しかけてきた人だって、半分くらいはルーシーが連れている男前二人組が気になっているだけだろう。
「まあ良いじゃねえか。そのおかげでこんなにサービスしてもらってんだから」
串に刺さった肉を頬張るレオはとても満足そうだ。
オーランドは「男は何歳でも油断出来ないからなぁ」と呟いて、ソーセージにかぶりついた。
目的の買い物が全て終わった頃には、オーランドとレオの腕はいくつもの紙袋を抱えていた。
小さな物くらいなら、とルーシーも何度か持とうとしたのだがすぐに取り上げられた。案内に専念しろと言われてしまえば、お礼を伝えて次の目的地を目指すしかない。
「やっぱり荷物多くなったね、大丈夫?」
「ああ、ルーシーは足とか痛くないか?」
「歩きやすい靴で来たからまだまだ歩けるよ~」
「辛くなったら言うんだぞ」
学校にいる時とは違う会話に、ちょっぴり心がむず痒い。
「まさか買った物より、ルーシーへの捧げ物の方が多くなるとはなぁ」
のんびりとした声が降ってきた。
快晴の空の下、お気に入りのレンガの街を、並んで歩く。
(学校じゃないのに、隣にオーランドがいる)
なんだかふわふわした気分になった。
「街の人と話してた魔術薬って、ルーシーが作ってるのか?」
「ちょっとだけね。手伝いがほとんどだけど、たまに全部自分で作ってるの。……あ、もちろんお婆ちゃんに見てもらってるし、危なくない物しかみんなには渡してないからね!」
安心してくれと目で訴えたが、オーランドは心配していたわけではないらしい。
「調合の魔術が得意だったのか、と思っただけ。呪いに詳しいのは知ってたけどさ」
ルーシーはオーランドの解呪に首を突っ込んでいることもあり、呪いについてかなり詳しい。その知識が魔術薬作りに活かせるため使っているのだ。
けれども、実は調合が得意なわけではない。
「他の魔術の方が得意なんだけど、調合とかと違って役に立たないんだよね」
「どんなのなんだ?」
「んーっとねぇ――」
「ルーシーねーちゃーん!」
中央広場の噴水前に差しかかった時、よく知っている子供が二人、こちらに向かって走ってきた。
レンガ造りの街並みと楽しそうに笑う人々を見て、ルーシーは頬を緩める。
斜め掛けのバッグから取り出したのは、この日のために用意した買い物リストだ。
ルーシーの手元をオーランドが覗き込む。
「どの順番で行くんだ?」
「荷物が多くなりそうだから、最初に一番遠くの雑貨屋さんに行って、戻って来ながら他のお店に寄ろうかなと思ってる。……おーいレオさんや、聞いてますかな」
「あの肉のやつが食いたい」
肉の魅力にルーシーの説明は完敗した。
辺りを見回しているレオは育ち盛りだからなのか、やたらと食べ物の店で視線をとめる。
オーランドも気になってきたらしくキョロキョロし始めた。
「出店が多いんだな、あっちのも美味そうだ」
「せっかくだから全部食おうぜ」
今日は誕生日会の準備がメインのつもりだったのだが、もしかしたら街の散策がメインになるかもしれない。
当初の目的を早くも忘れている二人は、グルメツアーでも始めてしまいそうである。
きっと、それだけ街が新鮮なのだろう。
「二人とも授業以外ではほとんど外出しないもんね」
「青春を呪いに費やしてるからなぁ」
口調の軽さと対称的に、内容は相当重い。呪いで死にそうになる経験など、普通はしないのだ。
自分自身が呪われているため必死になるしかないのかもしれないが、オーランドの勉強量は凄まじい。
「サルバスに魔術を広めたい」という言葉が本物だと誰でもわかるほど、ずっと魔術と向き合っている。
それゆえ、今まで街を見て回る余裕などなかったのだ。
死の呪いに体を蝕まれる恐怖は、オーランドにしかわからない。涙を流せない彼が、どれだけ泣きたかったのかもわからない。
それでもルーシーは知っていた。オーランドが弱音も吐かず、最善を尽くしてきたことを。その結果、今隣に立っている。
学校中に、街中に、言いふらしたいと思うほど。彼が優しく、どんな時でも前を向ける男だと知っているのだ。
「これからたくさん遊びに来れば良いじゃん! 今日は全力で案内するから、寄りたいお店あったら教えてね」
エールベルトの良いところを伝えねば、とルーシーは気合を入れた。
興味深そうに周りを見る二人と並んで歩く。すると名前を呼ばれた。
声が聞こえたのは市場の方だ。視線を向けると果物の山の後ろから女性が手を振っている。
「マリーさん! あれから腰大丈夫?」
「もう何ともないよ。ステラさんの薬は凄いねぇ」
「うちのお婆ちゃんは超一流だからね」
「腰の方もだけど、おまけでくれた軟膏もよく効くから助かってるんだ」
「本当⁉︎ 嬉しい!」
軟膏はルーシーが調合したものだった。役に立てたのだと思うと、頑張って作ったかいがある。
「困ったことがあったら、またいつでも言ってね」
「ありがとうね。あ、これ持って行きな! そっちの男前二人にも」
そう言ってマリーはりんごを手渡してくれた。
男前が付いている分、いつもより量が多い。
ほくほくした顔で再び歩き始めると、今度は宿屋の前で店主に声をかけられた。
「ルーシーちゃん、男前二人も連れてお出掛けかい?」
「あはは、良いでしょ~!」
「俺ももう少し若けりゃあなぁ。と、そうだ、この前は解熱剤ありがとな! どうしても店閉めるわけにはいかなかったから助かった」
「効いたなら良いけど、無理しすぎちゃダメだよ? たまにはちゃんと休んでね」
「そんなこと言ってくれるのはルーシーちゃんくらいだ。良い物やるからちょっと待ってな!」
一度店の中に入った店主は、すぐに紙袋を持って戻って来た。
「これ、北の方のチーズ。本当は酒もあれば良いんだが、ルーシーちゃんにはまだ早いからなぁ。十八になったらいつでも飲みに来な、サービスしてやっから!」
店主は豪快に笑う。陽気な人が多いこの街が、ルーシーは大好きだ。
宿屋を離れた後も、歩けば声をかけられ、世間話をする時間が続いた。
「ルーシー、どれだけ知り合いいるんだ?」
相変わらずの無表情なのに、オーランドの困惑は手に取るように伝わって来た。
「家に帰る途中に色々寄ってたら仲良くなっててさぁ」
「これから家に帰るって時に、どうして宿屋に寄るんだ? それに仲が良すぎる。ルーシーは出会った人全員と親戚になっちゃうのか?」
そんなわけがない。話しかけてきた人だって、半分くらいはルーシーが連れている男前二人組が気になっているだけだろう。
「まあ良いじゃねえか。そのおかげでこんなにサービスしてもらってんだから」
串に刺さった肉を頬張るレオはとても満足そうだ。
オーランドは「男は何歳でも油断出来ないからなぁ」と呟いて、ソーセージにかぶりついた。
目的の買い物が全て終わった頃には、オーランドとレオの腕はいくつもの紙袋を抱えていた。
小さな物くらいなら、とルーシーも何度か持とうとしたのだがすぐに取り上げられた。案内に専念しろと言われてしまえば、お礼を伝えて次の目的地を目指すしかない。
「やっぱり荷物多くなったね、大丈夫?」
「ああ、ルーシーは足とか痛くないか?」
「歩きやすい靴で来たからまだまだ歩けるよ~」
「辛くなったら言うんだぞ」
学校にいる時とは違う会話に、ちょっぴり心がむず痒い。
「まさか買った物より、ルーシーへの捧げ物の方が多くなるとはなぁ」
のんびりとした声が降ってきた。
快晴の空の下、お気に入りのレンガの街を、並んで歩く。
(学校じゃないのに、隣にオーランドがいる)
なんだかふわふわした気分になった。
「街の人と話してた魔術薬って、ルーシーが作ってるのか?」
「ちょっとだけね。手伝いがほとんどだけど、たまに全部自分で作ってるの。……あ、もちろんお婆ちゃんに見てもらってるし、危なくない物しかみんなには渡してないからね!」
安心してくれと目で訴えたが、オーランドは心配していたわけではないらしい。
「調合の魔術が得意だったのか、と思っただけ。呪いに詳しいのは知ってたけどさ」
ルーシーはオーランドの解呪に首を突っ込んでいることもあり、呪いについてかなり詳しい。その知識が魔術薬作りに活かせるため使っているのだ。
けれども、実は調合が得意なわけではない。
「他の魔術の方が得意なんだけど、調合とかと違って役に立たないんだよね」
「どんなのなんだ?」
「んーっとねぇ――」
「ルーシーねーちゃーん!」
中央広場の噴水前に差しかかった時、よく知っている子供が二人、こちらに向かって走ってきた。
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