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第二章 戦友の絆~繋ぎ合う手
2-5 敵前逃亡は、しない
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「なな!バルブオイル貸して!」
「はぁ?まだ買ってなかったのハル?」
廊下に高く響くソプラノの、呆れ声。
「ってか今までどうしてたのよ?」
「あ?ユーチに借りてた。でももう絶対貸さないって言われちまって」
言外に恨みがましさが漂うのに
「何だよその言い方!俺が悪いみたいじゃないか!」
有智は思わず叫んでいた。
剥れ顔の春久と睨み合いになるのに
「はいはいわかったわかった、こんな所で喧嘩しないでよ練習中なんだし」
宥めるようにそう言って立ち上がった菜々美が、少し離れた音楽室の方へと小走りに去った。
吹奏楽部に入部してから、ひと月。
梅雨前の、蒸し暑い季節に入りかけていた。
仮入部当初は三十人余りいた一年生は途中でひとり減りふたり減り、ゴールデンウィーク明けに正式に吹奏楽部八期生となったのは二十四人。
四月末の段階で既に入部を決め楽器を購入していたトランペットパートの有智達三人は、その頃にはすっかり部にもパートにも慣れていた。
何時の間にか、菜々美の春久への呼びかけは『赤池』から『ハル』に変わり、春久もまた有智と同様に菜々美を『なな』と呼ぶようになっていた。時折『パープル』と呼んでは菜々美に『バイオレット!』と怒られ、それでもそこを改める気は一向にないようだった。
音楽室から戻って来た菜々美が、はい、とバルブオイルを春久に差し出すと
「ありがとな、なな!」
春久は嬉しそうに受け取って、早速トランペットの第一ピストンバルブから順に開けてオイルを差し始めた。
バルブオイルはピストンを押す指がいつも滑らかに動くように、日頃こまめに差した方が良いとされる。ピストン操作で音を変える金管楽器奏者にとっては必需品、なのだが。
「なな、貸すのは今日だけにしとけよ」
有智が菜々美に忠告する、と。
最後のバルブにオイルを差し終えた春久が顔を上げて、きっと睨みつけてきた。
「ったくケチだよなユーチは」
「はぁ?」
有智の頭に血が上った。
「誰がケチだって!今まで散々俺のやつ使っといて!大体おまえがオイル買わなかったのが悪いんだろが!」
「仕方ねぇだろ金足りなかったんだから!」
「それは買わなくていいもんばかり買ったからだろ!」
楽器が届いて一週間後のゴールデンウィーク初日。
楽器のケア用品を買い揃えるために、有智と菜々美と春久は連れ立って市街地の大きな楽器店に行ったのだが、出だしから春久がやらかしてくれた。
隣の小学校区にある春久の家は有智達の家からは距離があり、こちらで待ち合わせるよりもそれぞれバスで街に出てバスターミナルで落ち合おうという話になったのだが、約束の一時半を十分以上過ぎても春久は現れなかった。
何かあったのかな、と菜々美が心配するのに、有智は春久との初対面の際に二年生の拓海が『寝坊も相変わらずかよ!』と言っていたのをふと思い出して。
『寝坊したとか?』
まさかとは思いつつそう言うと、まさか、と菜々美が笑った。
『この時間の待ち合わせでそれはないでしょ』
バスが遅れているのかもね、と軽く受け流されて、まあそんな所だろうな、と返して。
待つ事更に十分以上、二時近くになって
『悪い!遅れちまって!』
やっと現れた春久の遅刻の理由は
『起きたら十二時半回っていた』
だった。
随分と待たされた挙句の理由がそれで、なのに
『目覚まし八時にかけてたんだけど全然気づかなくて。寝惚けて止めちまったのかな』
悪びれる素振りも見せずそう言う春久に、有智も菜々美も怒るよりも呆気に取られてしまった。
そして三人で向かった楽器店で、それぞれ色々と買ったのだが。
有智や菜々美が、予算上あれもこれもという訳にはいかずバルブオイルや抜差管に塗るスライドグリス等、当面の必需品を買い揃えたのに対し、春久は楽器内部の掃除に使う長いブラシや洗剤、おまけに当分使う事などなさそうなカップ付の高価なミュートまで買い込んでいて。
ゴールデンウィーク明けに部活動で顔を合わせた際、バルブオイルもグリスも
『金が足りなくて買えなかった』
次の週末に買いに行ってくるから取り合えず貸してくれと泣きつかれて、仕方なく有智が自分のを使わせてやっていたのだが、それからもうひと月以上経っている。
「ったくさっさと買いに行けよ。ズボラにも程があるだろが」
忌々し気に言い捨てた有智に
「誰がズボラだよ!」
春久が噛みついて来た。
「ああ悪い間違えた。ルーズ?いやアバウトか?」
「喧嘩売ってんのかユーチ!」
睨み合う間に
「はいはいわかったわかった、練習中なんだからいい加減にしてね」
菜々美が割って入って来る、と。
「何?またやってるのラッパ戦隊?」
目の前を通りかかった、同期の杉下芙美子が呆れたような視線を向けて来て。
「毎日同じようなネタで漫才やってて飽きない?」
「漫才じゃない!」
「漫才じゃねぇ!」
有智と春久の声が、語尾以外綺麗にシンクロして、廊下に響いた。
トランペットパートの一年生三人は、最近ひとまとめで周りから
『ラッパ戦隊』
と呼ばれている。
どうやら入部した頃に菜々美が春久を『ラッパ戦隊アバウトジャー』と呼んだのを、数人の先輩達に聴かれていたらしい。
『あの三人面白いな』
という噂話と共に何時の間にか『ラッパ戦隊』という呼称が広まり、今や上級生のみならず同期の間でも当たり前のように使われている。
何より春久自身がその呼び名を気に入ってしまったらしく、積極的に自称していた。
三人まとめて『面白い』と扱われるのは物凄く心外だった有智も、そう呼ばれる事は別に嫌ではなかった。菜々美は春久が『ラッパ戦隊』と言う度に『だからいつ戦隊になったの!』と抵抗していたが、一向にめげない彼に何を言っても無駄だと諦めたのか最近は何も言わない。それでも春久の『パープル』呼ばわりには頑として『バイオレット!』と訂正を求め続けていた。
芙美子が自身のオーボエと共に、譜面台や畳んだパイプ椅子を持っているのに
「あれ?もしかしてもう練習時間終わりか?」
有智が問うと、芙美子はうん、と頷いた。
「お!練習時間終わった?」
春久が目を輝かせて。
「杉下!チャルメラ吹いて!」
「はぁあ?」
芙美子が眉間に思い切り皺を寄せた。
「まだ諦めてなかったの赤池?」
芙美子は有智や菜々美と同じ、笹並北小学校出身だ。
鼓笛部には入らなかったがクラシック音楽に興味があって多少は聴いているらしく、有智は同じクラスになった時に色々話して以来そこそこ親しくなった。菜々美も彼女とは昔から仲が良い。
彼女が吹奏楽部に入ったのは特に驚く事ではなかったが、意外だったのはオーボエパートを志望した事だった。
『何かどっかで聞いた曲でオーボエが凄く綺麗なメロディ吹いてて、気に入っちゃったんだって』
菜々美がそう、教えてくれた。
だが芙美子は全くの初心者なので、当初はリードを鳴らすだけでも毎日四苦八苦していた。
そんな彼女に春久が何故か
『チャルメラ吹いてくれ』
しきりに言い寄るようになり、その度に芙美子は困惑の態で
『まだリードも上手く鳴らないのにそんなの吹けないよ』
やんわりと断っていた。
そのうちだんだん音が上手く出るようになってきて
『もう吹けるだろ?』
春久に言われて
『練習時間に吹ける訳ないでしょ』
ぴしりと断ったら。
『じゃあ練習時間外だったらいいよな?』
『はぁ?絶対やだ!』
そこまで拒絶されても、未だ懲りていなかったらしい。
「大体何でチャルメラなのよ?」
芙美子の問いに、春久がへらりと笑って。
「え~やっぱオーボエったらチャルメラだろ?」
「んな訳ないでしょ何言ってんのバカじゃないの!」
と。
「何してるの?練習もう終わりだよ?」
少し離れた音楽室の防音扉が開いて、オーボエを手にした雛子が廊下に出て来た。
「あ!先輩済みません!すぐ行きます!」
芙美子が慌てて雛子の方に走り寄って行った。練習終了後は一年生がパートの上級生の譜面台を全て片付ける事になっている。
「ごめんなさい浅見先輩!ハルが芙美子にチャルメラ吹けって無茶言って足止めしちゃって」
横から菜々美が、芙美子を庇うつもりでか言い添えるのに
「チャルメラ?」
小首を傾げた雛子が、おもむろに楽器を構えて。
朗々と。
哀愁を帯びた独特のメロディーが、廊下に響き渡った。
――せん、ぱい?
目を丸くした有智の前方で、芙美子がえ、という顔で固まっていた。
菜々美も、ぽかんと口を開けて雛子を見ている。
音楽室の扉の中からどっと沸き起こった、大勢の笑い声に混じって
「何吹いてんだよ浅見!何でチャルメラ!」
扉の陰から顔を覗かせた拓海の笑い交じりの叫び声が聴こえてきた。
突然の雛子のチャルメラ独奏に、驚きのあまり何も言えずにいる有智の横で
「すげぇ!上手い!」
いきなり春久が立ち上がって拍手して。
「浅見先輩!有難うございます!」
雛子に向かって深々と一礼した。
「やだ赤池君そんな、オーバーだよ!」
手を振って笑う雛子に
「いやホントに!俺、これいちどナマで聴いてみたかったんです!凄く嬉しかったです!」
有難うございました、と。
満面の笑顔で、春久は再び感謝を口にした。
春久の大仰なリアクションを、有智は黙ったまま観ていた。
昔は自分も、あんな風に笑っていた。
開けっ広げに大声で、顔をくしゃくしゃにして。
嬉しいことがあると、身体中で喜びを表していた。
欲しい物を買ってもらった時やくじで一等賞を当てた時など、うわぁ!と叫んで、飛び跳ねて。
いつ、どこで、そういうものを落としてしまったんだろう。
今までずっと、考えた事などなかったのに。
春久を見ていて、時折思う。
そして、未だにそういう素直さを持ち続けている彼が、ほんの少し羨ましくなる。
どうしてだろう。
他人を羨ましいと思う事も、今までずっと、なかったのに。
ここひと月、ほぼ毎日部活動で行動を共にしてきたが。
春久という人間は、解るようで解らない。
ふざけているかと思えば大真面目、大雑把過ぎるかと思えば気配りが細かい。
いつも笑顔で、人懐っこくて開放的な性格で。
同期男子の間では、早くもムードメーカー的な存在になっていた。
お調子者だが上級生に対してはきちんと礼儀正しく接していて、男女問わず先輩達に可愛がられている。特に女子の先輩達の間では『赤池君って明るくて面白くていい子だね』と大人気だ。
練習も人一倍熱心だった。個人練習をしている時は普段おちゃらけている時とは別人のように集中力が凄くて、迂闊に話しかけるのも憚られた。
それだけではない。
先輩達が音楽室で合奏をしている間、一年生の三人で廊下で教則本の短い練習曲をひとつずつ浚うのだが、春久は先輩から指示された部分を浚い終えるとどんどん先へ進めようとする。
有智は当初、勝手にそんな事をしていいのかと困惑したが、春久が指定の範囲を完璧に浚ってしまって
『俺次のページやりたいんだけどなぁ』
退屈そうに言うのに、自分も負けていられない、何としても彼のペースに付いて行こうと、今まで以上に練習に励むようになった。
春久と有智が競うように教則本を浚う中、ひとり菜々美がふたりのペースに引き摺られながら悪戦苦闘していたが、ついにある日
『何でそんなにどんどん先に進めるの!先輩そこまで指示してないし!私もうついてけない!』
春久に文句をつけた。
だが春久はどこ吹く風で。
『もうちょっと頑張ればななだってやれるって』
『頑張ればって!』
『ユーチは普通について来てるだろ?』
いや普通じゃないかなり頑張っている、と突っ込みたくなった有智だったが。
もしかしたらハルはななも同じ位頑張れって言いたいのか、と思って、言葉を呑み込んだ。
『とにかく今日はこのページ全部浚うからな!』
『えええ!全部なんて無理!』
泣き事を言いかけた菜々美に押し被せるように
『ラッパ戦隊に敵前逃亡なし!』
刹那。
春久が言い放った力強い科白に、有智は聞き惚れた。
だが次の瞬間我に返って。
――こいつマジで戦隊気取ってんのか?
以前『戦隊のリーダーはレッド』だから自分が場を仕切ると言った春久に、本気で言っているのか、中学生にもなってまさか、と首を傾げたものだったが。
やっぱりそうだったのかと呆れると同時に、今の科白を一瞬だけでもカッコいいと思ってしまった自身の不覚を恥じた。
菜々美も呆気にとられたように春久を見ていたが
『じゃ、時間ないし始めるぞ』
メトロノームの速度を合わせながら春久が言うのに、黙ったままトランペットを構えた。
有智も、それに倣った。
菜々美の中でどういう心境の変化があったのかは解らないが、それ以来彼女も個人練習で少しでも教則本を先に進めようと頑張るようになった。
三人が三人とも練習に励んだ成果が形になって、先輩達だけでなく顧問の先生にも
『おまえ達三人ともひと月で随分音が良くなったな』
褒められたが、技量は三人の中で春久が頭ひとつ抜けて上手だと、口惜しいが有智は認めざるを得なかった。
トランペットの腕前だけではない。
校内で才媛の評判が高い姉の秋穂と同様、春久も成績優秀だった。
先日の初めての中間テストではいきなり学年一位、しかも五教科中三教科で満点だったと、その秀才ぶりは隣のクラスの有智の耳にも届いていた。
――負けたくない。
有智はこれまでずっと、誰かと競うという発想を持たなかった。
社交的で物怖じしなかった幼い頃の性格が、父に死別した後次第に内向的内省的に変わってきたが、その点に関しては昔から一貫していた。
自分がやるべき事はきちんと努力する。自分がやりたい事は惜しまず努力する。
あくまでもそれは、自分がベストだと思う所を目指す努力であって、他人と自分を比較して優劣を考えた事も他人のレベルを目標にした事も、一切なかった。
だが。
春久を見ていると時折、訳もなく苛立つ。
明らかに今、自分よりも先を行っていると解る相手。
何をどう頑張っても追いつけないかもしれない。敵わないかもしれない。
けれど。
何故だろう。
こいつには、負けたくない――。
普段が随分とズボラでアバウトな割に楽器の腕前もテストの成績も他者の追随を許さないというのが、癪に障るのか。
自分がいつの間にか失くしてしまったものを今も持ち続けていることが、ひどく羨ましいのか。
それとも……。
その先を考えそうになる度に。
いつもそこで、有智は思考にストップをかけた。
はっきりそうだと決まった訳じゃないのに考えても仕方がない、と。
そしてただ愚直に目の前の課題をこなそうと、部活動の練習も、勉強も、今まで以上に熱を入れて取り組んだ。
春久と有智を見ていて、菜々美も何か思う所があったのか。
少し前から、教則本とは別にトランペットの初歩的な基本練習を個人練習に取り入れて、自主的に基礎を一から確認し直しているようだ。
中間テストの順位が出た当初は
『まあ真ん中より上、くらい?』
笑ってあまり気にもしていなかったようだが、春久がトップだったと聞いたあたりからか、部屋の机の灯りが今までよりも遅い時間まで点いている事が多くなった。
自室同士が向かい合わせだから、カーテン越しでもそういうことはすぐに判る。
もしかしたら彼女もこちらを見て、同じ事を思っているかもしれない。
「ほらおまえら!浅見のアホにつられてないで早く片付け始めろよ!」
拓海の声に急かされて
「アホって何よたっくん!」
雛子が抗議するのに被せるように
「済みません!」
「すぐ行きます!」
口々に言いながら、有智と春久と菜々美は教則本を閉じて立ち上がった。
「明日の目標は三ページな!」
「えええマジ!」
春久の言葉に、パイプ椅子を畳みながら目を剥いた菜々美だったが。
次の瞬間、ふっと笑って。
「ま、頑張るか。ラッパ戦隊に敵前逃亡なし、だもんね!」
「お、やる気満々じゃんなな!」
春久が、笑顔で応える。
去年の今頃は鼓笛部で、何かにつまづく度に『こんなの無理!』『指回らない!』と、事ある毎に愚痴を言っていた菜々美。
それでも言葉にする事でストレスを発散していたのか、言うだけ言った後は地道に努力を重ねてひとつひとつ課題を克服していった。
そんな菜々美から、いつの間にか愚痴が消えた。
有智とふたりで帰宅する道すがらでさえも、泣き事などひとことも口にしない。
弱音を吐くことなく、ただひたすら頑張っている。
何が彼女を、そんな風に変えたのか。
『ラッパ戦隊に敵前逃亡なし、だもんね!』
畳んだパイプ椅子と譜面台を左手に、楽器を右手に抱えて。
菜々美とほぼ並んで前を行く春久の背中を、追いながら。
有智は思った。
――こいつにだけは絶対、負けたくない。
癪に障るからか。
羨ましいからか。
それ、とも――。
「はぁ?まだ買ってなかったのハル?」
廊下に高く響くソプラノの、呆れ声。
「ってか今までどうしてたのよ?」
「あ?ユーチに借りてた。でももう絶対貸さないって言われちまって」
言外に恨みがましさが漂うのに
「何だよその言い方!俺が悪いみたいじゃないか!」
有智は思わず叫んでいた。
剥れ顔の春久と睨み合いになるのに
「はいはいわかったわかった、こんな所で喧嘩しないでよ練習中なんだし」
宥めるようにそう言って立ち上がった菜々美が、少し離れた音楽室の方へと小走りに去った。
吹奏楽部に入部してから、ひと月。
梅雨前の、蒸し暑い季節に入りかけていた。
仮入部当初は三十人余りいた一年生は途中でひとり減りふたり減り、ゴールデンウィーク明けに正式に吹奏楽部八期生となったのは二十四人。
四月末の段階で既に入部を決め楽器を購入していたトランペットパートの有智達三人は、その頃にはすっかり部にもパートにも慣れていた。
何時の間にか、菜々美の春久への呼びかけは『赤池』から『ハル』に変わり、春久もまた有智と同様に菜々美を『なな』と呼ぶようになっていた。時折『パープル』と呼んでは菜々美に『バイオレット!』と怒られ、それでもそこを改める気は一向にないようだった。
音楽室から戻って来た菜々美が、はい、とバルブオイルを春久に差し出すと
「ありがとな、なな!」
春久は嬉しそうに受け取って、早速トランペットの第一ピストンバルブから順に開けてオイルを差し始めた。
バルブオイルはピストンを押す指がいつも滑らかに動くように、日頃こまめに差した方が良いとされる。ピストン操作で音を変える金管楽器奏者にとっては必需品、なのだが。
「なな、貸すのは今日だけにしとけよ」
有智が菜々美に忠告する、と。
最後のバルブにオイルを差し終えた春久が顔を上げて、きっと睨みつけてきた。
「ったくケチだよなユーチは」
「はぁ?」
有智の頭に血が上った。
「誰がケチだって!今まで散々俺のやつ使っといて!大体おまえがオイル買わなかったのが悪いんだろが!」
「仕方ねぇだろ金足りなかったんだから!」
「それは買わなくていいもんばかり買ったからだろ!」
楽器が届いて一週間後のゴールデンウィーク初日。
楽器のケア用品を買い揃えるために、有智と菜々美と春久は連れ立って市街地の大きな楽器店に行ったのだが、出だしから春久がやらかしてくれた。
隣の小学校区にある春久の家は有智達の家からは距離があり、こちらで待ち合わせるよりもそれぞれバスで街に出てバスターミナルで落ち合おうという話になったのだが、約束の一時半を十分以上過ぎても春久は現れなかった。
何かあったのかな、と菜々美が心配するのに、有智は春久との初対面の際に二年生の拓海が『寝坊も相変わらずかよ!』と言っていたのをふと思い出して。
『寝坊したとか?』
まさかとは思いつつそう言うと、まさか、と菜々美が笑った。
『この時間の待ち合わせでそれはないでしょ』
バスが遅れているのかもね、と軽く受け流されて、まあそんな所だろうな、と返して。
待つ事更に十分以上、二時近くになって
『悪い!遅れちまって!』
やっと現れた春久の遅刻の理由は
『起きたら十二時半回っていた』
だった。
随分と待たされた挙句の理由がそれで、なのに
『目覚まし八時にかけてたんだけど全然気づかなくて。寝惚けて止めちまったのかな』
悪びれる素振りも見せずそう言う春久に、有智も菜々美も怒るよりも呆気に取られてしまった。
そして三人で向かった楽器店で、それぞれ色々と買ったのだが。
有智や菜々美が、予算上あれもこれもという訳にはいかずバルブオイルや抜差管に塗るスライドグリス等、当面の必需品を買い揃えたのに対し、春久は楽器内部の掃除に使う長いブラシや洗剤、おまけに当分使う事などなさそうなカップ付の高価なミュートまで買い込んでいて。
ゴールデンウィーク明けに部活動で顔を合わせた際、バルブオイルもグリスも
『金が足りなくて買えなかった』
次の週末に買いに行ってくるから取り合えず貸してくれと泣きつかれて、仕方なく有智が自分のを使わせてやっていたのだが、それからもうひと月以上経っている。
「ったくさっさと買いに行けよ。ズボラにも程があるだろが」
忌々し気に言い捨てた有智に
「誰がズボラだよ!」
春久が噛みついて来た。
「ああ悪い間違えた。ルーズ?いやアバウトか?」
「喧嘩売ってんのかユーチ!」
睨み合う間に
「はいはいわかったわかった、練習中なんだからいい加減にしてね」
菜々美が割って入って来る、と。
「何?またやってるのラッパ戦隊?」
目の前を通りかかった、同期の杉下芙美子が呆れたような視線を向けて来て。
「毎日同じようなネタで漫才やってて飽きない?」
「漫才じゃない!」
「漫才じゃねぇ!」
有智と春久の声が、語尾以外綺麗にシンクロして、廊下に響いた。
トランペットパートの一年生三人は、最近ひとまとめで周りから
『ラッパ戦隊』
と呼ばれている。
どうやら入部した頃に菜々美が春久を『ラッパ戦隊アバウトジャー』と呼んだのを、数人の先輩達に聴かれていたらしい。
『あの三人面白いな』
という噂話と共に何時の間にか『ラッパ戦隊』という呼称が広まり、今や上級生のみならず同期の間でも当たり前のように使われている。
何より春久自身がその呼び名を気に入ってしまったらしく、積極的に自称していた。
三人まとめて『面白い』と扱われるのは物凄く心外だった有智も、そう呼ばれる事は別に嫌ではなかった。菜々美は春久が『ラッパ戦隊』と言う度に『だからいつ戦隊になったの!』と抵抗していたが、一向にめげない彼に何を言っても無駄だと諦めたのか最近は何も言わない。それでも春久の『パープル』呼ばわりには頑として『バイオレット!』と訂正を求め続けていた。
芙美子が自身のオーボエと共に、譜面台や畳んだパイプ椅子を持っているのに
「あれ?もしかしてもう練習時間終わりか?」
有智が問うと、芙美子はうん、と頷いた。
「お!練習時間終わった?」
春久が目を輝かせて。
「杉下!チャルメラ吹いて!」
「はぁあ?」
芙美子が眉間に思い切り皺を寄せた。
「まだ諦めてなかったの赤池?」
芙美子は有智や菜々美と同じ、笹並北小学校出身だ。
鼓笛部には入らなかったがクラシック音楽に興味があって多少は聴いているらしく、有智は同じクラスになった時に色々話して以来そこそこ親しくなった。菜々美も彼女とは昔から仲が良い。
彼女が吹奏楽部に入ったのは特に驚く事ではなかったが、意外だったのはオーボエパートを志望した事だった。
『何かどっかで聞いた曲でオーボエが凄く綺麗なメロディ吹いてて、気に入っちゃったんだって』
菜々美がそう、教えてくれた。
だが芙美子は全くの初心者なので、当初はリードを鳴らすだけでも毎日四苦八苦していた。
そんな彼女に春久が何故か
『チャルメラ吹いてくれ』
しきりに言い寄るようになり、その度に芙美子は困惑の態で
『まだリードも上手く鳴らないのにそんなの吹けないよ』
やんわりと断っていた。
そのうちだんだん音が上手く出るようになってきて
『もう吹けるだろ?』
春久に言われて
『練習時間に吹ける訳ないでしょ』
ぴしりと断ったら。
『じゃあ練習時間外だったらいいよな?』
『はぁ?絶対やだ!』
そこまで拒絶されても、未だ懲りていなかったらしい。
「大体何でチャルメラなのよ?」
芙美子の問いに、春久がへらりと笑って。
「え~やっぱオーボエったらチャルメラだろ?」
「んな訳ないでしょ何言ってんのバカじゃないの!」
と。
「何してるの?練習もう終わりだよ?」
少し離れた音楽室の防音扉が開いて、オーボエを手にした雛子が廊下に出て来た。
「あ!先輩済みません!すぐ行きます!」
芙美子が慌てて雛子の方に走り寄って行った。練習終了後は一年生がパートの上級生の譜面台を全て片付ける事になっている。
「ごめんなさい浅見先輩!ハルが芙美子にチャルメラ吹けって無茶言って足止めしちゃって」
横から菜々美が、芙美子を庇うつもりでか言い添えるのに
「チャルメラ?」
小首を傾げた雛子が、おもむろに楽器を構えて。
朗々と。
哀愁を帯びた独特のメロディーが、廊下に響き渡った。
――せん、ぱい?
目を丸くした有智の前方で、芙美子がえ、という顔で固まっていた。
菜々美も、ぽかんと口を開けて雛子を見ている。
音楽室の扉の中からどっと沸き起こった、大勢の笑い声に混じって
「何吹いてんだよ浅見!何でチャルメラ!」
扉の陰から顔を覗かせた拓海の笑い交じりの叫び声が聴こえてきた。
突然の雛子のチャルメラ独奏に、驚きのあまり何も言えずにいる有智の横で
「すげぇ!上手い!」
いきなり春久が立ち上がって拍手して。
「浅見先輩!有難うございます!」
雛子に向かって深々と一礼した。
「やだ赤池君そんな、オーバーだよ!」
手を振って笑う雛子に
「いやホントに!俺、これいちどナマで聴いてみたかったんです!凄く嬉しかったです!」
有難うございました、と。
満面の笑顔で、春久は再び感謝を口にした。
春久の大仰なリアクションを、有智は黙ったまま観ていた。
昔は自分も、あんな風に笑っていた。
開けっ広げに大声で、顔をくしゃくしゃにして。
嬉しいことがあると、身体中で喜びを表していた。
欲しい物を買ってもらった時やくじで一等賞を当てた時など、うわぁ!と叫んで、飛び跳ねて。
いつ、どこで、そういうものを落としてしまったんだろう。
今までずっと、考えた事などなかったのに。
春久を見ていて、時折思う。
そして、未だにそういう素直さを持ち続けている彼が、ほんの少し羨ましくなる。
どうしてだろう。
他人を羨ましいと思う事も、今までずっと、なかったのに。
ここひと月、ほぼ毎日部活動で行動を共にしてきたが。
春久という人間は、解るようで解らない。
ふざけているかと思えば大真面目、大雑把過ぎるかと思えば気配りが細かい。
いつも笑顔で、人懐っこくて開放的な性格で。
同期男子の間では、早くもムードメーカー的な存在になっていた。
お調子者だが上級生に対してはきちんと礼儀正しく接していて、男女問わず先輩達に可愛がられている。特に女子の先輩達の間では『赤池君って明るくて面白くていい子だね』と大人気だ。
練習も人一倍熱心だった。個人練習をしている時は普段おちゃらけている時とは別人のように集中力が凄くて、迂闊に話しかけるのも憚られた。
それだけではない。
先輩達が音楽室で合奏をしている間、一年生の三人で廊下で教則本の短い練習曲をひとつずつ浚うのだが、春久は先輩から指示された部分を浚い終えるとどんどん先へ進めようとする。
有智は当初、勝手にそんな事をしていいのかと困惑したが、春久が指定の範囲を完璧に浚ってしまって
『俺次のページやりたいんだけどなぁ』
退屈そうに言うのに、自分も負けていられない、何としても彼のペースに付いて行こうと、今まで以上に練習に励むようになった。
春久と有智が競うように教則本を浚う中、ひとり菜々美がふたりのペースに引き摺られながら悪戦苦闘していたが、ついにある日
『何でそんなにどんどん先に進めるの!先輩そこまで指示してないし!私もうついてけない!』
春久に文句をつけた。
だが春久はどこ吹く風で。
『もうちょっと頑張ればななだってやれるって』
『頑張ればって!』
『ユーチは普通について来てるだろ?』
いや普通じゃないかなり頑張っている、と突っ込みたくなった有智だったが。
もしかしたらハルはななも同じ位頑張れって言いたいのか、と思って、言葉を呑み込んだ。
『とにかく今日はこのページ全部浚うからな!』
『えええ!全部なんて無理!』
泣き事を言いかけた菜々美に押し被せるように
『ラッパ戦隊に敵前逃亡なし!』
刹那。
春久が言い放った力強い科白に、有智は聞き惚れた。
だが次の瞬間我に返って。
――こいつマジで戦隊気取ってんのか?
以前『戦隊のリーダーはレッド』だから自分が場を仕切ると言った春久に、本気で言っているのか、中学生にもなってまさか、と首を傾げたものだったが。
やっぱりそうだったのかと呆れると同時に、今の科白を一瞬だけでもカッコいいと思ってしまった自身の不覚を恥じた。
菜々美も呆気にとられたように春久を見ていたが
『じゃ、時間ないし始めるぞ』
メトロノームの速度を合わせながら春久が言うのに、黙ったままトランペットを構えた。
有智も、それに倣った。
菜々美の中でどういう心境の変化があったのかは解らないが、それ以来彼女も個人練習で少しでも教則本を先に進めようと頑張るようになった。
三人が三人とも練習に励んだ成果が形になって、先輩達だけでなく顧問の先生にも
『おまえ達三人ともひと月で随分音が良くなったな』
褒められたが、技量は三人の中で春久が頭ひとつ抜けて上手だと、口惜しいが有智は認めざるを得なかった。
トランペットの腕前だけではない。
校内で才媛の評判が高い姉の秋穂と同様、春久も成績優秀だった。
先日の初めての中間テストではいきなり学年一位、しかも五教科中三教科で満点だったと、その秀才ぶりは隣のクラスの有智の耳にも届いていた。
――負けたくない。
有智はこれまでずっと、誰かと競うという発想を持たなかった。
社交的で物怖じしなかった幼い頃の性格が、父に死別した後次第に内向的内省的に変わってきたが、その点に関しては昔から一貫していた。
自分がやるべき事はきちんと努力する。自分がやりたい事は惜しまず努力する。
あくまでもそれは、自分がベストだと思う所を目指す努力であって、他人と自分を比較して優劣を考えた事も他人のレベルを目標にした事も、一切なかった。
だが。
春久を見ていると時折、訳もなく苛立つ。
明らかに今、自分よりも先を行っていると解る相手。
何をどう頑張っても追いつけないかもしれない。敵わないかもしれない。
けれど。
何故だろう。
こいつには、負けたくない――。
普段が随分とズボラでアバウトな割に楽器の腕前もテストの成績も他者の追随を許さないというのが、癪に障るのか。
自分がいつの間にか失くしてしまったものを今も持ち続けていることが、ひどく羨ましいのか。
それとも……。
その先を考えそうになる度に。
いつもそこで、有智は思考にストップをかけた。
はっきりそうだと決まった訳じゃないのに考えても仕方がない、と。
そしてただ愚直に目の前の課題をこなそうと、部活動の練習も、勉強も、今まで以上に熱を入れて取り組んだ。
春久と有智を見ていて、菜々美も何か思う所があったのか。
少し前から、教則本とは別にトランペットの初歩的な基本練習を個人練習に取り入れて、自主的に基礎を一から確認し直しているようだ。
中間テストの順位が出た当初は
『まあ真ん中より上、くらい?』
笑ってあまり気にもしていなかったようだが、春久がトップだったと聞いたあたりからか、部屋の机の灯りが今までよりも遅い時間まで点いている事が多くなった。
自室同士が向かい合わせだから、カーテン越しでもそういうことはすぐに判る。
もしかしたら彼女もこちらを見て、同じ事を思っているかもしれない。
「ほらおまえら!浅見のアホにつられてないで早く片付け始めろよ!」
拓海の声に急かされて
「アホって何よたっくん!」
雛子が抗議するのに被せるように
「済みません!」
「すぐ行きます!」
口々に言いながら、有智と春久と菜々美は教則本を閉じて立ち上がった。
「明日の目標は三ページな!」
「えええマジ!」
春久の言葉に、パイプ椅子を畳みながら目を剥いた菜々美だったが。
次の瞬間、ふっと笑って。
「ま、頑張るか。ラッパ戦隊に敵前逃亡なし、だもんね!」
「お、やる気満々じゃんなな!」
春久が、笑顔で応える。
去年の今頃は鼓笛部で、何かにつまづく度に『こんなの無理!』『指回らない!』と、事ある毎に愚痴を言っていた菜々美。
それでも言葉にする事でストレスを発散していたのか、言うだけ言った後は地道に努力を重ねてひとつひとつ課題を克服していった。
そんな菜々美から、いつの間にか愚痴が消えた。
有智とふたりで帰宅する道すがらでさえも、泣き事などひとことも口にしない。
弱音を吐くことなく、ただひたすら頑張っている。
何が彼女を、そんな風に変えたのか。
『ラッパ戦隊に敵前逃亡なし、だもんね!』
畳んだパイプ椅子と譜面台を左手に、楽器を右手に抱えて。
菜々美とほぼ並んで前を行く春久の背中を、追いながら。
有智は思った。
――こいつにだけは絶対、負けたくない。
癪に障るからか。
羨ましいからか。
それ、とも――。
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