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 和室の壁側に置かれたテレビ横の収納にピシッと畳まれた浴衣が置かれていたのでそれを二人分持ち、客室かど広縁ひろえんにある木戸を開けた。そこには浴室に続く広めの洗面所があり、洗面所の台にタイマー代わりの目覚まし時計をセットしたスマホを置く。夕食を運ぶように頼んだ時間の数分前に鳴るようにした。仲居が夕食を持って来た時に、客室の呼び鈴からここまで距離がまあまああるので気付かなかったらマズイとおもったのだ。
 洗面所スペースで脱ぎながら。

「ヴィフレア、風呂からあがったらこの浴衣に着替えて。あ、浴衣はわかる?」
「ああ、写真で見たことがある」
「こういう宿泊施設に置いてある浴衣は……部屋着みたいなものだよ」
「ふむ」
「着方は……そでを通したあとバスタオルを体に巻くような感じ? 男性用ジャケットと同じように左前身ひだりまえみごろが上に来るように体を包み込むんだ。まあ、後で見せるよ」
「わかった」

 洗面所に入ってから微動だにせず僕を観察している彼に、

「ヴィフレアも脱いで」
「ああ」

 ヴィフレアが梱包物こんぽうぶつの紐を解くように素早くネクタイを解きワイシャツもスラックスもあっという間に脱いで裸になった。その時、またフワッと花の匂いがした。

 ……ヴィフレアはいつもいい匂いがする。

 風呂に入らなくてもいいのでは? と思うほど。

 ……綺麗だな。

 見惚みとれてしまう。
 白磁はくじの肌に長い絹糸のような金髪がさらさらと流れて。
 ……流れに従って下方を見ようと、ゴクッと生唾なまつばを飲み込む。ヴィフレアの目を盗んで股間を確認する。

 ……半ちにもなってない。

 ひとりそわそわしているみたいで恥ずかしい。

 浴室と洗面所を仕切る木製の引き戸を開けると、御簾垣みすがきで囲まれたスペースに石と竹をモチーフにしつらえた半露天風呂があらわれた。半露天風呂と洗い場は痛くない程度のざらざらした石で造られている。上縁うわべり面は腰をえるに丁度いい幅広になっており湯船の底面はまあまあ深めで尻もちで座れば肩辺りまで湯にかれると想像できる。

「これが温泉か」

 ヴィフレアの目が輝いているような気がした。

「床が濡れているのに温かい」
「そうだね。源泉かけ流しの湯だから湯船から溢れやすいのかも? 湯がこぼれて温かいんだろうね」
「湯船…? ああ、これのことだな?」

 湯船を指差しながらヴィフレアが言う。

「これほどの体積の水が全部温かいとは凄いな」
「うん、湯船大きいね」

 写真で見るより実物のほうが湯船も洗い場も広かった。これなら湯船の中でも足を伸ばして入れるぞ。

「入ろう」
「うん、……あ、待って! ヴィフレアそのままはマズい。湯船に入る時は『かけ湯』をするんだ」
「『かけ湯』?」
「こうやって、まず股間を洗ってそれから身体の汚れを流してから湯船に浸かるのがマナーだよ。かけ湯には泉質を体に慣らす役目もあるんだ」

 言いつつ僕は自分の股間や身体を湯で流してみせる。

「ふむ」

 ヴィフレアも同じようにする。
 他にも温泉に入る時にはマナーがあるけどここはプライベートな風呂なので省略する事にした。
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