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目覚めた時、僕は夢を見ていたんだと思った。身なりは夢の中と同じだけどジャケットとブーツは身に付けておらず僕の頭の後ろには柔らかな枕、仰向けに寝た体には心地よい羽毛布団の感触があったからだ。高い天井に小振りのシャンデリア……には見覚えがあった。
……僕が泊まっているホテルだ。
視線だけ移動させ窓を見遣る。薔薇模様の白いレースカーテン、その近くに無造作に置かれた自分のトランク。
……やっぱり僕が泊まっている部屋だ。ああ、良かった。あれは夢だったのか。
ほっとして窓側とは反対方向へ寝返りをうった。
……え?
もう一度首だけ動かし窓の方を見る。
……ある。僕のトランク、ある。部屋は確かに自分の宿泊部屋、に、間違いなかった…はず。
再び首だけ窓側とは逆の方へ向ける。
……?
見間違いじゃない。目の前に尻がある。尻? うん、尻だ。僕の頭のすぐ横に尻がある。それは薄緑色の服を纏っている。誰かがベッドの上に座っている。目線をそのまま尻から腰に移動させた時思わず声を漏らした。
「わぁ……」
腰まで伸びた長髪が金色に輝いていたからだ。こんなに綺麗なサラサラした金髪を見たのは初めてだった。その声に反応してかその人がクルッと振り返った。
「……うっ」
僕はその顔に釘付けになる。
透けるような白い肌。額にかかる緩くウェーブがかった髪の下方には形の良い眉が見える。切れ長の目にアイスグリーンの瞳、すっとした鼻筋に薄くも厚くもない均整のとれた唇。一目で端正な顔立ちとわかる。年齢は二十代後半か三十歳前後に見える。
正面の超絶美形に見惚れて自分の顔との違いを無意識に考えてしまう。
日本人に多い茶系の丸っこい黒目に細い顎。童顔とか小顔だと言われることが多いけどそんなの男としては何のステータスにもならない。得したことと言えば小顔のおかげで身長一七一センチのところを数センチほど高く見られたくらいだ。だが、それも姿勢よく立っている時のみ。座れば身長なんてわからないからただの童顔の人になってしまう。二十代後半で童顔ってのは辛い。
……僕もこんな顔に生まれていたらなあ。
僕がうっかりじーっと凝視していると、彼の眉が顰められた。
「じろじろ見ないでくれ」
掠れた落ち着きのある綺麗な低音ボイス。その声色は自信さえ窺える。
そして……なんだろう? ……振り向いた時に鼻に届いたいい香り。石鹸じゃなくて……花の、匂い。
って、なんで僕はこんな冷静なんだ? 前をよく見ろ。僕の部屋に知らない超絶イケメンがいるんだぞ。我に返り今更ながらに気づいた事実に血の気が引く。
「どうした?」
一拍呼吸をおいてから、
「……あなた誰ですか?」
「お前こそ名は何と言う?」
「僕は葉生風芽」
不意打ちの質問返しに素直に答えてしまった。
「って! あなたは誰ですか?」
もう一度問う。
「私はヴィフレア」
「えっと……そのヴィフレアさんが、なぜここにいるのでしょうか?」と訊くと
「ふむ、覚えてないのか?」
とカードを渡された。見ると僕の宿泊するホテルのルームキーだった。
「どうしてこれを?」
「お前のショルダーバッグから拝借したのだ。気絶していた人を外に放っておくのもどうかとおもったからな」
「気絶って……?」
……僕が泊まっているホテルだ。
視線だけ移動させ窓を見遣る。薔薇模様の白いレースカーテン、その近くに無造作に置かれた自分のトランク。
……やっぱり僕が泊まっている部屋だ。ああ、良かった。あれは夢だったのか。
ほっとして窓側とは反対方向へ寝返りをうった。
……え?
もう一度首だけ動かし窓の方を見る。
……ある。僕のトランク、ある。部屋は確かに自分の宿泊部屋、に、間違いなかった…はず。
再び首だけ窓側とは逆の方へ向ける。
……?
見間違いじゃない。目の前に尻がある。尻? うん、尻だ。僕の頭のすぐ横に尻がある。それは薄緑色の服を纏っている。誰かがベッドの上に座っている。目線をそのまま尻から腰に移動させた時思わず声を漏らした。
「わぁ……」
腰まで伸びた長髪が金色に輝いていたからだ。こんなに綺麗なサラサラした金髪を見たのは初めてだった。その声に反応してかその人がクルッと振り返った。
「……うっ」
僕はその顔に釘付けになる。
透けるような白い肌。額にかかる緩くウェーブがかった髪の下方には形の良い眉が見える。切れ長の目にアイスグリーンの瞳、すっとした鼻筋に薄くも厚くもない均整のとれた唇。一目で端正な顔立ちとわかる。年齢は二十代後半か三十歳前後に見える。
正面の超絶美形に見惚れて自分の顔との違いを無意識に考えてしまう。
日本人に多い茶系の丸っこい黒目に細い顎。童顔とか小顔だと言われることが多いけどそんなの男としては何のステータスにもならない。得したことと言えば小顔のおかげで身長一七一センチのところを数センチほど高く見られたくらいだ。だが、それも姿勢よく立っている時のみ。座れば身長なんてわからないからただの童顔の人になってしまう。二十代後半で童顔ってのは辛い。
……僕もこんな顔に生まれていたらなあ。
僕がうっかりじーっと凝視していると、彼の眉が顰められた。
「じろじろ見ないでくれ」
掠れた落ち着きのある綺麗な低音ボイス。その声色は自信さえ窺える。
そして……なんだろう? ……振り向いた時に鼻に届いたいい香り。石鹸じゃなくて……花の、匂い。
って、なんで僕はこんな冷静なんだ? 前をよく見ろ。僕の部屋に知らない超絶イケメンがいるんだぞ。我に返り今更ながらに気づいた事実に血の気が引く。
「どうした?」
一拍呼吸をおいてから、
「……あなた誰ですか?」
「お前こそ名は何と言う?」
「僕は葉生風芽」
不意打ちの質問返しに素直に答えてしまった。
「って! あなたは誰ですか?」
もう一度問う。
「私はヴィフレア」
「えっと……そのヴィフレアさんが、なぜここにいるのでしょうか?」と訊くと
「ふむ、覚えてないのか?」
とカードを渡された。見ると僕の宿泊するホテルのルームキーだった。
「どうしてこれを?」
「お前のショルダーバッグから拝借したのだ。気絶していた人を外に放っておくのもどうかとおもったからな」
「気絶って……?」
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