1 / 9
愛しいツンデレラと僕【1】
しおりを挟む
夏になると楽しみなことがある。肌の露出が増えることと祭りだ。
この時季ここかしこで催される祭り。なぜか祭りと聞くとわくわくしてしまう。
わくわくするのは僕だけじゃない。僕が住んでいる町自体もわくわくしている――ように見える。一年を通して比較的静かなこの町もこの時季ばかりは活気づく。きっとそれは町おこしの一端も担っているんだと思う。
他の所にはない名産物を作って観光雑誌に載せてもらっているのを見たことがある。だけど僕が数ある夏祭りの中で、楽しみにしているのは商店街近くで昔から行われている花火大会だ。
僕は花火が本当に好きだ。
真っ暗な夜空に光の筋がスーッとのびて爆発音とともに大輪の花火が咲く。だけどその花が咲くのはほんの一瞬だけであっという間に散っていく。一瞬で人々の心を魅了する花火が次の瞬間にはもうそこにはないのだ。そんな花火を見てとてもせつない気持ちになる。
せつなさを感じるのに好きというのも変な話である。だが、事実、好きなのだ。
そんなふうに僕を惹きつけてやまない花火大会が今週の土曜開催される。毎年行っているが、今年の花火大会は特に楽しみにしているのだ。
その理由はいつも一人で見ていた花火を今年は、僕の恋人、埴野蘭と一緒に見れるからだ。それだけではない。蘭の浴衣姿ももれなくついてくるのだ。
――そう思っていたのに。
「はあ? たかが近所の花火大会にいちいち浴衣なんか着てくかよ」
僕が蘭に浴衣を着てくれと言った次の台詞がコレだ。可愛い容姿をしていながらにして毒を吐くのを得意としている。
「そんな言い方しなくてもいいだろ」
「歩宜がつまんねえこと言うからだろ?」
「別につまらなくはないだろ。僕は蘭の浴衣姿が見たいんだから」
「おれは別に歩宜の浴衣姿なんか見たくねえよ」
「僕は関係ない」
大学からの帰り道。
きっと着てくれるものとばかり思っていた僕は、蘭から出た言葉を信じられない思いで聞く。
まだ高い位置にある夕日に向かって叫びたい気分でいっぱいだ。このがっかり感が伝わるだろうか?
「……ほんとに着てくれないのか?」
「しつこいな! そうだって言ってんだろ!?」
「…………」
正直僕は図りかねている。これが蘭の本心なのか嘘なのか。と、いうのは、蘭は僕をわざと怒らせて遊ぶのが好きなのだ。だから、本心では『やってもいい』って思っていても口では『やだ』っていうことがよくあるのだ。ツンデレとでもいうのだろうか? その態度が僕に対してだけなのでそれが蘭なりの愛情表現だとわかってるし、そういう所が可愛いとも思う。
でもこう毎回毎回されるといやになってくる。
……ううん、違う。違うな。
不安になってくるのだ。本当に僕への愛情表現なのか? と。
だから今回は少し怖いが、前々から考えていたことを実践してみることにする。蘭のツンデレに応じない作戦、名付けて『逆ツンデレ作戦』である。……我ながらダサい名付けだけれども。さっそくやってみた。
「――だったら……もういい」
「は?」
僕はポカンとしている蘭をそのまま残し足早に帰路につく。
……蘭が僕を追って来る気配はない。
この時季ここかしこで催される祭り。なぜか祭りと聞くとわくわくしてしまう。
わくわくするのは僕だけじゃない。僕が住んでいる町自体もわくわくしている――ように見える。一年を通して比較的静かなこの町もこの時季ばかりは活気づく。きっとそれは町おこしの一端も担っているんだと思う。
他の所にはない名産物を作って観光雑誌に載せてもらっているのを見たことがある。だけど僕が数ある夏祭りの中で、楽しみにしているのは商店街近くで昔から行われている花火大会だ。
僕は花火が本当に好きだ。
真っ暗な夜空に光の筋がスーッとのびて爆発音とともに大輪の花火が咲く。だけどその花が咲くのはほんの一瞬だけであっという間に散っていく。一瞬で人々の心を魅了する花火が次の瞬間にはもうそこにはないのだ。そんな花火を見てとてもせつない気持ちになる。
せつなさを感じるのに好きというのも変な話である。だが、事実、好きなのだ。
そんなふうに僕を惹きつけてやまない花火大会が今週の土曜開催される。毎年行っているが、今年の花火大会は特に楽しみにしているのだ。
その理由はいつも一人で見ていた花火を今年は、僕の恋人、埴野蘭と一緒に見れるからだ。それだけではない。蘭の浴衣姿ももれなくついてくるのだ。
――そう思っていたのに。
「はあ? たかが近所の花火大会にいちいち浴衣なんか着てくかよ」
僕が蘭に浴衣を着てくれと言った次の台詞がコレだ。可愛い容姿をしていながらにして毒を吐くのを得意としている。
「そんな言い方しなくてもいいだろ」
「歩宜がつまんねえこと言うからだろ?」
「別につまらなくはないだろ。僕は蘭の浴衣姿が見たいんだから」
「おれは別に歩宜の浴衣姿なんか見たくねえよ」
「僕は関係ない」
大学からの帰り道。
きっと着てくれるものとばかり思っていた僕は、蘭から出た言葉を信じられない思いで聞く。
まだ高い位置にある夕日に向かって叫びたい気分でいっぱいだ。このがっかり感が伝わるだろうか?
「……ほんとに着てくれないのか?」
「しつこいな! そうだって言ってんだろ!?」
「…………」
正直僕は図りかねている。これが蘭の本心なのか嘘なのか。と、いうのは、蘭は僕をわざと怒らせて遊ぶのが好きなのだ。だから、本心では『やってもいい』って思っていても口では『やだ』っていうことがよくあるのだ。ツンデレとでもいうのだろうか? その態度が僕に対してだけなのでそれが蘭なりの愛情表現だとわかってるし、そういう所が可愛いとも思う。
でもこう毎回毎回されるといやになってくる。
……ううん、違う。違うな。
不安になってくるのだ。本当に僕への愛情表現なのか? と。
だから今回は少し怖いが、前々から考えていたことを実践してみることにする。蘭のツンデレに応じない作戦、名付けて『逆ツンデレ作戦』である。……我ながらダサい名付けだけれども。さっそくやってみた。
「――だったら……もういい」
「は?」
僕はポカンとしている蘭をそのまま残し足早に帰路につく。
……蘭が僕を追って来る気配はない。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
君知る春の宵 ~極道とリーマンが×××!?〜
いつうみ
BL
ある春の朝、誤解からヤクザに拉致された新人サラリーマン桜井 春人(さくらい はると)。
偶然出会った極道の若頭、東藤 龍巳(とうどう たつみ)と互いに惹かれ合いながらも、一歩踏み出せない。
そんな時、春人の会社が不渡を出してしまい……。
ーーーーーーーーーーーー
ヤクザ×リーマン
極道×天然 年上×年下
極道モノBLの王道を目指しました。
※誤字脱字報告、いただけたら助かります!
選択的ぼっちの俺たちは丁度いい距離を模索中!
きよひ
BL
ぼっち無愛想エリート×ぼっちファッションヤンキー
蓮は会話が苦手すぎて、不良のような格好で周りを牽制している高校生だ。
下校中におじいさんを助けたことをきっかけに、その孫でエリート高校生の大和と出会う。
蓮に負けず劣らず無表情で無愛想な大和とはもう関わることはないと思っていたが、一度認識してしまうと下校中に妙に目に入ってくるようになってしまう。
少しずつ接する内に、大和も蓮と同じく意図的に他人と距離をとっているんだと気づいていく。
ひょんなことから大和の服を着る羽目になったり、一緒にバイトすることになったり、大和の部屋で寝ることになったり。
一進一退を繰り返して、二人が少しずつ落ち着く距離を模索していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる