LIFE ~にじいろのうた~

左藤 友大

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第三話 出会い

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ぼくは一人薄暗い部屋でベッドの上でうずくまって寝ていた。
寝ていると思うが、半分だけ目は開いている。
昨日、雨が止みガジュマルの木で会ったキジムナー達と別れ家に着いた時、おばあちゃんが心配した顔でぼくが田内達にいじめられていたことを知っていた。きっと、ぼくが学校を出て行った後、先生が電話で話したのだろう。正直、おばあちゃんとおじいちゃんだけには内緒でいたかった。あまりおばあちゃんとおじいちゃんに負担をかけたくなかったのだ。でも、おばあちゃんはあまり深く言わずぼくが無事に帰ってきたことに安心していた。ぼくは広場にあるガジュマルの木で雨宿りしたと話をするとおばあちゃんは笑顔で頷き「そのままお風呂に入って来なさい」と優しい声で勧められた。ぼくはお風呂の中で午後の授業も給食も取らず勝手に学校を出て行ったことよりもキジムナーから教えてくれた「好きなことをすればいい」という言葉に悩んでいた。いきなり、好きなことをやればいいだなんて言われてもそう簡単には見つからない。しかも、好きだった音楽と歌は嫌いになり歌いたくもない。歌と音楽以外の好きなことは何もなく悩んだものだ。
でも、例え好きなことを見つけてやったとしてもぼくの心の傷は治るとは限らない。やっぱり、時の流れに任せるしかないのか。
そして、今日は幸いにも土曜日で学校はお休み。もし、明日が平日だったらお腹痛いと言い訳してズル休みしていたところだ。だって、田内達だけでなくクラスみんなにも激怒したから返って行きづらくなる。今日が土曜日だったことが不幸中の幸いだ。
おじいちゃんはいつもどおり仕事に行っていておばあちゃんは公民館で演奏練習に出掛けている。おばあちゃんは三味線が弾けるうえ宮古島民謡をやっている。ぼくが学校に行ったり出掛けている時は、家で練習しているみたいだ。音楽嫌いのぼくに気を遣ってくれているおばあちゃんには本当に申し訳ない。おばあちゃん、ごめんなさい。
夕方前まではおばあちゃんは公民館にいるので家にいるのはぼく一人だけだ。
ぼくはもう一眠りしようと寝返り目を閉じようとした。
その時だ。
1階からインターホンの音が聞こえた。一度目を閉じていたぼくはインターホンの音を聞いてパチリと目を開けた。再び寝ようとしたが、お客さんをほっとくわけにはいかないのでぼくはゆっくりと体を起こしベッドから降りた。
パジャマ姿のまま小走りで階段を降り玄関へ向かった。
サンダルを履きドアノブを回しぼくは「はーい」と言いながらドアを開けて顔を出した。
ぼくの目に映ったのは、スニーカーにデニムズボンを履き半袖Tシャツを着て長い黒髪を束ねた女性だった。女性の手には青と白が並んだチェック柄の包装紙で包まれた箱を持っていた。
女性は笑顔で寝ぼけたぼくに挨拶をした。
「初めまして。昨日、静岡からこちらの近所に引っ越して参りました。藤目と申します」
近所?引っ越し?ぼくは昨日の記憶を辿り探ったが、なかなか思い出せない。
ぼくは「すみません。どこの家に引っ越したのですか?」と素っ気なく訊ねた。
藤目と名乗る女性は笑顔で「こちらのご自宅から少し近くに大きなお家がありますよね?そこに引っ越してきました」
大きな家。そういえば、うちの家から少し近くに少し大きめの空き家があったのを思い出した。確か、20年前か21年前ぐらいに老夫婦が改築した家だ。風通りが良さそうな縁側もあって庭もある大きな家で実際見たことはあるが、13年前ぐらいに老人が病気で倒れ亡くなりその後、8年前に老婆が他界ししばらくの間、空き家になったと聞いたことがある。
藤目さんは空き家だったその家に引っ越してきたのだ。
「引っ越しでは何かとお騒がせしてしまい申し訳ございませんでした。こちらつまらない物ですが」
藤目さんはぼくに包装紙で包んだ箱を手渡した。ぼくは受け取り「ありがとうございます」と軽くお辞儀した。
「ご家族はいないんですか?」
そう訊ねられてぼくは、おじいちゃんは仕事でおばあちゃんは出掛けていることを教えた。
祖父母が不在していると知った藤目さんは「明日、また改めてご挨拶に伺うとお伝えください。今日からよろしくお願いします」とお辞儀するとぼくもお辞儀を返し藤目さんは引っ越した家へ帰った。
ドアを閉めたぼくは藤目さんから貰った手土産をリビングの食卓の上に置いた。

その夜、ぼくはおばあちゃんとおじいちゃんと一緒にテレビを観ながら藤目さんから貰った手土産のお菓子を夕食後のデザートとして食べていた。手土産は静岡の名物お菓子「うなぎパイ」だ。生まれて初めて食べてみるとサクサクして美味しい。あまりにも美味しすぎてついつい三個食べちゃった。また、食べたいと思うが、あまり食べるのはよくないと思い残りは明日食べようと思った。しかし、うなぎパイのあの美味しさを思い出すと最後のもう一個だけと思ってしまい手を伸ばしてしまう。でも、食べすぎるのはよくないから伸ばした手を引いた。でも、食べたくて手を伸ばす。もう一個食べたいかやめとくか迷いに迷っているぼくの姿を見ておじいちゃんは笑った。
「食べるか食べないか迷ってるのか?」
おじいちゃんが眉を上げるとおでこに皺が見えた。
ぼくはうなぎパイを見つて悩みながら言った。
「だって、こんなにやみつきになるお菓子食べるの初めてだもん」
「こーちゃんが迷っちゃう気持ち、分かるわ」
おばあちゃんも笑って茶を啜った。
テレビに映っているのは、バラエティのトーク番組だ。芸能人達があれやこれやとプライベートや仕事のことなどいろいろ話している。
おじいちゃんは泡盛を一口飲んだ。
「それにしても、あの空き家が売れたとはな。静岡から来たんだって?」
「そうみたいね。あのお家、保川さんのお婆さんが亡くなってから誰も住んでいなかったからね。新しい持ち主が見つかって保川さん、嬉しいだろうね」
祖父母の会話にぼくは開けたうなぎパイの袋を手に取り空になったコップを台所に持って行った。
開けた袋はゴミ箱にコップは流し台に置いて言い忘れていたことをおばあちゃんとおじいちゃんに教えた。
「そうそう。藤目さんが明日、おばあちゃんとおじいちゃんに挨拶しに来るって言ってたよ」
それを聞いておばあちゃんは「あら。そうなの」と返事した。
「あたしは明日、家にいるから大丈夫よ」
「おじいちゃんは?」
おじいちゃんはうなぎパイを食べながら「俺も明日は有給取ってる」と返答した。

次の日の昼、家んちに藤目さんが来た。藤目さんの隣には男性がいた。きっと、旦那さんだなとぼくは思った。
おばあちゃんとおじいちゃんは今日初めて顔合わせしたので軽く挨拶し藤目さんを家に上がらせた。
ぼくから見ると藤目さん夫婦はとても優しそうで笑顔も素敵だった。死んだお母さんも笑顔が似合う人だったという記憶はあるがお父さんはどんなだったのかあまり憶えていない。
ぼくは一人部屋に籠って漫画を読んでいた。でも、何度も何度も読み返したので飽きてしまい家にいても暇だからどこか出かけようと思った。
ボディバックに財布だけを入れてスマホをズボンポケットにしまい部屋を出た。
階段を降りるとリビングでおじいちゃんとおばあちゃん、藤目夫婦と会話をしていた。何やら初めて挨拶してから20分で意気投合してる。ぼくはそんな様子を覗きながら見ていると気づいたのかおばあちゃんがぼくに声をかけて来た。
「どうしたの?」
おばあちゃんの一言でおじいちゃんも藤目夫婦もこちらを見た。
ぼくはこちらを見るおばあちゃん達に出掛けることを伝えた。
「いや、ちょっと出かけてきます」
すると、藤目夫婦と目が合いぼくは軽く会釈した。藤目夫婦も微笑みながら会釈する。
「虹くん、っていうんだよね?虹(にじ)と書いて虹(こう)くんだなんて素敵なお名前ね。」
藤目さんが笑顔でぼくの名前を褒めてくれた。名前で褒めてくれるなんてぼくにとっては生れて初めてだ。
「今、いくつ?」
藤目さんの質問にぼくは「10歳です」と答えると彼女は「小学五年生なんだ」と言った。
「おばさんとおじさんにもね。一人子供がいるの。神馬(しんま)といって虹くんと同じ男の子で今、中学二年生なの」
「息子さん。中学生なんですか」
おじいちゃんは感心しているかのように訊ねると藤目さんの旦那さんが「ええ」と頷いた。
「今、あの子は自宅にいて音楽をやっているんですよ」
すると、おばあちゃんは「まぁ、息子さん音楽をやってなさってるのですか?」と明るい声で訊ねた。
藤目さんは頷いた。
「はい。あの子、主人の影響でギターとか楽器を弾いているんです」
「昔、コピーバンドをやっていました」
旦那さんは笑っていると藤目さんはちょっと困り顔になりながら苦笑した。
「でも、あの子ったらギターとかピアノとかパソコン弄って何か曲を作ってるとかでなかなか勉強してくれないんですよね。音楽だけは妙に成績がいいのですが」
「子供は好きなことをさせるのが一番ですからな」
おじいちゃんはワッハッハと笑った。
好きなことをさせる。まだ子供であるぼくにとってはあまり縁のない言葉だった。しかも、藤目さんの息子はぼくより年上かつ音楽好きだと聞いたら音楽嫌いのぼくとはあまり性に合わないだろう。
藤目さんの旦那さんはぼくに向かって「虹くんは音楽好き?」と訊ねられた時、おじいちゃんとおばあちゃんはちょっと心配そうな目でぼくを見た。音楽嫌いなぼくを気にしているかのように。しかし、ぼくは何とも思わなく「昔は好きでした」と答えた。その後は、辛くなるから詳しくは教えなかった。ぼくは「じゃあ、行ってきます」とリビングから離れようとした途端、「待って」とおばあちゃんが止めてきた。
「こーちゃん。せっかくだから神馬くんを連れて町を案内してあげたら?」

ぼくは、おばあちゃんに言われたとおり藤目家に来た。一緒に来てくれた藤目さんの・・・・神馬くんのお母さん 裕子さんがガラガラと戸を開けて上がらせてくれた。木材を使った廊下はピカピカで光が反射するぐらい綺麗だった。ぼくは裕子さんの後をついて行きながら息子がいる部屋へ向かった。
畳みで敷かれた居間は20畳ぐらいあった。居間から1メートルぐらい離れたところに扉があった。扉は焦げ茶色の木材でできている。
中から音が聞こえた。ギターの音だ。
裕子さんが扉をノックして「神馬。入るわよ」と言い扉を開けた。
中は広く10畳ぐらいあった。扉の先には椅子に座ってギターを抱えパソコンにヘッドホンのコードを差し込んでいる。そして、周りを見ると楽器や楽譜の本が置いてあった。後は、ベッドとかタンス、テレビもあったが楽器の数と楽譜や音楽関係の本がたくさんあってぼくは驚いた。でも、開けっぱなしで放置したままのダンボールがいくつかあった。
そして、ヘッドホンを付けてギターを弾いている少年の背中が見える。軽快にギターを奏でていて父親の雄二さんが入ってきたことすら気づいていないみたいだ。
このギターの音。もしかすると、アコースティックか。とぼくは音だけで一発分かった。でも、ちょっとだけ耐え難い。だって、死んだ兄ちゃんもギターを弾いていたから。このアコースティックギターの音を聞くと沸々と幸せな一時を過ごした時の兄ちゃんの顔が思い浮かんでしまう。でも、多くの楽器で聞く音楽よりはまだマシだ。
裕子さんはぼくを連れて来たことを神馬くんに伝えたが彼は全く反応しない。裕子さんはつかつかと神馬くんの所へ歩み彼が付けていたヘッドホンを取り上げた。ヘッドホンを外されたことに気づいたか神馬くんは演奏を中断し驚いた顔をして振り向いた。神馬くんはとても顔つきがよくて目と鼻がしっかりと整っている。
神馬くんはしかめ面でいきなりヘッドホンを取り上げられた裕子さんに文句を言った。
「ちょっいきなり何?!今、ライブ中なんですけど」
ライブ中?ぼくの頭の中に?が浮かんだ。
裕子さんは取り上げたヘッドホンを持ちながら開いた手で腰を当てた。
「神馬。せっかく引っ越してきたんだから散歩がてら町の散策でもしたらどお?」
神馬くんは裕子さんからヘッドホンを奪い取り「後で」と言い残し再びパソコンに顔を向けた。そして、「みなさん、ごめんなさい。ちょっと邪魔が入っちゃいました。今から演奏続けま~す」とパソコン越しで何やら喋っていた。
裕子さんは「もう!」と膨れていた。なんか、悪いことしちゃったなとぼくは思った。別にぼくは悪いことはしていないけど、なぜかそう思ってしまった。
「あの、おばさん」
ぼくの呼びかけに裕子さんは振り向いてくれた。
「ぼく、もう少し外で待ってます」
本当はアコギの音から逃れたいだけだ。裕子さんは「ごめんね」と申し訳なさそうにぼくに謝った。

神馬くんの部屋を後にしたぼくは、居間で正座し待っていると裕子さんがテーブル上にジュースが入ったコップを置いてくれた。
ぼくは裕子さんのお言葉に甘えながら持って来てくれたジュースを飲んで神馬くんのライブとやらが終わるまで居間で待った。
居間にはいくつかダンボールが置かれていた。まだ、荷物を片付けている途中なのだろう。
「ごめんなさいね。散らかっていて」
「いえ」
顔を横に振ったぼくは持って来てくれたジュースを一口飲んだ。
「あの子。音楽になると人が変わるかのように夢中になっちゃうの」
ぼくは気になったことを裕子さんに訊ねた。
「あの、ライブって?」
その質問に裕子さんは親切に答えてくれた。
「ライブアプリよ。あの子、いろんなライブアプリを持っていて生演奏しているみたい」
そんなのがあったのか。ぼくは知らなかった。
「虹くんはライブアプリやってるの?」
その質問が来た時、ぼくは首を振り簡単なことしか言わなかった。
「いえ。ぼく、音楽が苦手で・・・」
「あら。そうなの?」
ぼくはしばらくの間、裕子さんと一緒に会話しながら神馬くんが出てくるのを待っていた。
それから、20分ぐらい経った頃、神馬くんが居間に来た。ライブとやらが終わったみたいだ。
神馬くんはシンプルな服装をしていて足と手も長い。
「さっきおれを呼んでたみたいだけど何?」
ぼくが振り向いた時、神馬くんは誰?と思っているような目でこちらを見た。突然、自分の家に知らない子が来たら誰?って思うのも無理はない。話し相手をしてくれた裕子さんが初めて会う神馬くんにぼくを紹介した。
「ご近所に住んでいる羽藤虹くん。挨拶したついでにあなたを町案内させてもらおうと思って連れて来たの」
そして、次は神馬くんを紹介してくれた。
「さっきお話した息子の神馬。音楽のことしか頭にないかもしれないけど仲良くしあげてね」
母親の発言に「音楽のことしか頭にはいってないって余計なお世話だ」と眉間を寄せて不平不満な顔をした。裕子さんは不満そうな自分の息子を気にしなかった。
「せっかく宮古島に引っ越してきたんだから虹くんに案内させてもらいな」
ぼくは軽く会釈しながら「よろしくお願いします」と言うと神馬くんは「よろしく」と言ってくれた。

宮古島市は住宅やお店など建物があり多くの人が行き交っている。
昔は住宅が多くお店は少なかったが、今は住宅も店も平等ぐらいの多さがある。八百屋にスーパーにコンビニ、そしてレストランなど。カラオケだけはさすがにないけど。
ぼくは神馬くんを連れて町を案内した。僕が時々通ってるお店やよく行っているスーパーやお肉屋さんに八百屋さん。子供が遊べるような施設はないが、ぼくが知っている限りのお店などを神馬くんに教えた。
神馬くんは町の景色を見渡したり素直にぼくの話を聞いてくれたりしてくれた。ぼくが自分で知らない子を町案内するのは今回が初めてだ。
ちょうど、町を案内していたところ行きつけのハワイアンカフェを見つけたのでせっかくだしここで一服しようと神馬くんに伝え店の中へ入った。ハワイアンカフェは建物が白一択で塗られていて周りには緑色に染まる庭に背が低いヤシの木がある。お店の建物の周りには植物の花壇が置いてある。看板はハワイ感がある花の絵と明るい色で塗られていた。黄色の柵があるベランダにはテーブルとベンチが2席ある。外から見れば確かにハワイの雰囲気が漂う。
店の中もとてもオシャレで壁は明るいクリーム色のカウンター席にはオシャレなメニュー本にフラダンスをする小さな女の人形が横一列に並んでいてもちろん、カウンター席からキッチンも見える。キッチンには調味料やコンロに流し台、壁に付いているステンレスの調理器具収納棚の上には木製の箱、隣には「ALOHA」と書かれたタペストリーが飾られていた。店の周りには「OPEN」と書かれたスタンド看板にウクレレやハワイらしさがある個性的な絵にハワイグッズがたくさん置いてある。もちろん、店内にもカウンター席の他にテーブルと椅子もある。さすがにハワイアンミュージックのBGMは流れていているが、ここに来ると本当にハワイのお店に来た雰囲気が味わえて楽しいのだ。店の中に入った途端、一匹の子犬が来店してきたぼく達を迎えてくれた。白黒二種類の毛色を持つ子犬は可愛いつぶらな瞳で尻尾を振りながらぼくを見つめる。
ぼくは微笑みながら背を低くしてボーダーコリーと戯れる。
「アロウ。元気かい?」
アロウというボーダーコリーはハアハアとパティングという荒い息を繰り返しながら前両足をぼくの膝の上に置いた。
すると、「いらっしゃい」という男性の声が聞こえた。
カウンターキッチンには、大柄で口周りと顎に髭を生やしたとても優しそうな団子頭の男性が立っていた。とても優しい目と笑顔で来店したぼく達を迎えてくれた。
「こんにちは。店長さん」
ぼくは彼を店長さんと呼んでいる。そう。彼はこのハワイアンカフェの店長なのだ。
店長さんは珍しそうな顔をして神馬くんを見た。
「虹くん。今日は珍しく友達を連れて来たのかい?」
ぼくは店長が初めて会う神馬くんを紹介した。
「藤目神馬くんです。近所に引っ越してきたんです」
「ども」
神馬くんは軽く会釈した。
「初めまして。ハワイアンカフェ「OHARA」の店長 泉といいます」
ぼくはカウンター席に立て掛けてあったメニュー本を開き注文した。
「オレンジジュースとマラサダ紅芋ください。いつものベランダで食べます」
注文すると店長さんは嬉しそうに「はいよ」と言った。
「神馬くんは何する?」
メニュー本を見せると神馬くんは何するか考えた。ハワイアンミュージックのBGMがぼくの耳の中に流れてくる。ぼくは早くしてほしいなと心の中で思いながら待っていると神馬くんは「じゃ、コーラだけで」と注文した。
注文を終えるとぼくらはベランダの席に座った。後で、店員さんが持って来てくれる。注文した品が届くのを待っていると神馬くんの方から話しかけてきた。
「いつもこのお店に来てるの?」
「時々ね。それに、店長さんとは2年前からの顔馴染みなんだ。気さくでとても優しい人だよ」
「分かる。そんな人に見えた」
神馬くんが笑うと次の質問をしてきた。
「いつもここで食べてるの?」
ぼくは頷いた。
「うん」
神馬くんは頬杖をついて話した。
「店内は使わないの?」
その質問にぼくは自分には音楽と歌が苦手だということを神馬くんに話した。まだ、彼はぼくが音楽と歌嫌いだということを知らない。
「実はぼく、音楽とか歌が嫌いなんだ」
「なんで?」
疑問に思っている神馬くんに理由を話した。
「音楽と歌を聞くと死んだ家族を思い出してしまうんだ。特に兄ちゃんとは昔、よく家の中で歌ってた。でも、兄ちゃんが3年前に帰ることができない戦場に行っちゃったんだ・・・・。兄ちゃんが死んだ後、ぼくは好きだった音楽と歌が嫌いになった。兄ちゃんが死んでから音楽は聞いてないし歌も歌っていない。一度、音楽の授業を受けた時、音楽を聞くだけで具合悪くなって倒れたこともある。だから、ベランダ席があるお店だけしか行かないことにしているんだ。店内だとBGMが流れて聞くと気分悪くなるから」
この話をすると本当に肩が重くなる。でも、ちゃんと理由を話さなきゃ神馬くんは納得してくれなさそうだしぼくの顔色で分かるはずもない。始めた会ったばかりだから仕方がないことだ。神馬くんは「そうなんだ」と返事した後、何も言わなかった。
すると、ぼく達が座っている席に店員さんが来た。店員さんは「お待たせしました。紅芋のマラサダとオレンジジュース、コーラをお持ちしました」と言いぼくの前にオレンジジュースと紅芋のマサラダ、神馬くんの前にコーラを置き「ごゆっくりどうぞ」と一礼して立ち去った。
マラサダはパン生地を揚げグラニュー糖をまぶしたスイーツだ。もともとはポルトガルのお菓子だがハワイのワイキキ近郊にあるベーカリーが売り始めたことにより、マラサダの存在はハワイ全土に知れ渡ったといわれている。
プレーンもおいしいが、この紅芋のマサラダが好きでよく注文する。ぼくは紅芋のマラサダを半分割った。中には紅芋クリームはたっぷり入っている。ぼくは半分に分けたもう片方のマサラダを神馬くんにあげた。神馬くんは半分に分けた片方のマサラダを貰い食べた。
すると、神馬くんは笑みをこぼした。
「うまいね。これ」
「でしょ?」
ぼくは半分になったマサラダを口に運んだ。紅芋の味が口の中に広がりとても美味しい。空いた手でコップを掴みストローを口に付けオレンジジュースを飲みながら話した。
「神馬くんは、どうして宮古島に引っ越してきたの?」
「父さんの仕事都合で引っ越してきたんだ。静岡の会社から転勤したんだよ」
「へぇ」
神馬くんは紅芋のマサラダを平らげストローを銜(くわ)えてコーラを飲んだ。
「羽藤くんは?」
「虹でいいよ」
神馬くんは改めてぼくの下の名前で呼んでくれた。
「虹くんは、どこから来たの?」
「東京。墨田区に住んでたんだ」
「・・・・・空襲に遭ったとこだね」
ぼくは頷いた。3年前の夏、兄ちゃんが戦場へ行っている間、東京はKT国が発射したミサイルによる空襲により東京は焼け野原になった。そのニュースを見た時、まさに地獄絵図を見ているかのような光景だった。でも、今の時代はテクノロジーが進み2年経った今、東京の経済は回復し街も徐々に元通りになっている。
ぼくは話を変えた。戦争の話はしたくないから。
「そういえば、さっきライブをやってるって言ってたよね?おばさんから聞いたんだけど、ライブアプリいくつか持ってるって」
神馬は頷きちょっと楽しそうに話した。
「ああ。「ライブル」に「ビディッパー」、「μlove」とかいろいろなライブアプリ持ってるよ」
「いつも、ギターとかでライブやってるの?」
「うん。ギターはもちろん、ピアノも弾けるしエレクトーンだって。虹くんはデーストって知ってる?」
デースト?聞いたこともない名前なので首を振った。
「ネットインストルメント・ソフト。通称デースト。楽器を持ってなくてもソフトに入っている全ての楽器やジャンルを選んで作ることができるんだ。ぼくはそれを持っていて作曲を作ってる」
「作曲?」
「そう。じつはおれ、将来ライブパフォーマーになるのが夢なんだ。もちろん、作曲家も目指してる」
「作詞は作らないの?」
そう訊ねると神馬くんは両手を挙げて苦笑しながら首を振った。
「作詞は苦手。ちなみに、おれは国語が苦手で漢字なんてもっと苦手。それに、歌も苦手」
「音楽が好きなのに?」
「こう見えてオンチなんだ。強いて言うなら、ジャイアン並み」
それを聞いてぼくはプッと吹き出した。
「そんなに?」
神馬くんは「そんなに」と頷いた。ジャイアン並みのオンチがこの世にいるとは思ってもみなかった。今、ここで歌ったらジャイアンみたいな簿エボエ声が出て大変なことになるのだろう。でも、ちょっと大げさすぎやしないかと思ったが、歌が苦手なのは確かかもしれない。
「でも、音楽だけ特に楽器演奏だと自信ある。音楽以外の科目だと自信ないけどな。でも、将来、作曲家をやりながらライブパフォーマーになりたいからネットライブで演奏したりしてるんだ。もちろん、インスタライブもやってる」
神馬くんから将来の夢を含め詳しい話を聞きぼくとは違って彼は夢を持って頑張ってる感があった。彼は作曲家とライブパフォーマー。ぼくは何も夢を持っていない。彼と比べてぼくはとても地味で情けない奴だ。田内達にいじめられクラスのみんなから妙に嫌な視線を送られそのうえ、邑上くんから遠ざけるかのように逃げている。神馬くんはとても明るく演奏もできてすでに将来の夢まで持っている。まるで、差をつけられているような感じがして仕方がない。家族と兄ちゃんが死んだきっかけで音楽と歌はともかく自分の将来のことなんて考えたこともない。ただ普通に将来を適当に決めて適当にどっかの会社に就職してそれからはなんとなく仕事をし生涯を過ごす。全部、適当に決めて後は楽に過ごすのがぼくの将来の夢みたいだ。自分の人生は自分で決める。誰かに決めてもらうのではなく自分で決めて生きる為に歩んでいく。何もない将来の夢でも生きてりゃそれでいいなんてことを口にしたらおばあちゃんとおじいちゃんはどんな反応し言い出すのだろうか。
そんな輝かしい夢を持つより、ぼくに合いそうな慎ましい夢を探した方がいいだろう。
すると、ぼくの頭の中から昨日、キジムナーに言われた言葉が流れて来た。

『自分の好きなことをすればいいんじゃない?』

今の自分が好きなことは全くない。となると、やっぱり音楽と歌しか思いつかない。
やっぱり音楽を聞いたり歌った方がいいのか?そういえば、ぼくの趣味は特にない。趣味がなく好きな物がない。本当にぼくはしょぼくて情けなくて地味な男だ。でも、音楽と歌だけは無理だ。音楽を聞いたり歌ったりすると死んだ兄と家族の顔が思い浮かんでしまう。
どうすればいいんだ?どうすればいんだ、ぼく。
そう頭に過りどうすればいいんだとぼくは悩んだ。すると、神馬くんが「どうした?」と訊ね様子を窺ってきた。どうやら、ぼくは深刻な顔をしていたみたいだ。神馬くんが声をかけてくれたことでぼくは気がついた。
「いや、なんでない」
ぼくは作り笑いをして何でもないかのように振る舞った。
すると、神馬くんは突然ぼくにこう言いだした。
「虹くんって、よく見たら良い顔してるよね」
それを聞いたぼくは驚き目を大きく見開いた。良い顔してるなんて言われたのは、おばあちゃんと死んだお母さんや近所の人だけだ。まさか、ぼくと同じ子供に顔が良いなんて言われたの初めてだった。いつも、クラスのみんなから地味でダサいくて軽蔑している目を向けられているしぼくもあまり自分の顔に自信はない。ただのお世辞に決まってる。しかし、神馬くんのベタ褒めマシンガンは止まらなかった。
「顔は薄いけど肌は白いし目元と鼻は高い。顔の輪郭も整っているし歌手にピッタリだ」
ぼくは何も言えなかった。ぼくなんかより神馬くんの方が顔が良いと思っている。目と鼻は整っているし肌はやや濃いめだが日本人らしい顔立ちをしている。それに、目元はキリっとしている。まるで、中学生姿の邑上くんを見ているかのようだ。いや、ちょっと大げさすぎたか。
神馬くんは笑みを浮かべた。
「それに、虹(こう)っていう名前もいい。虹色の虹(にじ)だからね。まるで、太陽と雨に似合いそうな名前だ」
太陽と雨に似合いそうな名前ってどう意味だろう?とぼくはちょっと疑問に思った。
神馬くんは話を続ける。
「それに、虹って幸運の前兆とか運気がアップするとか明るい未来があるという意味でもあるんだぜ?それに、虹は英語で「レインボー」って言うだろ?あれ、「雨の弓」と言うんだ。それと、フランス語では「アルカンシエル」、日本語で「空に掛かるアーチ」って言うんだ。虹(こう)って言う名前は誰が付けたの?」
あまりにも詳しく話す神馬くんにぼくは「兄ちゃん」と答えた。
「もしかすると、虹くんのお兄さんはきみが明るい未来に向かって幸せに生きてほしいという願いがあって付けたかもしれないね。2年前まで世界大戦があったし。とにかく、縁起の良い名前だ」
彼の言葉を聞いて思い出した。昔、お母さんにどうしてぼくの名前は「虹(こう)」なの?と。そしたら、お母さんは明るい未来で幸せに過ごしてほしいからよって教えてくれた。そして、ぼくの名付け親が兄ちゃんだということも教えてくれた。でも、その時のぼくはまだ小さかったので虹(こう)という意味を聞いても「ふ~ん」としか返事しなかった。あの時は、お父さんはいなかったけどお母さんと兄ちゃんがいて幸せだったのであまり心に響かなかった。
ぼくは思い出した。今まで夢に出てきた亡き家族の姿を。もしかして、ぼくのことが心配で夢に出て来たのではないのか。憶えているお母さんと兄ちゃん。そして、あまり憶えていないお父さん。家族三人がぼくの前に現れたのは、悲しみに囚われているぼくを明るい未来へ歩ませる為にぼくの夢の世界に出てきたのか・・・・。もしかすると、兄ちゃんは戦争という悲劇が訪れるのを知っていて「虹(こう)」という名前を付けたのかもしれない。でも、お父さんは随分昔に死んでいる。例え、夢に会えるとしても簡単には会えないだろう。
でも、神馬くんの話で一つだけ分かった。お父さんとお母さん、兄ちゃんはぼくが明るい未来を切り開いて幸せに生きてほしいと思い夢に出てきたのかもしれない。でも、今更分かったとしてもぼくの気持ちは何も変わらない。明るい未来ならいくつもある。音楽と歌が無くたって幸せになれる。
そう幸せに。すると、ぼくはあれ?と思った。

ぼくは今、幸せなのか?

それが頭に引っかかる。自分では幸せだと思ってるけどあまり「幸せ」の実感が湧かない。家族を失い宮古島に来ておばあちゃんとおじいちゃんと暮らし始めてから「幸せ」を実感していない気がする。
なぜ?戦争が無くなっておばあちゃんとおじいちゃんと一緒に暮し学校では一人静かに幸福感を噛め閉めている今はとても幸せのはずなのになぜなのか幸せを感じない。
すると、神馬くんがぼくを驚かせる発言をした。
「おれと音楽やらないか?」
突然の発言にぼくは「えっ」と戸惑った。いきなり音楽をやらないかと誘われてぼくは言葉が出なかった。
「おれ、虹くんは絶対に歌手になれるって確信してるんだ」
「ど、どこにそんな根拠が・・・」
「予感だ!」
「予感って・・。たったそれだけ?!」
自信満々げにはっきりという神馬くんにぼくは唖然とした。根拠のない答えだ。ただの予感で歌手になれるわけない。
でも、神馬くんは自分の予感を否定しない。
「それだけ。虹くんなら歌手になれるしちゃんと歌える。そんな予感がするんだ」
ぼくは両手を振りながら勢いよく首を横に振り完全否定した。
「む、無理無理無理!きみは知ってるでしょ?ぼくは音楽と歌がダメだってこと。それに、ただの予感で歌手になんか─」
そう言いかけた途端、神馬くんはズバリと鋭いことを言い出した。
「きみには悪いと思うけど、ズバリはっきりドーンと言う。きみは、現実から逃げているんだ」
その言葉にぼくの心臓に矢を射抜かれたかのような感じでグサッと刺さった。
「きみは、家族やお兄さんが死んだことを今でも否定し続けている。過去に囚われて現実を全く見ていない。いつまでも過去に囚われたままじゃ、きみは成長できないし余計におばあさんとおじいさんに心配かけてしまうぞ。あまり、自分に負担をかけるのはやめといた方がいい」
「で、でも─」
「それに」
神馬くんはぼくの意見に耳を傾けなかった。
「虹くんのお父さんやお母さんの為にも、お兄さんの為にちゃんと前へ進まなくちゃ」
初めて会う人に説教されるなんて予想外だった。余計なお世話だとは思うが彼の言葉には正しさがあった。
ぼくは過去に縋(すが)り家族、特に兄ちゃんの死を受け止めていない。現実が逃げている。その言葉がぼくの胸に痛いほど突き刺さった。
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鹿児島県の女子高生・山科愛は、曾祖父・重太郎の遺品の中から一枚の風景画を見つけた。 残雪を抱く高嶺を見晴るかす北国らしき山里の風景。その絵に魅かれた愛は、絵が描かれた場所を知りたいと思い、調べはじめる。 そして、かつて曾祖父が終戦直後に代用教員を務めていた街で、その絵は岩手県出身の特攻隊員・中屋敷哲が、出撃の前に曽祖父に渡したものであることを知った。 翌年、東京の大学に進学した愛は、入会した天文同好会で岩手県出身の男子学生・北条哲と出会い、絵に描かれた山が、遠野市から見上げた早池峰山であるらしいことを知る。 二人は種山ヶ原での夏合宿あと遠野を訪問。しかし、確たる場所は見つけられなかった。 やがて新学期。学園祭後に起きたある事件のあと、北条は同好会を退会。一時疎遠になる二人だったが、愛は、自身の中に北条に対する特別な感情があることに気付く。 また、女性カメラマン・川村小夜が撮った遠野の写真集を書店で偶然手にした愛は、遠野郷に対して「これから出合う過去のような、出合ったことがある未来のような」不思議な感覚を抱きはじめた。 「私は、この絵に、遠野に、どうしてこんなに魅かれるの?」 翌春、遠野へ向かおうとした愛は、東京駅で、岩手に帰省する北条と偶然再会する。 愛の遠野行きに同行を申し出る北条。愛と北条は、遠野駅で待ち合わせた小夜とともに「絵の場所探し」を再開する。 中屋敷哲と重太郎。七十年前に交錯した二人の思い。 そして、たどり着いた〝絵が描かれた場所〟で、愛は、曾祖父らの思いの先に、自分自身が立っていたことを知る――。 ※ この話は「カクヨム」様のサイトにも投稿しています。

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鈴音いりす
青春
 風見優也は、小学校卒業と同時に誰にも言わずに美風町を去った。それから何の連絡もせずに過ごしてきた俺だけど、美風町に戻ることになった。  幼馴染や姉は俺のことを覚えてくれているのか、嫌われていないか……不安なことを考えればキリがないけれど、もう引き返すことは出来ない。  そんなことを思いながら、美風町へ行くバスに乗り込んだ。

さよなら。またね。

師走こなゆき
青春
恋愛系。片想い系。5000文字程度なのでサラッと読めます。 〈あらすじ〉 「行ってきます」そう言って、あたしは玄関を出る。でもマンションの階段を下りずに、手すりから四階下の地面を見下ろした。 マンションの一階の出入り口から、紺のブレザーを着た男子学生が出てくる。いつも同じ時間に出てくる彼。 彼は、あたしと同じ高校に通ってて、演劇部の一つ上の先輩で、あたしの好きな人。 ※他サイトからの転載です。

箱入り息子はサイコパス

広川ナオ
青春
 病院育ちの御曹司、天王皇帝(あもう こうだい)。  アイドルを目指す気まぐれ女子高生、緑川エリカ。  高校に進学するために上京してきたコーダイは、ある日、向かいに住むエリカが変装をして配信活動をしていたところを目撃し、秘密を知られた彼女に目をつけられてしまう。だがコーダイの聡明さを知ったエリカは、逆にコーダイを自身のプロデューサーに無理やり任命する。  ちょっぴりサイコパスな箱入り息子と天衣無縫の気まぐれ少女。二人は噛み合わないながらも配信活動を成功させていき、1年が経過した頃にはエリカはネット上で有名な女子高生アイドルになっていた。  だがそんなある日、些細なことがきっかけで二人は喧嘩別れをしてしまう。  そしてその直後から、エリカの身に異変が起き始める。秘密にしていたはずの実名や素顔、自宅の住所をネット上にばら撒かれ、学校中で虐めの標的にされ、SNSで悪口を書かれーー  徐々に心を蝕まれていく少女と、その様子を見てほくそ笑むサイコパス。  果たして生きる希望を失った少女が向かった先はーー

ピクルス

藤和
青春
会いたい人がいる。 小さな頃に離ればなれになって、端から見たら探すほど親しい間柄でもなかった。 それでもまた会いたい。 だから私を見つけて。

片翼のエール

乃南羽緒
青春
「おまえのテニスに足りないものがある」 高校総体テニス競技個人決勝。 大神謙吾は、一学年上の好敵手に敗北を喫した。 技術、スタミナ、メンタルどれをとっても申し分ないはずの大神のテニスに、ひとつ足りないものがある、と。 それを教えてくれるだろうと好敵手から名指しされたのは、『七浦』という人物。 そいつはまさかの女子で、あまつさえテニス部所属の経験がないヤツだった──。

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