JAPAN・WIZARD

左藤 友大

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Historia Ⅲ

異食(11)

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広間のテーブルには摩天楼と名乗った半分天使半分悪魔の姿をした男が座っている。テーブルの上にはベゼルの死体が置かれていてフォークとナイフまで用意されていた。
「なるほど。あの白髪(はくはつ)の青年が噂で聞いた人間界と魔法界を救った白魔使い。そして、滅びを遂げた一族の最後の生き残り。まさか、あの一族の血を持つ人間が今も健在していたとは。白魔術で成長を奪われ魔力が弱体化したようだが更にもっと大きな存在となり大きな戦いの引き金となるだろう」
とても意味ありげな言葉を呟いた摩天楼は「さて。いただくとするか」とナイフとフォークを持った。業火に囲まれて揺れ踊る炎は鮮やかな炎色で摩天楼が食事を楽しめるよう広間の景色を彩らせる。

差し迫る業火の猛威にユータは必死に走る。走って走って走りまくって出口が見えるまで決して足を止めず諦めなかった。今まで探偵業をやってきてピンチに陥るような危険な仕事は数多く経験してきたのでこの様な急展開は慣れているというとおかしいが、もはや大半は日常茶飯事といってもいいだろう。でも、いつものことでも切羽詰まるような身の危険を何度も経験したことがあってもさすがに肝が冷える。
今回も執事が殺されるところを目撃したり落とし穴に嵌って化物蜘蛛に追われるし召喚魔法を失敗して化物になりかけたし摩天楼と名乗る得体の知れぬ奴が現れたりと今日一日でとんでもなく散々な目に遭った。そして、今は屋敷内に広がる爆炎に追われてさすがに応えている。ベゼルがわざと作った長い廊下を走ってからどれだけ時間が経つのか分からないが今はそんなのどうでもいい。ぐったりとうつ伏せになって相棒の背中の上に乗っているシンは目覚める様子はなく力が尽きているかのようにかなり全身が脱力している。シンが背中の上でぐったりと項垂れているから多少重さを感じるけどユータはそんな事は気にしてない。過去にも何回かはシンを負ぶって運んだことがあるのでこのぐらい何の問題もない。シンを背負いながら走るなんてかなりの体力と力が強くなければできない。
押し寄せる業火の猛追は止まることなく二人を飲み込もうとする。すると、目の前に屋敷の出口が見えた。扉を開ける暇も無いこの状況でユータはこのまま突っ込んで閉ざした扉を蹴破ろうとした。そろそろ限界が来そうな足に鞭を打ってでも止まらせずスピードを上げて強い勢いで突進するかのようにバン!と扉を蹴破った。
外は雨が降っていて冷たかった。脱出に成功したユータは屋敷から離れようと更に距離を取った。怪し気で立派だった屋敷がとても痛ましい姿へと変わり四方八方は燃え盛る業火に焼かれ朽ち果てていた。山の麓なのでここから町は遠いし電波も繋がらないので消防車も呼べない。冷たい雨は降っているが炎の勢いが強いのでなかなか消化できず雨より大火事の方が勝っていた。パチパチと火の粉が舞いゴウゴウと激しく燃え崩れていく屋敷を眺めたユータは雨に濡れながらベゼル・ビュートルとその屋敷の最後を看取った後、雨で相棒を風邪ひかせないよう姿くらましで東京へ帰った。


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