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Historia Ⅲ
異食(10)
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「理の番人は秩序を通す神や悪魔ですらない名も無い存在。自由への憧れを持つ『翼』だろうが希望の象徴を意味する『星』だろうと結果はどちらも当てはまらない。この魔法陣は駄作にして凡ミスだ」
男は自身の手で心臓をポンポンと弾ませながら崩落した魔法陣を眺めこれは駄作だと断言した。
「だが、君達は運がいい。私がいたおかげで君達は代償を払う必要がなくなったわけだ」
優雅そうに話す謎の男の前にユータは強く警戒して気を失ったシンを抱えながら動かなかった。青黒い羽根を持った男から異様なオーラが感じ取れる。肌で感じるこの異常な悪感は普通の魔法使いとは比べ物にはならないぐらい並外れた圧倒的な力があると錯覚する。
しかも、男の姿は正に異形で天使と悪魔を足して二で割ったような奇妙奇天烈な格好をしている。でも、いつからこの屋敷にいたのかは全く知らない。この屋敷に来てベゼルに会うまではこんな得体の知れぬ男はどこにも見かけなかった。
すると、男はこちらを警戒しながら疑っているユータの心を見透かすかのように「いつからいたのかって?」と弾ませていた心臓を手に持ちながら話した。
「二週間前、君達より先にあの魔法使いと魔女共がここで召喚魔術を試みた時から私は既にこの屋敷内にいた。だが、奴らはその弾みで禁忌を触れてしまったことで人である姿を失いあの醜い蜘蛛人間になった。先程の愚人はもちろん君達も智天使・・・ケルビムを呼ぼうとしてこの召喚魔術を使ったそうだが、この魔法陣は天使を呼ぶどころか天国でも魔界でもない別次元の世界へ通じる扉を開いてしまったということだ。召喚は数字や語の組み合わせによって大きく変わる。そこの青年は中央の陣で『翼』か『星』のどちらかを迷い結局、『翼』の方を選んだそうだが結果的に『翼』や『星』のどちらでもない。全てルーン文字で書いてあると思っているそうだが、何ヵ所かに異界の文字が紛れている。ルーンと異界文字が混ざり合っては天使を呼び出すのは不可能といえよう。異界文字があるのは単なる偶然かそれとも・・・・。つまり私は、奴らに無理矢理呼ばれた次元を超えた異界からの来訪者ということだ」
何がなんだかさっぱり分からないがつまり、自分達が来る前に召喚魔術を行っていた外国の魔法使いと魔女達がケルビムを呼び出すつもりが別の世界へ通じてしまった。その時にあの男が出てきてその禁忌とやらを触れてしまった事であの化物蜘蛛になったという流れらしい。本や絵画では見た事がない天使のようで悪魔にも見える得体の知れぬ生き物の話が本当なのかは定かではないが彼の姿を見るだけで脳裏に「戦ってはいけない!」という危険信号が出て知らせてくれる。
あのベゼルが一撃でやられる程の相手だ。仕掛けたらどんな目に遭わされるか考えるだけで恐ろしくなる。ならば、シンを背負ってここから逃げるしかない。しかし、逃げようとした途端に襲われたりしたらと考えると足が竦む。
ユータはあの男の奇妙で不気味な姿を見ただけでも足が動けず腰も上げられない。ここで奴が消えるまで付き合うか危険を承知でシンを連れてこの場から離れるか。その時、ユータは過激すぎる光景を目にしてしまった。なんと、男は大きな口を開けてベゼルの心臓を丸呑みしたのだ。あまりのショッキングで見るに堪えられない展開が起きてユータは目を逸らした。男は心臓から噴き出して口周りに付いた赤い液体を長い舌で舐める。
「欲で貯め込んだ心の臓は美味いと聞いたがそうでもないな。だがこの肉は美味そうだ」
男は食と欲で肥やしたベゼルの大きなお腹を見て涎を垂らす。肉厚そうに丸々と太った腹部。いい具合でふくよかに肥えた頬と手足。首根っこを摑まれてぶら下がるベゼルは白目を向いて哀れな姿で息絶えていた。
古今東西ありとあらゆる料理を口にしそのうえ、人間に手を出し喰らって来たベゼルが今度は得体の知れぬ異界から来た男のディナーとして腹に入る番が訪れたのだ。
この男の言動はもはや狂気しかない。襲われて奴の餌になるのはまっぴらごめんだ。ユータは奴に気づかれないよう懐に隠してある杖を手に取る。緊張が走って杖を取った手は震えているが目くらまし程度なら少しでも脱走するチャンスができると判断したユータは覚悟のうえで余所見をしている男に杖を向け「インセンディオ!」と叫ぶ。すると、杖先から光った反応で強烈な炎が渦となって男を飲み込んだ。男を飲み込んだ火柱は勢いが強く全てを焼き払うかのように燃え上がった。今がチャンスだと思ったユータは気を失っている助手を背負い立ち上がったその時だ。燃え上がった火柱が吹き飛び凍結したかのようにインセンディオが停止した。まるで時が止まったかのように火の粉が飛び散り広がる炎をバックに男は翼を大きく広げこちらを見降ろしていた。
「話の途中にいきなり炎魔で襲うとは無礼ではないか。若き魔人の青年」
あの爆炎を何とも思っていない男に信じられないと驚きを見せるユータ。男の体のどこにも火傷すら一つもなかった。あの猛火を浴びながらも火傷どころか羽根も燃えていない。
防いだ様子はないし魔法も使っていない。ピンピンしている。男の身体は炎を耐えうる構造をしているのかもしれない。火傷一つしていない強靭な肉体を持つ男を前に太刀打ちできないユータはこの場を離れようとすると突然、自身の目の前に男が現れ驚いた。驚いた拍子で危うくシンを落とすところだった。
「だが、恐れながらも立ち向かおうとするその勇猛果敢な心意気は評価に値する。君は私に殺されると思っていたみたいだが、私は君を殺しはしない。私は心が広い。だから、この屋敷が全焼するまで逃げきれ」
こいつは悪い奴なのか良い奴なのかよく分からないが、どうやら敵意は無いらしい。
すると、凍結していた世界が動き出して炎が燃え広がった。地下礼拝堂は広大な炎の海と化し女神像を飲み込んだ。
お言葉に甘えてユータは地下礼拝堂を出ようとするその前に「あんた、名前は?」と男に名を訊ねると男は「摩天楼。とでも呼んでもらおうか」と言い残した。
業火に包まれた屋敷はまさに地獄でどこを見渡しても炎一色。ベゼルの屋敷に飾られた装飾は全て燃えた。広間にあった天使の絵は炎で燃焼しその美しさと神秘的な姿は失われつつあった。ベゼルが築き上げた功績や財産は全て大火事に飲み込まれた。
差し迫る炎に追われているユータは目覚めないシンをおんぶしながら出口まで必死に走っていた。この屋敷は姿くらましができないよう魔法がかかっているので簡単に脱出できない。人ってこんなに重いのかと感じつつもユータは常に日頃、筋トレしているからシンを背負ったぐらいで音を上げたりはしない。でも、人を背に乗せる重さがプラスされて体力的には少し堪える。それに、ユータの体力を更に削ろうとするのがこの長い廊下。多分、ベゼルが来訪者を逃がさないようわざと廊下を長くしたのだろう。結局、二人は奴に遊ばれているのだ。背後から迫り来る爆炎はユータ達を飲み込もうとするぐらい止まらないぐらい勢いで屋敷内を火の海に変えた。
「理の番人は秩序を通す神や悪魔ですらない名も無い存在。自由への憧れを持つ『翼』だろうが希望の象徴を意味する『星』だろうと結果はどちらも当てはまらない。この魔法陣は駄作にして凡ミスだ」
男は自身の手で心臓をポンポンと弾ませながら崩落した魔法陣を眺めこれは駄作だと断言した。
「だが、君達は運がいい。私がいたおかげで君達は代償を払う必要がなくなったわけだ」
優雅そうに話す謎の男の前にユータは強く警戒して気を失ったシンを抱えながら動かなかった。青黒い羽根を持った男から異様なオーラが感じ取れる。肌で感じるこの異常な悪感は普通の魔法使いとは比べ物にはならないぐらい並外れた圧倒的な力があると錯覚する。
しかも、男の姿は正に異形で天使と悪魔を足して二で割ったような奇妙奇天烈な格好をしている。でも、いつからこの屋敷にいたのかは全く知らない。この屋敷に来てベゼルに会うまではこんな得体の知れぬ男はどこにも見かけなかった。
すると、男はこちらを警戒しながら疑っているユータの心を見透かすかのように「いつからいたのかって?」と弾ませていた心臓を手に持ちながら話した。
「二週間前、君達より先にあの魔法使いと魔女共がここで召喚魔術を試みた時から私は既にこの屋敷内にいた。だが、奴らはその弾みで禁忌を触れてしまったことで人である姿を失いあの醜い蜘蛛人間になった。先程の愚人はもちろん君達も智天使・・・ケルビムを呼ぼうとしてこの召喚魔術を使ったそうだが、この魔法陣は天使を呼ぶどころか天国でも魔界でもない別次元の世界へ通じる扉を開いてしまったということだ。召喚は数字や語の組み合わせによって大きく変わる。そこの青年は中央の陣で『翼』か『星』のどちらかを迷い結局、『翼』の方を選んだそうだが結果的に『翼』や『星』のどちらでもない。全てルーン文字で書いてあると思っているそうだが、何ヵ所かに異界の文字が紛れている。ルーンと異界文字が混ざり合っては天使を呼び出すのは不可能といえよう。異界文字があるのは単なる偶然かそれとも・・・・。つまり私は、奴らに無理矢理呼ばれた次元を超えた異界からの来訪者ということだ」
何がなんだかさっぱり分からないがつまり、自分達が来る前に召喚魔術を行っていた外国の魔法使いと魔女達がケルビムを呼び出すつもりが別の世界へ通じてしまった。その時にあの男が出てきてその禁忌とやらを触れてしまった事であの化物蜘蛛になったという流れらしい。本や絵画では見た事がない天使のようで悪魔にも見える得体の知れぬ生き物の話が本当なのかは定かではないが彼の姿を見るだけで脳裏に「戦ってはいけない!」という危険信号が出て知らせてくれる。
あのベゼルが一撃でやられる程の相手だ。仕掛けたらどんな目に遭わされるか考えるだけで恐ろしくなる。ならば、シンを背負ってここから逃げるしかない。しかし、逃げようとした途端に襲われたりしたらと考えると足が竦む。
ユータはあの男の奇妙で不気味な姿を見ただけでも足が動けず腰も上げられない。ここで奴が消えるまで付き合うか危険を承知でシンを連れてこの場から離れるか。その時、ユータは過激すぎる光景を目にしてしまった。なんと、男は大きな口を開けてベゼルの心臓を丸呑みしたのだ。あまりのショッキングで見るに堪えられない展開が起きてユータは目を逸らした。男は心臓から噴き出して口周りに付いた赤い液体を長い舌で舐める。
「欲で貯め込んだ心の臓は美味いと聞いたがそうでもないな。だがこの肉は美味そうだ」
男は食と欲で肥やしたベゼルの大きなお腹を見て涎を垂らす。肉厚そうに丸々と太った腹部。いい具合でふくよかに肥えた頬と手足。首根っこを摑まれてぶら下がるベゼルは白目を向いて哀れな姿で息絶えていた。
古今東西ありとあらゆる料理を口にしそのうえ、人間に手を出し喰らって来たベゼルが今度は得体の知れぬ異界から来た男のディナーとして腹に入る番が訪れたのだ。
この男の言動はもはや狂気しかない。襲われて奴の餌になるのはまっぴらごめんだ。ユータは奴に気づかれないよう懐に隠してある杖を手に取る。緊張が走って杖を取った手は震えているが目くらまし程度なら少しでも脱走するチャンスができると判断したユータは覚悟のうえで余所見をしている男に杖を向け「インセンディオ!」と叫ぶ。すると、杖先から光った反応で強烈な炎が渦となって男を飲み込んだ。男を飲み込んだ火柱は勢いが強く全てを焼き払うかのように燃え上がった。今がチャンスだと思ったユータは気を失っている助手を背負い立ち上がったその時だ。燃え上がった火柱が吹き飛び凍結したかのようにインセンディオが停止した。まるで時が止まったかのように火の粉が飛び散り広がる炎をバックに男は翼を大きく広げこちらを見降ろしていた。
「話の途中にいきなり炎魔で襲うとは無礼ではないか。若き魔人の青年」
あの爆炎を何とも思っていない男に信じられないと驚きを見せるユータ。男の体のどこにも火傷すら一つもなかった。あの猛火を浴びながらも火傷どころか羽根も燃えていない。
防いだ様子はないし魔法も使っていない。ピンピンしている。男の身体は炎を耐えうる構造をしているのかもしれない。火傷一つしていない強靭な肉体を持つ男を前に太刀打ちできないユータはこの場を離れようとすると突然、自身の目の前に男が現れ驚いた。驚いた拍子で危うくシンを落とすところだった。
「だが、恐れながらも立ち向かおうとするその勇猛果敢な心意気は評価に値する。君は私に殺されると思っていたみたいだが、私は君を殺しはしない。私は心が広い。だから、この屋敷が全焼するまで逃げきれ」
こいつは悪い奴なのか良い奴なのかよく分からないが、どうやら敵意は無いらしい。
すると、凍結していた世界が動き出して炎が燃え広がった。地下礼拝堂は広大な炎の海と化し女神像を飲み込んだ。
お言葉に甘えてユータは地下礼拝堂を出ようとするその前に「あんた、名前は?」と男に名を訊ねると男は「摩天楼。とでも呼んでもらおうか」と言い残した。
業火に包まれた屋敷はまさに地獄でどこを見渡しても炎一色。ベゼルの屋敷に飾られた装飾は全て燃えた。広間にあった天使の絵は炎で燃焼しその美しさと神秘的な姿は失われつつあった。ベゼルが築き上げた功績や財産は全て大火事に飲み込まれた。
差し迫る炎に追われているユータは目覚めないシンをおんぶしながら出口まで必死に走っていた。この屋敷は姿くらましができないよう魔法がかかっているので簡単に脱出できない。人ってこんなに重いのかと感じつつもユータは常に日頃、筋トレしているからシンを背負ったぐらいで音を上げたりはしない。でも、人を背に乗せる重さがプラスされて体力的には少し堪える。それに、ユータの体力を更に削ろうとするのがこの長い廊下。多分、ベゼルが来訪者を逃がさないようわざと廊下を長くしたのだろう。結局、二人は奴に遊ばれているのだ。背後から迫り来る爆炎はユータ達を飲み込もうとするぐらい止まらないぐらい勢いで屋敷内を火の海に変えた。
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