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Historia Ⅲ
異食(3)
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人間の男と女の人肉。考えるだけでゾッとする。ベゼルは変わりもなく平然とした顔でワイングラスを持つと「私を化物とでも思っているのかしら?」とユータが人間とは思えないと目で物を言っているようにこちらを見る様子に気づいていながらも彼は芳醇な香りがするワインを一口飲む。
「あたしから見れば人間が人を喰らうなんて当然のように思うけど?動物だって人を喰らう。魔法生物だってそう。あなた達の国にいるジャパニーズ・モンスターだって人肉を好む奴もいるでしょ?」
ジャパニーズ・モンスターという名だけで「妖怪」だという事が分かった。
「この世は弱肉強食。弱い物が強い物のディナーになるのは当然。力を持たない非魔法族は我々力を持つ魔法族と違って軟弱な生き物。弱人が強者に抗うことはできないのよ。あなた達はあたしを非難しているようだけど昔は当たり前に人間が人間を喰らう風習があったのよ。カニバリズムって知っているかしら?」
流暢に話すベゼルはグラスを回し揺らぐワインを眺める。熟成されたワインはまるで血のように鮮明で赤く美しくもどこか不気味さもあった。ベゼルが手に持っているからそう感じられたのだろうか?
嫌に落ち着いた表情で語り続けるベゼルはどこか普通の魔法使いとは違う何かを持っているようにも見えた。
「カニバリズムとは知っての通り人間が人間の肉を食べる行動また習慣を意味しており由来は西インド諸島に住んでいるカリブ族の名を指していたといわれている。文化人類学の記録に残っている「食人俗」は社会と制度に正式に認められていた風習で自分の仲間を食べる部内食と捕らえた敵を食べる部外食の二つがあった。世界各地では飢饉や戦争、食料不足が原因で死体の肉を喰らい生き長らえた者もいれば薬として人肉を使用した国もあった」
淡々と話を進めるベゼルにユータはこの人は異常だと認識した。今の彼は自分達が知っている有名な美食家にして料理評論家のベゼル・ビュートルとは違う全く別の素顔を目の当たりにしている。紳士的で評価には厳しいイメージがあったベゼルがかなりの異常者だったとは誰が想像していたのだろうか。何だか薄気味悪くなってきた。
「その中で遥か昔、紀元前の時代では籤(くじ)を引いて誰を喰らうか決めていたとか」
その話を聞いたシンは落ち着いた声で「ガンビュセスの籤・・・ですね?」と言った。ベゼルは回していたワイングラスをダイニングテーブルに置き背もたれに寄りかかりながら「そう。アケメネス朝ペルシャの第2代国王カンビュセス2世が治めていた時代に起きた歴史的事件。当時のペルシャ軍はエジプトを制圧した後、南のヌビアへの遠征をしたけど半分も進軍をしない内に積んでいた食料が尽きてしまった」と流暢な日本語で語り続ける。
「食料が尽き食べる物さえなくなった兵士はどうしたと思う?籤を作ったのよ。兵士は10人一組で籤を作りその籤を一人ずつ引いた。その後は想像つくでしょう?引いた籤に当たった一人は、籤にハズレた9人の兵に殺され喰われたのよ。生き残る術は犠牲となり自らの血肉となった仲間を食わなくちゃいけない。食を失うと理性が失い仲間にも手を挙げ殺し食してしまう。人間は昔から同じ境遇を持つ者の命を食べる古来の食文化を築いたのよ。だから、おかしくないでしょ?人間は元々、同類である人間の肉を好んでいたのよ」
理性がぶっ飛ぶぐらいエキサイティングな話しにユータは完全に食欲を失せた。食事中に重々しい曰く残酷な話を聞くのはさすがに応えるこんな話をしたらこのステーキの肉は実は牛ではないのかと思えてしまう。ユータは妙な悪寒を感じ今すぐにでも立ち去りたい気持ちだった。しかし、依頼を受けず逃げ帰るのは名探偵(※自称)としてのプライドが許さない。ここで逃げれば面子が立たないというわけだ。そして、貯まった家賃とまだ払えていない料金を支払わなくちゃいけない。
シンは不気味で異様な話を聞いても眉一つ動かさなかった。人肉文化があったのは昔読んだ本で知ったしガンビュセスの籤のことだってとうに知っていた。でも、改めてみると本当に恐ろしい話だ。カマキリのメスがオスを食べるようにかつての人間も共食いをしていたと考えると信じたくもないが全て事実だから否定はできない。シンはジュースが入ったグラスを口につけ向かい側の席にいるユータに目を遣る。人肉の話を聞いたせいで気分が落ち込み怪訝そうな表情を浮かべながらこちらに視線を送る。とても訝しげな目でシンに訴えている。この人やばすぎるよと。
確かにやばいかもしれない。でも、まだ彼から依頼の内容を聞いていない。手紙を受け取った以上、内容を聞くまで帰るわけにはいかないのだ。
シンは今回の依頼は何なのか訊くんだと目で合図を送る。
「と、ところでビュートルさん。今日はどういったご依頼でお呼びしたのでしょうか?お手紙には依頼の内容については現地にて話すと書かれておりましたが」
引きつった笑顔を見せながらユータは早速本業の方に話を進めた。
それに気づいたベゼルは「あら。ごめんなさい。熱く語り過ぎたかしら?」と笑った。その笑い方はかえって不気味で仕方がない。
「あなた達にはあたしの望みを叶えてほしくてお呼びしたのよ」
「望み・・ですか?」
「あたしの望みは誰も口にしたことない未知と可能性のある食材。さっきも話した通りあたしは古今東西ありあらゆる物を食べてきた。でも、どれもあたしを満足してくれないつまらない食材ばかり。そんな中、あたしは人間よりもっと美味の可能性が秘められた究極の食材を見つけ出したの」
ベゼルは興奮気味な様子でその見つけた〝究極の食材〟について語りだした。
「その見つけた〝究極の食材〟がこれよ」
「あたしから見れば人間が人を喰らうなんて当然のように思うけど?動物だって人を喰らう。魔法生物だってそう。あなた達の国にいるジャパニーズ・モンスターだって人肉を好む奴もいるでしょ?」
ジャパニーズ・モンスターという名だけで「妖怪」だという事が分かった。
「この世は弱肉強食。弱い物が強い物のディナーになるのは当然。力を持たない非魔法族は我々力を持つ魔法族と違って軟弱な生き物。弱人が強者に抗うことはできないのよ。あなた達はあたしを非難しているようだけど昔は当たり前に人間が人間を喰らう風習があったのよ。カニバリズムって知っているかしら?」
流暢に話すベゼルはグラスを回し揺らぐワインを眺める。熟成されたワインはまるで血のように鮮明で赤く美しくもどこか不気味さもあった。ベゼルが手に持っているからそう感じられたのだろうか?
嫌に落ち着いた表情で語り続けるベゼルはどこか普通の魔法使いとは違う何かを持っているようにも見えた。
「カニバリズムとは知っての通り人間が人間の肉を食べる行動また習慣を意味しており由来は西インド諸島に住んでいるカリブ族の名を指していたといわれている。文化人類学の記録に残っている「食人俗」は社会と制度に正式に認められていた風習で自分の仲間を食べる部内食と捕らえた敵を食べる部外食の二つがあった。世界各地では飢饉や戦争、食料不足が原因で死体の肉を喰らい生き長らえた者もいれば薬として人肉を使用した国もあった」
淡々と話を進めるベゼルにユータはこの人は異常だと認識した。今の彼は自分達が知っている有名な美食家にして料理評論家のベゼル・ビュートルとは違う全く別の素顔を目の当たりにしている。紳士的で評価には厳しいイメージがあったベゼルがかなりの異常者だったとは誰が想像していたのだろうか。何だか薄気味悪くなってきた。
「その中で遥か昔、紀元前の時代では籤(くじ)を引いて誰を喰らうか決めていたとか」
その話を聞いたシンは落ち着いた声で「ガンビュセスの籤・・・ですね?」と言った。ベゼルは回していたワイングラスをダイニングテーブルに置き背もたれに寄りかかりながら「そう。アケメネス朝ペルシャの第2代国王カンビュセス2世が治めていた時代に起きた歴史的事件。当時のペルシャ軍はエジプトを制圧した後、南のヌビアへの遠征をしたけど半分も進軍をしない内に積んでいた食料が尽きてしまった」と流暢な日本語で語り続ける。
「食料が尽き食べる物さえなくなった兵士はどうしたと思う?籤を作ったのよ。兵士は10人一組で籤を作りその籤を一人ずつ引いた。その後は想像つくでしょう?引いた籤に当たった一人は、籤にハズレた9人の兵に殺され喰われたのよ。生き残る術は犠牲となり自らの血肉となった仲間を食わなくちゃいけない。食を失うと理性が失い仲間にも手を挙げ殺し食してしまう。人間は昔から同じ境遇を持つ者の命を食べる古来の食文化を築いたのよ。だから、おかしくないでしょ?人間は元々、同類である人間の肉を好んでいたのよ」
理性がぶっ飛ぶぐらいエキサイティングな話しにユータは完全に食欲を失せた。食事中に重々しい曰く残酷な話を聞くのはさすがに応えるこんな話をしたらこのステーキの肉は実は牛ではないのかと思えてしまう。ユータは妙な悪寒を感じ今すぐにでも立ち去りたい気持ちだった。しかし、依頼を受けず逃げ帰るのは名探偵(※自称)としてのプライドが許さない。ここで逃げれば面子が立たないというわけだ。そして、貯まった家賃とまだ払えていない料金を支払わなくちゃいけない。
シンは不気味で異様な話を聞いても眉一つ動かさなかった。人肉文化があったのは昔読んだ本で知ったしガンビュセスの籤のことだってとうに知っていた。でも、改めてみると本当に恐ろしい話だ。カマキリのメスがオスを食べるようにかつての人間も共食いをしていたと考えると信じたくもないが全て事実だから否定はできない。シンはジュースが入ったグラスを口につけ向かい側の席にいるユータに目を遣る。人肉の話を聞いたせいで気分が落ち込み怪訝そうな表情を浮かべながらこちらに視線を送る。とても訝しげな目でシンに訴えている。この人やばすぎるよと。
確かにやばいかもしれない。でも、まだ彼から依頼の内容を聞いていない。手紙を受け取った以上、内容を聞くまで帰るわけにはいかないのだ。
シンは今回の依頼は何なのか訊くんだと目で合図を送る。
「と、ところでビュートルさん。今日はどういったご依頼でお呼びしたのでしょうか?お手紙には依頼の内容については現地にて話すと書かれておりましたが」
引きつった笑顔を見せながらユータは早速本業の方に話を進めた。
それに気づいたベゼルは「あら。ごめんなさい。熱く語り過ぎたかしら?」と笑った。その笑い方はかえって不気味で仕方がない。
「あなた達にはあたしの望みを叶えてほしくてお呼びしたのよ」
「望み・・ですか?」
「あたしの望みは誰も口にしたことない未知と可能性のある食材。さっきも話した通りあたしは古今東西ありあらゆる物を食べてきた。でも、どれもあたしを満足してくれないつまらない食材ばかり。そんな中、あたしは人間よりもっと美味の可能性が秘められた究極の食材を見つけ出したの」
ベゼルは興奮気味な様子でその見つけた〝究極の食材〟について語りだした。
「その見つけた〝究極の食材〟がこれよ」
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