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Historia Ⅱ
魔羅(9)
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路上に立つ一軒の中華食堂が夜の暗闇の中を煌々と光を灯している。
日本全国にあるお馴染みの中華食堂の中は客がほとんどで話し声があちこち聞こえた。
事件の依頼を終えたシンとユータは横一列のカウンター席に座ってラーメンを食べていた。セットで注文した餃子と一緒に。時間は午後10時に回り遅めの夜食を取っていた。あの事件の後、幸子は死体遺棄と黒魔術使用、そして非魔法族の殺人罪で魔法省の魔法法執行部に逮捕された。彼女は魔法が使えないスクイブでも魔法族の一員でもあるので彼らの管轄に当てはまる。父親の円次郎は病院へ連れて行き今は気を失ったまま病床にいる。そして、美樹の遺体は魔法省が責任持って彼女を埋葬してくれるそうだ。
シンはラーメンを啜りながら「ユータ」と呼んだ。ユータはシンの言葉に反応した。
「分身に襲われた時、助けてくれてありがとな」
父親に取り憑いていた悪魔アラストルの分身に襲われ捕まった時、ユータは咄嗟に彼を助けた。そのお礼を言ったのだ。
「相棒として同然だろ?」
そうだ。シンとユータは親友にして相棒。二人の力で今回の事件を解決したのだから。二人は助け合い支えながら様々な困難を乗り越えてきた。千年王国事件の時だって常に二人一緒に戦ってきたのだから。
「今回の事件で先に調査していた人間界側の警察はどうするんだろう?まだ犯人捜しするつもりなのかな?」
「捜すと言われても犯人はこちらで捕まえているし意味ないかもな。もう少ししたら捜査打ち切りになるだろう」
シンは餃子を醤油と酢が混ざった器につけてパクリと食べる。
「アンバート高等学園の今後も気になるね。突然、美樹さんがいなくなって驚くだろうな」
「美樹さんに関しては魔法省が何とかしてくれるだろ。学校の方は警察と彼らに任せる。僕らの仕事は終わったんだ」
「・・・美樹さんはいじめの被害を受けて自殺した。自ら命を絶つほど相当苦しかったんだろうな。沼田くんもそうだ。彼もいじめを受けながら精神的にダメージを受けた結果、不登校になった。一度きりの人生をなぜ五十木達が壊したのか何が面白くてやったのか理解ができない。彼女達みたいに被害を出さない為にはどうすれば、いじめを無くすことができるんだろう」
学校で五十木達に虐げられた美樹と沼田がどれだけ辛く苦しかったのか想像もつかない。環境や状況、いじめる側の理由など様々な原因で絡み合うことでいじめが起きてしまうというが、彼女達が一体何をして被害を受けたのかはシンとユータには知る由もなかった。でも、他者から虐げられ心に深い傷を負い精神が参って命を落とすのはとても心が痛む。
ユータは今回の一件が学校でのいじめが原因と思うと娘を失った幸子がどんな心境だったのか分かる気がする。
「やっぱり誰かに助けを求めるしか方法がないかもしれないな。NPO法人もいじめ被害を受けて一人で悩んでいる子達の為にいろいろと助け舟を出して対策を取っているしね。君だってみんなから妬まれていた僕を助けてくれたじゃないか」
ラーメンを啜り蓮華ですくったスープを喉に通しながら学生時代の頃の話をした。もちろん、ユータもあの頃のことを憶えている。
シンは学生時代、他の子と比べて並みならぬ才能を持っていた事からみんなから妬まれいじめを受けた経験者だったのだ。「神童」とも呼ばれ先生達は彼を評価していたが、ごく一部の生徒達にとってはシンを目の敵にしていた。他の生徒達から嫌がらせを受けていた時に彼を助けてくれたのがユータだった。正義感が強かった彼だったからこそシンはユータと唯一無二の親友となりえた。ユータは「それもそうだったな」と呟きがっつくようにラーメンを食べる。最後はスープを全部飲み干して「ごちそうさま」と手を合わせた後、代金を払いお店を出た。今日の夜は一段と肌寒い。満月は出ていて街灯は物寂しそうに灯りを点けている。二人は灯りの下で歩きながら話した。
「そういえばさ」
「なに?」
「美樹さんのお母さんが西洋学に精通していた事は分かったけど、彼女はどこでどうやって悪魔の召喚術を覚えたんだろう?」
確かに。言われてみれば謎が一つ残った。幸子はどこで悪魔の召喚方法を覚えたのかまだ聞いていなかった。彼女は、美樹が元の遺体に戻ってから気力を失い話す気が全くなかった。
「もしかして、グリンモルワルで知ったんじゃ」
ユータの言い間違いに「グリモワールな」とシンは正した。
「もしそうだとしたらどこで手に入れた?この世界でグリモワールの原本は失われていて今現在に残っているのは写本だけだと聞いている」
「じゃあ、ネットで調べたんじゃ」
「有り得ない。ネットにグリモワールの詳細なんて書いてあるわけないだろう」
確かにそうだとユータは頷いた。
グリモワール。フランス語で魔術の書物という意味で悪魔や精霊、天使などを呼び出して願い事を叶えさせる為に必要な魔法円やペンタクル、ジジルのデザインが記された書物なのだ。魔法界でもこのグリモワールの名は有名で伝説の本書とも呼ばれている。作者は不明で中世後期から19世紀までヨーロッパにあったといわれているがその実物はどこにもない。
「謎が深まるばかりだな」
そうユータは呟くとシンは「世界には僕らが知らない謎がたくさんある。手に届かない謎だってあるさ」と今宵の満月を見上げながら言った。
遠藤幸子による悪魔の連続不審死事件から数日後。
シンは一人で深大寺に足を運んでいた。東京都調布市にある深大寺。ここは「おみくじ」の発祥の地でもあり日本三大だるま市の一つとも呼ばれている。深大寺の名所は仏教を求めて天竺(※現インド)へ旅した一人の僧 玄奘三蔵(※西遊記でいう三蔵法師)を守ったとされる水神にして守護神「深沙大王(じんじゃだいおう)」に由来されている。
緑に染まった草木に綺麗な川が流れ豊かな自然に包まれた参道を歩いていると自分の名を呼ぶ声が聞こえた。その声の主はロングコートを羽織りメトロ調のジャズハットを被った准高齢のイケオジ。シンの恩師 龍厘寺だった。
日本全国にあるお馴染みの中華食堂の中は客がほとんどで話し声があちこち聞こえた。
事件の依頼を終えたシンとユータは横一列のカウンター席に座ってラーメンを食べていた。セットで注文した餃子と一緒に。時間は午後10時に回り遅めの夜食を取っていた。あの事件の後、幸子は死体遺棄と黒魔術使用、そして非魔法族の殺人罪で魔法省の魔法法執行部に逮捕された。彼女は魔法が使えないスクイブでも魔法族の一員でもあるので彼らの管轄に当てはまる。父親の円次郎は病院へ連れて行き今は気を失ったまま病床にいる。そして、美樹の遺体は魔法省が責任持って彼女を埋葬してくれるそうだ。
シンはラーメンを啜りながら「ユータ」と呼んだ。ユータはシンの言葉に反応した。
「分身に襲われた時、助けてくれてありがとな」
父親に取り憑いていた悪魔アラストルの分身に襲われ捕まった時、ユータは咄嗟に彼を助けた。そのお礼を言ったのだ。
「相棒として同然だろ?」
そうだ。シンとユータは親友にして相棒。二人の力で今回の事件を解決したのだから。二人は助け合い支えながら様々な困難を乗り越えてきた。千年王国事件の時だって常に二人一緒に戦ってきたのだから。
「今回の事件で先に調査していた人間界側の警察はどうするんだろう?まだ犯人捜しするつもりなのかな?」
「捜すと言われても犯人はこちらで捕まえているし意味ないかもな。もう少ししたら捜査打ち切りになるだろう」
シンは餃子を醤油と酢が混ざった器につけてパクリと食べる。
「アンバート高等学園の今後も気になるね。突然、美樹さんがいなくなって驚くだろうな」
「美樹さんに関しては魔法省が何とかしてくれるだろ。学校の方は警察と彼らに任せる。僕らの仕事は終わったんだ」
「・・・美樹さんはいじめの被害を受けて自殺した。自ら命を絶つほど相当苦しかったんだろうな。沼田くんもそうだ。彼もいじめを受けながら精神的にダメージを受けた結果、不登校になった。一度きりの人生をなぜ五十木達が壊したのか何が面白くてやったのか理解ができない。彼女達みたいに被害を出さない為にはどうすれば、いじめを無くすことができるんだろう」
学校で五十木達に虐げられた美樹と沼田がどれだけ辛く苦しかったのか想像もつかない。環境や状況、いじめる側の理由など様々な原因で絡み合うことでいじめが起きてしまうというが、彼女達が一体何をして被害を受けたのかはシンとユータには知る由もなかった。でも、他者から虐げられ心に深い傷を負い精神が参って命を落とすのはとても心が痛む。
ユータは今回の一件が学校でのいじめが原因と思うと娘を失った幸子がどんな心境だったのか分かる気がする。
「やっぱり誰かに助けを求めるしか方法がないかもしれないな。NPO法人もいじめ被害を受けて一人で悩んでいる子達の為にいろいろと助け舟を出して対策を取っているしね。君だってみんなから妬まれていた僕を助けてくれたじゃないか」
ラーメンを啜り蓮華ですくったスープを喉に通しながら学生時代の頃の話をした。もちろん、ユータもあの頃のことを憶えている。
シンは学生時代、他の子と比べて並みならぬ才能を持っていた事からみんなから妬まれいじめを受けた経験者だったのだ。「神童」とも呼ばれ先生達は彼を評価していたが、ごく一部の生徒達にとってはシンを目の敵にしていた。他の生徒達から嫌がらせを受けていた時に彼を助けてくれたのがユータだった。正義感が強かった彼だったからこそシンはユータと唯一無二の親友となりえた。ユータは「それもそうだったな」と呟きがっつくようにラーメンを食べる。最後はスープを全部飲み干して「ごちそうさま」と手を合わせた後、代金を払いお店を出た。今日の夜は一段と肌寒い。満月は出ていて街灯は物寂しそうに灯りを点けている。二人は灯りの下で歩きながら話した。
「そういえばさ」
「なに?」
「美樹さんのお母さんが西洋学に精通していた事は分かったけど、彼女はどこでどうやって悪魔の召喚術を覚えたんだろう?」
確かに。言われてみれば謎が一つ残った。幸子はどこで悪魔の召喚方法を覚えたのかまだ聞いていなかった。彼女は、美樹が元の遺体に戻ってから気力を失い話す気が全くなかった。
「もしかして、グリンモルワルで知ったんじゃ」
ユータの言い間違いに「グリモワールな」とシンは正した。
「もしそうだとしたらどこで手に入れた?この世界でグリモワールの原本は失われていて今現在に残っているのは写本だけだと聞いている」
「じゃあ、ネットで調べたんじゃ」
「有り得ない。ネットにグリモワールの詳細なんて書いてあるわけないだろう」
確かにそうだとユータは頷いた。
グリモワール。フランス語で魔術の書物という意味で悪魔や精霊、天使などを呼び出して願い事を叶えさせる為に必要な魔法円やペンタクル、ジジルのデザインが記された書物なのだ。魔法界でもこのグリモワールの名は有名で伝説の本書とも呼ばれている。作者は不明で中世後期から19世紀までヨーロッパにあったといわれているがその実物はどこにもない。
「謎が深まるばかりだな」
そうユータは呟くとシンは「世界には僕らが知らない謎がたくさんある。手に届かない謎だってあるさ」と今宵の満月を見上げながら言った。
遠藤幸子による悪魔の連続不審死事件から数日後。
シンは一人で深大寺に足を運んでいた。東京都調布市にある深大寺。ここは「おみくじ」の発祥の地でもあり日本三大だるま市の一つとも呼ばれている。深大寺の名所は仏教を求めて天竺(※現インド)へ旅した一人の僧 玄奘三蔵(※西遊記でいう三蔵法師)を守ったとされる水神にして守護神「深沙大王(じんじゃだいおう)」に由来されている。
緑に染まった草木に綺麗な川が流れ豊かな自然に包まれた参道を歩いていると自分の名を呼ぶ声が聞こえた。その声の主はロングコートを羽織りメトロ調のジャズハットを被った准高齢のイケオジ。シンの恩師 龍厘寺だった。
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