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Historia Ⅱ
魔羅(6)
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美樹の部屋に着いたシンは床に座り込みユータは颯爽に凍結呪文グレイシアスでドアをカチカチに凍らせた。すると、部屋の表側から幸子の奇声が聞こえてきた。ドアをこじ開けようとドアノブを何度もひねったり突進したりして過激なやり方でドアを開けようとした。しかし、彼女の力ではこの凍結された氷の固さを打ち破ることはできない。しばらくすると諦めたのか幸子の猛攻が止み静かになった。
幸子がどこかへ行ったと思ったユータは深いため息を出した。
「シン。さっき美樹さんのお父さんに何をかけたんだ?」
「聖水だ。トビーに頼んで持って来てもらったんだ。父親はそろそろ聖水の効力で元の姿に戻っているはずだ」
「まさか。美樹さんのお父さんが悪魔だったなんて」
ユータは初めてシンから魔物ではなく悪魔の仕業だと聞いた時は信じられなかった。悪魔は人間に取り憑いて危害を加える危険な存在だが、悪魔に取り憑かれるなんて滅多にないことだ。そして、美樹の母親がスクイブだったということも聞いた時は衝撃を受けたものだ。
「いや。正確には悪魔の〝影〟だ。父親は影に取り憑かれていただけ」
それを聞いてユータは一瞬、頭の中で「は?」という疑問の文字が浮かんだ。
「えっ?影って?あれは本体じゃないのか?」
ちょっと混乱してきている自称名探偵にユータは落ち着いた表情で言う。
「父親は影。母親は契約者。そして本体は─」
すると、ベッドの上で気を失っていた美樹が目を差しました。
「ここは?」
起き上がった彼女にシンは「君の部屋だ」と教えた。
周りには女子らしい家具やグッズがありいろんな写真や表彰状の額縁が立て掛けられている空間を見て美樹は自分の部屋だと分かった。そしてふと思い出した。
「お、お母さんとお父さんは?!」
突然、両親の様子がおかしくなって父親が怪物に変身し母親はいつもの朗らかさの欠片がない悪魔のような顔をしているのを目撃して気を失った。そこからは何も憶えていないが変わり果てた両親を見た時のショックは心に残っていた。
「ちょうどいい。美樹さん。あなたに訊きたい事があります」
「な、なんでしょうか?」
戸惑いを隠せない美樹にシンは落ち着いた表情で訊いた。
「この部屋は君の部屋で間違いありませんよね?」
今更何を言い出すかと思いきや。
「ええ」
「それじゃあ。この部屋に飾られている賞状や写真はあなたが飾ったんですか?」
それを聞いた時、ユータは部屋に飾られている賞状や写真を見る。写真には美樹本人がたくさん写っていて賞状は彼女の名前が書かれている。
「えっ・・・?」
一体、何を言いたいかさっぱり分からない美樹。しかし、シンは既に真実に辿り着いているみたいで何か知っていそうだった。
「このお花も?」
シンの視線には花瓶が映った。花瓶は彼女が使っている家具の上に置いてあった。
花瓶にはオレンジ色と黄色の花と紫色の花、そして濃い青色の花が入っている。彩りの良い花が美樹の部屋を華やかにする。
「キンセンカにシオン、それにリンドウ。どれも故人を偲ぶ供花(くげ)ばかりだ。この花は君が集めて飾ったのか?」
それを聞いたユータはキョトンとした。故人?一体、何を言っているんだ?と探偵はシンが何を思って発言しているのか理解できなかった。
「キンセンカの花言葉は「別れの悲しみ」。シオンは「追憶」。そして、リンドウは「あなたの悲しみに寄りそう」という意味になります。まるで、亡くなった人を想って選んだような花ばかり。あなたは亡人じゃないのになぜ弔いの花が部屋に置いてあるのですか?」
弔いの花、つまり亡き人に送る供花が死んでもいない彼女の部屋にあるのか。美樹は言葉が詰まったのか何も言えず顔が強張っていた。
「それによく見ればこの部屋にある写真は全て君自身が写っているものばかりだ。賞状も部屋中に飾っていて、まるで誰かを懐かしむかのようでどれも親が選びそうなものばかり。それほど、あなたは親に愛されていたんですね」
言われてみれば美樹の部屋には彼女本人が写っている写真がたくさんあった。まだ幼く幼稚園生だった頃から小学生・中学生時代に過ごした日々はもちろん家族や友人に囲まれて楽しそうに笑っている美樹の姿がたくさん写っていた。そして、天井の壁に飾られているこれまで美樹が獲った賞状は彼女が今まで培ってきた功績を称えていたかのようにも見える。これはまるで美樹が生前に歩んだ人生を表しているみたいで本人はもうこの世にはいないと告げているような悲しくて寂しそうな部屋になっていた。亡き我が子との思い出が詰まった部屋を残すかのように。
「この写真も賞状も全てあなたが選んだ?いや違う。あなたは自分自身が写っている写真を自ら部屋に飾るほど自分が好きなのか?違う。あの花はあなたが選んで飾ったのか?違う。この部屋にある写真も賞状も花も全てあなたの両親が飾ったもの。僕が何を言いたいのか分かりますよね?」
淡々と話を続けるシン。強張った顔をして言葉が発せない美樹は彼の口述を聞いてある到達点に辿り着く。弔いを込めた供花。自身が写っている写真。今まで獲得してきた数々の賞。誰かを懐かしむような部屋。今まで気にしていなかったことがシンの話を聞いて気づかされる。まず、花は買った憶えはない。気づいた時には既に花は部屋に添えられていた。そして、自分ばかり写っている写真を選んで自身が手に入れた賞状を飾った憶えはない。気づいたらそこにあった。自分が選んで部屋に飾ったものだとずっと思っていた。謎の人影に襲われるまでは特に何も変わりない日常を過ごしていた。普通に学校にも通い普段と変わらない生活を送っていた。しかし、シンがこの部屋の秘密を気づいた時、美樹は思い出してしまった。奥深くに眠っていた〝真実〟という記憶が目を覚まし彼女の脳裏に鮮明に映し出す。彼が何を言いたいのかも美樹は気づいてしまったのだ。すると、言葉を失い硬直していた美樹の様子が変わり自分が何者なのか気づいたと同時に胸が締め付けられ呼吸が荒くなった。過去の記憶が、奥底に眠っていた記憶が目覚めたことで様子がおかしくなった彼女を見てユータも助手が何を言いたいのか、美樹の正体は何なのか気づき始めた。
痙攣をおこすかのように動悸が激しくなりますます呼吸が荒くなる美樹にシンは腰を上げて杖を彼女に向けた。
「君はあの母親が呼んだ悪魔によって甦った。いや。「身体」という抜け殻を利用して復活したんだ。つまり、今回の連続不審死事件の犯人は母親だが君も含まれている。君が、富金校長達と沼田くんを殺したといってもいい。僕が魔法を使えば君は元の抜け殻に戻る。君は「遠藤美樹」という少女の身体を借りた偽物だ」
幸子がどこかへ行ったと思ったユータは深いため息を出した。
「シン。さっき美樹さんのお父さんに何をかけたんだ?」
「聖水だ。トビーに頼んで持って来てもらったんだ。父親はそろそろ聖水の効力で元の姿に戻っているはずだ」
「まさか。美樹さんのお父さんが悪魔だったなんて」
ユータは初めてシンから魔物ではなく悪魔の仕業だと聞いた時は信じられなかった。悪魔は人間に取り憑いて危害を加える危険な存在だが、悪魔に取り憑かれるなんて滅多にないことだ。そして、美樹の母親がスクイブだったということも聞いた時は衝撃を受けたものだ。
「いや。正確には悪魔の〝影〟だ。父親は影に取り憑かれていただけ」
それを聞いてユータは一瞬、頭の中で「は?」という疑問の文字が浮かんだ。
「えっ?影って?あれは本体じゃないのか?」
ちょっと混乱してきている自称名探偵にユータは落ち着いた表情で言う。
「父親は影。母親は契約者。そして本体は─」
すると、ベッドの上で気を失っていた美樹が目を差しました。
「ここは?」
起き上がった彼女にシンは「君の部屋だ」と教えた。
周りには女子らしい家具やグッズがありいろんな写真や表彰状の額縁が立て掛けられている空間を見て美樹は自分の部屋だと分かった。そしてふと思い出した。
「お、お母さんとお父さんは?!」
突然、両親の様子がおかしくなって父親が怪物に変身し母親はいつもの朗らかさの欠片がない悪魔のような顔をしているのを目撃して気を失った。そこからは何も憶えていないが変わり果てた両親を見た時のショックは心に残っていた。
「ちょうどいい。美樹さん。あなたに訊きたい事があります」
「な、なんでしょうか?」
戸惑いを隠せない美樹にシンは落ち着いた表情で訊いた。
「この部屋は君の部屋で間違いありませんよね?」
今更何を言い出すかと思いきや。
「ええ」
「それじゃあ。この部屋に飾られている賞状や写真はあなたが飾ったんですか?」
それを聞いた時、ユータは部屋に飾られている賞状や写真を見る。写真には美樹本人がたくさん写っていて賞状は彼女の名前が書かれている。
「えっ・・・?」
一体、何を言いたいかさっぱり分からない美樹。しかし、シンは既に真実に辿り着いているみたいで何か知っていそうだった。
「このお花も?」
シンの視線には花瓶が映った。花瓶は彼女が使っている家具の上に置いてあった。
花瓶にはオレンジ色と黄色の花と紫色の花、そして濃い青色の花が入っている。彩りの良い花が美樹の部屋を華やかにする。
「キンセンカにシオン、それにリンドウ。どれも故人を偲ぶ供花(くげ)ばかりだ。この花は君が集めて飾ったのか?」
それを聞いたユータはキョトンとした。故人?一体、何を言っているんだ?と探偵はシンが何を思って発言しているのか理解できなかった。
「キンセンカの花言葉は「別れの悲しみ」。シオンは「追憶」。そして、リンドウは「あなたの悲しみに寄りそう」という意味になります。まるで、亡くなった人を想って選んだような花ばかり。あなたは亡人じゃないのになぜ弔いの花が部屋に置いてあるのですか?」
弔いの花、つまり亡き人に送る供花が死んでもいない彼女の部屋にあるのか。美樹は言葉が詰まったのか何も言えず顔が強張っていた。
「それによく見ればこの部屋にある写真は全て君自身が写っているものばかりだ。賞状も部屋中に飾っていて、まるで誰かを懐かしむかのようでどれも親が選びそうなものばかり。それほど、あなたは親に愛されていたんですね」
言われてみれば美樹の部屋には彼女本人が写っている写真がたくさんあった。まだ幼く幼稚園生だった頃から小学生・中学生時代に過ごした日々はもちろん家族や友人に囲まれて楽しそうに笑っている美樹の姿がたくさん写っていた。そして、天井の壁に飾られているこれまで美樹が獲った賞状は彼女が今まで培ってきた功績を称えていたかのようにも見える。これはまるで美樹が生前に歩んだ人生を表しているみたいで本人はもうこの世にはいないと告げているような悲しくて寂しそうな部屋になっていた。亡き我が子との思い出が詰まった部屋を残すかのように。
「この写真も賞状も全てあなたが選んだ?いや違う。あなたは自分自身が写っている写真を自ら部屋に飾るほど自分が好きなのか?違う。あの花はあなたが選んで飾ったのか?違う。この部屋にある写真も賞状も花も全てあなたの両親が飾ったもの。僕が何を言いたいのか分かりますよね?」
淡々と話を続けるシン。強張った顔をして言葉が発せない美樹は彼の口述を聞いてある到達点に辿り着く。弔いを込めた供花。自身が写っている写真。今まで獲得してきた数々の賞。誰かを懐かしむような部屋。今まで気にしていなかったことがシンの話を聞いて気づかされる。まず、花は買った憶えはない。気づいた時には既に花は部屋に添えられていた。そして、自分ばかり写っている写真を選んで自身が手に入れた賞状を飾った憶えはない。気づいたらそこにあった。自分が選んで部屋に飾ったものだとずっと思っていた。謎の人影に襲われるまでは特に何も変わりない日常を過ごしていた。普通に学校にも通い普段と変わらない生活を送っていた。しかし、シンがこの部屋の秘密を気づいた時、美樹は思い出してしまった。奥深くに眠っていた〝真実〟という記憶が目を覚まし彼女の脳裏に鮮明に映し出す。彼が何を言いたいのかも美樹は気づいてしまったのだ。すると、言葉を失い硬直していた美樹の様子が変わり自分が何者なのか気づいたと同時に胸が締め付けられ呼吸が荒くなった。過去の記憶が、奥底に眠っていた記憶が目覚めたことで様子がおかしくなった彼女を見てユータも助手が何を言いたいのか、美樹の正体は何なのか気づき始めた。
痙攣をおこすかのように動悸が激しくなりますます呼吸が荒くなる美樹にシンは腰を上げて杖を彼女に向けた。
「君はあの母親が呼んだ悪魔によって甦った。いや。「身体」という抜け殻を利用して復活したんだ。つまり、今回の連続不審死事件の犯人は母親だが君も含まれている。君が、富金校長達と沼田くんを殺したといってもいい。僕が魔法を使えば君は元の抜け殻に戻る。君は「遠藤美樹」という少女の身体を借りた偽物だ」
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