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Historia Ⅱ
魔羅(2)
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午後19時を過ぎた頃、搬送先の病院に着き沼田は四階の404号室の病床で休んでいた。
シンとユータは病院の廊下で待機し美樹の方は、熱で倒れた沼田が眠っている病床の中で先生の話を聞いていた。しばらくして、病床から出てきた美樹は職場部屋へ戻る先生にお礼を言って見送る。
「どうでした?」
ユータは沼田の容態を心配していたので訊ねると
「ストレスによる熱だそうです。しばらく安静すれば元気になるって」
「そうか。それはよかった」
安心したユータは胸をなでおろす。
美樹も安心したが表情はとても悲しそうで思いつめていた。
「あたしのせいだ。あたしが、ちゃんと相談に乗っていれば」
いじめで困っていた沼田を手助けしてやれなかった美樹はとても後悔しているかのように自分を責めていた。なぜあの時、冷たくして見捨てたのか薄情者として自分が許せなかった彼女は心を痛め悔いた。
自分の失態に嫌厭を感じた彼女にユータは優しく声をかける。
「そう自分を責めないでください。元はと言えば彼をいじめた連中が悪いしあなたのせいではありません。だって、わざとやったわけじゃないんでしょ?それなら話せばきっと、沼田くんも分かってくれますよ」
気遣ってくれる彼からの優しい言葉を受けて美樹は小さく頷いた。
「もしよろしければですが、しばらくの間、私達がボディガードをしましょうか?事件が解決するまで、しばらくの間は私達が側にいますのでご安心ください」
ユータは気が優しいのでいつも落ち込んでいる人がいれば寄り添ったりする。そこが彼の長所でもあるがシンはその優しすぎるところが彼の悪い所だと思っている。
「相変わらずのお人好しだな。そんな事までしなくていいだろう?」
それを聞いたユータは反論するかのように自分の意見をよく思っていない助手に言った。
「まだ事件の犯人が分かっていないんだ。しばらく、一緒に付いていた方が美樹さんだって安心だろ?」
「彼女のプライベートまで見張らなくちゃいけないのか?毎日ボディガードしていたら事件は迷宮入りのままだしキリがないだろう。それに、犯行が起こった時間は夜だから昼間は襲われる心配はないだろう。僕達の仕事は今回の連続殺人事件を一日でも早く謎を解くことだ。まだ調べなくちゃいけない事だって山ほどある」
全く自分の考えを譲ろうとしない助手にため息を出す。
「女心わかってないな~。こういう時は、男が守ってあげなくちゃいけないんだぞ?それこそが、ジャパニーズジェントルというもんだろ」
「お前。いつから女心わかるようになった?昔、チカが落ち込んでいた時にお前が好き放題に弄りまくったせいで学校中、散々な辱めを受けたうえ当時、付き合っていた彼女の気持ちを分かっていなかったせいでほんの数日でフラれたんじゃないか」
それを聞いたユータは嫌な思い出が彼の脳に甦った。それは学生時代、落ち込む友人を弄り倒したのが原因で彼女に歯呪いとステップを踏ませる呪文、そしてくすぐり呪文のコンボをかけられて学校中に大恥をかかされた思い出があった。あれが原因でしばらくの間だけみんなにドン引きされて避けられた。そして、忘れもしない6年生の頃、交際してからまだ数日で付き合っていた彼女から突然の別れを言い告げられた。理由は単純で全く彼女の気持ちを分かっていなかったユータの自業自得が招いた出来事で彼の淡い青春は儚く散ったのだ。
人前で自身の黒歴史を暴露されたことでユータの顔が赤くなり心が乱れた。
「ちょ、お前!美樹さんの前でなに晒しとるんじゃ!」
怒った猫のように牙を出して毛を逆立てるかのように威嚇した。しかし、シンはこちらを見て威嚇する落ちこぼれ探偵の事は気にしておらず無視した。
「あなたはこれからどうしますか?家まで送りましょうか?」
シンは病院を後にして美樹を自宅まで送ろうと思っていた。
「いいえ。もう少し病院に残って様子を見てみます。それに、目を覚ましたらすぐ沼田くんに謝りたいし」
「わかりました」
「それと、人型の影の件ですがやっぱりお祓いしてもらおうかと思います。今度、神社に行ってみます」
どうやら美樹は神社でお祓いをしてもらおうと考えてくれていたみたいだ。彼女を襲う人型の影。そいつはきっと、彼女に取り憑いている霊じゃないかと本人は思っていたみたいなので事務所でシンに言われた通りちゃんとお祓いしに行こうと決めていた。
「ユータはどうする?僕は先に帰るけどお前も病院に残る?」
誰にも言いたくない黒歴史を容赦なく暴露した助手に対しユータは不服そうな顔を浮かべながら自分も病院に残ると伝えた。
「ああ。美樹さんを家まで送り届けたら帰る」
何だかシンに不満感を見せてくるユータだが、本人はそんなこと気にもしなかった。
シンは一旦、事務所へ戻りユータは面会が終わるまで一階の待合室で待機していた。
美樹は病床で眠っている沼田が目を覚めるのを待っている。
沼田がいる病床は個室でベッドの隣にはデスクがあり電気スタンドの光が灯っていた。家族には既に連絡済みで妹がこちらに来ることになっている。
美樹は近くにあった椅子に座って静かに看病していた。沼田はさっきより少し楽になったのか表情が和らいでいた。おでこには熱さまシートが貼られていて少年の体内に籠った熱を冷やす。目を閉じて眠っている沼田の顔を見て美樹は自分がした事を悔いていた。
学校ではいじめの存在があった事は知っていて誰も教員に相談する者はいなかった。なぜ相談しなかったのか?それは、いじめの主犯である三十木の存在が大きいからだ。
三十木は金持ちの子で隣クラスのリーダーでもありよく組谷達とつるんでいた。三十木に目をつけられた最後といわれるぐらい同学年だけでなく後輩も恐れられていた。
普段は感じの良い優しそうな少年だったがそれは表面だけの偽りの仮面で正体は善人の皮を被った悪質な不良でもあった。
痛めつけられ苦悶を抱きつつ助けを求めることができなかった沼田を見ているとこっちまで心臓を紐で絞めつけるかのような痛みと苦しさが強く伝わってくる。美樹は、三十木達を恐れていた為に彼を見放すような態度を取った。明るくて楽しいはずの学校が人を苦しめ楽しむ嫌な場所になってしまうのは本当に残念だ。アンバート高等学園は名門校で特に問題はない校則も教育もしっかりしている所のはずが、まさかこうなってしまうとは一体誰が予想していたのだろうか。沼田に助けの手を差し伸べてあげられなかった美樹は自分の過ちを後悔していた。すると、眠っていた沼田が意識を取り戻したかのように目を開けた。目覚めた彼に気づき美樹は顔を覗いた。
「沼田くん?」
優しい一声に沼田は彼女の存在を知る。
「遠藤さん。ここは?」
「病院よ。沼田くん。日頃のストレスが原因で熱が出たのよ」
明らかに自分の部屋とは違う別空間に美樹は入院している事を教えた。
「もうすぐ、妹さんが着替えを持って来てくれるからね」
沼田が目覚めてホッとした美樹。そして、美樹は自分が彼にしたことを謝罪した。
「沼田くん。今更になって言うのもなんだけど。前々から謝りたいと思ってたの。あなたが三十木くん達にいじめられていた時、あたしに相談しにきたでしょ?あの時、相談にも乗らず冷たい態度を取って見放しちゃって本当にごめんなさい。知り合いとはいえ、あたしのせいで沼田くんをもっと苦しめてしまった。もし、あたしが先生にいじめがあるのを教えたら三十木くん達に目をつけられると思ったの。だから、あなたのお願いを断ったの。あの時からあたし考えたの。三十木くん達から逃れる為とはいえ沼田くんの相談にも乗らず無視しちゃっていいのかって。そしたら、五ヶ月前からあなたが不登校になったと聞いて。きっと、あたしが沼田くん無視したせいで学校に来れなくなったんじゃないのかと思って。きっと、沼田くんはあたしだけしか頼れる人がいなかったんだよね?今頃になって遅いかもしれないけど、本当にごめんなさい」
美樹はこれまで自分がしてきたことを悔い改め謝罪の意を込めて深々と頭を下げた。
許してもらわなくてもいい。でも、どうしても謝りたくて今ここにいる。相当、後悔し自分の過ちを認め深々と謝罪する彼女を見た沼田の表情は変わらぬまま頭を下げて謝る美樹を眺めていた。
「いいよ。もう過ぎたことだし。遠藤さんは悪くない」
罪悪感を背負っていた美樹の深い謝罪が通じたのか沼田は決して彼女を責めたりしなかった。それを聞いて美樹は少し心が軽くなった気がした。ずっと謝りたかったことを今はこうして達成できたのだから。
「でも、僕。学校には行きたくない。あいつらがいる限り僕は・・・」
沼田は美樹の謝罪を受け止めてもまだ大きな傷が残っていた。三十木達のいじめによる心の傷だ。その傷はとてもひどく大きかったものでトラウマにもなっていた。奴らが学校にいる限り通うこともできない。家族にも自分がいじめに遭っていることはまだ話してもいない。ずっと一人で抱え込み悩んでいた。そのストレスで体調を崩し熱が出て病院にいる。
退院して学校に戻ってもきっと同じことされると自分の中の本能がそう言っている気がしたのだ。どうやら、沼田は三十木達が死んだことをまだ知らないみたいだ。
美樹は三十木達と富金校長、そして沼知教頭が殺されたこと、彼が不登校中に起きた出来事を全て話した。
「三十木達が死んだ・・・?校長先生だけじゃなく教頭先生も・・・?!」
まだ信じられないのか目を大きく見開き驚きを隠せなかった沼田はショックを受ける。
校長の死は既に知っていたようだった。
「校長先生が死んだのはXで見たから分かるけど教頭先生まで?」
「今はあたしが依頼した探偵さんが調査してもらっているの。連続でうちの学校の人が殺されているから転校する子もほとんどいてPTAの人達と話し合っているわ」
今の事態を聞いた沼田はとても暗い表情を浮かべて呟いた。
「僕のせいかも・・・」
「え?」
「校長先生と教頭先生は関係ないけど僕、学校に行かなくなってから三十木達を呪ってたんだ。あいつらの名前を書いた人形を作ってさっさと消えちまえばいいのに。早く地獄へ落ちろとか思いながらハサミで何度も衝いたりしたから。きっと、ハサミで人形を刺したからその呪いがあいつらにかかったんだ」
突然、衝撃的な発言に美樹は驚きを隠せなかった。不登校中の間、そんな事をしていたとは全く知らなかったので一瞬、言葉を失いかけた。それほどまで三十木達を恨んでいたことがよく分かる。沼田は彼らへの強い憎しみを抱き念じながら彼らの人形を何度も何度もボロボロになるまで刺し続けた結果、呪いの効果が出て三十木達を殺してしまったことで自分がした事に後悔していた。まさか、本当に呪いがかかるとは思ってもみなかったのであまりにも予想外過ぎて恐ろしくもなった。怨んでいたとはいえ、まさか人を殺してしまったことに沼田はショックを受けた。
「まさか。ほんとに呪い殺しちゃうなんて・・・」
落ち込んでいる沼田を見て美樹は優しく語りかけた。
「違う。沼田くんは悪くない。悪いのは全部、三十木達。彼らは今まで自分がしてきた報いを受けて死んだのよ。考えてみれば全て彼らの自業自得。だから、沼田くんは悪くない。あんまり自分を責めないで」
自責する沼田に哀れみを感じた美樹は気を持たせるよう優しく励ました。沼田が呪い殺したんじゃなくて、三十木達自身が不幸に遭ったまで。偶然とはいえ、同じ高校に通う彼ら全員が殺されたのはただ不運に見舞われただけで決して呪いのせいではない。沼田が彼らを殺すわけがないと美樹は信じていた。
気を遣って優しく接してくれる彼女に寝込んでいる沼田は「ありがとう」とお礼を言った。
シンとユータは病院の廊下で待機し美樹の方は、熱で倒れた沼田が眠っている病床の中で先生の話を聞いていた。しばらくして、病床から出てきた美樹は職場部屋へ戻る先生にお礼を言って見送る。
「どうでした?」
ユータは沼田の容態を心配していたので訊ねると
「ストレスによる熱だそうです。しばらく安静すれば元気になるって」
「そうか。それはよかった」
安心したユータは胸をなでおろす。
美樹も安心したが表情はとても悲しそうで思いつめていた。
「あたしのせいだ。あたしが、ちゃんと相談に乗っていれば」
いじめで困っていた沼田を手助けしてやれなかった美樹はとても後悔しているかのように自分を責めていた。なぜあの時、冷たくして見捨てたのか薄情者として自分が許せなかった彼女は心を痛め悔いた。
自分の失態に嫌厭を感じた彼女にユータは優しく声をかける。
「そう自分を責めないでください。元はと言えば彼をいじめた連中が悪いしあなたのせいではありません。だって、わざとやったわけじゃないんでしょ?それなら話せばきっと、沼田くんも分かってくれますよ」
気遣ってくれる彼からの優しい言葉を受けて美樹は小さく頷いた。
「もしよろしければですが、しばらくの間、私達がボディガードをしましょうか?事件が解決するまで、しばらくの間は私達が側にいますのでご安心ください」
ユータは気が優しいのでいつも落ち込んでいる人がいれば寄り添ったりする。そこが彼の長所でもあるがシンはその優しすぎるところが彼の悪い所だと思っている。
「相変わらずのお人好しだな。そんな事までしなくていいだろう?」
それを聞いたユータは反論するかのように自分の意見をよく思っていない助手に言った。
「まだ事件の犯人が分かっていないんだ。しばらく、一緒に付いていた方が美樹さんだって安心だろ?」
「彼女のプライベートまで見張らなくちゃいけないのか?毎日ボディガードしていたら事件は迷宮入りのままだしキリがないだろう。それに、犯行が起こった時間は夜だから昼間は襲われる心配はないだろう。僕達の仕事は今回の連続殺人事件を一日でも早く謎を解くことだ。まだ調べなくちゃいけない事だって山ほどある」
全く自分の考えを譲ろうとしない助手にため息を出す。
「女心わかってないな~。こういう時は、男が守ってあげなくちゃいけないんだぞ?それこそが、ジャパニーズジェントルというもんだろ」
「お前。いつから女心わかるようになった?昔、チカが落ち込んでいた時にお前が好き放題に弄りまくったせいで学校中、散々な辱めを受けたうえ当時、付き合っていた彼女の気持ちを分かっていなかったせいでほんの数日でフラれたんじゃないか」
それを聞いたユータは嫌な思い出が彼の脳に甦った。それは学生時代、落ち込む友人を弄り倒したのが原因で彼女に歯呪いとステップを踏ませる呪文、そしてくすぐり呪文のコンボをかけられて学校中に大恥をかかされた思い出があった。あれが原因でしばらくの間だけみんなにドン引きされて避けられた。そして、忘れもしない6年生の頃、交際してからまだ数日で付き合っていた彼女から突然の別れを言い告げられた。理由は単純で全く彼女の気持ちを分かっていなかったユータの自業自得が招いた出来事で彼の淡い青春は儚く散ったのだ。
人前で自身の黒歴史を暴露されたことでユータの顔が赤くなり心が乱れた。
「ちょ、お前!美樹さんの前でなに晒しとるんじゃ!」
怒った猫のように牙を出して毛を逆立てるかのように威嚇した。しかし、シンはこちらを見て威嚇する落ちこぼれ探偵の事は気にしておらず無視した。
「あなたはこれからどうしますか?家まで送りましょうか?」
シンは病院を後にして美樹を自宅まで送ろうと思っていた。
「いいえ。もう少し病院に残って様子を見てみます。それに、目を覚ましたらすぐ沼田くんに謝りたいし」
「わかりました」
「それと、人型の影の件ですがやっぱりお祓いしてもらおうかと思います。今度、神社に行ってみます」
どうやら美樹は神社でお祓いをしてもらおうと考えてくれていたみたいだ。彼女を襲う人型の影。そいつはきっと、彼女に取り憑いている霊じゃないかと本人は思っていたみたいなので事務所でシンに言われた通りちゃんとお祓いしに行こうと決めていた。
「ユータはどうする?僕は先に帰るけどお前も病院に残る?」
誰にも言いたくない黒歴史を容赦なく暴露した助手に対しユータは不服そうな顔を浮かべながら自分も病院に残ると伝えた。
「ああ。美樹さんを家まで送り届けたら帰る」
何だかシンに不満感を見せてくるユータだが、本人はそんなこと気にもしなかった。
シンは一旦、事務所へ戻りユータは面会が終わるまで一階の待合室で待機していた。
美樹は病床で眠っている沼田が目を覚めるのを待っている。
沼田がいる病床は個室でベッドの隣にはデスクがあり電気スタンドの光が灯っていた。家族には既に連絡済みで妹がこちらに来ることになっている。
美樹は近くにあった椅子に座って静かに看病していた。沼田はさっきより少し楽になったのか表情が和らいでいた。おでこには熱さまシートが貼られていて少年の体内に籠った熱を冷やす。目を閉じて眠っている沼田の顔を見て美樹は自分がした事を悔いていた。
学校ではいじめの存在があった事は知っていて誰も教員に相談する者はいなかった。なぜ相談しなかったのか?それは、いじめの主犯である三十木の存在が大きいからだ。
三十木は金持ちの子で隣クラスのリーダーでもありよく組谷達とつるんでいた。三十木に目をつけられた最後といわれるぐらい同学年だけでなく後輩も恐れられていた。
普段は感じの良い優しそうな少年だったがそれは表面だけの偽りの仮面で正体は善人の皮を被った悪質な不良でもあった。
痛めつけられ苦悶を抱きつつ助けを求めることができなかった沼田を見ているとこっちまで心臓を紐で絞めつけるかのような痛みと苦しさが強く伝わってくる。美樹は、三十木達を恐れていた為に彼を見放すような態度を取った。明るくて楽しいはずの学校が人を苦しめ楽しむ嫌な場所になってしまうのは本当に残念だ。アンバート高等学園は名門校で特に問題はない校則も教育もしっかりしている所のはずが、まさかこうなってしまうとは一体誰が予想していたのだろうか。沼田に助けの手を差し伸べてあげられなかった美樹は自分の過ちを後悔していた。すると、眠っていた沼田が意識を取り戻したかのように目を開けた。目覚めた彼に気づき美樹は顔を覗いた。
「沼田くん?」
優しい一声に沼田は彼女の存在を知る。
「遠藤さん。ここは?」
「病院よ。沼田くん。日頃のストレスが原因で熱が出たのよ」
明らかに自分の部屋とは違う別空間に美樹は入院している事を教えた。
「もうすぐ、妹さんが着替えを持って来てくれるからね」
沼田が目覚めてホッとした美樹。そして、美樹は自分が彼にしたことを謝罪した。
「沼田くん。今更になって言うのもなんだけど。前々から謝りたいと思ってたの。あなたが三十木くん達にいじめられていた時、あたしに相談しにきたでしょ?あの時、相談にも乗らず冷たい態度を取って見放しちゃって本当にごめんなさい。知り合いとはいえ、あたしのせいで沼田くんをもっと苦しめてしまった。もし、あたしが先生にいじめがあるのを教えたら三十木くん達に目をつけられると思ったの。だから、あなたのお願いを断ったの。あの時からあたし考えたの。三十木くん達から逃れる為とはいえ沼田くんの相談にも乗らず無視しちゃっていいのかって。そしたら、五ヶ月前からあなたが不登校になったと聞いて。きっと、あたしが沼田くん無視したせいで学校に来れなくなったんじゃないのかと思って。きっと、沼田くんはあたしだけしか頼れる人がいなかったんだよね?今頃になって遅いかもしれないけど、本当にごめんなさい」
美樹はこれまで自分がしてきたことを悔い改め謝罪の意を込めて深々と頭を下げた。
許してもらわなくてもいい。でも、どうしても謝りたくて今ここにいる。相当、後悔し自分の過ちを認め深々と謝罪する彼女を見た沼田の表情は変わらぬまま頭を下げて謝る美樹を眺めていた。
「いいよ。もう過ぎたことだし。遠藤さんは悪くない」
罪悪感を背負っていた美樹の深い謝罪が通じたのか沼田は決して彼女を責めたりしなかった。それを聞いて美樹は少し心が軽くなった気がした。ずっと謝りたかったことを今はこうして達成できたのだから。
「でも、僕。学校には行きたくない。あいつらがいる限り僕は・・・」
沼田は美樹の謝罪を受け止めてもまだ大きな傷が残っていた。三十木達のいじめによる心の傷だ。その傷はとてもひどく大きかったものでトラウマにもなっていた。奴らが学校にいる限り通うこともできない。家族にも自分がいじめに遭っていることはまだ話してもいない。ずっと一人で抱え込み悩んでいた。そのストレスで体調を崩し熱が出て病院にいる。
退院して学校に戻ってもきっと同じことされると自分の中の本能がそう言っている気がしたのだ。どうやら、沼田は三十木達が死んだことをまだ知らないみたいだ。
美樹は三十木達と富金校長、そして沼知教頭が殺されたこと、彼が不登校中に起きた出来事を全て話した。
「三十木達が死んだ・・・?校長先生だけじゃなく教頭先生も・・・?!」
まだ信じられないのか目を大きく見開き驚きを隠せなかった沼田はショックを受ける。
校長の死は既に知っていたようだった。
「校長先生が死んだのはXで見たから分かるけど教頭先生まで?」
「今はあたしが依頼した探偵さんが調査してもらっているの。連続でうちの学校の人が殺されているから転校する子もほとんどいてPTAの人達と話し合っているわ」
今の事態を聞いた沼田はとても暗い表情を浮かべて呟いた。
「僕のせいかも・・・」
「え?」
「校長先生と教頭先生は関係ないけど僕、学校に行かなくなってから三十木達を呪ってたんだ。あいつらの名前を書いた人形を作ってさっさと消えちまえばいいのに。早く地獄へ落ちろとか思いながらハサミで何度も衝いたりしたから。きっと、ハサミで人形を刺したからその呪いがあいつらにかかったんだ」
突然、衝撃的な発言に美樹は驚きを隠せなかった。不登校中の間、そんな事をしていたとは全く知らなかったので一瞬、言葉を失いかけた。それほどまで三十木達を恨んでいたことがよく分かる。沼田は彼らへの強い憎しみを抱き念じながら彼らの人形を何度も何度もボロボロになるまで刺し続けた結果、呪いの効果が出て三十木達を殺してしまったことで自分がした事に後悔していた。まさか、本当に呪いがかかるとは思ってもみなかったのであまりにも予想外過ぎて恐ろしくもなった。怨んでいたとはいえ、まさか人を殺してしまったことに沼田はショックを受けた。
「まさか。ほんとに呪い殺しちゃうなんて・・・」
落ち込んでいる沼田を見て美樹は優しく語りかけた。
「違う。沼田くんは悪くない。悪いのは全部、三十木達。彼らは今まで自分がしてきた報いを受けて死んだのよ。考えてみれば全て彼らの自業自得。だから、沼田くんは悪くない。あんまり自分を責めないで」
自責する沼田に哀れみを感じた美樹は気を持たせるよう優しく励ました。沼田が呪い殺したんじゃなくて、三十木達自身が不幸に遭ったまで。偶然とはいえ、同じ高校に通う彼ら全員が殺されたのはただ不運に見舞われただけで決して呪いのせいではない。沼田が彼らを殺すわけがないと美樹は信じていた。
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