妖魔大決戦

左藤 友大

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第十幕

神災(二十四)

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砂のように身体が崩れていく黑緋神之命は自分の肉体が消え去る前に最後の言葉として正輝に伝えた。
その伝えた言葉はとても意味深い話だった。
「お前の人間に対する世界に対する・・・気持ちは素直に認めよう・・・。だが、私を倒したところで・・・・お前には次なる脅威が・・・待ち受けている。希望という光があるかぎり・・・絶望という闇もまたある。私という〝存在〟が滅んでも・・・私に続いて必ず・・世界を破滅へと導く者が・・現れる。私の未来予知が言うのだ・・・。数十年先の未来に・・破滅へ導く・・その者が・・この現世を支配する。現世だけではない・・。あの世もやがて滅ぶであろう・・。その者が・・・私の代わりに・・野望を果たす日が・・・訪れる」
まるで予言みたいに言う黑緋神之命に正輝は問いかける。
「その者って、いったい誰だ?!」
しかし、黑緋神之命は正輝の問いかけに答えようとはしない。それどころか突然、妙な薄笑いを浮かべはじめた。
「その者が目覚めた時・・・世界は終わりを迎える・・・」
身体が半分消えてきた黑緋神之命は更にもっと正輝達に伝え続ける。
「そして、お前達は・・・このトコヤミ大神の中で・・・死に絶える。日本列島を巻き込んでな・・・」
「どういうことだ?!」
更に笑みを浮かべる黑緋神之命は正輝達に衝撃的な言葉を言い放った。
「今、このトコヤミ大神は・・・落下しつつある。このまま、日本列島に落ちれば・・・地上にいる愚者共全員は一人残らず死に絶える」
その話を聞いた正輝達は驚愕した。
中だと外の景色は見えないし全く異変に気づかないけど黑緋神之命の話が本当なら大変なことだ。
巨大なトコヤミ大神が落ちたら日本列島は滅んでしまう。それどころか、日本以外の国にも大きな災害に見舞われてしまう。
「心臓を壊したことで・・・・トコヤミ大神の体内のあちこちが・・・崩壊され・・機能が停止したのだろう・・」
もう顔の半分しか残っていない黑緋神之命は最後まで笑っていた。
「結局、未来は変えられん運命に・・陥るのだ・・・。さすがのお前も・・・今のトコヤミ大神を・・止められないだろう・・ハハ・・・ワハハハハ・・・」
完全に肉体が滅び砂となって消えても黑緋神之命の笑い声は聞こえた。黑緋神之命は心中したつもりで彼らを巻き込んだのだろう。最後の最後まで悪あがきをして朽ちた黑緋神之命が憎らしい。

黑緋神之命が言ったとおり、トコヤミ大神は大気圏を抜けて日本列島へ落下していた。
今のトコヤミ大神は機能停止しているみたいでビクリとも動かない。体内にいる正輝達の身にはなにも変化はなくても実際にトコヤミ大神本体は本当に墜落している。
巨大な身体を持つトコヤミ大神が日本列島に衝突してしまえば一巻の終わりだ。

「ど、どーしよどーしよどーじよどーじよどーぢゅる!!??」
途中、言葉を噛みながら思いっ切り慌てる小日向。ここで落ち着いてはいられるかぐらいの慌てっぷりに一反木綿は見ていられなかった。
「お、落ち着くばい!まままままずは、落ち着いてっ」
慌てる小日向を落ち着かせようとする一反木綿だが動揺が隠せずパニックしかけていた。
「落ち着ていられますか!!?日本がパァになるんですよ?パァに!」
両手を動かしながら興奮している小日向はざわつく心が抑えきれなく大人しくできなかった。
すると突然、小日向が提案を出す。
「そうだ!出口!急いで出口を探しておけば・・・って!それじゃあダメだ!!」
あまりの興奮と慌てさに思考が乱れ脳内がパニくっていた。
出口を探して脱出してもトコヤミ大神は止められない。
「地上にいる仲間と連絡したくても連絡ができなかし、ワイらどうすりゃいいとね?!」
喚きながら頭を抱える一反木綿に右往左往しながら落ち着きを取り戻せない小日向は頭が痛くなりそうなぐらい悩みながら脳内の中でいい解決方法はないか手探りするかのように考えたが、いい案が全く浮かばない。
このままでは、日本が危ない。もし、日本が破壊されたらその衝撃で他の国にも危害が及んでしまう。悩み捲る二人にたった一人だけ冷静な態度を見える者がいた。
それは紛れもない。草壁正輝だ。
正輝は突き立てた天帝主を見て何や思いつめるような表情を浮かばせていた。慌てている妖怪と大人を前に正輝は買う語を決めたかのように天帝主を抜いた。
「先に逃げてください」
その一言に小日向と一反木綿は反応してこちらを見た。
「へ?」
今、なんて?小日向と一反木綿は思った。
正輝は振り向いてさっきまで慌てていた二人に告げた。
「二人で先に逃げてください。ここは、トコヤミ大神は僕が何とかします」
それを聞いた二人は口を開け一反木綿はきょとんとした。子供らしくない発言に二人は驚いたのだ。
正輝はここに残って二人は先に脱出する。でも、それは─
「何を言っているんだ?君も一緒に逃げるんだよ」
小日向は我に返り一緒に逃げようと言う。しかし、正輝は小日向の言葉を否定するかのように首を振った。
「僕はここに残ってトコヤミ大神を止める。じゃなきゃ、日本にいるみんなが死んでしまう」
正輝の目はまっすぐでとても真剣な面持ちを持ち一切怯みを見せなかった。
しかし、小日向は納得いかないようで説得するかのように正輝を思いとどまらせようとした。
「だ、だからって子供一人じゃ無理だよ。仮に俺達が上手く逃げたとして君はどうする?君は僕達の代わりに死ぬことになるんだよ?そんなのって嫌じゃん。君はまだ子供だ。まだまだやりたい事はたくさんあるはず。なのに、そんな死に急ぐような事をしなくてもいいじゃないか。地上には君の帰りを待つ家族がいるんだよ?君一人に任せるなんてそんなの─」
そう言いかけた途端、正輝は小日向の話を割り込んで自分の真意を強く伝えた。
「みんなの為なら僕は何だってします。死んでも構わない。みんなを救えるなら僕は、この命を投げうってでもトコヤミ大神を止めます。僕、最初は怖かったんです。突然、妖怪達に君は聖戦士だの一緒に戦ってくれだの言われて正直、自信が無かった。でも、亀姫や太朗丸、猩々に一反木綿、黒カラスさんや妖怪のみんなと一緒に戦ってきて分かったんです。みんなは大切な仲間を故郷を守る為に必死に戦っているんだって。聖戦士だからでもなく運命だからというわけでもなくて、守りたい物を守りたい。みんなが生きる未来を守りたい。だから、妖怪のみんなは僕の力を必要としていたんだって。だから、滝夜叉姫や黑緋神之命に勝てたのは、みんなの想いがあってからこそ勝てたんだと僕は思います」
熱く語る彼はどことなく凛々しさがあった。子供とは思えぬ勇敢さ。
それでも、小日向は納得せず説得を続けた。
「愛菜ちゃんはどうする?愛菜ちゃんは、君の帰りを待っているんだぞ?まさか、あの子を置いていくわけじゃないよな?いいか?君はまだ子供だ。まだ子供の君がその言葉を使うなんて10年、いや100年早い!例え世界を救う聖戦士だとしても正輝くんにはまだ生きる権利があるんだ!俺らを逃がす為に、みんなを守る為に自分の命を粗末にするなんて俺は許さない!一度きりの命を人生を大事にしろ!」
熱く説得する小日向を相手に正輝は目を背けなかった。子供相手にムキになって手厳しく言い放つ小日向は自分が思ったことを全て彼の前で吐いた。
親より自分より死ぬのは許せなかった。その話をした時、小日向は幼かった自分を思い返していた。
幼い頃、一度だけ車に轢かれて死にかけたことがあった。原因は自分で友人と遊び半分で自転車を爆走していた時、勢い余り過ぎて赤信号だった歩道を渡り車にぶつかったことがあった。
とても重い一撃を受け衝撃で宙を舞い地面に叩きつけられ意識を失った。気がつけば、病院にいてベッド上に寝ていた。骨折はしたものの一命を取り留め家族や友達が泣きながら無事だった自分を喜んでいた。しかし、祖父は違った。祖父は手厳しい人で優しい一面はあったがとにかく厳しかった。祖父は動けない小日向少年の頬をいきなり引っぱたいた。あの時の痛みは今でもちゃんと憶えている。
家族一同は病人を殴るという衝撃的な展開に驚いたが、祖父は閻魔顔になってこちらを睨んでいた。
そして、祖父はこう言ったのだ。
一度しかない命を自分から危険に晒すとは何を考えているんだ。今は助かっているが最悪の場合、下手したらお前は死んでいたんだぞ。お前が死んだら家族を悲しませた罪で一生、地獄の苦しみを味わう事になるんだ。こうして生きているだけでありがいと思え!
祖父の瞳は潤んでいた。よほど小日向少年をすごく心配していたんだろう。
その時から小日向少年は子供が親より死ぬことは決して許すことではない事を知ったのだ。
大人になった今、祖父が怒った気持ちがよく分かる。自分の命を投げうろうとする正輝を何としてでも止めたかった。子供相手に殴るのはさすがにできないが、突き放すぐらい厳しく言えばきっと分かってくれるだろうと小日向は勝手に思っていた。
しかし、正輝は真剣な表情をしなかがら顔色すら全く変わらなかった。
自分の言葉は曲げないその力強さは小日向が思っていた以上に上回っていた。
「小日向さんの気持ちは分かります。でも、僕は諦めたくないんです。あなたがどんなことを言おうと僕はトコヤミ大神を止めます!黒緋神之命を倒すことは僕の目的の一つでもありますが、みんなを助けて生きる未来を取り戻すことも僕にとって大きな目的でもあります。藤原秀郷の生まれ変わりとして、先代の聖戦士 外神真太郎の子孫として僕はこの命を使ってでもみんなを助けます!」
彼の抱く意思はとても固くそして強い。みんなの為に自ら危険を冒してでもトコヤミ大神を止めたいという熱い想いが彼を突き動かす。気持ちが揺らぐ様子は全くない彼を前に小日向は何も言えなかった。
まだ中学生の子供がここまで言うとは思ってもみなかった。まさかに、今の正輝は大人へと近づいていた。
この戦いの中で正輝は成長したのかもしれない。
すると、天井が落ちてくる瓦礫の勢いが強まって来た。
もう時間がないと悟った正輝は一反木綿に言う。
「一反木綿。小日向さんを連れて脱出しろ!ここは僕に任せて」
一反木綿は熱い眼差しを見せる正輝を見て強く頷いた。
そして、小日向を担いで浮上した。
「ちょっ!一反木綿さん?!」
小日向は逆らうかのように一反木綿を振り貼ろうとした。しかし、一反木綿は放そうとはせず暴れる小日向を押さえながら地上に残る正輝に言った。
「正輝はん。後は、頼んます!」
そう伝えると正輝は笑顔で親指を立ててグーサインを送った。
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