妖魔大決戦

左藤 友大

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第十幕

神災(二十ニ)

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もうこれは、災害や神の災いともいえない。
この状況に一反木綿は必死に二人を抱えながら出口はないかと探す。
しかし、出口らしきものはどこにもない。光弾の雨が降り注ぐ中、三つに分かれた道を見つけた。
ここで迷っている暇なんかない。
一反木綿は右の道を通ろうとした。すると、目の前から爆炎が姿を現した。
あの爆炎は黑緋神之命が起こしたものではない。一反木綿と小日向が壊したトコヤミ大神の心臓による爆炎だ。
すぐさま一反木綿は迫り来る爆炎から逃げ出す為、切り替えて真ん中の道を選んだ。すぐそこまで迫って来た黑緋神之命は怖い目で彼らの後追う。
その時だ。
爆炎が来たタイミングで黑緋神之命は運悪く灼熱の業火に飲み込まれてしまった。
黑緋神之命を飲み込んだ爆炎は一反木綿達がいる廊下まで迫って来た。
「も~いや~」
爆炎に襲われるやら黑緋神之命に追いかけられるわ散々な目に遭いに遭い続けている一反木綿は今の事態に嫌気を差していた。でも、ぐずるわけにもいかない。早く出口を見つけて爆炎からおさらばしたい。
「どこかに出口があるはずです。一反木綿さん。頑張って」
鼓舞する小日向に正輝が水を差した。
「出口ってそれはまずいですよ」
「なんで?」
小日向に問いかけられた正輝は教えた。
二人はまだ今の現状を知っていない。
「このトコヤミ大神は今、日本列島、世界大陸が見えるぐらい高く飛んでいるんです。もしかすると、もう宇宙まで来ているかも」
その話を聞いて一反木綿と小日向は驚愕し叫んだ。
小日向なんか漫画みたいに長い舌を出して「え~~~~~~~~!!??」と叫びながら目を大きく見開いた。
宇宙は音もないし空気もない。そのうえ、すごく寒いと聞く。
もし、出口を見つけてこのトコヤミ大神を脱出したら酸素がなくて窒息してしまう。
もうこれは完全に袋の鼠だ。逃げる所がない!
そうこうしていると目の前に一際大きい四角い影が見えた。
出口だ!
やむを得んと一反木綿達は覚悟を決めてその出口へ向かった。あの先に待ち受けているのは、宇宙空間か?それとも全く別の空間か?
その出口は扉が付いていなかったのでそのまま通った。
彼らが付いた先は、螺旋状の階段だ。
階段はずっと下まで続いていて真っ暗で何も見えないぐらいの深さだった。
まるで、大きな落とし穴みたいで落ちたら一溜まりもない。
このトコヤミ大神の体内は一体全体どうなっているのだろうか?
でも、幸い爆炎から逃げ出す事はできた。
爆炎は正輝達の所まで届かず勢いが治まった。しかし、爆炎で広がった廊下は激しい炎に包まれ赤々と彩る業火に焼かれている。
さすがの黑緋神之命もこの爆炎の業火には太刀打ちできないだろう。
胸を撫でおろすぐらい安堵する正輝達だったが安心した時間はそう長くはなかった。
あの業火の中に怪しい影が映っていたのだ。
怪しい影は何か仕草を取るかのように広げた翼の影が消えた。
すると、突然の強風が正輝達を襲う。螺旋階段があるこの空間は強風に包まれ激しく燃えていた爆炎の業火を吹き飛ばしたのだ。
消えた業火の中から現れたのは、さっき爆炎に飲み込まれたはずの黑緋神之命だ。
黑緋神之命の身体は火傷跡が一切残っておらず無傷だった。
あの業火の中じゃさすがに大火傷するでしょうと思いながら小日向は「嘘だろ?無傷かよ?」と信じられない表情を隠せずはっきりと顔に出ていた。
正輝はそう簡単にやられないよなと思っていながら無傷の黑緋神之命を眺める。
すると、正輝がある提案を出した。
「一反木綿。小日向さんを階段の所に降ろして僕を背中に乗せてくれないか?」
「何を言って・・・?」
「ここはさすがに戦いにくい。こうなったら空中戦であいつと戦うしか手がないんだ。空を飛べるのは君しかいない。僕は君の背中に乗ってあいつと戦うから、君はあいつの攻撃をかわしたりしながらサポートしてほしいんだ。あいつと対等に戦って勝つには君の力が必要なんだ。できるかい?」
一反木綿は少し考えた。
確かに、この螺旋階段の上だと戦いにくいだろう。相手は翼を持っているので飛びながら奇襲をかけたりする可能性も大きい。
でも、正輝と一緒なら大丈夫かもしれないけどあいつと戦うのはさすがに怖い。
一反木綿にも感じるのだ。あいつの強い威圧と殺気と気配を。
どうするか考えていると小日向が一反木綿の名を叫んだ。黑緋神之命が翼を広げて襲いかかってきたのだ。
小日向の一声で我に返った一反木綿はすぐさま避けた。
あいつには考える猶予も与えてくれない。こうなったら一か八かだと一反木綿を決死の覚悟を決めて正輝のお願いを聞くことにした。
「合点承知ばい!」
一反木綿は小日向を螺旋階段の上に降ろし正輝を背に乗せた。
正輝は一反木綿の背に乗って黑緋神之命の所へ向かった。
「行くとね。正輝はん!」
「ああ!」
二人の行動にさすがの黑緋神之命は気づき口から出る光線で攻撃を仕掛けた。
一反木綿は早いスピードで華麗に攻撃をかわした。一旦、距離を取って黑緋神之命から離れて飛んでいる一反木綿は真っ先に黑緋神之命へ突撃した。
背に乗っている正輝は天帝主を大きく構え攻撃を仕掛ける。天帝主から燃え滾る赤金色の聖炎が黑緋神之命に牙を向いて襲いかかる。同時に黑緋神之命は水を纏った左腕で天帝主の聖炎と衝突し互いの技を相殺する。
続いて木の力を使って右後ろ腕の掌から竜巻状の木枯らしを放つ。そして、左腕で纏った炎の拳を正輝と一反木綿に目掛けて振るう。が、黑緋神之命の攻撃は届かず反射真剣のいい一反木綿が攻撃をかわし続け懐を狙う。
天帝主で斬りだす正輝だが、黑緋神之命の身体には届かなかった。
図体がデカいわりにアクロバティックな動きを見せつけて素早く飛ぶ黑緋神之命に一反木綿も負けてはいられなかった。激しい攻撃を続ける黑緋神之命に対し軽やかな動きと反射的な反応で次々と交わしつつ相手に近づいて正輝に攻撃をさせてくれる。
螺旋階段にいる小日向は見上げながら三人の速くて激しい戦いぶりの様子を見守っていた。
鉄の手摺りを強く握りしめながら人生で見たことない戦闘シーンにドキドキしながら心の中で正輝と一反木綿を応援し続けていた。
木と炎、土と水といった四つのエレメントパワーを持つ黑緋神之命に二人は苦戦している。
まだ魔神化した黑緋神之命にまだ傷一つ与えていない。それどころか、あの強靭な肉体を傷つけることはできるのだろうか?爆炎に巻き込まれて業火の中でも無傷で済んでいたのだ。それなりにあの身体は硬いに違いない。
でも、今の天帝主ならあの強靭な肉体を傷つけることができるかもしれない。なぜだか分からないが天帝主が出す聖炎がいつもと違う気がした。正輝が知っている聖炎の色は金色だが覚醒した黑緋神之命を傷をつけた時は赤と金が交った色をしていた。今も天帝主には赤金色の聖炎が燃えている。
そのうえ、距離を縮めれば避けてしまうし離れれば攻撃が届かなくなる。黑緋神之命も一緒だ。
これでは、決着がつかない。それにさっき気づいたのだが、天井から次々と瓦礫が落ち始めてきたのだ。
爆炎の衝撃で体内部分が崩れ始めたのだ。このまま戦いを長引かせたら瓦礫の下敷きになってしまう。
しかし、黑緋神之命は落下する瓦礫を全く気にしていないかのように猛攻撃をして二人を襲いかかる。
一反木綿は落ちてくる瓦礫の合間を縫いながら黑緋神之命に近づいたり離れたりの繰り返しをする。何か、魔神 黑緋神之命の弱点はないのか考えているがそんな考える暇もない。こうなったら行き当たりばったりでいくしかないと正輝は判断し一反木綿に伝える。
「一反木綿!なんとか、あいつの近くにいけるか?」
黑緋神之命が繰り出す猛攻撃をかわし続ける一反木綿は正輝が伝えようとしているのは彼なりに何か考えがあるんだと思っていた。
「なんとか行けると思うばい。弱点とか何か見つけとかね?」
期待する一反木綿。一反木綿の命は正輝に預けてもらっているからきっといい作戦があるんじゃないかと期待していたがそうでもなかった。
「いや。行き当たりばったりでいくぞ!」
なんの作戦も立てず適当に言う正輝に一反木綿は「はい?!」とつい裏声が出てしまった。
いい作戦があると思って聞いたのにまさかの無計画だという衝撃に一反木綿は(顔の表情は何も変わっていない)困惑していた。
「そ、そんな無茶な!」
「あいつは火傷も負わないほどの頑丈な身体を持っているけど無敵というほどではないはずだ。なら、あいつが攻撃を仕掛けてきたところを狙えば奴の懐に近づいてわずかの間だけ隙を突けられると思う。狙うはあいつの攻撃が始まった瞬間だ」
「なんと難しい作戦。ハードルが高かね。でも、うまくいくか?あいつは未来予知を持ってるさね」
「未来予知の弱点は、〝あいつが予知した未来とは全く違う未来〟を見せればいいんだ。僕は一度だけ、あいつが予知した未来を覆したことがあるから」
「かなり難しとね」
「まぁ、運に任せるしかない。次の攻撃が来たその隙に奴の懐に飛び込んでくれ。今の天帝主ならあいつを追い詰めることができそうなんだ」
説得する正輝の話に一反木綿はまだ納得していないかのように唸ったがその作戦しか方法がないと認めざるをえなかった。
「合点承知。やれるだけやってみるばい」
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