妖魔大決戦

左藤 友大

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第九幕

サラバ(一)

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黒紫色の炎が壁となって行く手を遮る中、黒カラスは緑色の血を流しながら凶暴な悪霊化となった川丸との戦いを続けていた。
髑髏の口をカタカタと鳴らしながら川丸は容赦なく殺しかかるかのように黒カラスを襲い苦しめた。
黒カラスは得意技である天狗空手で押しながらも襲い狂う川丸を対応していた。
亀姫は猩々と治療を終えた太郎丸と一緒に黒カラスと川丸の戦いを見守っていた。
戦いに巻き込まれないよう亀姫達は二人がいる場所から離れていたのだ。
黒紫色の炎の壁の向こう側には正輝と滝夜叉姫がいる。
正輝はどうなったのか?滝夜叉姫を倒せたのか?
炎の壁が邪魔で様子を見る事も除くこともできない。
あの「怨念の炎」と呼ばれる壁を潜ろうとすると燃えカスとなって焼死してしまうと黒カラスに止められているので近づくことさえ許されない。
すぐ駆けつけて黒カラスの助けになりたいが、自分達が来ると彼の邪魔になってしまうのでここで見ているしか方法がなかった。
治療を終え亀姫に支えられている太郎丸の腹部は傷跡だけ残っていて痛みは消えて楽になった。が、弟の惨めな姿に心を痛めていた。
黒カラスは羽根を散らし手裏剣のように飛ばすと川丸の身体に攻撃を与えた。
しかし、川丸の身体は鋼鉄でできているので刺されることはなく効いていないかのように羽根手裏剣を跳ね返した。
川丸は勢いあるスピードで黒カラスを襲いかかり飛びつくとタイミングを見計らって黒カラスは川丸の手を掴み勢いを利用して背負い投げをかました。
投げられた川丸は身体を強く地面に叩きつけられた。
後ろへ下がり距離を取った黒カラスは血と汗を滲ませながら息を切らしていた。
肝心の正輝がいなければ、川丸を倒せない。
彼を倒すには聖炎が必要だ。しかし、正輝は怨念の炎の向こう側にいる。
黒カラスができること。
それは、正輝が滝夜叉姫に打ち勝つまで川丸の足止めをすること。
拳に妖力を集中させていると立ち上がった川丸が鉤爪を光らせて急襲する。
すると、黒カラスの拳と身体から妖力が噴き出した。
妖力は黒カラスの力を高めると川丸の鉤爪が襲いかかる。
その時だ。精悍(せいかん)の顔を見せる黒カラスは襲いかかって来た鉤爪を妖力で纏った素手で受け止めた。
鉤爪は刃のように鋭いので受け止めた素手から血が流れた。
しかし、黒カラスの様子を見ると痛がる事なく問題ないかのように素手で押さえつけ拳を掌へと変える。そして、川丸を強く引き寄せると勢いよく掌が襲いかかる。
「大芭掌底(だいばしょうてい)!!」
掌底を打ちつけると妖力と混じり合った衝撃波が川丸の身体を突き抜ける。
そして、衝撃波と共に川丸の身体は勢いよく吹っ飛び壁に減り込んだ。
技は決まったが、そう簡単に倒せない事は黒カラスも重々承知してる。
大芭掌底を放った後、すぐさま構えた。
大の字で壁に減り込んでいる川丸。
しかし、川丸が減り込んだ壁から降りると何ともないかのようにピンピンしている。しかも、余裕で体操なんかもしている。
「なんちゅうタフさだ」
猩々は想像以上のタフさを持つ川丸に驚いている。
黒カラスの強力な天狗空手に平然と立っていられる者など見た事もなかった。
太郎丸は痛々しい表情で成れの果てとなった川丸の姿を見た。
川丸は全く意識がなく完全に悪霊に乗っ取られ声すらも届かない。
助ける方法が無い今、川丸が待ち受けているのは「死」しかなかった。
太郎丸と川丸は遠野の山奥に住み仲間達と平和に暮らしていた。
100年前に両親を亡くし弟とたった二人で生活をしてきた。太郎丸にとって川丸は唯一の家族で世界でたった一人しかいない弟なのだ。
そんな弟が醜い姿になりその挙句、暴走して太郎丸の事さえ全く憶えていない。
あまりにも残酷で負った傷よりも心臓が張り裂けそうなぐらいすごく痛い。
一度も経験したことない痛感が太郎丸を蝕む。
その時だ。
川丸が口からピンク色の霧を吐き出した。
その霧からちょっとだけ甘い香りがする。
ピンク色の霧は辺り一面を包み込み黒カラス達の視界を遮った。
黒カラスと猩々達は嫌な予感がして霧を吸い込まないよう手や腕で口を覆った。
霧が広がり周りはピンク一色に染まった。
口を覆っていた腕を下した黒カラスは辺りを見渡すと川丸と猩々達の姿が見えなかった。
しかし、黒カラスは油断できなかった。
この霧の中に川丸が隠れているのだ。
どこから襲って来るか分からない。黒カラスは前後左右を見て天井を確認した。
今のところ、敵の気配は全く感じない。
どこに身を潜めているのか分からないので緊張が走った。
360度見落とさないよう黒カラスは周りを見張る。
緊張が走る形相で戦闘態勢を整えた。
この霧は、自らの姿を消し隙を狙う為の目くらましに違いない。
もしくは、幻覚作用があるやつかもしれない。
今は特に変わった事は起きてはいないが、油断は禁物であることは変わりない。
その時だ。霧の奥からうっすらと影が見えた。
それに気づいた黒カラスはすぐに構えその影を睨んだ。
その影は人の形をしている。
もしかすると、川丸かもしれない。
人影はこちらに向かって来る。
でも、妙な事にその人影から怪しい気配を感じない。
どこか、懐かしい気配を感じる。
霧の中から現れたのは、袴姿の美しい人間の女だった。
白足袋に下駄、白色の葵模様がある袴に兵庫髷の髪に花装飾の簪(かんざし)を付けたそれはそれは美しい女性だった。肌は白く細見で気品がある。
彼女が霧から現れた時、黒カラスは驚いたように目を丸くして驚愕していた。
「幸代・・・!」
どうやら、黒カラスの知り合いみたいだ。
幸代と名乗る美女は黒カラスの驚く顔を見て微笑んだ。
「お懐かしいございます。クロ様」
彼女の風格を見ると江戸時代の人だと見受けられる。
しかし、今は平成時代。100年以上前の人物がなぜここに現れたのか。
100年以上前の人間が生きているわけではないと黒カラスはかぶりを振る。
(いや・・・!そんなはずがない!彼女は100年以上前にいなくなっている!これは、幻だ・・・!)
そう思いながら黒カラスは気を確かに持てと自分に言い聞かせる。
すると、幸代は歩み出した。
綺麗な佇まいで白魚のような美しい手が黒カラスの頬に触れる。
触れた瞬間、黒カラスは懐かしい温かみを感じた。
「昔と変わらずお元気そうで。お会いしとうございました」
この温もり、滑らかさ、感触、まさに当時と同じだ。
幸代とは遠い昔、時は江戸時代に遡る。
熊本に住む姫君で秋になると紅葉狩りをしに山に来ていた。
そんなある日、幸代は悪い妖怪に襲われた時、黒カラスと出会った。
二人は惹かれ合い恋に芽生えいつしか黒カラスは夜な夜な幸代が城へ赴いたのだ。
しかし、それが彼らにとって悲劇になる。
妖怪と人間は生きる寿命が違ううえ交わってはいけない存在だった。
そのうえ、妖怪と人間が夫婦(めおと)となって結ばれるのは断固許されない行為だった。
それを知った大天狗は罰として黒カラスを地下牢で100年間、重さ50000トンの巨大岩を担ぐ刑に処された。
年月が流れ100年経つと黒カラスは釈放された。しかし、この後が黒カラスに悲しい話を耳にする事になる。
黒カラスが地下牢に閉じ込められた後、愛していた幸代が妖怪と結ばれた罪で咲く花が散ったようにこの世を去ったのだ。
なぜ、妖怪と人間は結ばれてはいけないのか?愛して合うだけで罪になるのか?違う種族だからか?
そう葛藤を抱いたが、彼女はもうこの世にはいない事を受け入れた。
妖怪があの世へ行くには地獄の王の許可をもらわなければならない。しかし、地獄の王も黒カラスと幸代の事を知っているはず。そう簡単に許してはもらえない。
黒カラスは幸代との思い出を抱きながら双隊長として大天狗の為に尽くしてきた。
その幸代が目の前にいて黒カラスの頬を触れている。
幻とは思えないぐらいのリアルさに黒カラスの警戒が緩み彼女の存在に心を許した。
彼の瞳はしっかりと幸代の姿を映し出される。
もう、黒カラスは幻とは思えないぐらい嬉しそうに微笑みながら幸代の手を添えた。
「幸代・・・。私も会いたかった。それと、すまなかった・・・。私と一緒にいたせいで、そなたが酷い目に」
黒カラスは後悔していた。
あの時、幸代を助けたらすぐ立ち去っておけば、恋なんてしなければ彼女は自由に生きられたはず。
自分と交流したから幸代はその若さで早死にさせてしまった。
幸代を失った後、黒カラスは後悔していていたのだ。
しかし、幸代は全く気にしていないかのように首を振り優しく語り出した。
「いいえ。クロ様は決して悪くありません。私は本当にあなた様を愛し〝恋〟をしていました。もし、あなた様が悪い妖(あやかし)を退治してくれなかったら私は命を落としていました。あなた様は私の命の恩人で私の大事なお方なのです。これは、運命だったのです。あの時、あなた様と出会ったのは運命だったのです」
幸代はとても嬉しそうな目で黒カラスを見続ける。
「それに、死んだ後も私は一度もあなた様を恨んだ事はありません。クロ様と過ごした思い出は、私にとってかけがえのない宝物なんです」
それを聞いた黒カラスは涙が溢れそうになった。
100年以上の間、黒カラスは心の奥底から幸代に謝っていた。
彼女の死は自分が原因だと自責もした。
きっと、黒カラスが受けた刑罰よりかなり辛く苦しかったに違いない。
そんな彼女は一切気にしてはいなかった。
幸代は一度も黒カラスを責めず恨みもせず、片時も彼と過ごした楽しい思い出を忘れてはいなかった。
その優しさを触れ黒カラスは100年以上背負っていた重い荷物をやっと下ろせたかのように心が片の荷が軽くなった気がした。
彼女の優しさに黒カラスは涙の粒を落として遂には幸代を抱きしめた。
「すまなかった・・・・。本当に、すまなかった・・・。ありがとう・・・。そなたに会えてよかった」
嬉しそうに笑顔を見せる幸代は黒カラスの背中を優しく擦った。
「クロ様。私もあなた様に会えてよかったです」
彼女の優しい声に黒カラスは安堵した表情を浮かべた。
そして、幸代はこう言った。
「そして、ありがとうございます。まんまと罠にかかってくれて」
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