妖魔大決戦

左藤 友大

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第七幕

大戦争(三)

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大洞山へ降り立った正輝達は、暗い山の中を歩いていた。
硬い土の地面にはあちこち小石が転がっていて、草木をかき分けて先へ進む。
正輝と川丸、一反木綿に亀姫は先頭に立つ猩々の後を付いて行きながら真っ暗な山の中で奥深く進む。
太い木々が正輝達を囲み見下ろしているかのように猛々しく立っている。
森のどこかで「ギャッギャ」と鳴く鳥の声。静寂の空間から感じる怪しい空気。闇一色に染まる木々と大地。
頼みの綱は、猩々達を先導する鶴瓶火の明かり。例え妖怪でも足場が暗くては危ないと猩々が連れてきたのだ。
さっきまで、大山で一つ目小僧と一緒に正輝を脅かした鶴瓶火がこうして手助けしてくれるとは何だか妙な気持だ。鶴瓶火は先導をきって猩々の指示通りに進む。正輝達は鶴瓶火の明かりを頼りに付いて行く。
どこの山も夜になれば不気味に感じるのは全く同じだ。
奥へ進むにつれて森は深くそして、闇も深くなる。あまりにも暗闇が大きく鶴瓶火の明かりが小さく見えてとても心細いが明かりがないまま大山を彷徨っていた時よりはまだ良い方だ。
それに、猩々が大天狗がいる大天狗庁までの道のりを知っている。
静寂に包む大洞山の山の中で正輝達がしばらく歩くと寂しそうにポツンと佇む建物が見えた。
その建物は、石で出来ていて長年ずっと放置されていたのか、苔がビッシリと着いた鳥居が建っていた。
見た目から相当昔にあったみたいで大体、100年ぐらいは放置されているのだろう。
誰も通らない場所にこんな古びた石鳥居があったとは、正輝は知らなかった。いや、正輝だけではない。
きっと、飛騨に住んでいる人達もここに古い石鳥居がある事を全然知らないであろう。というより、ここまで来る人間は正輝以外、誰もいない。
「ここだ。ここだ。この鳥居を通れば、大天狗と飛騨の烏天狗が住んでいる集落がある」
太郎丸はたくさんの苔がこびりついている石鳥居を見て
「これが集落へ通る鳥居か。にしても、きったねぇ鳥居だな~」
それを聞いた亀姫はしかめ面で
「こらっ!そんな事を言っちゃダメでしょ」
注意された太郎丸は首をひっこめた。
「わしが最後に見た時より大分、苔が多くなった気がするな」
猩々は顎を摩りながら呟く。
「そんな呑気なことを言っとらんで、はよ行っがね。わいらも早く皆のとこへ行かなか」
「そうじゃったな。行くか」
一反木綿の催促に猩々は石鳥居へ潜ろうとする前に正輝に一言伝えた。
「正輝。ここから先は大天狗が支配している集落に着く。そして、集落の奥には本人がいる大天狗庁がある。さっき話した通り、お前さんは大天狗から伝説の防具を受け取りそれを身に着けるのだ。わしらもいるし、お前さんが心配する必要はない。お前さんが聖戦士である事を大天狗に証明すればいいだけだ。いいかね?」
猩々の優しい掛け声に正輝は頷く。
背に背負っている天帝主(あまのみかどぬし)を大天狗に見せればいいのだ。
猩々は「行くぞ」と飛騨の烏天狗がいる集落へ続く石鳥居を潜る。
正輝達も彼の後追って石鳥居を潜った。

石鳥居を潜ると映ったのは、暗くて深い森。
風景はさっきと比べてあまり変わっていないが、さっきとは違う空気を感じる。
そして、ここは普通の森とは少し違う気もする。
もしかしたら、近くに飛騨の烏天狗がいる集落があるからだろうか。
正輝は猩々達に付いて行きながら奥へと進む。
現在、正輝達がいる森には一本道だけしかなく道は真っ直ぐ続いていた。
気のせいだろうか、誰かに見られているような感じがした正輝は森を見渡すと木々には真っ黒な体でこちらを見つめるカラスが枝に止まっている。
烏天狗のペットだろうか、それとも烏天狗が化けているのだろか。
すると、亀姫が隣で囁く。
「あれは、伝達烏(でんたつがらす)。大天狗様から預かった伝言を各地方の山々に住んでいる烏天狗の長老に届ける連絡用の烏よ」
「伝書バトみたいなやつ?」
「そう。きっとここは、伝達烏の溜まり場なんだわ」
亀姫は頷き木々の枝に止まっている伝達烏を見た。
伝達烏は誰だあいつら?と思っているかのような顔でジッとこちらを見ている。
烏は光る物が好きでゴミを漁ったりする賢い鳥だという事は知っているが、伝書鳩のみたいな役割をもっている烏だなんて聞いたこともなかった。
天狗達は、この烏たちを相当使いこなしているのだろう。
伝達烏は、静かに正輝達の方へ視線を送る。
それを見た太朗丸は頭を搔きながら
「なんか、オイラ達を監視しているみたいで気に食わんな」
ジロッと伝達烏を見ながら呟く。
「あんまジロジロ見てっと突かれるばよ」
一反木綿は軽く注意するも太朗丸は自信に満ちた声で言う。
「平気や。所詮、ただの烏。飯喰らいで賢いとはいえ光る物しか頭にないただの烏や。オイラがこいつらをバカにしない限り―」
すると、カっカッカという鳴き声が聞こえた。
太朗丸はその鳴き声が聞こえた方を見て立ち止まった。枝に止まっている2羽の伝達烏が笑っているのだ。
2羽の伝達烏が見ている先には太朗丸が映っていた。
「なんや?今、笑ったか?」
すると、アホーアホーと鳴いた。
それを聞いた太朗丸はしかめっ面で
「誰が阿呆じゃ!バカにしやがって!」
と叫んだ。しかし、伝達烏は面白がっているようでアホ―アホ―と鳴き続けた。
すると、後ろからもアホ―と鳴いた。太朗丸の周りは伝達烏のアホ―鳴きのオンパレードに包まれた。
まるで、自分をバカにしているみたいで腹が立った太朗丸は顔を赤くする。そして、頭のお皿から湯気が立ち上っていた。
「オイラが阿呆ならお前らも阿呆や!!このアホ烏!」
伝達烏にバカにされたのが気に食わないみたいで太朗丸は負けずと言い返した。
しかし、伝達烏が気にしていないみたいでアホ―と鳴きながら笑った。
「烏相手にムキになってるばい」
一反木綿はプンスカプンスカと怒っている太朗丸の姿を見て呟いた。
正輝達は怒って悪口を言い放つ太朗丸を見ていた。
すると、伝達烏がいきなり歌い出した。
そのメロディはどこかで聞いた事がある。有名な曲だ。
曲名は忘れたがこのメロディは知っていると正輝は
「なんで、烏がベートーヴェンを?」
アホー鳴きの合唱が森中に広がりかえって太朗丸をもっと怒らせた。
うるせぇうるせぇと一点張りの太朗丸は耳障りな伝達烏の合唱をかき消そうと怒鳴り散らす。
亀姫はみっともない太朗丸の姿を見て
「太朗丸って時々、烏にバカにされる事があるんだよね」
跳ねながら怒鳴り散らす太朗丸を見かね猩々は大きな声で
「太朗丸。いつまで遊んでいるのだ?」
大声を出した猩々に太朗丸は振り返った。
「おっさん。別に遊んどるわけない。こいつらがオイラをバカにするんや」
「お前さんの顔が可笑しいからじゃろ」
一瞬、川太郎は心臓に矢が刺さったかのようにグサッときた。
猩々の一言「可笑しい顔」という鋭く尖った矢が太朗丸の心に命中したせいで、本人はひどく落ち込んでしまった。
「可笑しい・・・おかしい・・・オイラの顔が・・・」
心に傷跡ができてしまった太朗丸に猩々は「どうした?」と何が起きたのか分かっていないかのようにキョトンとしていた。
亀姫は太朗丸が全身の脱力感に襲われ落ち込んでいる理由を何も気づいていない猩々に教える。
「猩々・・・。太朗丸に可笑しい顔って言うのはちょっと」
「わしそんなこと言ったのか?いや~すまん。すまん。かっかっか」
と笑いながら謝る猩々に太朗丸は我に返ったかのように不機嫌そうな顔をして
「笑いごとじゃないわ!マジで傷ついたわ!」
そうムッとしながら頬を膨らませる太朗丸であった。
「おっと。今、こうしている場合ではなかった。急いで大天狗に会いに行くぞ」
笑いに包まれた伝承烏の合唱は今も尚、森中に響いているが今はここで足を止めて会話する時間はない。
急いで大天狗に会い伝説の防具を手に入れて大山にいるぬらりひょん達と合流しなければならない。
正輝達は急いで飛騨の烏天狗達がいる集落へ向かった。

一方、大山にある妖怪達の隠れ家では戦う準備を終えた妖怪達が屋敷の出入口に集まっていた。
それぞれ武器を持った妖怪達はいつでも出発できるようスタンバイして待機している。
屋敷の玄関口前に立っているぬらりひょんは声を上げた。
「皆の者!我々はこれから憎き悪霊軍団に立ち向かい奴らがいる東の都へ向かう!死にもの狂いで奴らを倒し日本を世界を我らが救うぞ!!」
これから悪霊軍団との激しい戦い待っている。
ぬらりひょんは既に悪霊軍団の居場所も把握していた。悪霊軍団は東の都。つまり東京にいるのだ。
「聖戦士達を待たなくていいんすか?」
六目の男が訊ねる。
「奴らは東の都を攻めて人間を襲っている。しかも、あの東の都にはどうしても死守しなければならない所がある」
「死守?」
雪女が首を傾げる。
「今、長話をする暇はない。猩々達には悪いが今はどうしても時間が惜しい。じゃが、この日本をを救い出す事だけは変わりはない。もし、日本が奴らの手に堕ちてしまったら世界も危うくなる。きっと、大天狗が聖戦士達に東の都に向かうよう知らせてくれるはず。我々は一足早く東の都へ向かい悪霊共を倒すぞ!この戦いは必ずわしらが勝利する!皆の者よ、何がなんでも勝つぞ!!」
そして、ぬらりひょんは力強く声で
「行くぞ!皆の者、出陣じゃ!!」
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